顧客創造は組織全体で取り組もう

組織の運用
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顧客開拓は全員の仕事

どんなビジネスであっても、顧客がいなければ事業は成り立たない。顧客が個人であれ法人であれ、既に取引のある相手との継続取引もあれば、まったく新規に取引を始める場合もある。法人相手の場合、継続取引を担当する営業の代表格が「アカウントセールス」や「ルートセールス」と呼ばれる皆さんで、利益の8割くらいを稼いでいると言われる。

通常のビジネスでは、継続取引で利益を確保している合間に、別の仕組みを使って、顧客の新規開拓を行っている。ダイレクトメールを送ったり、テレアポや飛び込み訪問、イベント出展、セミナー集客など、あらゆる手段を講じて、将来顧客になるかもしれない見込み客との接点をつくる。

事業の目的は顧客の創造である

マネジメントの世界的権威であるピーター・F・ドラッカーは、1954年に発表した著作『現代の経営』の中で「事業の目的は顧客の創造である」と述べている。第二次世界大戦の終戦後10年も経過していない時代だ。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』の、あのドラッカーだ。

『現代の経営』はマネジメント書の古典ともいえる書籍で、半世紀以上を経た現代にあっても、ドラッカーの語る企業というものの本質はいまだ色あせていない。すなわち、事業の本質とは、決して利潤の極大化を目指す経済活動ではなく、より多くの顧客を創造することであり、その結果としてもたらされるのが利益だという。

ところが現実には、顧客の「創造」を事業の原点としてとらえ、顧客開拓を実行している企業は少ないのではないだろうか。周囲に顧客開拓の考え方を聞いてみたとしたら、こんな回答をするだろう。

  • 顧客を開拓するのは営業さんの仕事でしょ
  • 我々は子会社。親会社の下請けなので新規取引先は必要がない
  • 新規開拓といっても「入札」の結果次第なのだからどうにもならない
  • 飛び込み訪問を新人研修の一環として実施している

ここで、ドラッカーが「事業の目的」と述べる顧客創造について、もう一度考え直してみよう。

顧客創造とはなにか

顧客を創造することは、顧客を開拓することであり、新規のお客様と新規の取引を開始することから始まる。そのうえで、新しく取引を開始した顧客とよりよい関係を築き、ビジネスパートナーとしての関係を構築していくことこそが「顧客創造」といえる。

顧客創造には、営業だけで完結する仕事ととらえずに、顧客対応までも含めた全社的な仕事としてとらえ、顧客とのよい関係構築へ向けた全社的なプロジェクトとして考える必要があるのだ。

顧客創造を企業全体の事業として考えた場合、各担当分野においても次のような対応が実行されていなくてはならないだろう。

  • 経理:新規顧客の信用査定、全取引先に占めるシェア推移の観察
  • 人事:採用あるいは配置での開拓適性の判断、開拓実績の適正評価
  • 物流:適正システムと新規ルートへの弾力的運用、新規顧客の納入特性の把握
  • 生産:顧客ニーズの積極的な取り込み、カスタマイズユースへの対応
  • マーケティング:新規顧客の開拓を狙った戦略立案、開拓部隊への情報支援
  • 営業:常に新規開拓の活動比重を高度な水準に維持、担当を支援する連携
  • 販売・サービス:営業と同様の活動基準

このような有機的連携が各担当間でシステムとして徹底されていてこそ「顧客創造」への取り組みが機能するといえるだろう。

新規顧客開拓の必要性

誰が言ったか知らないが「いつまでもあると思うな親と金」という言葉がある。ビジネスをする上での顧客もまったく同じだ。

  • 新しい顧客を加えなければ顧客は増えない
  • 既存の顧客は「いつまでも」自社の客とは限らない
  • 既存の顧客は時間がたてば減っていく

新規の顧客が毎年ゼロという状態なら、いずれは確実に瀕死の状態になるだろう。そこで重大な意味を持つのが、新規顧客の開拓というわけだ。

新規顧客開拓の持つ2つの意味

新しい顧客の開拓には、大きく2つの意味がある。

■既存顧客の自然減を補充

「既存の顧客は時間がたてば減っていく」というやつだ。理由は次のようなものがある。

  • 倒産・転業・廃業
  • 経営内容悪化による取引停止
  • 競合他社への移動
  • 商圏エリア内からの移転あるいは撤退

上記の事態は止めることができない。現状を維持するための新規開拓が必要になってくる。

■既存顧客キャパシティの限界

既存顧客の購入額が次第に伸長していった場合、いつかは「もうこれ以上の購入は無理」という水準に達するだろう。ここまでがその顧客の購買力の限界。こうした状況で企業がさらなる成長を続けるためには、新しい顧客を見つけざるを得ない。成長を目指した新規開拓も、ビジネスにとっては不可欠だ。

現状を維持し、今後の成長をはかるために顧客の新規開拓は避けて通れない事業の関所だといえる。

新規開拓の困難さ

顧客の新規開拓は、日常の営業活動に比べて手間ひまがかかるうえ、必ずしも成約に至るとも限らないため、きわめて効率が悪く難度の高い活動だと言われる。新規開拓というのは、競合他社の顧客を奪い取ることにほかならず、だからこそ難しい。

顧客の新規開拓に当たっては、準備を万端に整えたうえで、ベテランの営業・技術を投入するような、組織として「本気」で取り組む姿勢が重要だ。私自身が新入社員研修直後に配属したのは、まさに新規開拓専門の営業部隊だったが、活動を共にしたチームがベテランばかりになった途端に、ビジネスが大きく動き出した。見込み客の立場になれば、「こいつら本気だな」と思えるかどうかは極めて重要だ。

よく新人研修などで実体験を積ませるために、ひとりで飛び込み訪問をさせて新規開拓をさせるという場面を見かけるが、このやり方はあまり感心しない。新人研修でいきなり新規開拓という困難な仕事にあたらせて挫折を体験させるのが目的なのだろうが、私ならさっさと退職するだろう。

新規開拓を成功させるために

新規開拓キャンペーンの失敗

営業の強い会社で「新規顧客開拓キャンペーン」いった類の社内プログラムを見かけることがある。気持ちは分かるが、これまで見てきた限りにおいては、フタを開けてみると思ったほどの効果が無かったというケースが多いように思う。

その原因のひとつは、営業を行うべき「対象数の設定」を誤っていることだ。

客単価が一定と仮定した場合、新規開拓によって得なければならない新規顧客の数は、解約などによる自然減を補充できるだけの顧客数に、目標とする売り上げ増加を達成するために必要な顧客数を加えたものになる。この算出を簡単な式に表すと次の4つになる。

  • 既存客数×自然減率=自然減の補充のための新規顧客数
  • (売上目標-既存客購入額)/新規顧客の購入単価 =目標達成に必要な新規顧客数
  • 自然減の補充のための数+目標達成に必要な数=新規顧客として必要な数
  • 新規顧客の必要数/商談の成約率=最低営業対象数(新規見込み客数)

自然減率は、競争の激しい業界であれば10%以上を設定するケースもあるだろう。成約の成功確率は、常識的な範囲でいえば5~10%程度の範囲が妥当だ。いづれにしろ、現実を踏まえた数字を入れればよい。

この計算にあてはめると、年間に新規開拓の営業活動を行わなければならないターゲットの数は、ザックリ言って、現在持っている既存顧客数とほぼ同等の数になるのではないか。かなりの数の「対象設定」になる。現在の既存顧客数とほぼ同等の数に新規開拓のアプローチを行って、ようやく必要な新規顧客を獲得できるという計算だ。

新規開拓キャンペーン失敗は、新規開拓のための営業対象数が圧倒的に足りないことも原因のひとつだ。営業対象をある程度絞り込んで、少数の見込み客に営業を行うのは、効率のよい営業手法だ。しかし、その場合は、少数である代わりに成約率を高めることになり、これはこれで限界がある。時として「数」こそが大きな力を発揮することを知っておこう。

少数である代わりに成約率を高くしようと、見込みのない客に食い下がるとか、強引な営業展開でイメージを悪化させてしまっては、キャンペーン中は良くても、早々に解約されるかもしれない。そうなるとまた新規開拓を進めることになり、悪循環に陥ることになりかねない。見込みのない客に早急に見切りをつけて新たな営業対象へターゲットを切り替えることができるのも、目標とする「数」の拡大の効果といえる。

当然、「数」の拡大は営業社員の負担も増加させることになる。既存顧客を担当しながら空いている時間を使って、数の増えた営業対象へとアプローチ活動を展開するのには無理が伴う。これを解決するには、顧客開拓を全社的な仕事としてとらえ、全社的で営業部門のフォローにあたる必要がある。

増加した営業対象に対して新規開拓するにあたっては、まず必要な活動時間を確保して、そのうえで既存客の担当配分を設定していくのが手順となる。この手順をうまく運ばないと、既存営業にばかりウェイトがかかって、新規開拓は「紹介によってできた顧客」ばかりになってしまうだろう。

競合に勝ち残るには

顧客へのアプローチ数をいかにして増やすかという課題と並んで重要なのが「競合他社の顧客を奪い取る」という点だ。かつて世界のITを牛耳っていた米国のコンピュータ会社では、これを「Win Back」と言っていた。

まったく新しい市場の新しい商品でない限り、ターゲット客は必ずどこか(競合他社)の商品やサービスを利用している。すでに同種の商品・サービスを利用している顧客は、見込み客としては最も有望といえる。こうした他社のユーザーをいかにして自社に寝返りさせるかという駆け引きは新規開拓の根源。新規顧客の開拓に当たっては、このハードルをクリアすることが不可欠といえる。

他社との顧客獲得競争に勝つためには、「商品力」と「信頼感」の強化が大切になるのは言うまでもない。

■商品力の強化

相手は他社のユーザー。必ず自社商品・サービスと比較検討になる。比較を受ける際には、機能・性能やデザイン、価格も重要になるはずだ。

新規開拓に際しては、アフターケアやプレミアムまでを含めて、他社と比べて自社はどこが優れているのかを明確に訴求することが必須。この訴求が受け入れられなければ、顧客は他社の方が優れていると判断することになるわけなので、売れるはずがない。

商品・サービスに関しては、他社ユーザーを翻意させるだけの魅力を持たせるという大きな課題をクリアすることが最も重要な要素といえる。

そのうえで、営業担当者は自社商品の優位な点を確信し、自社の商品に惚れ込まなければ、明確なアドバンテージを引き出せない。単に説明書を読んだり、営業マニュアルを理解した程度の営業姿勢では、他社ユーザーに乗り換えを迫ることはできないはず。営業担当者には、自社商品・サービスを愛するに至るまでの十分な学習と調査が必要だろう。

■信頼感強化

顧客に直接アプローチするのはまぎれもなく営業担当者だ。つまり、見込み客と「フェイス to フェイス」のコミュニケーションが必要になるわけだが、この時、相手との駆け引きに長けているだけでは成功しない。駆け引きのみに偏った営業手法は結果として、相手の心に疑心暗鬼を生むことが多い。見込み客の心は「用心」の意識を振り払ってはくれないだろう。

営業に際しては「新規の取引先になっていただきたい」という敬愛と感謝の心が無ければ、誠意のこもった営業姿勢とはならない。駆け引きを離れた誠心誠意の営業が心を打ち、相手が心を許してくれるほどの信頼感を抱いた時に「Win Back」が成立する。

商品やサービスが同じような内容で、価格もそれほど差が無ければ、あとは「誰から買いたいか」がカギなるだろう。普通に考えれば、より信頼している相手から買いたいはずだ。

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