労働組合への対応を考える

組織の運用
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突然の団体交渉でとまどう経営者

実を言うと、ちゃんとした労働組合のある会社で働いたことがない。正確に言えば、新卒で入社した会社には労働組合があった。その当時、従業員2万人以上だったその会社の労働組合員はたった300名だったので、労働組合があるという感じがまったくなかった。

自分が働いていた環境ではなく、経営陣のアドバイスのために月に数回訪問していた会社で、初めて労働組合が何なのかを知る機会に恵まれた。その会社では、あるとき従業員から「労働組合を作りました」と通告を受け、経営陣がどう対処していいのか分からなくなった。アドバイザーである私自身は、その会社の経営陣と一緒になって、社外取締役である弁護士から労働組合に関するさまざまな基本的知識を叩き込まれた。

労働組合というのは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善、そのほか経済的地位の向上を図ることを主な目的として組織する団体のことだ。通常は会社側と労働者が話し合いながら協力して労働条件を作り上げていく。

しかし、現実には「ある日突然に団体交渉の申し出を受けてとまどってしまう」経営者が多いらしい。労働組合側は、その上部団体の専門家の指導や、立ち上げに当たっての事前調査によってさまざまなケースにおける交渉方法を勉強している。しかし、会社側は事前に準備をしていることが少ないため、スムーズな交渉ができないことがあるという。

今回は、労働組合の設立に対して、会社側がどのようなことを行えばよいのかをまとめてみる。


団体交渉のルールを確立

労働組合は、設立当初において、その存在意義を示す必要から過激な行動に出る可能性もあるという。そのため、会社側からみて容認可能なものだけでなく、不当な要求まで含んでいる場合がある。労働組合の活動自体は合法的なものなので「正当な理由なくして団体交渉の申し出を無視する」など、その正当な活動を妨げるような行為を行うと、労働組合法などの法律に抵触してしまう。

しかし、これは労働組合からの要求などをすべて受け入れなければならないということを意味しているわけではない。以前の例で、質の悪い労働組合の中には、不当な要求でも組合として要求すれば会社に全部認めさせることができると誤解していたり、組合の要求を会社に認めさせるために暴力の行使や脅迫など不当な手段を講じるケースがあったという。

今ではこのようなケースはほとんどみられないが、不当な要求などに対して会社側としては断固とした態度で拒否する姿勢も必要となる。一方で、企業側は労働組合を完全に敵対視することなく、できる限り対決を避け、労働組合が健全な姿になるように育成していくことも会社の発展のためには重要なことといえるだろう。

そのためには、会社側と労働組合が、双方平和的な解決を求めることが可能になるようなシステムづくりが必要になる。その第一歩としては「明確なルールとそれに基づいた一定の手続き」が必要。そのルールについてふれることにする。

交渉委員の選定

団体交渉のルールの基本は、まず、交渉委員の人数を何人とし、それに誰を選ぶかということ。交渉委員の適正人数は、会社規模や組合員数を基準に決められている。例えば、組合員が10名ほどの場合で2~3人ぐらいが適当といえるだろう。

誰を選ぶかという点に関し労働組合側がよく行う要求として、会社側の責任者である社長をメンバーとして出席させて欲しいということがある。社長は非常に忙しい人も多く、毎回の団体交渉に出席できないことや、また、社長の感覚や性格からみて交渉委員に適していないケースもあるだろう。

そういった場合は、取締役の中から労務担当を選出し、その人を企業側の責任者として、交渉していくことも可能だ。個々の交渉について誰が担当するかは労使それぞれの事情があり、双方が選んだ委員を他方が正当な理由もないのに拒むことはできないことになっている。

なお、労働組合側の団体交渉における担当者は、労働組合法で「労働組合の代表者または労働組合の委任を受けた者」としか規定されていないため、「労働組合の委任を受けた者」として、例えば弁護士などの組合員以外の人が担当者となる場合もある。

事前の議題提出

団体交渉をスムーズに進めるために事前に議題を提出するルールはぜひ欲しい。

団体交渉の時間は、1~2時間ぐらいが適当だと考えよう。無意味な論争を避けて要領よく交渉するのであれば、2時間を超える必要はないはず。効率のよい運営を行うためには、団体交渉議題を事前に提出して、会社側がそれに対する十分な検討を行った後に交渉を行うことが理想的だ。

具体的には、団体交渉の申し入れは、文書により議題を明記し、1週間ほど前までには提出することをルール化しておく。団体交渉を行う場所に関しても、毎回場所を変えることなく、会社内の会議室といった一定のところに決めて行うほうがよい。

団体交渉時間の賃金

団体交渉の開催日時は、事前に労働組合と相談のうえ、双方の担当者が出席できる日時を選ぶことが基本。ただし、団体交渉に参加する組合員への賃金の支払いの問題があることから以下の点について留意する必要がある。

原則として就業時間内における団体交渉は労働時間とはみなされない。このため、会社側は団体交渉に参加した組合員に交渉時間の賃金を支払う必要はない。もちろん、労働協約に規定があればそれに従うが、原則は賃金を支払わない。

仮に、会社側が就業時間内に行われた団体交渉時間分の賃金を組合員に支給した場合、不当労働行為と判断される恐れもあるという。これは、会社が団体交渉時間分の賃金を支払うことで、労働組合を懐柔しようとしているとも判断されかねないためだ。

一方、労働協約中に「団体交渉を勤務時間内に行ってもよい」旨の規定が盛り込まれている場合は、就業時間内における団体交渉について賃金を支払う必要がある。

このように、勤務時間内の団体交渉における賃金の支払いに関しては、ケースによって取り扱いが異なるので、労使双方で誤解が発生しないよう事前に労働協約で明確にルールを定めておいたほうがよいだろう。また、労働協約策定の際には、都道府県の担当部署や専門の弁護士などに相談することを薦める。

円滑なコミュニケーション法

通常、労働者と会社側との問題点の解決は団体交渉というのが一般的。しかし、労働者の意識、欲求も多様化、高度化しており、団体交渉のみによってはその解決が容易ではない多くの問題も生じる。そこで、労働組合と会社側の双方が意思疎通を図り、各問題を合理的に処理していく必要がでてくる。

労働者と企業側の意思疎通を図るためにとられている方法としては、労使協議機関を設立するのが一般的だという。これは、経営、清算、労働条件、福利厚生などの事項を労使で協議するための常設機関だ。この労使協議機関の会合を、毎月または3カ月程度のペースで開催することで、小さな問題を一つ一つ解決していくことが可能なため、労使間のコミュニケーション手段としては最適だという。

必要に応じ、この労使協議機関の下部組織として「安全衛生委員会」のように特定の事項を専門的に協議する専門委員会を設置することも有効らしい。

労使コミュニケーションの機会を頻繁に設けることによって小さな不満や問題点を解決し、その結果、最悪の事態を回避することができる。労使関係の安定のために、労使間のコミュニケーションを促進するための仕組みを作る。こういうのが前向きな考え方だろうと思う。

労働組合との交渉になりやすい事項

厚生労働省は、「労使関係総合調査(実態調査)」ということで、毎年テーマを変えて労働組合実態調査を公表している。直近の2020年(令和2年)は「労使間の交渉等に関する実態調査 」というテーマでの調査結果が公表された。調査結果をみると、労働組合が交渉するその内容について、何が多いのかが見えてくる。

調査によれば、過去3年間の労働組合交渉において、何らかの交渉があった事項は多い順に、「賃金・退職給付に関する事項」74.9%、「労働時間・休日・休暇に関する事項」74.1%、「雇用・人事に関する事項」61.0%となっている。お金の話、休日の話、雇用の話の順で多いということだ。

何らかの労使間交渉があった組合のうち、会社側と話合いが持たれた割合をみると、「賃金額」92.1%、「職場環境に関する事項」90.3%、「賃金制度」89.4%となっている。また、何らかの労使間の交渉があった結果、「労働協約の改定がなされた又は新たに労働協約の規定が設けられた」とする割合を事項別にみると、「育児休業制度、介護休業制度、看護休暇制度」37.5%が最も高く、次いで「賃金額」37.1%、「賃金制度」33.3%となっている。

引用:厚生労働省:「労使間令和2年 労使間の交渉等に関する実態調査3 事項別労使間の交渉に関する状況 

労働組合の役割

会社にとって労働組合がどのような役割にあるのかを考えてみると、以下のような項目が挙げられる。

  • 経営に対するチェック機能
  • 従業員の意見、要望の吸収機能
  • 従業員間のコミュニケーション機能
  • 経営施策の伝達機能

特に従業員の意見、要望の吸収機能と経営施策の伝達機能に関しては、場合によっては通常の職制ルートより効果的であることもあるため、これらの機能の充実は大切。さらに経営に対するチェック機能に関しては、例えば労働組合側が同業他社の事例を調べ、その比較によって整合性を持った意見を徴収できることもあるという。労働組合は、会社に対する批判的な意見だけでなく前向きな意見を吸収するためにも重要だともいえる。

以上のようなことを労使協議機関などの場で、会社側から労働組合側にアピールすることも大切だろう。労使間でのコミュニケーションを図り、双方が信頼し合うことによってトラブルの回避や不満を減少させることが何より一番大事なことだ。


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