『考具―考えるための道具、持っていますか?』

賢人に学ぶ
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15万部以上売れた本

大学生のころ、「アイデアをまとめる手法」に少しハマったことがある。色々な手法があったが、例えば「KJ法」のように、小さな紙に自分の思いついたアイデアを書いていき、それをグループ化していくことで、脳内で思いついたアイデアを具体化するなどが代表的なものだ。「KJ」というのは文化人類学者の川喜田二郎先生のイニシャル。この方法を知ったとき、川喜田先生は母校の名誉教授だった。

最初に就職した会社にも、いくつかの 「アイデアをまとめる手法」 があった。これらは目的別の手法で、例えば、顧客との関係だったり、業務システム全体像の再設計といったテーマごとに、アイデアをまとめ上げる手法とツールがあったのだ。アイデアは最終的には行動計画に落とし込むことになるのだが、その作業も手法とツールに従っていた。

アイデア出しも企画立案も、実は道具(手法とツール)を使うことで、質・量ともに向上する。そこで今回は、 加藤昌治著『考具 ―考えるための道具、持っていますか?』について書いてみたい。たいへん売れた本で、読者の「アイデア出し」に対して感じているであろう高い壁をうんと低くしてくれる。

著者は、博報堂で情報戦略・企画を立案する立場であり、日々様々なアイデア、企画を搾り出すことを生業としている。そんなアイデア、企画立案のプロである著者が、長年かけて積み重ねてきたとっておきのネタから選りすぐりの一部を我々に披露してくれる、というなんとも太っ腹な本だ。

元ネタとなる情報を効率よく収集してそこからアイデアをひねり出し、それらを取捨選択し組み合わせて企画を立案する。このまさに知的生産を促進するためのツールやメソッドを本書では考えるための道具、つまり「考具」と呼び、クリエイティブワーカーが備えておくべきインフラと位置づけている。○○するための道具、というものがあるのなら、「考えるための道具」、つまり「考具」があってもしかるべきであると著者はいう。

さらに、アイデアや企画というものは、思いつきや偶然の産物であると考える向きが多く、無駄が多い。そこで、ここで挙げられているものに代表される「考具」を身につけることで、より楽に、よりシステマティックになる。

著者が働く博報堂は誰もが知っている大手広告会社であるが、広告会社だからってアイデアマンばかりが入社するようなことは当然なく、入社時点では、どこの会社でも同じだ。ところが、広告宣伝マンとして鍛えられるうちに、イッパシのアイデアマンになっている。つまり、アイデアマン、あるいはアイデアウーマンになるのは、後天的なものであり、置かれた環境もさることながら、本人の意識の持ち方が大事だ。アイデアが豊富な人も豊富でない人も入ってくる情報は同じで、まずは、「わがまま」になること。違うのは意識をしているかどうかの1点だけであるという。

では、その意識の持ち方とは? 具体的にどうすればいいの? という疑問に応えてくれるのが、本書で紹介されている20あまりの「考具」というわけだ。

頭の使い方を助ける「考具」

序章の冒頭

著者が本書で伝えたいことは序章の冒頭部分にすべて書いてある。この部分は公開されているので引用してみよう。

あなたは「考えること」「企画すること」が仕事ですか?

今や、ありとあらゆるビジネスマン&ウーマンには「考えること」が求められている時代になりました。おそらくあなたも何かを考えなきゃいけないなあ・・・と焦って、あるいは困っておられるのかもしれません。

もう一つ質問です。あなたは考えるための『道具』を持っていますか?
えっ、持っていない・・・・・・?
それはなぜですか?

常日頃思うのですが、考えることが仕事なのに、そのための道具を持っていない人があまりに多い気がします。わたしたちは毎日何かアイデアを考え、企画にして、実行することで対価を得ているのです。しかしそのためのインフラ=道具の充実度はあまりに酷い。最新鋭機種のパソコンの前にずっと座っていても、何も浮かんできません。考えるためにどうすればいいのか?誰も教えてくれなかった。本当なら電話やパソコンと同じように、考えるための道具もあってしかるべきです。

考えるための道具、あります。
考えるための道具、それを『考具』と呼んでみましょう。


『考具』はあなたをアイデアに溢れた、企画型の人間にします。『考具』を手にすれば、あなたのアタマとカラダが「アイデアの貯蔵庫」「企画の工場」に変わります。

今までは考えろ!と言われたことはあっても、誰もやり方なんか教えてくれなかったですよね。うーむと悩んであれこれ頭の中で“考えて”、パソコンでまとめる。そんな作業を繰り返してきたのではないでしょうか?そのやり方、間違いではないです。でもシステマチックとは言い難いのは事実。ちょっとしたノウハウやツールを使うことで、それがものすごく楽になります。

引用: 加藤昌治著『考具』 序章:広告会社でも最初は「ただの人」。今からでも全く遅くない!

アイデアマンになるために

まず、「アイデア」と「企画」は違う。「アイデア」が「企画」になり、あるいは「アイデア」が「企画」としてまとめられる。両者は、ごっちゃに語られることが多々としてあるが、あくまでこのように区別して捉えるべきである。

ビジネス上、実行可能な企画は、「何を」「どうする」、つまり「WHAT」と「HOW」に大別される。但し、この「WHAT」と「HOW」、どちらか一方を重要視すべきでない。つまり、両者は等しく扱うべきである。また、両者の境目は実際にはあいまいで、一つの「HOW」も分解していけば、数多くの「WHAT」の集合体にすぎない。

また、アイデア・企画には大きいも小さいもない。もちろん、そのアイデア・企画がおよぼす影響範囲に広い、狭いはあるだろう。しかし、それによって価値を評価するのはなく、「大きかろうが、小さかろうが、アイデア・企画を搾り出せたあなたそのものが、アイデア・企画を作れるノウハウと能力をもつアイデアマンである」という事実の方が意味があるのだ。

なので、「WHAT」と「HOW」を区別することなく、大小も関係なく、「何をどうする」をヒトカタマリとして考える習慣を身につけるべきなのだ。

工業デザイナーとして有名な川崎和男氏の言葉に、「デザインはわがまま→思いやり」というものがある。まずは、壁を取っ払い、制限をかけず、「今、目の前にある課題に対して、あなた自身はどうしたいのか?」とわがままになって、考えること、ここが全てのアイデア・企画への出発点である。

まずは、「わがまま」になってみて、とにかく「アイデアの原石」を搾り出す。そこから人に見せても恥ずかしくないクオリティの企画にまで高めていく過程で、「思いやり」を盛り込む。

さて、これまでさんざん使ってきた言葉であるが、「アイデア」とは何か? 「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」。「新しい」とは何か? ここでいう、「新しい」というのは、別に「斬新である」必要はまったくなく、既存のものよりも、「ちょっとだけ」新しければいいのだ。

「アイデア」は「企画」の素であり、直接イコールで結びつくことは非常に稀だ。アイデアは既存の要素どうしの組み合わせであるのに対し、企画とはアイデアの四則演算で出来上がっていくものなのだ。なので、「アイデア」に「完璧さ」を求める必要は全くなく、この時点で「かっこいい」アイデアである必要は全くないのだ。この恐怖観念をまず取っ払う必要がある。

それにいきなり使えるような「アイデア」が単発で出てくるようなことはなく、まずは量を稼ぐことからスタートするのがよい。「量は質を生む」という言葉もある。この時点では、くだらない、つまらない、などと評価を下すことなく、とにかく全てのアイデアをメモに書き留める習慣をつけることである。もちろん、この時点では実現性など考える必要はないのだ。

こうして集まったアイデアを吟味し、実現性を持たせると、それが「企画」になる。企画とは、「予算と準備と時間さえあれば、実施できる目処が立つ計画のこと」である。評価を下すことなく、実現性も省みずとにかく絞り出した「アイデア」を吟味し、実現可能性を確認する、つまりフィージビリティスタディを行ったもの、これこそが「企画」と言える。

企画の段階では、詳細まで詰めておく必要はなく、ある程度の実現性の目処がつくレベルでよい。さらなる詳細は、それ以降の作業計画、マニュアル類に託すことになる。だが、重要なことは、「あなたの新しいアイデア」が必ず盛り込まれていることが必要となるが、その企画を構成しているアイデアが全て新しいアイデアだけである必要もない。

何かを考えるときは、まず既存のアイデアが頭の中に入ってきて、それらを組み合わせることで「新しい」アイデアになり、さらに「企画」という実現可能なカタチになる。まずは、既存の情報、ネタをできるだけ多く集める。そして頭の中でそれらのストックをとっかえひっかえくっつけて「新しい」アイデアをでっちあげる。その時、アイデアや企画につながる頭の使い方は、拡げて絞って、また拡げて絞る、という感じの伸縮運動を意識するといい。拡げるときは、奔放に、そして縮めるときはシンプルにしよう。

以上がアイデアマンになるための基本的な視点だ。このような視点は、すでに日常生活で体得している頭の使い方であり、仕事に転用してみるだけでずいぶん違った見え方になるのではないだろうか。

この視点、頭の使い方を助けナビゲートしてくれるものが、本書のメインとなる「考具」である、ということになる。自由な発想で、これら考具を実際に使ってみて欲しい。

各考具については本書で

本書で実際に紹介されている考具については、本書の価値そのものなので当コラムでは触れない。とはいえ、本書の目次にはそれら「考具」の名が並んでいるので、いくつか列挙してみよう。

  • カラーバス
  • 七色インコ
  • フォトリーディング
  • 臨時新聞記者
  • アイデアスケッチ
  • ポストイット
  • マンダラート
  • オズボーンのチェックリスト
  • マインドマップ
  • アイデアスケッチ
  • ブレーンストーミング
  • 5W1Hフォーマット
  • 問いかけの展開

上記を見ると、すでに有名になっているものもあれば、想像がつかないものもある。最近では「マンダラート」を教える公立中学校もある。メジャーリーグで大活躍している大谷翔平選手も、高校一年生の時、監督の指導を元にこの「マンダラート」を活用したらしい。人気YouTuberが「マインドマップ」を使ったプレゼンテーション動画も溢れている。これらは「使える道具」として認識されているはずだ。

著者は「クリエイティブな職業」だが、普通のビジネスマンにとっても「クリエイティブな発想」は、今後ますます必要とされるスキルのひとつだ。より良い前向きな人生のためにも、本書で紹介されている考具を1つでも2つでも取り入れることを薦める。

目次概要

加藤昌治著『考具 ―考えるための道具、持っていますか?』の目次概略は以下の通り。

  1. 「アイデア」「企画」を考えるとは、何をすることなんだろうか?
  2. どうしたら”必要な情報”が入ってくるのか? ―情報が頭に入ってくる考具
  3. 展開・展開・展開! ―アイデアが拡がる考具
  4. 企画=アイデアの四則演算! ―アイデアを企画に収束させる考具
  5. 時にはスパイスを効かす! ―行き詰ったときのアドバイス
  6. あなただけの『考具』を見つけよう!
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