争いを未然に防ぐ
より良い人生を送るにあたり、個人であれビジネスであれ、できれば争いごとは避けたいものだ。日本公証人連合会のホームページには、トップページこんなことが書かれている。
公証役場・公証人は,遺言や任意後見契約などの公正証書の作成,私文書や会社等の定款の認証,確定日付の付与など,公証業務を行う公的機関(法務省・法務局所管)です。中立・公正な公証人が作成する有効確実な書面を残すことにより,争いを未然に防ぐことができます。
引用:日本公証人連合会「争いを未然に防ぐために公証役場・公証人のご利用を!」
特に,「争族」「争続」とも揶揄(やゆ)される相続については,遺言書の作成はとても大事で、近時遺言公正証書を作成される方が増加しています。公証役場・公証人は,皆様に安全・安心をお届けします。ご相談はすべて無料です。いつでも,どこの公証役場でも,お気軽にご相談下さい。秘密は厳守します。
公証制度の歴史は古く、その開始は明治時代らしい。「公証人法」の法令番号は、明治41年法律第53号となっている。日本公証人連合会によれば、公証業務を行う公証役場数は全国で約300カ所、公証業務に従事する公証人の数は約500名とのこと。
たいへん歴史があるものなのに、公証制度とは何なのか、どのように利用するのか、また、利用することでどのような利点があるのかということは一般にはあまり知られていない。上記引用文から公証制度をひとことで説明すると、公的機関で中立・公正な書面をつくり、紛争を未然に防止することを目的とする制度といえる。特に「相続」に関しては意義があるということだ。
公証制度が持つ法的な効果や制度内容を知ることは、自らの権利や財産をしっかりと保全する手段を知ることにもつながるはず。知っておいて損はない。そこで今回は、公証制度の概要と利用するメリット、留意点などをみていこうと思う。
公証人・公証制度の概要
日本公証人連合会には「公証人の使命と公証業務について」という説明がある。その説明は、丁寧さを重視しているため情報量が多すぎるので、ここでは必要な部分だけを要約して述べる。
公証人と公証役場
公証人とは、裁判官や検事、法務局長など30年以上法律実務を担当した者の中から法務大臣によって任命され、当事者そのほかの関係人の嘱託により「公証」を行う法律の専門家で、その地位は「公務員」とされている。公務員ではあるが、国からの給与などの支払を受けることなく、手数料制を採用している。公証人は、全国の地方法務局に所属し、管轄区域内で執務を行う。その執務を行う場所が「公証役場」と呼ばれている。普通は「役場」といえば市区町村といった自治体のものだが、公証役場は国の役所だ。
「公証」とは、私人の法律行為に関係する事柄を「公の機関によって証明」することをいう。
公証人は、公証人法に基づき「公正証書の作成」「私署証書や会社などの定款に対する認証」「私製証書に対する確定日付の付与」などの権限が与えられている。公証人の作成する公正証書は、国が任命した法律の専門家が作成するものなので、正確で高い信用性が認められている。
公正証書
公正証書とは、金銭の貸借、不動産の賃貸・売買、離婚の際の財産分与・慰謝料支払約束などの各種契約や遺言などの民事上の法律行為について、公証人が関与し、法令に従い、当事者の依頼に応じて作成する「公文書」だ。
公正証書を作成することで、権利関係などを明確にすることができ、紛争を事前に防止することが可能となる。さらには、法定の要件を充たす公正証書の場合、執行力が認められ、紛争を解決することも可能。公正証書を作成しておくメリットは以下の3つ。それぞれについて簡単に説明する。
- 高い証明力
- 一定の要件の下での執行力
- 原本の高い安全性
■高い証明力
公正証書は、法律行為そのほか私法上の権利に関する事項を法律の専門家である公証人が、法律的に明確な形でまとめあげて作成するため、高い証明力がある。
■一定の要件の下での執行力
一定額の金銭あるいは一定数量の有価証券などの請求をすることができる権利において、公正証書を作成し、その際に、「約束を守らず、支払いを怠った時は、直ちに強制執行に服する」旨の約束条項(強制執行認諾条項)を設けておけば、裁判を起こすことなく、直ちにその公正証書に基づいて強制執行手続きに入ることができる。
このような一定要件の下では、公正証書に法律上の執行力が認められているのだ。従って、権利者からみると、公正証書を作成しておけば、裁判を経ないでも執行力の付与を受けることができ、大切な権利の保全とその迅速な実現が図れることになる。
■原本の高い安全性
公正証書は、公証人が原本1部を公証役場に保管する。そのため、偽造や変造、紛失のおそれがなくなる。仮に、当事者の1人が原本を紛失した場合であっても、公正証書としておくことで、公証役場で再度手に入れることができる。
公正証書の作成と手数料
公証人に公正証書の作成を嘱託する場合は、当事者の印鑑証明と実印または、運転免許書やパスポートと認印、そのほか関係書類を持参して公証役場で手続きする。事前に、公証役場ごとに公開されている電話・FAX・電子メールなどで契約内容や人定事項などに関する疑問点を問い合わせておけば、スムーズに行える。
公正証書の作成費用は、政府が定めた公証人手数料令によりあらかじめ決まっている。手数料の算出方法は、法律行為の目的価額に従って定められており、日本公証人連合会が「公証事務>手数料」として全て公開している。以下には例として証書作成の基本手数料テーブルを示しておく。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
書類の認証
公証人は、一般の私署証書(私文書)の成立・記載が正当な手続きでなされたことを、公の機関として証明する。
具体的には、当事者が私署証書を持参して公証役場へ赴き、公証人の面前でその証書に署名(記名押印)するか、証書の署名(記名押印)は自分のものであると自認した場合などに、公証人がこのことを付記し、その証拠力により私署証書の真正な成立を証明する。
また、会社や公益法人、社団法人、財団法人を設立するときは定款を作成することが必要だが、その際、公証人の認証も必要とされている。これを「定款認証」という。ほかにも、宣誓認証、株主総会の議事録の認証、私文書の謄本の認証などを行ってくれる。
確定日付の付与
確定日付とは、特定の内容をもった証書が「確定日付日」に存在していたことを証明するもの。
法律行為の中には「先んじた者が権利を取得するという原則」をとるものがある。早い者勝ちというやつだ。債権譲渡、権利質の設定などは、第三者に対抗するため、確定日付により契約日を明確にしておく必要がある。このような場合に確定日付の付与が用いられる。
確定日付はあくまでも「日付の確定」であって、文書の真正などを証明するものではない。確定日付付与の効力や対象文書、手続きは、日本公証人連合会の「確定日付のページ」で公開されている。これによると手数料は、1通につき700円だ。
公証制度の活用例
前述では、公証人が定款認証や確定日付の付与をやってくれることが分かった。それ以外で、公証制度を活用する代表的なケースを見てみよう。
任意後見契約
年をとり、自分の持っている不動産の管理や預貯金の出し入れなどの自分の日常生活にかかわる重要な物事について、適切な処理をすることができなくなることは十分に想像できる。そういった場合に備え、財産の管理や医療契約、施設への入所などの身上に関する事柄を自分に代わって手続きしてくれる人をあらかじめ選んでおくと安心だ。
このように自分の判断能力が低下したときに、自分に代わって財産管理などの仕事をしてくれる人を「任意後見人」という。この任意後見人を定めて、一定の事柄を代わってしてもらうことを依頼する契約を「任意後見契約」という。
任意後見契約は、「任意後見契約に関する法律」によって必ず公正証書でしなければならないことになっている。 その理由は、法律的な仕事に深い知識と経験を持っている公証人が関与することにより、本人がその真意に基づいてこの契約を結ぶものであることや、契約の内容が法律に適った有効なものであることを確保することを制度的に保証するためだ。
任意後見公正証書を作るために必要とされるものは下記の通り。
- 本人:印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票
- 任意後見人:印鑑登録証明書、住民票
契約内容によっては土地や建物の登記簿謄本などを必要とする場合もある。公証人に何が必要かを聞き、指示に従うとよいだろう。費用を含め、任意後見契約に必要な内容は、 日本公証人連合会の「任意後見契約のページ」で公開されている。
任意後見契約は、本人の判断能力が低下したときに備えて結ばれるものだ。ということは、任意後見人が本人に代わって事務処理をするのは、本人が自分の財産管理などを十分に行うことができなくなってからということになる。そして、家庭裁判所が、任意後見人を監督する立場の任意後見監督人を選任したときからこの契約の効力が発生し、任意後見人はこの契約で定められた事務処理を始めることになる。
以上が「任意後見契約」の概要だが、任意後見契約において、公証人は法律上も不可欠で、実際に任意後見契約についてより詳しく知りたいといった場合でも、公証人は具体的な相談に応じる。任意後見契約を行ううえで、公証制度の利用は必要不可欠なものといえるだろう。
定期建物賃貸借の契約書
借地借家法の一部が改正され、2000年3月より定期建物賃貸借制度が設けられた。この制度は、期間の定めがある建物の賃貸借をする場合、公正証書などの書面によって契約をするときに限り、契約の更新がない旨を定めることができることとしたものだ。
法律の専門家である公証人が作成した公正証書を利用することで、後々の紛争を回避することができる。従って、該当する契約を結ぶ際には、公正証書を利用したほうがよいだろう。
この契約も含め、土地建物賃貸借に関係する詳細は、 日本公証人連合会の「土地建物賃貸借のページ」で公開されている。
遺言公正証書
遺言公正証書は、自筆の遺言と較べるとより確実で安全な遺言の方式だ。自筆遺言の場合は、遺言者本人が死亡すると、相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を受けなければならないが、公正証書遺言ではそのような手続きは必要ない。公正証書の原本は、公証役場で保管され、遺言者には原本と同一の効力を有する正本を渡されるため、万一、正本を紛失しても再交付を受けることができる。
遺言は、死後の財産処分に関する法律行為だが、法律知識が十分でない遺言者の作成した自筆遺言は、内容に不備や誤りがあったり、不明確な点があったりして効力に問題が生ずる心配がある。しかし、公正証書遺言であれば、法律の専門家である公証人が作成するので、正確かつ法律的に整理された遺言を残すことが可能となる。仮に、病気で入院しているときなどでも、別途日当を支払うことで公証人が出張して証書を作成することも可能だという。
こういった内容も含め、遺言に関係する詳細は、 日本公証人連合会の「土地建物賃貸借のページ」で公開されている。
社会の変化に対応
冒頭で書いた通り、公証制度は明治から始まった。今でも公証制度が活きているということは、社会の変化に対応してその活用場面が拡大され、私たちに役立つ制度として利用できるようになっている証拠だ。日本公証人連合会の「日公連からのお知らせ」を見ると、法律改正に伴う新しい公正証書制度をスタートしたり、離島での活動、新型コロナウィルス感染症対策やテレビ電話による認証制度など、さまざまな社会変化への取り組みがみてとれる。
公証役場では公証人の取り扱う事柄については、いつでも無料で相談に応じているため、市民のための法律専門家として、ますます利用価値の高いものといえるだろう。各地域にある相談窓口は「公証役場一覧」から探してみてほしい。全国約300カ所の公証役場の住所・電子メール・電話・FAXが記載されている。