製品・サービスの”ファン”づくり【2】

ブランディング
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前編【1】の「手順」をおさらい

まずは前編【1】で示した、既存製品・サービスを多くの顧客により購入・活用してもらうための基本的な手順をおさらいしておこう。

前編【1】では、上図の1. 既存の自社の製品・サービスの「機能」「販売ターゲット」「販売方法」などを改めて把握し直すところまでを述べた。この【2】では、2.以降についてまとめてみる。

市場環境・顧客ニーズの実情の洗い出し

製品・サービスの洗い出しを実施したら、次に業界の動向や実際に自社の製品・サービスを購入している顧客のニーズや特性などを洗い出す。

製品・サービスを気持ちよく購入・活用してもらうためには、業界の動向や顧客が何を望んでおり、どのように活用しているのかという“実情”を把握しておかなくてはならない。「どのような機能の製品が消費者に支持されているのか」「どのような製品を販売している企業が伸びているのか」などをとらえておくことによって、既存の製品・サービスを見直したり、販売促進する際のヒントを得ることができる。

業界・市場の動向や顧客ニーズを把握

業界や市場の動向、消費者のニーズなどを把握する方法として、一般的に以下の3通りの方法があるといわれている。

  • 質問法
  • 観察法
  • 実験法

「質問法」は読んで字のごとく、顧客に対して自社の製品・サービスについて質問しその回答によって顧客ニーズなどを把握するもの。質問法には、実際に顧客と相対して面接形式で実施する方法や電話で実施する方法、アンケート調査用紙やインターネット調査サイトを作成して顧客に案内し、回答を記入してもらうなどの方法がある。

「観察法」は、顧客の購買行動や製品の動きなどを観察し、その動きを分析するもの。例えば自社の店舗での顧客の購買行動、製品がどのようにして動いているのかを観察するほか、自社だけではなく同業他社の店舗には、どのような顧客が来店し、どのような製品を購入しているのかなどを観察する。そのほか、展示会や見本市、新製品の説明会などで顧客に注目されている製品などを観察するのも有効だろう。自社の製品・サービスのみならず、業界においてどのような製品がどのような顧客に望まれているのか、などの業界の“生の”特徴を知ることができる。

「実験法」は、地域などを限定して実験的に開発した新製品を投入し、その成果によって顧客のニーズを把握する方法。あるいは、既存の製品のある機能をリニューアルさせたり、製品は既存のままで販売方法を変えて市場に投入し、変える前と後で購入された数や金額、購入した顧客の属性、販売方法の有効性などを比較検討するなどの方法も考えられる。

業界・市場動向と顧客ニーズの把握例

SWOT分析、質問法、観察法、実験法を活用して、先のジーンズ専門店での顧客ニーズを探ってみよう。まず、自社の製品・サービスの機能や性能の洗い出しの際に実施したSWOT分析によって業界動向には、以下の特徴があると分かった。

  • ジーンズの活用シーンが拡大している
  • ジーンズそのものに対する需要が増加している
  • 低価格で高品質な品ぞろえを実現する量販店が台頭している

次に、質問法や観察法などによる顧客ニーズの把握の方法を考える。質問法では次のような質問項目が考えられる。

  • どんなシーンでジーンズを活用しますか?
  • ジーンズを購入する際にはどのようなポイントに注目しますか?
  • こんな規格のジーンズがあったらいいなと思う例を挙げてください。
  • 当店で購入したジーンズでお気に入りの商品はどのようなジーンズですか?
  • 当店を知ったきっかけは何ですか?

例えば、「購入理由・活用シーン・要望」あるいは「製品・サービスに対する感想」などの質問をする場合は、どの顧客がどのような要望を抱いているのかを把握し、顧客管理に生かすためにも、顧客の顔が見える面接形式や記名制のアンケート調査などを実施するとよいだろう。

また、「お気に召さない点、購入して失敗した点を教えてください」といったようにあえて「既存製品やサービスに対する顧客からのクレームを引き出す」ことも、顧客ニーズを知るための重要なポイントとなる。

よく知られている事例としては、日本のファストファッションの代表的存在「ユニクロ」では、かつて顧客ニーズを探り商品開発・改良に生かすために、「ユニクロの悪口を言って100万円をもらおう」という「悪口コンテスト」を実施した。顧客の本音を聞きだし、悪口として挙がってきた点を改善していこうという試みだ。「悪口を言って100万円をもらえる」という逆説的な面白さにつられた、一般消費者から数多くの「悪口」が寄せられ、顧客ニーズの把握におおいに役立ったといわれている。

「観察法」では、平日、休日、時間帯などによって来店する顧客層や顧客の店内での動き、実際に購入に至るまでの顧客の動線などを観察する。定点観測用のカメラを設置し、捕えた映像によって顧客の動線をAI(人工知能)で分析するケースもある。

事例のジーンズ専門店では、質問法と観察法を実施して、以下のような結果が得られた。

  • 休日に来店する顧客の中には若い世代の家族連れが多いものの購入には至らない
  • フォーマルなシーンでジーンズを活用したいとする顧客が増加している
  • 店頭に陳列されているジーンズを活用したコーディネートを店員に相談する顧客が多い
  • ベルベットなどの厚手の素材を取り入れたジーンズは暑い時期には敬遠される

商品と実情の距離感を短縮

提供している製品・サービスと、市場環境や顧客ニーズの実情を洗い出した結果とを比較して、その距離を縮める方法を検討する。両者の距離を縮めることができれば、自社の製品・サービスが市場環境や顧客ニーズに則したものとなり、購入・活用されるチャンスは必ず拡大する。

距離感を短縮する方法を検討

距離を縮めるための方法として、次のような3 つの方法が考えられる。

  • 機能や性能の改良
  • 販売ターゲットの改良
  • 販売方法の改良

「機能や性能の改良」は、現状の製品・サービスの機能や規格そのものに改良を加えリニューアルしていくということ。例えば掃除機や洗濯機などの電化製品の場合には、省エネ機能や地球環境に優しいエコ機能などを付加するケースがあるだろう。また、機能性をリニューアルするのではなく、デザイン性を追求してカラーバリエーションを増やすなどの改良方法も考えられる。

「販売ターゲットの改良」は、製品・サービスの販売ターゲットを変更する方法。例えばビジネス街における法人をターゲットに昼食の訪問販売を実施していた業者が、ターゲットを大学や高校といった学校に変更したり、福祉施設向けにホームヘルパーなどの人材を派遣していた業者が、ホームヘルパーの派遣先を個人の高齢者宅に変更する例などが考えられる。

「販売方法の改良」は、店頭販売、インターネット販売、訪問販売といった販売方法や、顧客へのDM送付、定期的な訪問による活用提案、懸賞やノベルティーの活用といったような販売促進方法やアプローチ方法を改良する。小規模な惣菜屋さんが、地域限定でインターネットによる冷凍惣菜の販売を始めたり、スーツとのコーディネートを提案して販売促進していたネクタイ製造販売業者が、シーンごとの贈答品としてネクタイを活用して喜ばれる方法を提案して販売促進を実施するなどの例が考えられる。

これら3つの“距離感短縮方法”は、個別に実施するだけではなくうまく組み合わせて実施するとより効果が期待できる。例えば、「ターゲットを中高年層に設定し、機能性に優れた実用的な冷蔵庫を製造販売していたが、最近では20代の若い単身者の間でデザイン性を追求したおしゃれな冷蔵庫に対する需要が増加している。ターゲットとする年齢層を若い世代に下げると同時に、カラーバリエーションを増やすという規格の改良を実施した」といった具合だ。

事例ケースでの各改良について

先に挙げたジーンズ専門店を例に、機能や性能の改良、販売ターゲットの変更、販売方法の改良についてみていこう。

■機能や性能の改良の例

ベルベットなどの厚手の素材のジーンズは暑い時期には敬遠されがちで、実際に夏場には売り上げが減少してしまう。そこでベルベットを素材にしながらも通気性に優れている、あるいは色合いなどを改良し「暑苦しく見えないジーンズ」に改良して販売するなどの方法が考えられる。

また、このジーンズ専門店ではカジュアルシーンでの活用を念頭に商品ラインナップを整えていましたが、フォーマルシーンにおけるジーンズの活用が増加していることなどから、ジーンズの形を細身でシルエットが美しく見えるものに改良して「ちょっとキレイなジーンズ」の販売を始めるなども考えられる。

■販売ターゲットの改良の例

家族連れも来店していることから、10代~20代の男女だけではなくターゲットを家族連れなどにも拡大し、子供用ジーンズや「30代以上の大人が楽しむジーンズ」を陳列するなどの方法が考えられる。

販売ターゲットを改良する場合は、自ずと製品やサービスの機能や性能を改良する必要が出てきたり、店内の様相や販売促進方法なども併せて改良することも考えなければならない。なぜならターゲットとする年齢層を改良するのなら、デザイン性より機能性を重視したジーンズ販売に改良したり、奇抜さを控えて着こなしやすいジーンズに改良する必要があるかもしれないからだ。

同様に、従来は10代~20代の若い世代のみをターゲットにし趣向を凝らして店内を装飾していたものを、ターゲットを家族連れなどにも拡大する場合は、商品の見やすさや順路の分かりやすさを念頭において装飾する必要があるかもしれない。

■販売方法の改良の例

店頭に陳列されているジーンズのコーディネート方法を店員に相談してくる顧客が多いことから、陳列してあるジーンズを店員に着用させ「動くコーディネートの手本」として店員が販売促進に一役買う方法を取り入れたり、フォーマルシーンでのジーンズの活用が増加していることから、常連顧客に対して冠婚葬祭などの改まった場でのジーンズの着こなしについて画像付きのDMを送付して提案するなどの方法が考えられる。

そのほか、家族連れの顧客が増えていることにも着目し、家族で共通で使えるポイントアプリを提供したり、家族のうちの誰かの誕生月には、ほかの家族もジーンズの価格が割引になるサービスなどを取り入れるのも面白いかもしれない。

アフターフォローを充実させる

既存製品・サービスに改良を加え、より多く購入・活用してもらえるようになったからといって、「売りっぱなし」であってはならない。購入・活用してもらった後の顧客に対するアフターフォローを充実させることは、より一層の購入・活用を促すことにつながる。

SNS、メール、電話やDM、定期的な訪問などで「購入して頂いてありがとうございます。使い心地はいかがでしょうか?」「製品の新しい活用方法をご提案します」「先日ご購入して頂いた商品の新色バージョンが登場したのでご案内します」などのフォローは欠かせない。

こうしたアフターフォローは、製品やサービスの販売促進につながるだけではない。顧客に使い心地などを聞くことによって、製品・サービスの改善すべき点を発見するヒントを得ることができるほか、顧客一人一人の製品やサービスに対する感想を引き出して顧客管理に役立てることができる。

そして何より大切なのは、アフターフォローを充実させることによって、顧客に「購入後もこんなにアフターフォローを親身に実施してくれるなら、またあそこで何か買おうかな。」と思ってもらえるようになることだ。

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