社長交代・就任披露の実務

中小企業経営
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社長交代・就任披露の実務

何10年もビジネスマンをやっていると、「社長交代」というイベントに遭遇することがしばしばある。取引先の社長交代のイベントに呼ばれたことは何度もあるし、自社の社長交代イベントを企画・実行したこともある。

若手世代へのバトンタッチといった社長交代ならほとんどの場合「前向き」だが、中には前社長が更迭されたとか、引責辞任したものもある。M&A(企業買収や合併)により社長が変わってしまうケースは、これまでの経験だと前向きなものとそうでないものが半々くらいだろうか。経営トップの交代には、それなりのドラマがあるものだ。

新社長の就任披露は、新しい社長個人の告知だけではなく、会社全体の新たな意気込みと社員の団結力を各方面にアピールするという目的を持っている。

一般的には、新旧社長の交代を披露する場合が多く、スムーズな交代は会社のイメージにもプラスに働く。会社のイメージチェンジや成長を内外に披露することで、企業活動をより一層活性化させる機会としてとらえることが大切だと考える。

今回は、自分の会社の社長交代と就任披露をすることになった場合の実務上のポイントなどについてまとめてみる。

準備とスケジュール

■準備委員会の設置

新社長の就任披露と今後の企業活動を決意表明する場であることから、全社を挙げて取り組む必要がある。そのためには、総務部門を中心として、各組織、各支店などから適任者を推薦してもらい、準備委員会を結成する。準備委員会では、事前に以下のようなことを決め、それぞれに応じて準備を進めることになる。

  • 式典の費用、予算の限度額
  • 招待先別の出席予定人数(男女比、年齢別構成比)
  • 関係先からのお祝いの花輪などの有無
  • 国旗、社旗掲出の有無
  • 来賓など演壇への着席者数
  • 式次第でスピーチをする人数
  • 報道関係へのPRや当日来場者の予定人数
  • 披露パーティーの有無

また、事前に手配すべきこととしては以下の3点がある。

  • 祝辞の手配(来賓代表が望ましい)
  • 感謝状が必要な場合の手配
  • 出席者への記念品の用意

なお、営業社員は顔が広く、招待客とも面識がある場合が多いので、式典・パーティー当日には会場での誘導案内や接待係とするとよいだろう。

■開催日時/場所の決定

社長交代は株主総会での決議事項だ。総会終了後、できるだけ速やかに交代イベントを開催する。そして、新社長の就任挨拶状を作成・印刷・郵送する作業も同時進行させる。

就任披露式典やパーティーは新社長にとって初めての対外的な行事なので、社内で行うことは比較的少なく、ホテルを利用するのが一般的だ。会場の予約はできるだけ早めに行うが、このときにパーティーの趣旨と形式、およその出席人数、概算予算などを伝えておく必要がある。

■社内の出席者、招待客の人選と決定

招待客も含めた出席者について、中心になってまとめるのは総務部門だろう。日頃から社外と付き合いの多い営業部門関連の人選になりがちだが、普段は裏方に回っている経理部門などの取引先も招待したほうがよい。大株主、メインバンク、主要取引先、関連会社、下請け、マスコミ、業界紙、同業者などが招待客になる。社長の交代、新社長の就任は代替わりという性格があるので、相当の広範囲にわたる配慮が望まれる。

なお、社員への通知は業務連絡などで行う。出席予定者によっては、日常業務に支障をきたす場合もあるので留意が必要だ。

■招待状の発送時期

招待客には多忙な人が多いと思われ、また世の中の株主総会が集中する6月などの場合は、社長交代披露パーティーも重複しやすくなる。従って、招待状は余裕を持たせて、式典・パーティーの1カ月ほど前に先方に届くように投函する。

祝辞を依頼する来賓には、まず口頭でお願いしたうえで文書でも依頼しておくというのが最も確実なやり方だ。

■記念品の手配・発注

記念品は企業イメージに合ったもの、心遣いの感じられるものがよく、かさばるものは避けたほうがよい。記念品ひとつでも会社の判断材料にされることがある。よく吟味し、センスがあって話題になるようなものを選ぶのが理想。自社で記念品になるような商品を取り扱っている場合は、なるべく自社扱い商品から選ぶようにすれば、PR効果も期待できる。

当日の運営:式次第

社長交代と新社長就任披露の式次第は、だいたい以下のような形が一般的。

  1. 開会の辞
  2. 旧社長の挨拶
  3. 新社長の挨拶
  4. 来賓祝辞
  5. 乾杯
  6. パーティー、懇談、歓談
  7. 祝電披露
  8. 閉会の辞

パーティーでの分担

実行委員は開式の2時間ほど前には集合する。そこでメンバーの出欠を確認し、分担した業務を確認する。この種の業務が初めての社員には、経験者が指導する。業務内容によっては、時間の許す限りでリハーサルをしておくとスムーズだ。

パーティーが始まったら、出席者が平等に楽しめるように心配りを忘れないこと。遠慮がちで積極的に料理や飲み物を取れないでいる人には「どうぞ、ご遠慮なくお好きなものをお取りください」と声をかけたり、直接取って差し上げるくらいの心配りがあるといい。

実行員のメンバーはさまざまな役割を「係」として分担する。その係別の運営ポイントを以下にまとめておこう。

■設備・設営係

会場の設営全般を担当する。会場によっては、幕、テント、椅子と机、演壇、照明、スタンドマイク、スピーカーなどの音響機器、演出用の花や植木類、入口・出口・控室・トイレなどの各種標識、小物類などさまざまなものを準備しなければならない。設営に必要な人手の確保もある。

こうした煩雑で雑多なことを考えると、自前で設備・設営を行うよりホテルを利用したほうが便利なため、一般的にはそうなっている。

■受付係

受付係は少なくとも1時間前にはお客様を迎えられるように準備する。招待状のチェック、記帳、リボン付け、名刺や金品の受領、会場までの案内などが主な仕事になる。

受付で手間取ると、人の流れがストップし、開会が遅れることにもなるので、効率よく短時間に処理・誘導しなければならない。そのため、受付係には招待客に面識のある者をメンバーに加えることが望ましい。

なお、受付で来賓に付ける胸章は、リボンの代わりにネームプレートでも構わない。社名と氏名が書かれていれば、主催者だけでなく、招待客同士にとっても便利だ。

■手荷物係

ホテルの場合は、クロークに一任できる。自社などで開催する場合は、あらかじめ番号を付した預かり札を用意しておき、これと引き換えに手荷物を預かり、番号順に保管する。帰りの際は、混雑するので、人数を多めに配置して手際よく処理する。

■司会・進行係

パーティー全般の進行管理と雰囲気づくりを担当するのが司会役と進行係だ。進行係は司会役と密接に連絡を取り合いながらスムーズな進行を心がける。例えば、細かい配慮として以下の内容が挙げられる。

  • 片仮名の祝電は読みやすいように漢字かなまじり文にしておく
  • 祝辞を依頼した来賓の到着時間を確認、スタンバイさせて誘導する

また、段取り通りに進行しない場合には、機転を利かせた判断が大切であり、高齢の出席者に対しては専属のスタッフを配置してケアすることも必要。

■記念品係

閉会後、出口付近で引換券と交換に記念品を手渡す。引換券を忘れた客には不愉快な思いをさせないよう、臨機応変に対応する。

■車両係

ホテルの場合は、必要に応じて無料駐車券を配布する。会場付近の混雑が予想されるときは、交通整理や警察への連絡もしておく。

■広報・記録係

マスコミ各社には事前に連絡しておき、会場にはカメラマン席を設ける。会社首脳と来賓との懇談風景などはスナップを撮り、マスコミ各社にリリースする。なお、VTRなどはホテル側でも撮影してくれる。

■会計係

会場費、記念品代、その他諸経費などすべての予算と実行予算を管理する。これには、ご祝儀の記録やタクシー券の精算なども含まれる。

フォローアップ

祝賀会終了後、出席者には礼状を送る。宛名書きは毛筆書きにすると丁寧な印象になる。欠席者であっても、祝い品をもらったところや重要な取引先には、社長以下幹部社員が記念品などを持参して、お礼や挨拶に行く。以上のフォローアップは、日がたち過ぎると効果が半減するので、速やかに実行できるように段取りを整えておく。

お礼の挨拶回りがひと区切りついたら、撮影したビデオや写真類を記録・整理する。社内報やPR誌などで特集を組んだり、後日社史を編纂する際にも使用できるように工夫しながら分類しておくと便利だ。

支出費用の経理処理と税務

会社が実施する各種の祝賀会や記念式典のために支出する宴会費などの費用は、原則として交際費に含まれる。外部の招待客に関する費用、例えば酒代、料理代、土産代、記念品代、送迎用タクシー代、テーブル・椅子などの器物賃借料なども交際費とされる。

来訪者に配布するパンフレットなどは、それが広く一般にも配布するものであれば、その費用は交際費に含めず、広告宣伝費として処理することができる。

参加者に配る記念品代は、配る相手が社内の役員・従業員か、外部の招待客かによって、以下のように取り扱いが分かれる。

  • 役員・従業員への記念品代:社会通念上、記念品としてふさわしいものであり、かつその処分見込額が1万円以下であれば、課税対象とはならず、福利厚生費として処理できる。
  • 外部の招待客に配る記念品代:得意先や仕入先など、外部の関係者に配る記念品代は、すべて交際費として扱われ、記念品を郵送した場合の送料についても交際費とされる。ただし、カレンダー、手帳など、多数の人に配布することを目的とした少額で、主として広告宣伝効果を意図するためのものについては、交際費とはならず、広告宣伝費として処理できる。

祝賀パーティーにコンパニオンを呼んだ際の費用は、祝賀パーティー費用の一部として、交際費に含めて処理する。なお、コンパニオンへの支払いは、ホテルなどへほかの費用に含めて支払う場合、コンパニオンへ直接あるいは所属の団体へ支払う場合とも、自社としては源泉徴収の必要はない。

出席者から受け取った祝儀は、先方の好意により支出されたもので、式典などの費用の一部を直接負担するものではないことから、交際費となる行事などの費用と相殺する処理は認められておらず、雑収入として処理する必要がある。

官公庁などへの届出

会社組織を変更したときの主な手続きと提出先を以下にまとめておく。

  • 役員変更登記申請書:法務局(登記所)
  • 事業年度納税地その他の変更・異動届出書:税務署
  • 事業開始等申告書:都道府県税事務所
  • 法人事業開始・変更等申告書:市町村役場

上記以外の各種届出について少し説明を加えておく。

  • 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更届:事業所の所在地を所轄する社会保険事務所

会社の代表者が交代したときは、変更の届出をする必要がある。代表者の変更、代表者の住所、事業の種類、電話番号の他、昇給月が変更されたときにも届け出る。また、事業主代理人を新たに選任したり、解任したとき、変更したときにも届け出ることになっている。

  • 雇用保険 事業主・事業所各種変更届:所轄する公共職業安定所

事業主の氏名・住所、事業所の名称および所在地、事業の種類に変更があった場合に届け出る。ただし、法人の場合、代表者の変更についての届出は不要。

  • 労働保険 名称・所在地等変更届:所轄する公共職業安定所または労働基準監督署

事業主の氏名・住所、事業所の名称および所在地、事業の種類に変更があった場合に届け出る。ただし、法人の場合、代表者の変更についての届出は不要。

  • その他

その他、取引金融機関において名義書換の手続きが必要。また、加盟している各種組合・協会などへ代表者変更届を提出する。

式典成功のためのチェックリスト

式典・パーティーを成功させるための活動ポイントを、そのまま使えるチェックリスト化しておく。

計画・準備段階のチェック

□基本方針の決定(日時、規模、参加対象など)
□準備委員会発足(担当者選定)
□ホテル予約(60日前)
□招待者選定(50日前)
□招待状の印刷発注(40日前)
□記念品の選定(40日前)
□祝宴・演出などの検討(40日前)
□業務分担表の作成(30日前)
□招待者最終リスト作成(30日前)
□記念品の発注(30日前)
□招待状宛名記入依頼(30日前)
□ホテルとの打ち合わせ(30日前)
□配布資料原稿作成(30日前)
□招待状発送(20日前)
□祝辞依頼(20日前)
□配布資料印刷発注(20日前)
□当日のスケジュール式次第作成(20日前)
□ホテルとの打ち合わせ(15日前)
□配布用資料納品(10日前)
□出席者リスト作成(10日前)
□ホテルとの最終打ち合わせ(2~3日前)
□係別責任者による会場の下見(2~3日前)
□記念品の会場持ち込み(前日)
□進行台本の読み合わせなどのリハーサル(前日)

就任披露当日のチェック

□看板、案内標識、会場設備、音響、照明、器材などの点検確認(開式2時間前)
□招待客リスト、リボン、配布用資料、引き換え札などの点検(1時間30分前)
□受付、手荷物預かり(1時間前。開会後も最低2名は着席して待機、電話呼び出しなどに対応)
□ホテル側と確認打ち合わせ(1時間前)
□ホテル側と連携し駐車手配、お客を会場へ案内(1時間前~開会後しばらく)
□記念品確認(30分前)
□報道機関対応、スナップ写真撮影(30分前~閉会)
□迎賓(会社幹部)
□司会・進行(開会~閉会)
□途中で帰るお客に手荷物、記念品の手渡し。また、車両の呼び出し。(開会~閉会)
□手荷物係、車両係へ進行状況を連絡(閉会30分前)
□車両の呼び出し、お客への連絡(閉会30分前)
□手荷物引渡し、記念品引渡し(閉会後~)
□設備の撤去、清掃、残った資料などの持ち帰り(閉会後~)

なお、当日が雨天の場合には、以下の心得が必要になる。

  • 雨具預かり係の設置(受付係、手荷物係の兼務も可)と預かり札の配布
  • 車での来場が増えることが予想されるので、交通整理係の増員、予備駐車場の確保など
  • 帰りのタクシー利用が増えることが予想されるが、雨天時の予約ハイヤーの確保は難しいため、最寄駅までの社用車数台によるピストン輸送が望まれる

後日のチェック

□出席お礼状の発送(式典当日より7日以内)
□欠席者に対しては、挨拶状に記念品を添えて発送(式典当日より7日以内)
□挨拶回り(式典当日より7日以内)
□撮影した写真・ビデオの整理、関係書類のファイリング(式典当日より7日以内)
□支払いの実行と収支決算書の作成
□税務処理(経費処理など)について税理士と相談
□参考資料の作成(招待客出欠表、祝儀・記念品・祝電をいただいた方のリスト)
□行事全般についての反省点などの総括

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