福利厚生は職場選びの基準
福利厚生とは、会社が社員やその家族の福祉の向上を目的に行う諸制度の総称だ。就職・転職する側から見ると、会社の福利厚生がしっかりしていると、安心して仕事ができ、仕事がやりやすく、仕事を通して成長できそうだと考えることができる。つまり「良い職場かどうか」の判断基準のひとつとなっている。これを会社側から見れば、優秀な人材を採用する際のアピールポイントにできる。
こういった事情はスモールビジネスであっても同じだ。良い人材の採用や、その後の従業員の定着を考えるなら、福利厚生の話は絶対に避けて通れない。
福利厚生の費用を賃金と考えた場合、福利厚生費は基本給など基準内賃金と別に「フリンジ・ベネフィット」などと呼ばれる。ただし、フリンジ・ベネフィットには、福利厚生費のほかに退職金なども含まれる。また、福利厚生に要する費用は以下の2つに大別される。
- 法定福利厚生費:労働保険料、社会保険料など
- 法定外福利厚生費:社宅やリゾート施設の維持費など
上記2つの福利厚生費について、長期に渡り一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が調査している。2020年12月に公表された「第64回 福利厚生費調査結果報告」からそのトレンドを見てみよう。
会社が用意する福利厚生のメニューは独身寮、自己啓発の支援、社内託児施設などさまざまだ。豊富な福利厚生のメニューを設けることの目的は、社員の日ごろの労働をねぎらうだけでなく、前述の通り、優秀な人材を獲得する際のアピールポイントとして活用することがある。そしてこのことは、正社員に限った話ではない。
非正規で働く人も対象
会社の福利厚生は、正社員はもちろんのこと、同じ職場で働いているパートタイマー、有期雇用の労働者、派遣労働者も利用できる。正確には「正社員と業務内容が変わらない非正規雇用の労働者」が利用可能だ。
この背景には、2020年4月1日に施行となった改正「パートタイム・有期雇用労働法」と、改正「労働者派遣法」がある。事業者には、正社員と非正規雇用の社員が「同一労働」なら、「同一賃金」で応えるだけでなく、福利厚生などの待遇も同一にしなければならない義務があるのだ。
メニューとコストの課題
働く者にとって、充実した福利厚生はそこに勤務するうえでの大きな魅力であることは確かだ。しかし、世の中の価値観の変化に伴い、福利厚生の位置づけも変わってきた。特に顕著なのが、福利厚生メニューとコストに対する課題が露呈してきたことだろう。
福利厚生メニューの課題
会社が直面している福利厚生に関する問題としてよく挙げられるのが、福利厚生をめぐる労使のギャップだ。昔の一流企業の福利厚生メニューの代表格といえば、社宅・寮、保養所、社員旅行などがあった。かつてはこういう福利厚生の有無が採用に有利に働いたが、時代とともに変わってしまった。
仕事から帰宅しても周囲は同じ会社の人ばかりという「社宅・寮」は、結婚したとたん、配偶者から敬遠される。安価に使える「保養所」は素晴らしいが、海水浴場やスキー場近辺以外の利用率は年々低下傾向にあるそうだ。また、会社が費用負担する「慰安旅行」などは、若い世代を中心に敬遠される傾向にある。
福利厚生コストの課題
次の課題はコスト圧縮だ。会社が特に圧縮したいと考えているのは社宅や寮、保養所など不動産がらみの施設。特に保養所については、直営の場合で年間2000~3000万円の管理コストが必要といわれている。社員の利用率が低下している状況で、高額な管理コストが必要な保養所を維持する意味があるのかについて、疑問を感じる会社が増えてきている。
こういった背景から、福利厚生メニューを大幅に見直し、廃止されたメニューにかかっていた費用を成果貢献給などとして社員に還元するという改革を実行した会社もある。会社側は既存の福利厚生メニューの見直しを進め、会社と社員の双方に有意義なメニューを拡充すると同時に、それ以外のメニューは撤廃するという方向に動いている。
前述の経団連 「第64回 福利厚生費調査結果報告」 での福利厚生費の推移グラフを見ると、法定福利厚生費が上昇しているが、これは福利厚生メニューを拡充した結果ではない。実際は、健康保険・介護保険などの社会保険料の負担が増加し、その結果として法定福利厚生費が上昇したとみるべきだろう。なぜなら、経団連の調査での法定福利厚生費の内容は以下となっているからだ。
同じ調査では「法定外」福利厚生費についての最近の状況も分析されている。以下がその結果だ、
法定外福利厚生費の約半分を占めるのは「住宅関連」。次いで、給食・財産形成・保険・育児サポートなどを含む「ライフサポート」となっている。
このコラムでは「福利厚生代行」の部分をテーマにした。福利厚生代行サービス費とは、福利厚生の運営を外部に委託する際の費用であり、企業が単独で福利厚生に取り組むよりも低コストで、充実した福利厚生のメニューを整備することが可能だ。
福利厚生の2つの課題であるメニューとコストについて解決策を提案するのが、この部分を代行する「福利厚生アウトソーシング企業」だ。
福利厚生のアウトソーシング
福利厚生の課題としてメニューとコストの2つを挙げた。理想を言えば、従業員が望むメニューだけを充実させた福利厚生の提供だ。その実現するためには、従業員に対して「福利厚生で望むメニュー」についてのアンケート調査を実施し、希望の高かった福利厚生を充実するのが最も合理的な考え方だ。
従業員の希望が高い福利厚生は、例えば「育児・介護援助施策」や「健康維持、増進対策」、「自己啓発援助制度」などが考えられるだろう。ただし、これらのメニューを充実させたとしても十分ではない。
従業員が望む福利厚生は、年齢、性別、勤務地によって大きく異なると考えるのが普通だ。例えば、若い人は休暇関連の充実を望む傾向がある一方、高齢社員は定年退職後の生活支援など、定年後の生活を視野に入れた福利厚生の充実を望むだろう。社員が望む福利厚生は実にさまざまだ。会社として、多様なメニューを揃え、かつ低コストでこれを実現することは簡単ではない。
福利厚生アウトソーシング登場
福利厚生の見直しが進む中で誕生したサービスが、福利厚生のアウトソーシングだ。福利厚生のアウトソーシングは、「企業自身が福利厚生を整備・運用する」といったこれまでの考えを抜本的に見直すもの。アウトソーシングサービスを提供する会社を「アウトソーサー」という。 具体的には、会社は社員規模に応じた入会金と月会費をアウトソーサーに支払い、後は福利厚生の一切の運用を任せるのだ。
福利厚生のアウトソーサーが用意してるメニューは非常に充実している。アウトソーサーのホームページや、資料を取り寄せて読んでみると、そのことがよく分かる。以下はその例だ。
メニューが非常に充実している割に利用料金が安いことも特徴だ。個々のアウトソーサーによって異なるものの、例えばあるアウトソーサーは以下の価格設定になっている。
- 入会金:5万円(従業員~100名)/15万円(従業員~1000名)
- 1人当りの月会費:330~400円
福利厚生アウトソーシングは、このサービスが登場した当初は、独自で充実した福利厚生制度を構築できない中堅・中小企業が利用していた。しかしその後、日本を代表するような大企業も盛んに利用するようになってきた。福利厚生のアウトソーシングを利用すれば、低コストで福利厚生メニューを充実できるだけでなく、制度の管理も任せることが可能となり、福利厚生の課題であるメニューの充実とコスト削減の解決策になり得るからだ。
シェアリング・エコノミー
20年前までは福利厚生は企業が独自に運営するのが通常だったが、その後、福利厚生をアウトソーシングすることが一般化し、かなり市民権を得たと言えるだろう。このところの世の中のサブスクリプション志向が、「所有価値より利用価値」という価値感の変化のあらわれだとすると、社宅や保養所を所有することの相対的な価値は下がり続けるに違いない。
もうひとつの世の中のトレンドは「シェアリング・エコノミー」。共有経済だ。福利厚生アウトソーシングは会社経営から見ると、総務や管理系組織のコストをシェアリング・エコノミー によって削減するという側面もある。
現在、福利厚生のアウトソーサーは会員企業を獲得するためにメニューの充実や料金の引き下げに一層の力を注いでいる。そうなれば、サービスを利用する企業側のメリットはさらに強まることになる。
アウトソーサー選択の考え方
代表的な福利厚生のアウトソーサーは、以下の4社だろう。社名とサービス名を列挙する。
・株式会社ベネフィット・ワン:ベネフィット・ステーション
・株式会社リロクラブ:福利厚生倶楽部
・株式会社イーウェル:WELBOX(ウェルボックス)
・株式会社JTBベネフィット:えらべる倶楽部
これらアウトソーサーが提供するメニュー、利用価格に大きな差異はない。それぞれ多くの会員企業を獲得し、そのスケールメリットからメニューを充実させ、利用料金を低く抑えている。代表的アウトソーサーとして4社をあげたが、それ以外にも選択肢があり、どこにお世話になるかについて迷うことろだ。
選択する際のポイント
前述の通り、各アウトソーサーが提供するメニューにそれほど大きな違いはない。似通ったアウトソーサーの中から提携先を選択するには、相手の話を聞く前にまず自社が福利厚生をアウトソーシングすることのメリットを改めて明確にしたうえで、各アウトソーサーのサービスを比較してみることが大切だ。
■運営実務の軽減
直営の保養所を有している場合などは、社員からの申し込み受付、空室確認などのすべてを自社の社員が行う。アウトソーシングを利用すれば、これらはアウトソーサーが行ってくれるため、企業の負担は軽減する。
このように、福利厚生の運営実務の削減を主な目的とする場合には、オペレーション機能が充実したアウトソーサーを選択することになる。そのためには、実際にどのような体制で予約受付、空室確認、サービス提供が行われるのかを確認することが大切だ。例えば、専用のコールセンターを有するアウトソーサーが好ましいといえるだろう。コールセンターの有無だけでなく、そこに配置されているスタッフ数と平均的なコール数を聞き出し、コールセンターがパンクしていないかも確認する。
■福利厚生費の圧縮
アウトソーシングの最大のメリットは、福利厚生コストの圧縮。福利厚生関係の管理費や、そこにかかる人件費などを料金と比較することで比較する。福利厚生費の圧縮を主な目的とする場合には、各アウトソーサーの料金体系を重視する。社員数などによって入会金と月会費は異なるし、特定の業務についてはオプションとして別料金になることもあるだろう。具体的にこれらを比較して最も有利なアウトソーサーを選択する。
■多様な福利厚生メニュー
前述の通り、福利厚生のアウトソーシングを利用すれば多様な福利厚生のメニューを用意することができる。アウトソーサーが多様なメニューを用意できるのは、多くの会員企業を獲得することによるスケールメリット、関連のリゾート施設業者との提携などによるもの。
多様な福利厚生のメニューを実現するためにアウトソーシングを利用することは望ましいといえるが、注意が必要なのは「すべての施設が利用できるとは限らないこと」「繁忙期に予約が困難となるケースがあること」だ。
アウトソーサーは、自社のメニューを説明する際に、分厚いパンフレットを用意してくるはずだ。しかし、そこに掲載されているものの中には、「一部(室)だけ契約しているもの」もあれば「ほかのリゾート施設業者から借りている施設を又貸ししているもの」もあるはず。必要に応じて、「施設のどの部分が利用できるのか」「ゴールデンウィークや年末年始に間違いなく利用できるのか」など、現実の話を確認することが大切。
せっかくアウトソーシングするのであれば、自社にあった、信頼できるアウトソーサーを選択したいものだ。Webサイトや、電話、メール、パンフレットなどで一次情報を得るのは必須だが、アウトソーサーの営業担当者と実際に会って確認してみることが非常に大切。もし可能なら、そのアウトソーサーと契約している別の会社にも実際の話を聞いてみるとよいだろう。