肥満のこと【2】ダイエットと隠れ肥満

心身の健康
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肥満は病気か

前回コラム「問題なのは体脂肪」で、 こんなことを書いた。

肥満とは、外見が太っていること、あるいは、体重が重いことだと単純に考えがちだ。けれども、見た目がやせているからといって、「肥満ではない」とは実は言い切れないという。では、「肥満」とはどういう状態を指すのだろうか。

肥満のこと【1】問題なのは体脂肪

若い女性たちの中には、肥満をスタイルとの関係だけで捉えていて、体脂肪過多による肥満の怖さを知らない人が意外に多いという。肥満は健康と重要なかかわりをもっていて、肥満そのものが病気という考え方もある。欧米をはじめとする諸外国では、肥満と肥満症をハッキリと区別している。例えば、肥満者の多いアメリカでは、肥満を病気と扱うケースがよくみられる。それに対して、日本では肥満を単なる「状態」だと考えがちだ。病気だというイメージはあまりない。

一般の人だけでなく、日本人の健康を統括する立場の厚生労働省も同様に、肥満そののもを病気とは考えていないと思われる。その証拠に、肥満というだけでは、治療に健康保険が適用されないシステムになっている。肥満症と診断されなければ、抗肥満薬を使うことも許可されない。厚生労働省の「e-ヘルスネット」によれば以下の表現がされている。

肥満は、糖尿病や脂質異常症・高血圧症・心血管疾患などの生活習慣病をはじめとして数多くの疾患のもととなるため、健康づくりにおいて肥満の予防・対策は重要な位置づけを持ちます。

引用:厚生労働省:e-ヘルスネット > 栄養・食生活 > 病気の予防・治療と食事 > 肥満と健康

肥満そのものが病気というより、数多くの病気の「もとになるもの」という考え方だと読める。

一般社団法人日本肥満学会では肥満症を「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)25以上のもの」と定義している。

BMI(kg/m2判定WHO基準
  < 18.5低体重 Underweight 
  18.5 ≤ BMI < 25.0   普通体重  Normal range 
  25.0 ≤ BMI < 30.0   肥満(1度)  Pre-obese 
  30.0 ≤ BMI < 35.0   肥満(2度)  Obese class I 
  35.0 ≤ BMI < 40.0   肥満(3度)  Obese class II 
  40.0 ≤ BMI   肥満(4度)  Obese class III 
肥満度分類(日本肥満学会)

なお、BMIは成人にのみ用いられる指標であり、学童児(6-18歳)の肥満の判定には肥満度が用いられる。『小児肥満症診療ガイドライン2017』では、「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態」を肥満と定義している。

間違ったダイエット

年に1回の人間ドックのあとの「特定保健指導」では、主に食事に関する指導を受ける。食事療法だ。ときどき、誤ったダイエット法についての説明も聞く。「短期間で手軽に痩せられる」というイージーなダイエット法の中には、体に悪影響を与えるリスクの高いものも多いという。

例えば、「りんごダイエット」のような特定の食品だけを食べ続ける単品ダイエットは、面倒なカロリー計算も不要で、手軽に「やせられる」と思われているかもしれない。しかし、このような極端なダイエットは、肌荒れ、脱毛、貧血、むくみ、便秘などを引き起こしかねない。女性の場合はカルシウム不足による骨粗鬆症をまねく可能性も高いという。急激に減量するほど、身体への負担も大きくなる。そもそも一つの食品だけで身体が必要とするエネルギーや栄養素を満たすのは無理な話だ。また、「肉を食べてはいけない」など禁止品目を定めたダイエット法も正しい食事療法とは言えない。

「特定保健指導」 で栄養士から言われた正しい食事療法のポイントは、過食を正すことと、一定のエネルギーの範囲内で栄養バランスのとれた食事を規則正しくとることの2つ。飲酒については、量を減らすことと、できれば醸造酒を蒸留酒に置き換えることの2つ。無理な話ではない。

世の中には、下剤で便を出す、サウナスーツで汗をかく、特殊な石鹸やクリーム類を使うことで、簡単に減量できるといった情報が氾濫している。このようなダイエットは、心身にダメージを与える可能性が高い。

過激なダイエットほどリバウンドを招きやすく、ダイエットとリバウンドの悪循環に陥りやすいといわれる。すると、体脂肪は減るどころか逆に増えていき、大切な筋肉や骨量が減ってしまう。健康を損なわないためにも、正しい食事療法により、ゆっくりと減量し、ベスト体重を維持することが大切だ。

リンゴ型と洋ナシ型肥満

肥満は、脂肪のつき方の違いで、2つのタイプに分けられる。ひとつは「リンゴ型」と呼ばれる上半身肥満。中年男性に多く見られるビール腹のように、主にお腹の部分を中心に脂肪がつくのが特徴だ。もうひとつは、「洋ナシ型」で、女性に多く見られる、お尻や太ももに脂肪がつく下半身肥満のことだ。

健康上、注意が必要なのは、男性に多いリンゴ型肥満。糖尿病などの様々な病気を引き起こす一因となっているという。もともと、糖尿病にかかる率は、肥満の人のほうが普通の体重の人の3倍と高いのだが、 その肥満をさらにリンゴ型と洋ナシ型に分けて調べると、リンゴ型の上半身肥満の人は、正常体重の人の何と10倍も糖尿病にかかる率が高くなるといわれている。他にも、上半身肥満のほうが動脈硬化性疾患や高脂血症などにかかる率が高くなるらしい。

ただ、女性だからといって、リンゴ型の上半身肥満がいないわけではない。最近では、若い女性にも生活習慣の影響で上半身肥満が増えているらしい。女性の上半身肥満の場合は、男性よりもさらに病気を発症しやすくなるともいわれている。

一方、洋ナシ型の下半身肥満は、リンゴ型の上半身肥満に比べて病気にかかる率は低くなるようだ。とはいえ、静脈瘤(りゅう)や腰痛、膝の関節障害などが多いという報告もあるため、過度な皮下脂肪はないほうがよい。

内臓脂肪型は隠れ肥満か

リンゴ型の話を知ると、「自分はお腹が出ていないから、肥満ではない」と思うかもしれない。しかし外見だけで決めつけるのは早計かもしれないのだ。実は、体脂肪が外見に表れない「かくれ肥満」に属する人もいる。

中高年男性によく見られる、お腹の周りに肉がつきやすい上半身肥満(リンゴ型肥満)には、皮膚の真下を覆うように体脂肪が蓄積されている「皮下脂肪型肥満」と、腸間膜などに内臓脂肪がつき、内臓が肥大化している「内臓脂肪型肥満」の2タイプに分けられる。後者の「内臓脂肪型肥満」は、体型的には目立たないケースも多く、本人は肥満だという自覚がないこともあるという。

しかも、この内臓脂肪型の肥満のほうが、皮下脂肪型の肥満よりも健康に障害をきたす割合が高いとされている。内臓脂肪型肥満の場合、腸間膜についている脂肪の代謝は皮下脂肪にくらべて活発だ。その結果、体脂肪は分解されて、多量の遊離脂肪酸が肝臓に送られる。すると、肝臓の負担が重くなり、インスリンの作用が落ちてしまう。その結果、血糖値が上がり、糖尿病にもつながりやすくなる。

お腹が出ている人の場合、自分が内臓脂肪型肥満か皮下脂肪型肥満かを調べるには、体脂肪計で測定するという方法が確実だが、器具を使わない簡単なチェック方法もある。まず仰向けに寝て、足を立て、呼吸をしながら、リラックスする。次に、へそから左右2センチぐらいのお腹の肉をつまんでみる。この時、たくさんつまめたら、それは皮下脂肪。反対に、お腹が出っ張っているのに、あまりつまめないと、より不健康な内臓脂肪型肥満と疑うことができる。

なぜ体脂肪が皮下脂肪に蓄積されやすい人と、内臓に脂肪が蓄積されやすい人に分かれるのかについては、遺伝的なものか、人種の差、年齢差など様々な仮説があるものの、はっきりした原因は解明されていない。ただ、一般的には、若い人には皮下脂肪型肥満が多く、年を重ねるほど、内臓脂肪型肥満が多くなるらしい。

内臓脂肪型肥満で、お腹がそれほど出ていないのに肥満である場合は、「隠れ肥満」といえるかもしれない。

ダイエットで隠れ肥満?

日本人は、肥満でもないのに、スタイルを気にしてダイエットに励む人がたくさんいる。ダイエットに対する関心が異常なまでに高いからこそ、テレビCM、Web広告、電車の吊り広告などには、たいへん多くのダイエット関連商品やサービスが宣伝されている。私の周囲にも「結果にコミットする」サービスを受けた人が何人もいる。特に若い女性にとっての上位の関心ごとがダイエットだ。

一方で、諸外国に比べても、10~20代の日本人女性に肥満は圧倒的に少ないといわれる。10~20代は、身長が伸びるのに伴って体重が増加していくのが自然な年代なのだが、日本人女性の場合はこの世代の体重が増えておらず、逆にスリム化が進んでいる。肥満ではないにもかかわらずダイエットをするのは、健康を損なう危険が伴うばかりか、誤ったダイエット法は「隠れ肥満」につながる可能性があるという。

注意したいのは、「短期間で一気に体重が落ちる」ことを歌い文句にしている、過激な一部のダイエット法。正常な女性が無理な減量をすると、確かに一時的に体重も減り、体脂肪もとれるだろう。けれども、脂肪だけでなく筋肉の量も減ってしまう。そして、一度落ちてしまった筋肉はつきにくく、脂肪はすぐに戻るという性質がある。すると、ダイエットによって体重は減るものの、体脂肪のパーセンテージは減るどころか、逆に増えてしまうというおそろしい結果を招くことがある。その結果、体脂肪の多すぎる「隠れ肥満」になってしまうわけだ。

こうした過激なダイエットを試みては、挫折し、そのたびにリバウンドを繰り返していくと、どんどん脂肪をため込む体質になってしまうという。重要なのは体重よりも体脂肪。ダイエット法を検討するなら、体脂肪だけを落として、筋肉の量を減らさないようにしているかどうかを見極めるのが良いだろう。要はバランスだ。食事制限だけ、ではなく、筋トレと組み合わせることで筋肉量を減らさない工夫をするなど、生活習慣そのものを少し変える必要がある。

残念なことに、楽で健康的なダイエットは今のところ見つかっていないようだ。

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