小さい会社ならではの人事制度

組織の運用
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人材の重要性を再考する

2021年から2022年に、今さらながら脚光を浴びている人事制度・雇用制度に「ジョブ型」と呼ばれるものがある。欧米で一般的な「ジョブ型人事制度」は、雇用契約時に職務や勤務条件などを明記した「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が交わされ、ある特定分野のプロとして働くことになる制度だ。

これまでの日本では、終身雇用や年功序列賃金、新卒一括採用が特徴の「メンバーシップ型」の人事制度・雇用制度が中心だった。新卒一括採用で学生を大量に採用して、入社後の職場教育でスキルを身につけさせ、定期昇給と終身雇用制度で生活を保障し、安心して働いてもらうシステムだ。特定分野のプロというより、会社の事情により職務を変えていくのに都合の良い制度となっている。

ところが、2020年からの新型コロナ感染症への対応のためのテレワーク環境導入により景色が一変した。テレワークを実行してみると、「誰が何をするかはっきりしていないので、同じ空間にいないと作業しにくい」という問題が発生したのだ。メンバーシップ型のデメリットが露呈したわけだ。

テレワーク環境では、「ジョブ型」であれば、社員の姿をじかに観察したり直接会って話したりしなくても、あらかじめ各自の業務範囲が明確になっており、各社員が自律的に働けるため、業務の停滞を回避できる。また、「ジョブ型」では結果を重視するため、社員の勤務態度や労働時間が把握しづらいテレワークでも適正な評価ができる。こういった事情で、テレワークの本格導入を決定した大企業を中心に、人事制度の大幅な変更が検討されている。

このように、雇用制度や人事制度は、時代背景によって大きく変わるものだ。スモールビジネスにとって、個々の人材が経営に与える影響度はかなり大きい。社員が意欲的に業務に取り組めるような仕組みを作り上げていかなければ先がない。そして、その仕組みの中心となるのが人事制度だ。

人事制度とは、採用から退職までの取り組みを一定の方向性(考え方)によって整理した一連の制度であり、その機能いかんによって人材のモチベーションは大きく左右される。

視点は量から質へ

景気が良く、右肩上がりのときの会社の人材マネジメントの視点は「量の確保」にある。膨らみ続ける業務量に対応するには、何よりも大量の労働力を確保することが先決だからだ。実際、「人力に頼る部分が大きかった製造の現場」や「ローラー作戦で顧客を獲得できた営業の現場」では、量は大きな威力を発揮していた。

しかし、現在のように経営を取り巻く環境が急速に変化する中にあっては、量の確保だけでは十分に対応できなくなっている。「高度にIT化された製造の現場」や「顧客志向を貫かなければならない営業の現場」では、個々の社員の質が強く問われる。あらゆる場面で、社員は「業務をさらに効率化するにはどうしたらよいのか?」「顧客は何を求めているのか?」といったことを考え、判断していかなければならなくなったからだ。

”人財”開発の人事制度

普通の社員を「人材」とするなら、デキの良くない社員を「人罪」、質の高い社員を「人財」と表現することがある。会社の人材マネジメントの視点は、量ではなく「質の確保」に向かっている。人材の質を高めることで「人財」へと開発し、総合力を高めようとしているのだ。

ここでいう人財とは、以下の資質を持つ社員のイメージだ。

  • 業務に対するモチベーションが高く、能力の開発にも積極的である
  • 企業経営者の意向を十分に理解し、ほかの人材への伝達役となれる
  • 上司に相談すべきことと自己で解決すべきことの判断が優れている

特に個々の社員の能力に頼ることが多い中小規模事業者では、人財の必要性は非常に高いといえるだろう。ただし、何もしなければ、人材はいつまでたっても人材のままだ。人材を”人財”に開発していくためには、「仕掛け」が必要であり、その仕掛けが人事制度そのものなのだ。仕掛けの例としては下記のようなものがパッと思いつく。

  • 誰もが高給を得るチャンスを与えてモチベーションを高める
  • 資格取得を奨励して能力開発意欲を高める
  • 住宅手当の新設など社員の家庭生活に配慮して安心感を与える

ここからは、社員のモチベーションを高める人事制度を構築する際の基本的な考え方について紹介する。

理想的な万能モデルはあるか

最善策は能力・成果主義か

人材を人財に開発していくために不可欠なのは、社員に刺激とチャンスを与え、そのモチベーションを上手に高めてあげることだ。モチベーションの高い社員は、より積極的かつ自主的に業務に励むようになる。

また、チャンスを与えてくれた会社側に感謝し、もっと大きな貢献をしようと努力を惜しまない。このレベルに達した社員は、人財にかなり近い存在といえるだろう。

それでは、どのような時に社員は刺激を受け、モチベーションを高めていくのだろうか。この問いに対し、多くの企業が導き出した現時点の回答は「能力・成果主義」の導入だ。

能力・成果主義とは、社員の能力、努力、成果を評価の基準とする制度。より高い成果を上げれば、賃金や賞与は年齢や勤続年数に関係なく上昇していくというのが基本的な考え方。年功序列の下で、賃金が低く抑えられがちな若手社員にとってみれば、確かに能力・成果主義は刺激的といえるだろう。

万能な制度は存在しない

しかし、すべての社員が能力・成果主義を刺激的で好ましいと感じるわけではない。例えば、すでに高給を受け取っている高齢社員は現状維持のままで定年を迎えたいと考えるだろうし、住宅を購入したばかりの中堅社員は不安定な賃金支給額に不安を感じて逆に意気消沈してしまうかもしれない。

このように、個々の社員によって立場や考え方が異なることを理解しなくてはいけない。そのため、残念ながら、どんな社員にも刺激を与えられるような万能の人事制度は存在しないといえる。

小さい会社ならではの人事制度

すべての社員に刺激を与えることができる人事制度は存在しない。では、人材を人財に開発していこうとする企業は、一体どうしたらよいのだろうか。

その答えは意外にも明白で、社員の個別のニーズをできるだけ取り入れた、柔軟な人事制度を構築することなのだ。

新しい人事制度の構築

人事制度には、年功主義、能力主義、成果主義、結果主義などさまざまな考え方がある。ここでいう「主義」とは、賃金などの評価基準となるもので、人事制度の基本的な方向性を示す。

例えば、多くの日本企業が導入しているのは年功主義に基づく人事制度であり、年齢や勤続年数といった年功を評価の主な基準として賃金などを決定している。一方、成果主義に基づく人事制度は、個々の社員が達成した成果や、その成果を生むまでのプロセスを評価して賃金などを決定する制度だ。

人事制度における「主義」の特徴を、ざっと見てみよう。

人事制度における各種「主義」の特徴

この「○○主義」を決定することは、人事制度を構築するうえで非常に重要な取り組みとなる。人事制度は採用から退職までの非常に広い分野をカバーする仕組みであるため、「○○主義」という強い大黒柱が立っていないと、細部にゆがみが生じ、崩れやすくなってしまうからだ。

ただし、このような考え方は、多くの社員を雇用する大企業を想定したもの。人事の一元管理による効率性向上を目指す大企業は、例外が生じにくい精緻な人事制度を構築しようと考えるため、「○○主義」という大黒柱が必要となる。

一方、大企業に比べて社員数の少ない中小規模事業者の状況はどうだろうか。中には、就業規則さえ整備されておらず、経営者の裁量で人事に関する問題を一つひとつ解決しているところもある。少し極端な表現をするなら、中小規模事業者の人事制度は例外だらけの場合が少なくないといえる。

このように考えると、会社の規模が小さいほうが柔軟な人事制度を構築しやすいといえるのではないだろうか。中小規模事業者向けの新しい人事制度は、以下をベースにして考えてみたい。

  • 個々の社員の能力に頼る中小規模事業者には”人財”が必要
  • ○○主義にこだわった人事制度は、一部の社員しか刺激できない
  • 社員のニーズを取り入れた柔軟な人事制度は、より多くの社員を刺激できる
  • 刺激を受け、モチベーションを高めた人材は”人財”へと近づく
  • 柔軟な人事制度を導入できるのは、小さな会社の特権

意識調査から始める

新しい人事制度のあり方として、「社員の個別のニーズをできるだけ取り入れた、柔軟な人事制度の構築」を考えてみよう。

「柔軟」というと何でもありの印象を受けるが、決して場当たり的な人事制度を指しているわけではない。柔軟な人事制度とは、あらかじめ社員の生活状況や賃金などに対する意識を調査し、その結果を踏まえて構築する人事制度だ。これを構築するために、例えば、給与や労働時間の満足度、能力開発、継続勤務に対する希望のようなことをアンケート調査してみる。

こうした調査から、社員がどのような人事制度を求めているのかが明らかになってくるはずだ。実際に調査を行ってみると、個々の社員で考え方や意識が大きく異なることに必ず気がつくはずである。

柔軟な制度はここが違う

人事制度を構築していくうえで、社員の意識を知ることは非常に重要ではあるが、残念ながら社員のニーズを100%満たすことは不可能だ。あくまでも、対応可能な範囲内で社員のニーズを反映していくことになる。

その代わり、社員の意識を調査した段階で、社員の会社に対する満足度は少なからず高まっている。なぜなら、企業は社員のニーズをできるだけ反映した人事制度を構築しようとしているといった姿勢を示すことができているからだ。

単に成果主義的な賃金体系を導入しただけでは、一部の社員が不満や不安を感じることは間違いない。これでは社員のモチベーションが高まるはずもないため、人材を”人財”に開発していこうとする企業の目標は挫折してしまうことになる。

柔軟な人事制度では、成果主義的な賃金体系を導入しつつ、その一方で社員に感謝されるような仕組みもセットで取り入れていく。

高齢社員にとって成果主義的な賃金体系は非常に不安な制度だ。それは、多くの場合、従前よりも賃金が低下することになるからだ。このようなケースでは、例えば、以下のような仕掛けを準備する。

  • 年代別の異なった賃金体系を導入する
  • 在籍中の貢献度に応じて、継続雇用の対象とする

賃金体系とは、簡潔には賃金の構成要素を示す。従前の賃金保障の意味を込め、一定年齢を超えた高齢社員に適用する賃金体系は「年功給の比率を高めたもの」とすれば、高齢社員の不満は少なからず払拭されるだろう。

また、在職中の貢献が多大であると会社が判断した高齢社員を継続雇用の対象にすれば、「もうひと頑張りしよう!」とやる気を高めるかもしれない。

刺激と安定をセットで導入

社員のモチベーションを高める柔軟な人事制度を構築する際の一つのポイントは、刺激と安定のバランスを取ることだ。例えば、個々の賃金の機能を「刺激」と「安定」に分類してみると、次のようなイメージになる。

  • 基本給での「安定」部分:勤続給/年齢給
  • 基本給での「刺激」部分:職務給/職能給/業績給
  • 諸手当での「安定」部分:家族手当/住宅手当
  • 諸手当での「刺激」部分:精皆勤手当/特殊作業手当/交替手当/役職手当

社員のモチベーションを高めるには、「刺激さえ与えていれば十分」と考える人もいる。しかし、社員は刺激だけでは強いストレスを感じるはずだ。かといって安定だけでは向上心を失ってしまう。

重要なのは、刺激と安定のバランスを上手にとること。これは賃金だけに限らず、人事制度のあらゆる部分で共通している。例えば、先の高齢社員の場合には、 刺激と安定のバランス は以下となる。

  • 刺激:成果主義的な賃金、継続勤務の可能性
  • 安定:年功主義的な賃金、定年までの雇用保障

刺激と安定の制度をセットで導入すると、人事制度自体のボリュームが大きくなる。また、社員の意識をできるだけ反映した仕組みを取り入れることが理想であることから、構築するまでにそれなりの時間がかかるだろう。しかし、刺激と安定は社員のモチベーションを高めるための両輪となるものであり、いずれも欠くことはできない。

能力・成果主義から得るもの

多くの企業が人事制度の再構築を進めており、その方向は能力・成果主義へと向かっている。現時点では、能力・成果主義を導入しているのは大企業が中心で、中小企業や小規模な会社ではあまり普及していない。しかし、事実としては、特に賃金制度において能力・成果主義に注目する中小規模事業者が増えてきている。

能力・成果主義的な賃金制度が注目されている大きな理由の一つは、年齢や勤続年数といった属人的な要素ではなく、企業への貢献度によって賃金額を決定することが可能となることだ。貢献度によって客観的に社員を評価したいという意向はスモールビジネスでも強いため、今後、能力・成果主義的な賃金制度を導入するケースが増えていくだろう。

ただし、能力・成果主義の導入に失敗した企業が少なくないことには注意が必要だ。社員が目標達成に過度のプレッシャーを感じてしまったり、不安定な賃金に大きな不満を抱くようになると、能力・成果主義はスムーズに機能しない。そればかりか、社員のモチベーションは低下し、大切な人材、または”人財”の能力を十分に活用することができなくなってしまう。

こうした失敗を回避するためにも、社員の意識をしっかりと調査したうえで構築される柔軟な人事制度が求められる。

能力・成果主義の評価体制から学ぶ

古くから日本企業で採用されてきた年功主義が、能力・成果主義へと移行する過程で、多くの失敗例や成功例が生まれている。こうした動きの中には、人事制度を構築するうえで参考となる取り組みがある。

是非とも参考にしたいのは、能力・成果主義における社員の評価体制だ。能力・成果主義が注目された当初、いくつかの企業は「能力・成果主義」と「結果主義」を混同してしまい、運営に失敗していた。結果主義とは、文字通り最終的な結果のみを評価の対象とする考え方だ。最終的な結果だけが評価される仕組みでは、社員は強いプレッシャーとストレスを感じ、チャレンジ精神を失ってしまう。

こうした失敗を踏まえた現在の能力・成果主義では以下の4つをトータルに評価している。

  1. 社員の能力
  2. 設定された目標の難易度
  3. 目標達成に向けたプロセス
  4. 最終的な成果=結果

ここまでしなければ、能力やプロセスを客観的に測ることはできないということだ。ただし、これでもすべての社員の理解を得ることはできず、不満の対象となっている。そのため大企業ですら、より透明で公平性の高い評価制度を構築しようと努力を続けているのだ。

能力・成果主義を導入している会社と社員の関係は、雇用というよりパートナーに近く、それが故にドライであるといわれることがある。しかし、真摯に社員と向き合いながら評価しようとする会社の姿勢からは、これまで以上に社員と親密な関係を感じることができる。

このような、社員と真摯に向き合う姿勢は、人事制度を構築するうえで非常に重要であり、中小規模の会社としても是非とも学びたいところだ。会社が社員と真摯に向き合う姿勢を示せば、社員の会社への理解と信頼が深まらないはずがない。

中小規模事業者の人事制度

社員のモチベーションを高める柔軟な人事制度の構築には労力と時間がかかる。しかし、社員の意識を吸い上げやすく、フットワークの軽いスモールビジネスならば実現可能だ。

柔軟な人事制度がうまく機能した時、人材は中小規模事業者にとって欠かせない”人財”へと開発されていくと考える。中小規模事業者の新人事制度のポイントは以下の5点だ。

  1. 社員と真摯に向き合う姿勢を貫くこと
  2. 必要以上に○○主義にとらわれないこと
  3. 社員の意識をしっかりと調査すること
  4. 柔軟に人事制度のメニューを決定すること
  5. 刺激と安定のバランスを上手にとること
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