結局は食事と運動
身もふたもない話をしてしまえば、肥満だろうが生活習慣病だろうが、結局は日常生活の中での食事と運動の話にたどり着く。そんなことは誰でも分かっているのに、肥満や病気になってしまうのが人間だ。
ここ数年、昔からある「ボディビルディング」ではなく、「ボディメイク」と呼ばれる分野が台頭してきた。代表的なのは「結果にコミットする」あのサービスだ。肥満気味のタレントや一般の成人男女が、ボディメイク前後の姿をテレビCMで公開している。この「ボディメイク」サービスは、かなり高価な料金ではあるが、短期集中プログラムの実施によって見事に美しく引き締まったボディに仕上げることをコミット、つまり確約してくれることで急成長した。
この「ボディメイク」サービスでコントロールするのは、当然だが食事と運動。特に食事については相当すごいらしい。また、このサービスに限らず、コンテストに出場するレベルでのボディメイクやボディビルのトレーニングを実施する人たちの場合、8対2くらいの割合で「食事のほうが大事」だという。かなり辛い筋トレによって脂肪と筋肉を調整しているのかと思いきや、意外にも、運動よりはるかに食事が大切らしい。食事=8、運動=2の割合というのはそういう意味だ。
厚生労働省は、平成14年の健康増進法に基づいて、毎年「国民健康・栄養調査」を実施し、結果を公開している。2020年10月に、令和元年「国民健康・栄養調査」の結果が公開されたが、結果は下記の通り、食習慣・運動習慣を「改善するつもりはない」者が4人に1人だった。
- 食習慣改善の意思:「関心はあるが改善するつもりはない」者の割合が最も高く、男性24.6%、女性25.0%
- 運動習慣改善の意思:「関心はあるが改善するつもりはない」者の割合が最も高く、男性23.9%、女性26.3%
- 健康な食習慣や運動習慣定着の妨げとなる点:「改善するつもりである」者と「近いうちに改善するつもりである」者は、「仕事(家事・育児等)が忙しくて時間がないこと」と回答した割合が最も高い。
正しい食習慣がカギ
8対2くらいの割合で「食事のほうが大事」 というのが本質とするなら、体脂肪が蓄積されてしまった背景には、必ずどこかに食生活の歪みがあることになる。特に脂肪過多の人は、食生活を見直し、一日三食を規則正しくとることを心がけたほうが良い。
現代は夜型の生活を送る人が多い。決まった時間に起きて、朝食をとることが苦手な人が増えている。肥満に悩む人には、朝起きるのがつらいから、朝食を食べないという人が大勢いる。昼食も軽くすませ、午後に3時のおやつくらいから食欲が増し、夕食から就寝時間までの間に一日の大半の摂取エネルギーをとってしまう人が多い。いわゆる「まとめ食い」だ。週に2日以上、夕食・夜食で1日の摂取カロリーの1/4から半分をとってしまう人は「夜食症候群」という摂食障害の可能性が高いという。
前述の「国民健康・栄養調査」では、一日三食の中に欠食があると答えた人は、規則正しく三食をとる人とくらべると、より肥満の傾向が強いとの結果が出ている。つまり一定の食事量を守っていても、欠食、まとめ食いをしていては、太りやすい状態は改善されないということだ。
動物実験では、一日に同じ量の餌を1回に与えた場合と、6回以上に分けた場合を比較したところ、1回のほうが多量の脂肪が蓄積したとの実験結果が報告されている。
朝、昼、晩と三食食べ、規則正しい生活をすることは、肥満防止のために大切なこと。夕食の比重が重くなるのは仕方のないが、例えば一日の摂取エネルギーが1800キロカロリーとすると、朝食500キロカロリー、昼食600キロカロリー、夕食700キロカロリー程度の配分が理想的と言われる。午後に少しでも間食したり、就寝時間前に夜食を取ってしまった場合には、その分、昼食や夕食の摂取エネルギーを削るといいだろう。そして、できれば間食は少量のローカロリーの食品にする。
食事療法はバランスよく
ダイエットのための食事療法では、摂取エネルギーを制限するのが普通だ。では、制限されたエネルギー量であれば、何を食べてもいいかというと、そうではない。好き嫌いが多く、好物ばかり食べていたのでは期待通りの効果が上がらない恐れがある。いかにバランスよく栄養素をとるかがポイントだ。
大切なのは、「三大栄養素」といわれるタンパク質、脂肪、糖質のバランス。ちなみに日本人の大人一人あたりの栄養配分の平均は、タンパク質15%、脂肪が25%、糖質が60%。体脂肪を減らす食事療法では、タンパク質は減らさず、糖質と脂質を控える。タンパク質は筋肉や内臓器官をつくり、毎日代謝される大切な栄養素。これが不足すると、貧血や生理不順になったり、倦怠感などにおそわれることもある。
いままで糖や肉類などに偏った油っこい食事を好んでいたのであれば、野菜や海藻などをたっぷり献立に盛り込み、ビタミンやミネラル、食物繊維を積極的にとるようにするといいだろう。特に緑黄色野菜は積極的に食べたいもの。便秘で悩んでいた人は、食物繊維をとることで便通が整い、減量への意欲が高まるはずだ。
また、味の濃いおかず1品でご飯をたっぷり食べるといった食べ方は、よくないと言われる。主食を控えめにして一汁三菜を基本に副菜の品数を多くすれば、栄養バランスのとれた献立になる。食品の数は多いほどいいと考えよう。味付けは、薄味がよく、特に塩味、甘味は控えめにする。
肥満「治療」も、結局は食事療法と運動の組み合わだ。しかし、実行するとなると、ある程度の根気が必要だ。脂肪を落とすには減食して運動すればよいということは誰でも分かる簡単な話だが、減食と運動を同時に始めたら、きつくてすぐに挫折してしまうのが普通だ。うまくやるには順序として、減食に慣れてから、運動を少しずつ強化していくのがコツだそうだ。肥満の治療は最初が肝心。そして減量に成功したら、リバウンドしないように、現在の体重を維持するように努力するのが賢明だといえる。
便利快適で体脂肪は増加
体内の体脂肪率は年齢とともに増加すると言われてきた。しかし、近年では男女を問わず若い人の間でも肥満者は確実に増え続けている。その原因のひとつに、便利になった現代のライフスタイルがもたらす影響が考えられる。
例えば移動手段は車や電車が当たり前で、歩くことが減った分、外で消費されるカロリーも少なくなった。家の中でも、こまめに身体を動かさなくても用が済んでしまう。電化製品はリモコンひとつで操作でき、食器洗いも洗濯も全自動。掃除もロボットがやってくれる。日常生活にかかる労力の省エネルギー化はどんどん進んでいる。便利で快適なのはいいことだが、健康面から考えると、これが慢性的な運動不足をもたらし、体脂肪過多の肥満の若年齢化を進める結果となってしまった。
さらに困ったことに、日本人は体脂肪が蓄積して糖尿病を引き起こしやすい体質を持っているといわれる。脂肪がつきすぎて、血糖をさげる働きをもつインスリンというすい臓から出るホルモンの作用と分泌が低下しておこるのが糖尿病だ。欧米人は平均してインスリンの分泌能力が一定に保たれる傾向がある。ところが日本人はインスリンの分泌能力が弱まりやすいとされている。肥満は、見た目だけの問題でなく、このような糖尿病を引き起こす原因ともなる状態なのだ。
週末の運動は効果あるか
先述の厚生労働省の最新の調査結果では、運動習慣改善について、「関心はあるが改善するつもりはない」者の割合が最も多かった。とはいえ、肥満を気にしている人の中には、週末にジョギングをしたり、スポーツジムに通って努力している人もいる。何もしないでボケっとしているよりは確かに健康的な過ごし方だが、実は週末の1~2日の運動だけで体脂肪が目覚ましく減るということはない。
体脂肪1キロを燃焼させるにはどれくらい走ればいいかというと、体脂肪1キロは約7000キロカロリーなので、単純に計算するとフルマラソンを全力で3回走ってやっと1キロやせるという計算になる。このことからも、例え毎日ジョギングに励んでも、1度ついた体脂肪はなかなか減らないことがわかる。結果として、週末のジョギングやジム通い程度で脂肪減少の効果をあげるのは至難の技ということになる。できれば週3回以上、またはそれ以外にも日常の生活で積極的に体を動かすくらいでないと体脂肪の減少には効かないと考えたほうが良さそうだ。
体脂肪は増えやすい性質をもつため、いくら週末に運動しても、ウィークデイの食事の摂取方法によっては、脂肪が体内にどんどん蓄積されてしまう。週末の運動がムダだと言っているのはない。せっかく改善するのであれば、「週末だけは運動する」というのではなく、普段の食事や生活の中での活動を含めた総合的な方法で取り組むほうが効果があるだろう。