情報活動のポイント
経営戦略立案や中期事業計画策定において、次年度のことや少し将来のことを考え、その方向性を決めようとするとき、本当に「のどから手が出るほど」情報が欲しいことがある。例えば以下のようなものだ。
- 最近どうも営業成績が伸びないがなぜだろうだろう
- 新規事業を始めたいが何かいい案件はないか
- どこかに優秀でしかも転職を考えている人材はいないか
そこまでの情報でなくても、知りたいと思ってすぐには調べられない事柄も少なくない。それがつまらないことでも、取引先からの質問であったりすると、本業よりもっと面倒であるケースさえ出てくることがある。そんな時、世の中こんなに情報が溢れていて、検索エンジンを使えば大量のデータが得られるのに、どうして必要なものは手に入らないのかという溜息が出てしまうことがある。
現代は間違いなく「高度情報化社会」。にもかかわらず、いざという時には、欲しい情報はいっこうに手に入らないという実感は、考えれば考えるほど、深刻なもののように思えてくる。
そこで今回は、「会社幹部の情報活動」を想定して、以下の点について整理してみた。
- なぜ必要な時に必要な情報が得られないのか
- 現実にはどんな時にどんな情報が必要となるか
- 情報活動の最重要ポイントは何なのか
- 好ましい情報活動体制を整えるには何が必要か
必要な時に必要な情報が得られない理由
多くの経営者は情報不足に悩んでいる。その悩みの源は、情報の「質」や「値段」ではなく、情報入手のタイミングにある。
ところが、平素の情報活動力強化を考える時には、意外に「タイミング」ではなく、「質」や「料金」にとらわれてしまっているのではないでだろうか。だとすれば、この事態は問題点と解決方法の「ミスマッチ」であり、どんなに努力しても、「情報不足」が解消されないのは当たり前といえるだろう。
あるアンケート調査では、情報活動をしていて、どんな時に不便を感じますかという質問に対して経営者は、「欲しい情報がすぐに手に入らない」「情報提供機関がない」と答えており、経営者が情報不足に悩んでいる実体が浮き彫りになっている。
同じアンケートで、「情報の質が悪いから不便」「料金の高いのが不満」と回答した経営者はわずかだった。この結果から、情報入手は「質」や「値段」より「タイミング」が重要だということが分かる。
ところが、実際には、意外にこの「タイミング」の問題の解決努力はなされていないのが現状だという。例えば以下の話題を耳にしたことはないだろうか。
- 書類棚を買い、ファイリング担当者まで決めたのに、いざという時はやっぱり、あちこち必要書類を探している
- ITを使った最新の業務支援システムを導入したが、本当に急ぐ時には、そのシステムからのアウトプットを待ち切れないほど出てくるのが遅い
- 上記業務支援システムのアウトプットを辛抱強く待ったが、出てきた資料には最新データが入力されておらず、結局役に立たなかった
- いつも多大な時間と労力を費やして維持している「人脈」は、緊急の時には「多忙」を理由に相手にしてくれない
- 普段は新聞でも雑誌でも、ためになることが書いてあるのに、欲しいと思う時には、新聞をひっくり返しても雑誌を探しても、必要な記事は見つからない
どんなに強力な人脈を持っても、どんなにファイリングシステムやITに金をかけても、またどんなに優秀な専門家や参謀を起用しても、必要な時に役に立たないものでは意味がない。にもかかわらず、情報活動といえば、前記のような「タイミング」以外の分野での活動パターンが繰り返されることに終わる傾向が強いのは、大変残念なことだ。
そして、この残念な結果を招く原因は、どうやら情報を収集する側にも問題がありそうだ。
情報を求める側の問題
一般に、業務を考える際に、どうしても効率を重視し、優先させてしまう傾向がある。しかし、情報活動には「無駄」や「非効率」がつきまとうのは仕方ないことだ。効率よく、必要な情報が入ってきたりすることは、多分ない。まず、欲しい情報が「ある」とか「ない」とか、急いで結論づけてしまう考え方自体を反省する必要があるだろう。
急がば回れで、実は情報活動では決して「結論」を急いではいけない。自分に都合のよい情報などどこにもないと覚悟を決め、できるだけ欲しい情報に近付けるよう、一つ一つ手掛かりをつかまえていく方法を考えるべきだ。
一足飛びに最終結論を求めたのでは、欲しい情報がないという結論に至るのは当たり前。プロの調査担当者は、あまり短絡的な方法を取らず、少し泥臭いくらいの方法で価値ある情報を得るといわれる。情報というものは、ちょっと行動を起こしてみるだけで、意外に豊富に手に入れることができるものだと考えよう。
ここまでは情報を求める側の課題だった。タイミングのよい情報不足の原因は、情報を求める側のみならず、情報機関のほうにもあると考えられる。
情報機関とコンサルタントの問題
情報や調査の専門家が、いつも「良い仕事」をするとは限らない。それどころか、一人よがりの調査レポートを送り付けてきて、多額の料金をとるシンクタンクもある。また、調査機関は、利用者の本当のニーズを知ってか知らずか、お互いに非常に「学問的」なレベルで競争し合って、本当に聞きたいことには答えてくれないことがしばしばある。
情報や調査の専門機関は、確かな目を持って利用者側で選ぶべきものだろう。情報調査という仕事は面倒なことが多いため、誰もが簡単に済ませようとする。特に、「情報提供」や「情報調査」を生業としている企業は、利益追求の必要性から、できるだけ調査を省略しようとするのは当然だ。
分厚い調査報告書を出したがる機関や、定期レポートによって情報提供活動をしている機関は要注意。それらの機関では、よい情報をタイミングよく提供することではなく、すでに多大なコストをかけて調べたデータをいかに効果的に売るかに腐心しているケースも見かける。そうなると、ユーザーの事情が十分考慮されることは期待できない。契約でがんじがらめにして、1回限りの一方的な報告で終わってしまう最悪のケースがなくはない。
これは経営コンサルタントも同じ。彼らは既に持っている情報を、どううまく使うかという考えが強いため、本当に必要な時や必要な場合にはなかなか対応してくれない。
こうした状況を踏まえると、経営コンサルタントも含め、よい情報機関とは以下の3点に集約できる。
- 一回限りの報告ではなく、何度も質問することができ
- 質問するたびに、内容が深まるとともに
- 常に次に何をすればよいかを指し示してくれる機関
そんな情報機関はどこにあるのか、そんな経営コンサルタントはどこにいるのかと聞かれてしまいそうだ。情報化社会に最も遅れをとっているのは、情報機関そのものであるかもしれない。
仕組みづくりをやるべき
情報活動は、情報が必要になってから、一つひとつ探すのでは、なかなか効果を発揮しない。むしろ情報活動の本質は「情報をいつでも入手できる構造」を作ることにあると考えるべきだ。日頃の「構造作り」がいざという時に、ものをいう。
情報活動を実際に行ったことがある人なら、とにかく知っている人にとりあえず聞くのが一番早いと、誰もが口をそろえて言うのはずだ。これは当然。ところが、では誰が何を知っているかは、どうやって探せばよいのかという質問には、簡単に答えられる人が少ない。
そこで、情報ネットワークというものが注目を集めるようになった。ネットワークというのは、要するに、網の目のように情報交換をする通信経路ができているものであると考えればよいだろう。個人であればSNSのグループ機能、会社であればグループウェアや社内SNS、ビジネスチャットを思い浮かべるとよい。
このような、情報をいつでも入手できるネットワークの仕組みを作ると、下記のような非常に大きなメリットを生み出せる。
- メンバーを信用できる人だけに限れば、リスクが低く危険が少ない
- 考え方も活動分野も違う人が情報交換することにより、同業者や友人からはとても得られない情報が手に入る
- 自分が情報の発信者であり受信者でもあるため、情報コストをあまりかける必要がない
- 使い方しだいでは、すぐにメリットが出せるパートナーを得ることもできる
現代のように世の中の動きが激しく、専門家でさえ自分の専門分野の変化について行けない状況の中では、とにかく、お互いが情報交換を即時にできる仕組みを作り、世の中の動きをさまざまな角度から見ることができるようにしておくことが極めて重要な情報活動の基本となる。
個人ネットワークの限界を破る
個人ネットワークを作ることは、メンバーの幅の点でも、コストや時間の点でも、おのずと限界がありる。そこに、しっかりとした「事務局」を持った情報ネットワークに加わる意味が出てくることになる。
個人でネットワークを作る場合は限界があり、知っている人しか集められないだろうし、メンバー全員が知らないことにぶつかると、それ以上活動できないことになってしまう。これでは、通常の人脈と何ら変わらない。
ここに、例えば金融機関や大手企業、あるいは地域の公共団体などが募集するネットワーク組織へ加入する意味が出てくるわけだ。こうしたネットワーク組織では、必ずしっかりとした事務局があるので、情報活動がスムーズに行われるように、さまざまな工夫がされており、分からないことは事務局に聞けば何でも教えてくれる。意外な人と安価に情報交換ができ、意外なパートナーや取引先を見つけて、「なるほど情報活動の成果が出た」と実感できる機会が必ずあるだろう。
ただし、ネットワークの中では、ただ待っていては情報を集めることができないと考えなければならない。情報機関のように、情報を販売することがネットワークの目的ではなく、メンバーがお互いに有益情報をいつでも何度でも交換できる安価で安心な「場」を提供することが、この種のネットワークの目的であり、機能でもある。
とにかくさまざまな機会をとらえ、「こんなことをしてくれる人はいないか」「こんなことをして欲しい人はいないか」「こんなものを買いたい」「こんなものを売りたい」「こんな相談をしたい」など、積極的にアピールする必要がある。
繰り返し繰り返し、情報発信を行うことを通じて、通常の営業活動の何分の一、何十分の一のエネルギーで極めて実質的で、レベルの高い事業活動を行うことができるの。
例えば「立体駐車場経営を始めたい」というように、何をするかが明確になっている時には、「立体駐車場の専門家か有力業者に話を聞く」のが最も効果的だ。しかし、空き地があるのだが、どんな有効活用をすればいいかを考えている時は、ネットワークは非常に効果的に働くだろう。「土地の有効活用をしたい」と、ネットワークに向けて自分の情報を発信し、「いい話」がくるまで、呼びかけを続けていればよい。
社内の情報をいかに充実させるか
ここまで特に社外情報の収集について考えてきたが、経営者にとっては、社内情報をいかに把握するかも、非常に重要な課題だろう。
経営者からはよく、「儲かっているかどうか実のところよく分からない」「従業員が何を考えているのかつかみきれない」「資料が山積みされているけれど、どこに何があるか分からない」 という話を聞く。また、「うちの社員には何を聞いても意見らしいものが聞けたためしがない」 という嘆きも少なくない。
これらの問題は、実は社内情報活動の「基本5原則」をおろそかにしているところから発生していることが多いといわれている。最後にこの「基本5原則」を解説する。
社内情報活動「基本5原則」
社内情報活動の基本5原則は次の通りだ。
- 情報は聞く前に伝えよ
- 人を集めたら、必ず発言させよ
- 様式を作って、あまり変えるな
- 話すときは大勢に、聞くときは一人一人から
- 何度も同じことをする手間を面倒がるな
情報は聞く前に伝えよ
従業員や幹部に「意見がない」と嘆く前に、日常の活動を反省する必要がある。なぜなら、そうした嘆きを持つトップの多くが、経営や営業に関する情報を上手に部下に伝えていないからだ。知らないことをいきなり聞かれて、答えられる人はいない。特に幹部には、以下の心構えが必要だ。
- 半年ごとに業績を伝え、何が良くて何が悪かったかをきちんと話す
- 1年に1回は、まとまっていなくてもよいから、経営の長期展望を話す機会を持つ
- 各種報告書はできるだけ広く回覧する
- 幹部会は定期的に開催して、決して欠席しないし、欠席させない
また、その幹部のどこを評価し、何に不足を感じているかについても、丁寧に伝える必要があるだろう。こうした努力なしに、部下が有効な情報を持ってきてくれると考えるのは虫のいい話だと考えよう。
人を集めたら必ず発言させる
会議であれ、突発的なミーティングであれ、昼食のような非公式な場であれ、人を集めたら、必ず発言させる必要がある。何か言わなければならないと思うと、人は「くだらない」と思えることでも発言する。
従業員がくだらないと思っていることに実は重要な情報が隠されている場合が多いのは、今さら論を待たないところだ。経営者にとって初耳だったり、気付きを与えてくれることで、その後の発展に寄与したという話はよく聞く。しかも、何か話さなければならないという緊張は、従業員に積極的な情報活動を動機付けることになる。
様式を作って、あまり変えない
「顧客のニーズが変わった」「仕入れコストが高くなった」「売れなくなった」「生産性が下がった」など、社内情報のほとんどは、変化を見ていれば分かるものだと考えらる。ところが、報告書や業績分析の様式を確定することを怠ると、なかなかこの変化に気づかない。
様式が決まっているから、その変化という重要情報が得られる。様式設定は念入りに行い、よほどのことがない限り変えないという心構えが必要だ。
話すときは大勢に、聞くときは一人一人から
時々「腹心」を持って、自分の気持ちを代弁させる経営者がいるが、それは非常に危険なことだと考えなければならない。他者を介在させると、話の内容や主旨が歪められてしまう。それがどんなに優秀で忠実な人でも同じことが起きる。
多くの社員に伝えなければならないことは、幹部だけに話して、伝えさせるのではなく、朝礼などの場を活用して、全員に直接伝える必要がある。朝礼が開けない時は、文書にして全員に配るのが効果的だ。
逆に、本当に本音の情報を得たい時は、一人一人から個別に話を聞くという姿勢が必要。大勢の前で発言するのは大変なことで、そういった場では、誰でも「当たり障りのない」ことしか言わないのが普通。ユニークで面白い話を聞こうと思ったら、対象をできる限り絞る必要がある。
この場合も情報が片寄らないよう、できるだけ多くの人と同じような機会を持つ必要があるのはいうまでもない。
何度も同じことをする手間を面倒がらない
情報は伝えるのも聞くのもなかなか難しいものだ。誰でも会議やインタビューを終えた後、「あっ、これを言っておけばよかった」と思ったことがあるはず。人間の頭はすぐには効果的な反応をしないものらしい。 従って、同じ話題でも2度目や3度目のほうがよい結果が出るということを念頭に置く必要がある。
伝えるほうも同じ。「この前言ったじゃないか」というのは、実は愚の骨頂で、現場百遍、話百遍と自らに言い聞かせることも大切。何度も話せば、こちらの本当の意図が伝わり、求める情報が得られるようになるものだ。
以上の「5原則」は、実は社外活動では当たり前のように実行されているものだが、社内では、おざなりにされることが多いものばかり。社内もまた重要な情報源と考え、さまざまな情報を収集できる仕組みを作り上げる必要があることを肝に銘じることが大切だ。