企業理念・社是・社訓の作成と変更

組織の運用
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企業理念・社是を作成・変更する

先日のコラム「経営戦略としての周年記念事業」の中で、企業の周年事業における個別イベントのひとつとして「会社のロゴマークや社名の変更、経営理念の再構築」が実施されることもあると述べた。

今回は、経営理念に関係して、これを作成したり変更したりすることについてまとめてみたい。後述するように、経営理念や企業理念という呼称が一般的かというと、むしろ社是、社訓のほうが聞き馴染んでいるかもしれない。

社是・社訓は企業理念

社是は経営上の方針や主張、社訓は経営理念や従業員の守るべき規範を定めたもの。大企業はもとより、中堅・中小・小規模の会社にも「企業理念」といったものがあるはずだ。社是・社訓はこの企業理念を分かりやすいことばで明文化した標語のようなものと考えてよいだろう。

企業理念というと、抽象的で理解することが難しく感じるが、企業の存在意義や行動規範、経営姿勢を示すもので、企業のよってたつべきところを端的に表現したものであればいい。精神論であってもいいし、企業の事業内容を端的にアピールするものでも構わない。例えば「技術を通じて社会に貢献する」といった社是・社訓でもいい。

これから社是・社訓を作成しようと考えるなら、将来を見据えた社是・社訓にすべきだろう。歴史ある会社を調べてみると、50~100年前の社是・社訓で「現在ではすでに行っていない当時の事業内容が明記されており、古めかしく、時代に合わない」ものが沢山みられる。精神論や経営論の原理原則であれば時代を超越したものとなるが、事業内容を詳細に明記してしまうと将来ミスマッチが起こる可能性が高い。

社是・社訓の呼称

社是、社訓と同様の意味を持つものとしては、経営理念、経営姿勢、企業目的、企業目標、企業使命、経営哲学、経営指針、企業方針、経営方針、行動規範、行動基準、事業方針、コーポレート・スローガン、コーポレート・ステートメントなどさまざまなものがある。

これらは、社是・社訓といった言葉が少々古めかしく感じるといったことや、創業者の残した言葉が時代に合わなくなったため、時流にあったものを新しく作り直した際に、内容だけでなく、表題も分かりやすく経営理念・経営方針などの言葉に作り変えたからだ。

例えば、創業100年の企業であれば、行っている事業内容が大きく変化していたり、組織がかなり巨大になっていたりする。このような企業においては社是・社訓の内容や表題が変わって何ら不思議はない。

企業理念・社是・社訓の骨子

企業理念・社是・社訓は「会社の存在意義」「経営姿勢」「行動規範」といった3大要素を含んでいることや、社内のコミュニケーションを円滑にするといった目的に加えて、企業の社会的責任についても意識して作成すると良いとされている。

また、誰に向けてメッセージするかを考えるのも重要だ。社是・社訓というと、社員に向けてのメッセージだけと思いがちだが、株主、関係会社、地域社会などの、いわゆる「ステークホルダー」向けのメッセージも意識するといいだろう。

作成・変更時のポイント

経営理念・社是・社訓を作成する際は、留意点として以下のポイントについてチェックする。

  • 経営方針の目的、つまり、企業として達成したい夢や希望を明らかにする
  • 会社のバックボーンを明らかにする
  • 会社の経営トップの判断基準を明らかにする
  • 企業の社会的責任を明らかにする
  • 社員に対する会社の姿勢を明らかにする
  • 社員一人一人の職務の果たし方を明らかにする
  • 社会人としての在り方を明らかにする
  • 社風を築く基礎となる

既に社是・社訓があって、それを時代に合わせて変更し、新しい企業理念・社是・社訓を作成する場合、上記の作成時ポイント以外に、以下に留意するといいだろう。

  • 社外からどうみられているか
  • 社内からどうみられているか
  • 現在の社会(外部)環境に適応できるものか
  • 現在の会社(内部)環境に適応できるものか
  • 将来の外部環境を察知したものか
  • これからの経営に有効的なものか
  • 継承すべき価値観は何か
  • 捨て去る価値観は何か
  • 新しく付加する価値観は何か

作成体制づくりのポイント

社是・社訓に代表される企業理念は、基本的には経営トップの主体的意思。そのため経営に携わるトップマネジメント層でチームを作り、そこで作成するべき性質のものといえる。

しかし、いきなり新しい社是・社訓が天から降ってきたのでは、強制的な命令が下されたようで、社内に浸透しないばかりか、社内の雰囲気をも悪くしてしまうかもしれない。そうならないためには、トップマネジメントのチームで新しい社是・社訓の作成活動を行っていることを社内に報告しながら作業を進めるのがスムーズだ。

できれば「新しい社是・社訓を作成するに当たって、社員の意見を反映したいので協力して欲しい」と呼びかけ、適時作業状況を社内報などで知らせるようにする。社員に少しでも参加意識を持たせることが大切で、決して密室作業を行わないようにする。

価値あるものにするポイント

個性あふれる企業理念・社是・社訓にしたほうが価値を見出しやすい。さまざまな会社のホームページを見ると分かるが、社是や社訓は、一般的には似たようなものになりがち。個性的なものが必ずしもよいというわけではないが、できれば自社ならではの考え方、主張を作成したいものだ。

人真似をしないで、自社独自の理念を作成するには、その企業ならではの言葉(社語)を創り出すことが早道だという考え方もある。

■実践できてこそ価値がある

いくら良い企業理年・社是・社訓があったとしても、企業、社員がそれを実践できないようでは意味がない。「仏つくって魂入れず」では、何のための社是・社訓であるかわからない。社是・社訓は言葉の遊びではない。企業、社員が、社是・社訓で表された企業理念が実践できるよう、それに向かって行動できるよう、行き詰まった時に立ち返ることができるように、経営トップみずから、社員の規範となるべく、理念と信念を持ち行動することこそが大切だ。

■使用頻度の高い言葉

社是・社訓に高い頻度で使用されている言葉を参考までに挙げておく。

和 愛 誠実 努力 信用 誠意 奉仕 責任 創造 貢献 創意工夫 安全 信頼 感謝 誠心誠意 協力 健康 忍耐 親切 創意 協調 文化 理解 繁栄 利潤 調和 世界 国際的 成長 お客様 満足 挑戦 生き甲斐 品質 サービス 従業員 喜び 悦び 時代

企業理念・社是事例

日本を代表する大企業から、小規模企業に至るまで、会社のホームページには企業理念や社是、社訓が公開されている。これらを眺めているだけで1日過ごせるほどさまざまなバリエーションがある。ここでは、独断と偏見で3社を選んでみた。

堀場製作所:創業者の個性そのもの

以前のコラム「学生起業の先駆け・堀場雅夫の『人の話なんか聞くな!』」で紹介した通り、株式会社堀場製作所の社是は「おもしろおかしく」だ。

社是「おもしろおかしく」

常に「やりがい」をもって仕事に取り組むことで、人生の一番良い時期を過ごす「会社での日常」を自らの力で「おもしろおかしい」ものにして、健全で実り多い人生にして欲しいという前向きな願いが込められています。そのために会社は「おもしろおかしく」働ける舞台を提供します。そこで従業員が「おもしろおかしく」仕事をすれば、発想力や想像力が増すとともに、効率も上がり企業価値が高まります。その結果、お客様、オーナー(株主)、サプライヤー、そして社会とWIN-WINの関係を構築できます。

引用:堀場製作所ホームページ:HORIBAについて>企業文化

京セラ:言葉と表現が美しい

京セラ株式会社の社是も創業者である稲盛和夫氏の個性そのものだが、何より言葉の選び方や表現が美しい。他社ではあまり見られない社是だといえる。

【社是】

敬天愛人

常に公明正大 謙虚な心で 仕事にあたり
天を敬い 人を愛し 仕事を愛し
会社を愛し 国を愛する心

【経営理念】

全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、
人類、社会の進歩発展に貢献すること。

引用:京セラホームページ:会社案内>京セラグループについて>社是・経営理念

日本電気:有名なC&Cから変更

私の世代の日本電気株式会社といえば「C&C」。1977年、米国アトランタで開催されたインテルコム77というイベントで、当時の会長・小林宏治氏は、日本電気を「世界のNEC」に飛躍させた画期的コンセプト「C&C(The Integration of Computers & Communications)」の先駆となる基調講演をアメリカで行なった。このスピーチを境に、日本電気は単なる通信機器とコンピュータをつくる企業から、日本の情報通信産業の担い手へと大きな変身を遂げた。

その後、2008年に「NECグループ ビジョン・バリューを発表」し、2014年には社会ソリューション事業ブランドメッセージ「Orchestrating a brighter world」を発表するなど、次々に企業理念を発展させている。

今回は、20年前の企業理念・経営指針と、現時点での「NEC Way」とを並べてみたい。まずは以下が20年前のものだ。

【企業理念】

NECはC&Cをとおして、世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します。

【経営指針】

・顧客の満足を第一とし、ベタープロダクツ・ベターサービスを提供する。
・広く科学・技術を追求し、新しい価値を創造する。
・社員の個性を伸ばし、十分に発揮させる。
・個々の組織の主体性を活かし、力強い総合力に結びつける。
・良き企業市民として行動する。
・収益性を高め、活力ある発展と社会への還元を図る。

次に、今現在公開されている「NEC Way」を見てみよう。

【Purpose(存在意義)】

「Orchestrating a brighter world」
NECは、安全・安心・公平・効率という
社会価値を創造し、
誰もが人間性を十分に発揮できる
持続可能な社会の実現を目指します。

【Principles(行動原則)】

創業の精神「ベタープロダクツ・ベターサービス」
常にゆるぎないインテグリティと人権の尊重
あくなきイノベーションの追求

【Code of Values(行動基準)】

視線は外向き、未来を見通すように
思考はシンプル、戦略を示せるように
心は情熱的、自らやり遂げるように
行動はスピード、チャンスを逃さぬように
組織はオープン、全員が成長できるように

【Code of Conduct(行動規範)】

1.基本姿勢
2.人権尊重
3.環境保全
4.誠実な事業活動
5.会社財産・情報の管理
コンプライアンスに関する疑問・懸念の相談、報告

引用:日本電気ホームページ:企業情報>NEC Way

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