📓初対面の1分間で相手をその気にさせる技術

自己啓発・研鑽
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成功率100%の飛び込み営業

エンジニアリングで修士号を取得し、システムズ・エンジニアを志望して会社に入ったのだが、新入社員研修後には営業職に配属になった。当時は色々と複雑な感情があったが、数年後に振り返ると、営業職ほど高度で幅広い仕事はないと思うようになった。

営業職といっても、会社の事業内容によってさまざまな種類がある。例えば、相手が個人か法人かによっても違う。取引先相手のルート営業やアカウント営業もいれば、取引のないお客様を開拓する新規開拓営業というのもある。医薬品営業であるMRや海外営業などのような特殊な職種もある。私がやっていたのは、大企業相手に、チームを組んで大掛かりな仕掛けや提案活動を実施し、複数年かけてプロジェクトタイプのビジネスを取るものだった。

だからなのか、本書『初対面の1分間で相手をその気にさせる技術』を見つけたときには読んでみようと思った。「飛び込み営業成功率100%の初公開ノウハウ」と「年間3000人をダントツ営業マンに育てた”すぐ結果が出る”バイブル」と帯に書かれているからだ。営業職を長くやっていたものの、飛び込み営業の経験は皆無だ。成功率100%とは、これまたすごい謳い文句。しかも著者は女性だ。

著者の朝倉千恵子氏は、小学校教師、税理士事務所、証券会社勤務を経て、35歳で「地獄の特訓」で知られる社員教育研究所に入った。2000年度に年間売上No.1となり、2001年に独立、「トップセールスレディ育成塾」を主宰し、企業の教育研修や講演を行ってきた。また、セールスに関する著作も多く、書店の「営業」コーナーでは本書も含め、数冊は置いてあるであろう。

著者自らが第一線での営業経験を通して培い、社員研修を通じて磨いてきた実践的セールス術のヒントの数々が本書に披瀝されている。ヒントというよりは、コーチングというべきか。

ビジネスやその後の人間関係は、初対面の一瞬によって左右されると言う。相手は初対面でその人について評価を下すものだ。日頃の生き方や、仕事に取り組む姿勢がその一瞬に現れる。初対面の連続がビジネスと人生の質を決定していく。まず基本の型を覚え、形から入っていくことを著者は勧める。

初回訪問~クロージング

飛び込み営業を、勇気づけ・根性づけ・度胸づけと思っている人がいる。著者は「情報収集の場」と位置づけている。相手に会えなくて当たり前、話を聞いてもらえなくて当たり前。情報収集の場と割り切ってしまえば、担当者に会えなくても、必要以上にメゲたり、傷つかずにすむ。

飛び込み営業は、その会社の「生の情報」を手に入れる機会である。社屋やオフィスの雰囲気、受付の対応だけでも、どういう会社なのか何となくわかる。こういう会社に今後営業をかけることがいいのかどうか判断することも大事で、場合によってはこちらで見切りをつけることもできよう。

飛び込み営業では、まず受付を通すことが多い。受付嬢にどんな印象を与えるか、効果的な会話ができるかどうか。これがすべての始まりである。

ぺこぺこしながら受付カウンターに行く人がいるが、受付嬢はこのような人に対して「丁重にもてなすべき重要人物」という評価を下すわけはない。「私はこの会社にとって有益な情報を持つ重要人物なんだ」というぐらいの気概でのぞむ。落ち着いて重要人物らしく振る舞うことがコツである。

受付を味方につけることができれば、鬼に金棒。名刺を置いて帰った後、受付は訪問先の担当者に来訪を報告してくれる重要な役割を果たす。うまくいけば、その場で担当者に取り次いでもらえる場合もある。

受付では営業トークをやってはいけない。飛び込みだから、たいていの場合、すぐに担当者を呼んでもらえることはないであろう。約束がないと取り次げないと断られる。その次が問題である。パンフレットを出して、担当者に渡してもらうよう頼む人が多い。

しかし、これではダメだ。「ありがとうございます。後日改めてまいりますので、その際はどちら様をお尋ねすればよろしいでしょうか?」と言うべきである。断られたのに、「ありがとうございます」と言うのがポイント。

誰に会ったらよいか名前を聞いても、その人の役職、直通電話番号を聞いておくのがコツである。その場合も、「失礼があってはいけませんので」という前置きを言って、役職名を聞き出すことが大切である。

電話でアポを取るのは簡単ではない。しかし、電話営業が苦手な人は、飛び込み営業が苦手な人でもある。「電話したらまた断られるのではないか」と萎縮して話せば、その自信のなさが相手に伝わり、よけいにアポが取れなくなってしまう。

「私はいい情報を持っているんだから、会ったほうが絶対トクだよ。あなたの会社にとって有益な情報を持っている営業パーソンを何で断るの?」という気持ち、自信、したたかさ、図太さでぶつかることが基本である。

声のトーンというのは大事である。声が低すぎるのは論外だが、高すぎてもいけない。飛び込み営業も同じで、上ずった高い声の早口よりも、ちょっと低めの落ちついた声のほうが相手に安心感を与え、話を聞いてもらえる確率が高くなる。さらに言えば、販売する商品、相手の年齢層や業界、あなたのキャラクターなどによっても、適した声は異なる。シチュエーションによって、声・トーン・話す速度を意識的に変えてみることも大切である。

名簿を見ながら電話をかける場合、「あ」行からスタートするのが普通だが、著者はあえて逆の「わ」行から始めて効果を上げた。「あ」行の人は他からも電話をもらう頻度が高いが、「わ」行の人は、社名を名乗るとはじめて聞くといったお客さまが多く、話を聞いてくれる確率が高かった。

名簿を見て電話し、ダメだとすぐに次の名簿に移る人が多いが、著者は同じ名簿で何度も電話をかけて少しずつ耕していった。「先週断られた朝倉と申します」と相手に名前を覚えられるまで、しつこいくらい電話をしたこともある。飛び込み営業と同じく、1回かけて結論を出すのではなく、徐々に耕していくことに成功の秘訣がある。

「いいよ、間に合っているから」という言葉を聞いたら、直感的に「この人には絶対会わないといけない!」と思うことだ。このような断り方をしているということは、どの営業パーソンに対してもそうしているはずだから。ほとんどの営業パーソンは、そう言われると、ひるんで撤退しているはずである。そこで、もうひと押ししてみる。「12分だけ、1回だけチャンスをください」。

この言葉の持つチカラは想像以上に大きい。「1回会って二度と会いたくないとおっしゃるなら、今後しつこく追いかけることは一切しません」と宣言するのもよい。それでダメなら、「この会社はどうアプローチしてもダメなんだな」と諦めもつき、次の会社に集中できる。

トップセールスの「ABCD法則」というのがある。

(A)当たり前のことを、
(B)バカにしないで、
(C)ちゃんとやる。それが
(D)デキル人である。

初対面で、ぐっとくる身だしなみは大事である。服装だけでなく、姿勢やお辞儀、ウォーキングにまで気を配る。

名刺交換でも、他人に圧倒的な差をつける方法がある。

著者も初心の頃は、名刺交換したものの、オフィスに帰ってきて名刺を並べてみると、顔を思い出せないことがよくあった。相手の顔をよく見ないで、やみくもに名刺交換していただけだった。名刺を渡す時は、名前を名乗り、しっかり相手の目を見ることである。

相手の名刺を受け取る際は、両手で受け取るのが、ワンランク上の名刺交換の術である。自分の名刺の取り出し方にもいろいろ工夫ができる。渡す名刺は、あらかじめ名刺入れから出して、名刺入れの間に挟んでおけば、名刺交換がスムーズにできて、相手によい印象を与えるだろう。

初対面を制するには、どうすべきか。相手の思いを主体に考えれば、次の4点が大事になる。

  • お客様の共感を得る→ この人はわかっている
  • お客様の信頼を獲得する→ この人は信頼できる
  • お客様の感心を呼ぶ→ この人は面白い
  • お客様の意識を変える→ なるほど!

まずは相手に共感・信頼されることが最初のステップである。フランス語に「ラポール」という言葉がある。「信頼と親愛の絆」といった意味で、お互いが心を開いたコミュニケーションを行える状態を指す。いうなれば、初対面の段階で、できるだけ短時間にこのラポールを築くことが必要である。

営業で最も重要なことはクロージングである。信頼関係を築いた見込み客から、最終的な「イエス」をもらわなければ意味がない。クロージングはいわばプロポーズだ。売れない営業パーソンは、このプロポーズができない。

売れない営業パーソンは、断られるのが怖いから、「買ってください」と言えない。何度もデートを重ねながら「僕とつき合ってください」と切り出せないのと同じである。見込み客が減るというのも、クロージングをすばやく出来ない原因になる。「これだけ通っているんだから、いつかは熱意が通じるだろう」と実ることのない期待を持ちつづけるものである。

けっきょくそれが時間とお金をムダにする営業になってしまう。あやふやな見込み客は減ってもかまわない。買う気のない見込み客を握っていても、何年経っても買ってはくれない。

クロージングをいつするか、次の5つの条件が整った時だといえよう。

  • お客様との信頼関係を築けた
  • お客様のニーズを引き出せた
  • お客様のニーズに合う提案ができた
  • お客様にはこの商品が必要だと思う
  • 交渉相手に決裁権がある

リモート時代も基本は同じ

冒頭で営業職にはさまざまな種類があると述べたが、基本はどういうタイプの営業だろうが同じようである。結局は、製品やサービスを売っているように見えて、実は自分自身を売っているのだ。信頼関係ができて初めてクロージングできるのは、売っているものの大きさとは無関係であるらしい。私も「自分を売れ」とよく言われたものだ。自分が売ったお客様とは信頼関係を築いているので、転職しても独立しても、いまだに交流がある。

営業職としてトレーニングを受けた身からすると、本書で述べられていることは、別に目新しいことが多いわけではない。しかし、基本をキチンと書いてあることや、著者自身が実行して反省したことなどがあり、間違いなく有用だ。自分がまだ現役の営業職であれば、時々読み返すに違いない。

世の中には営業ノウハウ本が色々あるが、この本は徹底して基本形を説明しているように感じた。営業職とはある意味、その会社を代表する者としてお客様とコミュニケーションする立場。押し売りすることをコミュニケーションとはいわない。お客様のしかるべき立場の方に、製品やサービスを知っていただき、その価値を判断していただくためのインターフェースが本来の営業職だ。現実は、そこに至る前に玉砕してしまう営業職のほうが多いのだろう。

クロージングの重要性も本書の指摘通りだ。私自身が受けた新入社員研修では、クロージングについて、「Ask for order」と題したコースメニューになっていた。私がやっていたプロジェクトタイプのビジネスでは、営業活動にかかる全ワークロード(最初から最後までの全工程の作業量)の8割が、このクロージングのために注がれるのが普通だった。普通に考えれば、このために営業活動をやっているのだが、わざわざクロージングの重要性を本書で述べるということは、それが現実だということだろう。

いわゆる営業職への就業人数は、2001年から2018年の間に100万人以上減少したらしい。営業職は不要になりつつあるのかというとそんなわけはない。本書の著者は、最新刊である『「私、パソコン苦手です」という人のための Zoom時代のリモート営業入門』で、コロナによるリモート時代は選ばれる営業と選ばれない営業の分かれ道になると述べている。営業職はもっと減るだろうということだ。

リモートだろうが対面だろうが、営業の基本形は変わらない。飛び込み営業はできなくなったが、初回のZoom対面で使える基本的な技術はこの本から学べるはずだ。

目次概要

朝倉千恵子著『初対面の1分間で相手をその気にさせる技術 ー生涯無敗のスゴ腕セールスウーマンが教える』の目次概要は以下の通り。

  1. はじめての飛び込みセールス「生涯無敗」の哲学
  2. 誰も教えてくれなかった!「電話アポ」必勝の方程式
  3. 「1分間でその気にさせる」ビジネスマナー&名刺交換術
  4. 初面談完全攻略キラートーク
  5. 初回からクロージングをかける魔法の質問話法
  6. あなたが決めたとおりの人生になる!
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