フランチャイズ加盟を決める前に

中小企業経営
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フランチャイズビジネスに多いトラブル

以前に公開したコラム「FCビジネスの基礎知識」では、その冒頭部分でこんなことを書いた。

スモールビジネスを始めるとき、既にブランドが確立しているビジネスの「フランチャイズチェーン(FC)加盟店」からスタートするという選択肢がある。起業や独立の話題になると、FC加盟店の話は必ず出てくる。

引用:「FCビジネスの基礎知識」の冒頭部分

さまざまな事情から会社を辞め、独立して商売を始めようとする人や、新たな収益源や雇用の受け皿として新規事業を計画する会社にとって、FC加盟は検討に値する大事な事柄だ。新しい商売・事業に関する経験や知識・ノウハウを持っていない元サラリーマンや企業から見ると、FC加盟はビジネスのノウハウを買う行為に思えるはず。

以前のコラムに書いた通り、FCというのは、FC本部が自ら事業を起こし成功した商売のノウハウを加盟店に対して提供するビジネスであり、加盟店は特別の知識や経験がなくとも、本部との契約により新しい商売を始めることができるからだ。

FC加盟で生じる6つのトラブル

しかしながら本部と加盟店は互いに独立した事業者であり、フランチャイズ契約に基づいて長期的な協力関係を結んではいても、本部が売上の保証をしてくれるわけではない。FCビジネスも他のさまざまなビジネスと同様にリスクが存在する。この基本のところを十分に認識しないまま安易に加盟契約を済ませ、本部に依存した経営を行ったばかりに、さまざまなトラブルに巻き込まれるケースもみられる。こうしたトラブルを回避するためにも、FC加盟に当たっては、十分な調査と検討が欠かせない。

中小企業庁は、かなり充実した「相談・情報提供」というWebサイトを公開している。そこには「相談事例10:フランチャイズ契約は十分理解したうえで」という公開事例があり、フランチャイズ契約に際して「特に注意すべきこと」として以下の6点を挙げ、詳しく解説している。

  1. 売上予測、経費予測などと実態との相違
  2. 加盟金の返還の有無
  3. ロイヤルティの算定方法
  4. オープンアカウントなどの本部との債権債務の相殺勘定
  5. テリトリー権の設定の有無
  6. 契約解除時における解約違約金

ここで出ている「オープンアカウント」とは、加盟店と本部の間に発生するさまざまな金銭債権債務を相殺する勘定を設定し、その会計処理を本部が一括して行う会計システムのこと。仕組みが複雑で加盟店側が理解しにくいうえに、加盟店側に不足金が発生した場合、本部が自動的に利息を付したうえで融資することなどからトラブルの原因となっている。

トラブルの原因

本来、フランチャイズ・システムは、本部と加盟店との相互補完によるWIN-WINを目的とするもの。本部と加盟店とはビジネス上のパートナーであるはずだが、往々にしてその利害が対立してしまう場面も少なくない。

中小企業庁が指摘する6項目などを巡ってトラブルが発生してしまう原因としては、主に本部側に起因するものと加盟店側に起因するものがある。それらを以下にまとめてみよう。

■本部側に起因するもの

  • 本部が作成した売上予測や立地調査が実態を反映していない、あるいは加盟店開発を優先することから甘い計画となり、結果、売上実績とのかい離が発生
  • 加盟店に対する契約内容などに関する説明不足あるいは虚偽の説明
  • チェーン拡大による同一テリトリーでの直営店・他の加盟店の出店

■加盟店側に起因するもの

  • 加盟店に主体性がなく、FCに加盟しさえすれば後は本部任せでうまくいくと考えて加盟
  • 本部の実態やFCの仕組みを深く理解せずに加盟
  • 法人などで、オーナーが店の運営に深く携わらず、業績に対する責任体制やFC加盟の目的が希薄
  • 本部のノウハウや指導が確かなものでも、素直に従おうとせず、自己流を通そうとする

上述のように、トラブルの原因には本部側に原因があるケースも少なくない。しかし、多くの資金と時間を投じる覚悟でFCへ加盟して事業を始めるわけなので、例え原因が本部側にあったとしても「トラブルに巻き込まれて事業に失敗した」という事態だけは避けたいものだ。また、トラブルの中には、慎重に本部選びを行うことで未然に防ぐことのできるケースも少なくない。

成功ポイントの第一歩となるのは「信頼できるFC本部選び」だといえよう。

信頼できるFC本部選び

成功ポイントの第一歩となるのは「信頼できるFC本部選び」 の全体像は、以下の6ステップにまとめることができる。

  1. 加盟店募集広告の検討
  2. FC本部を訪問して実態を把握
  3. 自分の目的・条件との整合性をチェック
  4. 既存加盟店の実態調査
  5. 事業計画の作成・確認
  6. 加盟契約書や法定開示書面などのチェック

加盟店募集広告の検討

最初は、関心を抱いたFC本部の詳しい説明書・パンフレットを数件取り寄せて検討する。ここで「粗利が大きく高収益」「投下資本も1年で回収」といった甘い表現に惑わされてはいけない。

確かに商品原価が小さく高い粗利を示すサービス業のようなものもあるが、その反面、人件費率が高く最終的な利益が小さいケースも少なくない。また、投下資本はモデルケースの額であり実際の加盟者の条件に基づいたものでなく、得られる利益額も設備の減価償却費やオーナーの収入を差し引く前の額で計算されている場合があるので注意が必要だ。

さらに、いきなり加盟店開発の営業担当が来てしつこく勧誘するといったケースもあるが、このようなFC本部に対しては慎重に対処すべきだろう。

FC本部を訪問して実態を把握

本部を直接訪問して、事務所の規模、従業員の応対、他の事業の有無など、パンフレットでは分からない情報を収集する。また、既存加盟店の営業状況、直営店の規模や業績を質問し、業績不振店があるならその原因やそれに対する本部の対策などを確認する。

そして契約に際して必要となる初期投下資金がいくらぐらいになるのか、ロイヤルティーの額やそれに応じて提供されるノウハウ、スーパーバイザーの支援内容などをチェックする。

FC本部のなかには直営店の実績がなく、加盟店も全く業績不振で本部としての資格に値しないものも数多くある。こういう本部では成功のモデルが確立していないので、説得力のある収支計画や支援計画が提示できず、いきおい勧誘も強引なものとなりがちなので特に注意を要する。

自分の目的・条件との整合性をチェック

必要な一次資料や情報が集まったところで、今度は加盟者自身の目的や条件とのすり合わせが必要になる。当初決めておいた資金や自身との適合性、家族などの協力者の賛成度合いなど、冷静な態度でセルフチェックする。

フランチャイズのシステムに関する理解も十分深めなくてはならない。成功へのノウハウを得る代わりに、契約による制約も伴う。本部の方針や指導には従う義務があり、店舗運営上の制限や拘束が存在する。また契約期間も長く、途中解約すると違約金を要求されるのが一般的だ。契約更新は5年ごとというのが多い。

成功へのカギも、リスクに対する責任も最終的には自分自身にあることを再度確認する必要がある。

既存加盟店の実態調査

既存加盟店を訪問して実際にオーナーから店舗運営の実態をヒアリングする。これは加盟を決める前に必ず実施すべき項目だ。

ここで気をつけなければならないことは、本部からオーナーを紹介してもらう場合。当然本部は業績の良い店舗を紹介するはずだから、オーナーの話をうのみにせず、いくつかの店舗をまわるのが望ましい。また、「オーナーの仕事の邪魔になる」などの理由をつけてなかなか紹介に応じない本部もあるだろうが粘り強く交渉すべき。どうしても頑固にオーナー紹介に応じないのであれば、既存店の運営に問題があるという判断を下すのがよさそうだ。

事業計画の作成・確認

これまで得られた情報を整理し、同業他社チェーンの情報も同様の手順で集めて比較・分析する。そのうえで事業計画を作成してみる。

事業計画、収支計画についてはたいてい本部でシミュレーションをしてくれるはずだが、それはあくまで予測に基づいたモデルプランであることを忘れてはいけない。特に売上予測や粗利益の算出根拠についてのチェックは欠かせない。この場合、計画書の内容を十分に理解して納得することが必要。簡単なチェック方法としては計算の根拠をひとつひとつ質問することだ。

しっかりした本部であれば、科学的で綿密な調査に基づいているはずなので、十分その説明を受けるといいだろう。逆に、既存店の実績は「大体こんなもの」というあいまいな説明しかなければ、信頼性が低いと考えよう。

加盟契約書や法定開示書面などのチェック

次に商圏の調査、店舗の立地調査、物件調査と進めることになるが、店舗物件が決まる前に加盟契約を急ぐ本部は要注意だ。

FCビジネスの種類にもよるが、店舗立地は初期投資の額や開業後の業績に大きく影響するため、本契約の前に決定することが必須条件となる。加盟契約書の内容については、本部の責任者から十分に説明を受けることが肝要だ。

ただし、加盟の意思を示さないと本部は契約書を見せない場合があるので、それに先立って本部の実体や契約内容の要点が記載されている法定開示書面を要求する。法定開示書面とは、中小小売商業振興法において規定されている特定連鎖化事業(いわゆる小売・飲食のFC)に属するチェーン本部が、事業概要及び契約の主な内容などについての情報を、チェーンに加盟しようとする方に対して事前に示し、説明することが義務づけてられている書面のことだ。

また、公正取引委員会では独占禁止法に基づいて「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(「フランチャイズ・ガイドライン」)を公表し、契約前に開示することが望ましい項目を示している。これは小売・飲食のみならず全ての業種のフランチャイズ・チェーンに関して適用される。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の情報提供ポータルでは、「フランチャイズ関係法令解説」のWebページを設置している。ここに中小小売商業振興法と独占禁止法の詳しい解説が公開されている。

■開示が望ましい項目

中小小売商業振興法で定められている主な事前開示項目は、以下のような内容となっている。

  1. チェーン本部の概要(株主、子会社、財務状況、店舗数の推移、訴訟件数など)
  2. 契約内容のうち、加盟者に特別な義務を課すもの等加盟者にとって重要な事項
  • テリトリー権の有無
  • 競業避止義務、守秘義務の有無
  • 加盟金、ロイヤルティの計算方法など金銭に関すること
  • 商品、原材料などの取引条件に関すること
  • 契約期間、更新条件、契約解除などに関すること

など合計22項目。

また、「フランチャイズ・ガイドライン」における開示が望ましい項目というものあり、以下のような内容だ。

  1. 加盟後の商品などの供給条件に関する事項(仕入先の推奨制度など)
  2. 加盟者に対する事業活動上の指導の内容、方法、回数、費用負担に関する事項
  3. 加盟に際して徴収する金銭の性質、金額、その返還の有無および返還条件
  4. ロイヤルティの額、算定方法、徴収の時期、徴収の方法
  5. 本部と加盟者の間の決済方法の仕組み・条件、本部による加盟者への融資の利率などに関する事項

など合計8項目

FC契約は、本部が作成したものを全体として承諾できるか否かの二者択一である点に特徴があり、個別に交渉して内容を変更する余地はほとんどない。

しかし、本部と加盟店とが独立した事業者同士として、権利と義務を相互に分担する契約でもあるから、本部の義務や加盟店の権利が極端に小さいといった場合には、そこを指摘して説明を求める姿勢も大切。自分で判断が難しい場合には、専門のコンサルタントなどに相談することも有益だ。

加盟を決める前に

ここまで示した点に留意しながら、加盟する本部を検討することでトラブルの多くを未然に防止することができるだろう。しかし、FCに加盟して事業を成功に導くためには、もうひとつ重要な要素がある。それは加盟者自身の心構えだ。

前述したようにフランチャイズ契約を結んではいても、加盟店は独立した事業者。そのため、FC加盟を決める前に、以下のような内容をもう一度確認しよう。

■加盟の目的を明確にする

FCに加盟して起業するといっても、「ベンチャービジネスとしてどんどん大きくしたい、数年後には店頭上場を目指したい」というものもあれば、「自分と家族が協力して、生きがいと生活の糧が得られればそれでいい」という動機で始める場合もあるだろう。

リスクと期待するリターンとのバランスをどう考えるかはっきりさせることが重要だ。それによって加盟検討すべき本部も変わってくるだろうし、チェックするべき項目も違うはず。「良い本部の条件」は絶対的なものではなく、「あなたにとって良い本部」という相対的なものだと考えるべきだろう。

■投資の限界値をあらかじめ設定する

加盟の目的とともに、ビジネスに投資できる資金や資産の限界値をあらかじめ決めておくことも必要。努力したにもかかわらず、不幸にして業績が低迷し続けることもある。自分で定めた限界値に至った時は、思い切ってきっぱりと撤退を考えたほうが深い傷を負わなくて済む。

■本部に対して過大な期待を持たない

FCのシステムや本部に対して過大な期待を持たないことも重要なポイントだ。

もちろん、「商売を知らない加盟者が、FCシステムによって手っ取り早く、また高い確率で事業を軌道に乗せることができる」というのは事実。それは冒頭で述べたように、FCシステムとは成功しているビジネスモデルのノウハウをパッケージという形で提供するものだからだ。

とはいえ、成功が保証されているというものでもない。なぜならFCパッケージがいかに優れた内容でも、それは商売のノウハウの一部であってすべてではないからだ。

本部からFCパッケージとして提供されるものは、例えば「店舗としてふさわしい立地の条件」「内装や看板の仕様と設備レイアウト」「従業員のシフト計画」「販促活動の方法」といった内容。これはFC本部が直営店を運営する中において蓄積してきたものであり、成功へのノウハウが詰まったものに違いない。それでもこれらは経営のための有効なツールでしかない。

「事業を起こし経営する」ということは、マニュアルでは表せない要素が多分にある。経営者の考え方、生き方までがかかわってくるのが事業というもの。FC本部に加盟して起業するということも、他の分野の経営者と同様にその資質が問われるという本質は変わらない。

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