株主には権利がある
株式会社に出資した代わりに株式を受け取った人を「株主」という。出資は現金だけでなく、例えば自動車や不動産でもいい。株主になるということは、その株式会社の持ち主になることを意味する。そうすると会社に対して様々な権利を持つことになる。 出資した金額に応じて、配当金や株主優待がもらえることはご存じの通りだ。配当をもらう権利を「利益配当請求権」という。
配当をもらうだけでなく、会社の経営者に対して意見を言うこともできるなど、株主にはさまざまな権利がある。さらに、株主の権利は、法律で定められているものと、会社の定款によって定められているものがあり、一律ではない。今回は、この「株主の権利」について、その概要をまとめてみたい。
自益権と共益権
株主の権利には「自益権」と「共益権」がある。
自益権とは株主自身の経済的利益のために認められた権利で、前述の配当をもらう権利に相当する「利益配当請求権」などが該当する。共益権とは会社経営に参加し、会社の管理運営に関与する権利で、例えば「議決権」などが該当する。株主総会に出席して、会社の重要決議に投票できる権利が代表的だろう。具体的な権利の内容については後述する。
単独株主権と少数株主権
「自益権」と「共益権」という株主の権利は、持ち株数や議決権数によっても異なる。議決権1個の株主が単独で行使できる「単独株主権」と、一定割合以上の議決権を有する株主でなければ行使できない「少数株主権」とがある。議決権を多く持つ方が優位なので、少数株主権は単独株主権より強力となっている。
自益権は単独株主権だが、共益権には単独株主権と少数株主権のどちらもある。これを踏まえ、株主の権利を一覧表にしてみたのが下記だ。
株主平等の原則
株式にはすべて同じ内容の権利があり、株主はそれぞれの持ち株数(または議決権数)に応じて権利を持つ。これが「株主平等の原則」だ。
優先株、劣後株、議決権制限株式など、いわゆる「種類株式」が発行されている場合は異なる権利の株主が存在するが、同じ種類の株式の間では、平等が要求される。
自益権・共益権別の権利
自益権に分類される権利
自益権は単独株主権。おもな自益権には利益配当請求権、残余財産分配請求権、新株引受権などがある。これらの内容は以下の通りだ。
■利益配当請求権
利益配当請求権は株主が会社から利益の配当を受ける権利。配当は決算時の貸借対照表上の純資産額から各種控除を差し引いた金額を最高限度にその範囲内で行われ、株主は持ち株数に応じて配当を受けることになる。
■残余財産分配請求権
残余財産分配請求権は、会社が解散した場合に債権者に対しすべての債務を弁済して、なお残った財産があれば、残余財産の分配を受けられる権利のこと。利益配当請求権と同様、持ち株数に応じて分配される。
■新株引受権
新株引受権は、会社が新たに発行する株式を引き受ける権利で、持ち株数に応じて新株の割当てを受けられる。株式分割が行われた場合には、持ち株数に応じて新たに株式が交付される。特殊な新株発行としては、株式分割、転換社債型新株予約権付社債の転換などがある。
■そのほか
ほかに株式の消却・併合・分割もしくは転換または会社の株式交換・株式移転・株式分割もしくは併合により金銭または株式を受ける権利や名義書換請求権、株券交付請求権、株式買取請求権などがある。
■単元未満株主・端株主の権利
単元未満株主は、議決権および議決権の存在を前提とした少数株主権はないが、その他の共益権とすべての自益権がある。ただし、定款の規定により、株券が発行されない場合があるので、この場合は株券交付請求権(自益権の一部)がなくなる。
端株主は、法定の自益権のみが認められる。従って、共益権は一切ない。また、法定の自益権についても、一部は定款で権利が剥奪される。さらに現在は端株券自体が存在しない。
単元未満株式と端株式は、その目的を別にするものだが、いずれも投下資本回収のために株式買取請求権が用意されている。
共益権に分類される単独株主権
共益権に分類される権利には単独株主権と少数株主権があります。ここでは単独株主権と少数株主権とに分けて記述する。まず「共益権×単独株主権」についておもなものを見てみよう。
■議決権
定款の変更や利益処分案の承認など、会社経営で重要な事項は株主総会に諮られる。議決権というのは、株主が株主総会での決議に参加する権利のことだ。
議決権のある株主は株主総会の出席権と質問権を持つ。議決権は直接株主によって行使されるほか、代理人による行使も可能で、場合によっては書面による行使も認められている。ただし、議決権のない株式の株主、自己株式を取得をした会社、一定の相互保有株式、株主が特別利害関係を有する一定の場合には議決権はない。
単元株制度では1単元に1個の議決権がある。単元株制度の採用ならびに1単元の株式数は定款により定めるが、これまで1単位の株式数が1000株であった会社は、通常1単元1000株となる。
■そのほか共益権に分類される単独株主権
代表訴訟提起権、取締役の違法行為差止請求権、特別清算申立権などが認められている。
このほか、共益権に分類される単独株主権には、総会決議取消訴権、総会決議取無効および不存在確認訴権、新株発行無効訴権、新株発行差止請求権、定款・株主名簿・決算書類等閲覧謄本請求権、設立無効訴権、合併無効訴権、株式交換および株式移転無効訴権、新設分割無効訴権、吸収分割無効訴権などがある。
共益権に分類される少数株主権
少数株主権は、議決権の一定割合以上の株式を有する株主が行使できる権利で、総株主の議決権の割合に応じて権利が異なる。「共益権×少数株主権」についておもなものを見てみよう。
■議決権1%以上の株主が持つ権利
議決権1%以上の株主が持つ権利には、「提案権」と「検査役選任請求権」がある。
提案権は議決権の1%以上もしくは300個以上の議決権を有する株主が持つ権利で、株主総会の議題と議案を提案する権利。議案とは議題に対する具体案のことだ。
検査役選任請求権は、株主総会の開催までの手続きや総会の決議の方法が適切であるかどうかを調査させるための検査役の選任を裁判所に請求することができる権利。業務や財産の状況を調査するための検査役の選任請求は、議決権3%以上の少数株主権。
■議決権3%以上の株主が持つ権利
議決権の3%以上の株主が持つ権利には、総会招集請求権、取締役等の解任請求権、帳簿閲覧権、整理申立権、清算人解任請求権、検査命令申立権、取締役・監査役への責任軽減への異議権がある。
■議決権10%以上の株主が持つ権利
議決権の10%以上の株主が持つ権利には、「解散請求権」や「会社更正申立権」がある。
解散請求権は会社がこのまま業務を行うと再生できないほどの損害が生じる、または生じる恐れがある時などに、株主が裁判所に対して判決で会社の解散を命じるように請求する訴訟を起こすことができる権利。会社更正申立権は解散請求権を行使するのと同様な状況に会社が陥った際に、裁判所に会社更生を申し立てる権利。
■議決権1/6以上の株主が持つ権利
議決権6分の1以上の株主が持つ権利には、簡易合併による合併手続きを阻止する権利がある。
この続きは『「株主の権利」概要(2)』で述べたい。