CRMで顧客情報を一元管理する

デジタル活用
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CRMの基本的な概念

以前のコラム「ERP:統合基幹業務システム入門」では冒頭部分にこんなことを書いた。

情報通信の世界は、3文字略語であふれている。社会に出てビジネスの世界に飛び込むと、ERP、CRM、DWH、SFA、BPMといった3文字略語に対して反射的に「あれのことだね」と分かる必要が出てくる。なぜなら、情報通信は、効果的・効率的にビジネスを展開するために必須のインフラだからだ。

そもそも業界のことを「ICT」という3文字略語で呼んでいる。

引用: ERP:統合基幹業務システム入門

今回は3文字略語のひとつ、「CRM」について述べる。呼び方はそのまま「シーアールエム」だ。

CRMとは「Customer Relationship Management」の略称。日本語にすると「顧客関係性管理」などとも訳される。CRMを簡単に説明すると、会社の各部門に分散している顧客情報を、データベースで一元管理し、顧客へのマーケティングを効率的に行うというもの。まずは基本的な概念を下図に示す。

CRMの概念図

同じ会社の顧客であっても、その顧客情報は各支店や営業所など地域ごとに管理していることが多いのが現実。さらには、同一地域の顧客であっても、通信販売部門やアフターサービス部門、直接販売店舗など営業部門以外に直接顧客と接する部署があったり、代理店を通じて取引がある顧客もあるなど、各顧客チャネルにより得られる顧客情報が分散して、有機的なつながりを持って把握されていないのが通常の姿だ。

そこで、CRMでは各顧客チャネルから得られる顧客情報をデータベースに蓄積し、一元管理する。これにより顧客情報が共有化され、効率的な営業活動ができる。さらには、データベースに蓄積された顧客情報を分析して、従来にはなかった新しいサービスを提供し、顧客満足度を高め、顧客の維持、拡大を図ることを目指している。

例えば、顧客を購買金額やニーズなどの条件により分類し、その分類ごとに顧客の個別ニーズに合致する商品を予測してタイムリーに提供したり、取引状況に応じてインセンティブを設けることが行われている。特に、個別の顧客ごとに提案を行うことを「ワン・トゥー・ワン・マーケティング」という。

「ワン・トゥー・ワン・マーケティング」という言葉は知らなくても、「パーソナライズドマーケティング」や「パーソナライゼーション」は聞いたことがあるだろう。これらはほぼ同義であると考えて構わない。

CRMに蓄積する情報

図にある通り、各部門から収集した情報はデータベースに蓄積される。その情報としては、以下のようなものが代表的といえる。

  • 顧客の名前や住所、家族構成などの特徴
  • 顧客の取引内容
  • 顧客とコンタクトした履歴
  • 取引の継続性
  • 機会損失と顧客を失った場合の理由
  • 取引の収益性

もちろん、蓄積される顧客情報の内容は、CRMを導入した企業のビジネスモデルによって異なってくる。


CRM導入でできること

前述の通り、CRMを導入すると顧客へのマーケティングを効率的に行うことができる。では、実際に行われている例から、CRM導入によって実現することを3つ挙げてみよう。

顧客ごとに異なる商品をWeb表示

CRMを用いた効率的なマーケティングの代表格が、Webで顧客ごとに異なる商品を表示すること。例えば、オフィス用品の通信販売で成長している会社の場合、CRMを用いて毎月、購買品目や金額、頻度などをもとに、顧客を10~20のグループに分類している。同じグループの顧客に対して共通性を探り、潜在ニーズの仮説を立て、グループごとにマーケティングを行っている。

顧客が同社のECサイトにアクセスすると、その顧客が購入しそうな商品を「お薦め商品」として、自動的に画面に表示する。その仕組みは、購買履歴を蓄積しているデータベースを検索し、該当顧客と購買傾向が似ている別の顧客が購入しているもので、該当顧客が購入していない商品を抽出して表示するというものだ。さらには、膨大なデータを分析することにより、さまざまな顧客の購買法則が分かるようにもなり、それをもとに顧客ごとに異なった商品情報を絞り込んだダイレクトメールを送付している。

この会社では、顧客の購買履歴を活用してニーズに合わせた商品を提供し、「顧客満足度」と「売り上げ」の効率的な向上を目的としてCRMを活用している。

優良顧客への優遇

CRMを活用する生命保険会社では、本社と全国の営業拠点をネットワークで結び、顧客情報を一元管理している。この会社では、保険セールス全員にタブレット端末を配布し、顧客の前で保険を設計するというサービスを行っている。各保険セールスが顧客の契約状況や営業活動の履歴を入力し、そのデータをデータベースで一元管理して、社内で常に最新の顧客情報を知ることができる体制となっている。

また、従来の均一化されたサービスをやめ、CRMを使って優良顧客ほど優遇するなど、顧客ごとに異なるサービスを導入した。優遇された顧客はサービスや価格などの条件が良くなるため、さらに取引が増加するという効果を生んでいる。

この会社の例では、取引高に応じて保険料率を3段階に設定している。配当に関しても、契約を長く続ければ続けるほど貯まるポイントを設定し、累積したポイントに応じて配当額を支払うシステムも導入している。これらはすべて優良顧客への優遇策として機能している。

より密着した接客

激しい価格競争にさらされている家電量販店業界において、CRMで利益確保を図っている会社がある。量販店では、特価商品だけを選んで購入する顧客に接客時間をかけるようなことになれば、間違いなく販売効率が落ちてしまう。そこで、この会社では顧客の購買履歴を分析し、「新しいタブレット端末を購入しそうな顧客」など一定の条件で顧客を抽出してダイレクトメールを送り、見込み客が来店する割合を増やしている。

さらには顧客がレジで商品を購入する際に、店員が顧客情報を引き出し、例えば「先月購入されたオーブンレンジの調子はどうですか」などといった声をかけることも行っている。優良顧客に対しては、従来の量販店では難しかった密着した接客を行うことで、新たな商品の販売やアフターサービスにつなげることができ、効率の良い販売を行っている。

CRM導入のポイント

顧客情報を一元管理する仕組みの構築は、CRMという言葉が一般的になる以前からあった。以前は、それなりにコストと期間をかけて顧客情報管理の仕組みをつくっていいた。そのため、現実には大企業だけが導入するものだったと言ってもいいだろう。ところが今では、従業員数名の小規模会社でもCRMを導入できるようになった。

コストをかけずに導入

今ではCRMを導入するのは「普通のこと」になった。この要因としては以下のような背景が考えられる。

  • インターネットを使うことで劇的にコストが下がった
  • ユーザーがインターネットを使うことにより、個別の顧客ごとにきめ細かいサービスが容易なWebサイトや電子メールを通じた営業活動が可能になった
  • 自社でCRM導入する場合のハードウエアコストなどが劇的に下がった
  • クラウドサービスなどでCRMのアウトソーシングできる会社が数多く登場してきた
  • データ分析が高度化し、従来にはないビジネス手法が登場してきた

かつては、CRMのような顧客情報を一元管理するようなデータベースの構築には億単位の費用が必要だった。そのため、CRMは一部の大企業のものと思われてきた。しかし、今では導入価格が月額数万円というサービスが数多く登場している。

1年間導入してみても数十万円しかかからないなら、失敗のリスクをそれほど深刻に考える必要はない。試しに導入してみて、効果があるという感触をつかめるなら本格的にCRM構築すればよい。色々な意味で、コストをかけずにCRMを導入できるようになってきた。

重要なのは導入目的

CRMを導入して成功した企業の事例をみて「自社でも導入したい」と考えても、現実には「どうしたらよいのか分からない」という会社が多いと聞いている。そもそも、目的のないシステム導は単なるコストアップ。それはCRMも例外ではない。CRM導入の焦点は非常にシンプルで、極論すると以下の2つになるだろう。

  • CRM導入により顧客に提案できる新しいサービスが創造できるか
  • 導入により自社に十分な利益をもたらすか、または導入しないことにより機会損失とならないか

すべての会社にとってCRMが有効であるというわけではない。例えば、顧客が同じ企業を定期的に何度も利用するインターネット販売や、購入後も「点検」や「消耗品」などで収益が見込める自動車販売などはCRMに向いている業種といえるだろう。逆に、一度購入すればほとんど同じ企業から購入することがない商品を扱う業種や、販売後に継続した収益が見込めない業種、食品製造業などのように消費者と距離がある業種などにおいてはCRM導入もあまり意味がないといえるだろう。

「他社が導入しているから」といった動機ではCRMは成功しない。導入に際しては、そのメリット・デメリットを十分に検討する必要がある。

顧客情報管理のリスク

CRMで一元管理するのは顧客情報だ。ここには当然のように「特定の個人を識別することができる」情報が含まれていると考えて間違いない。つまり、『個人情報の保護に関する法律』で定義されている情報を扱うことになる。このことは会社のリスクであるということを認識しなければいけない。

言うまでもなく、顧客情報などの個人情報が漏洩する事件はしょっちゅう報道されている。会社にとって個人情報漏洩は、信用低下を招いたり、巨額の損害賠償を請求されたりするリスクがあり、そのリスクによる影響の度合いはどんどん大きくなっている。

このコラム執筆時点では、日本での個人情報保護に関する重要度は、まだ発展途上だと考える。欧米ではプライバシー漏洩や侵害に関する罰則はどんどん強化されていて、いずれは日本でも同じような扱いになるのは目に見えている。

CRMでは、顧客の個人情報に相当するデータを扱うほか、クレジットカードやQRコードなどの電子決済関連情報も扱うだろうし、業種によっては個人に関する「機微な情報」を扱うことも十分考えられる。これらがあることで「効率的な顧客マーケティング」を実施できるのは間違いないが、それは大きな漏洩リスクを伴っていることを正しく認識しておくべきだろう。

導入支援会社の事例調査

会社がCRMを導入するうえで、ソフトウエアからハードウエア、コンサルティングに至るまでを一括して提供してくれるソリューション会社もあれば、CRMの仕組みを月額利用料金でレンタルしてくれるクラウドサービスも色々ある。

例えば、CRMのクラウドサービス老舗ともいえる会社は導入企業数5000社。初心者向けCRMをうたい文句にしているクラウドサービス会社は累計導入企業数6500社。名刺を起点とするユニークなCRMで急成長したクラウドサービス会社は導入企業数7000だそうだ。

これだけの導入実績があれば、ほとんどの業種や会社規模に対する導入目的別事例が揃っている。まず最初にやるべきは、これらの事例から自社の目的などに近い事例を探すことだ。その事例が成功例だろうが失敗例だろうが構わない。成功からも失敗からも学べるからだ。

CRMを導入しようかなと考えたなら、まず最初に、CRM導入支援会社に相談して、その現実の事例から自社に適用した場合の仮想的なシミュレーションのようなことをやってみるのが賢い方法だと思っている。


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