コルビュジエの家具を持つということ

前向き人生
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3人掛けLC2を25年目に修理

2021年8月、修理をお願いしていた3人掛けソファが新品同様になって我が家に戻ってきた。ソファは26年前にカッシーナで購入した”LC2”だ。LCという名前は、これをデザインした建築家、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)のことだ。

このソファは、最小の構成で最大の快適性を実現することを目的としてデザインされたもの。通称で「グランコンフォール(大いなる快適)」とも呼ばれる。ソファにありがちな柔らかな曲線はなく、形状は単純な四角形を組み合わせた長方形。特に装飾らしきものもない。スティールパイプのフレームに背、座、アームの四角いクッションを配置しただけという簡単な構造でありながら、驚くほど美しい。

そもそも生涯使い続けるつもりで購入したので、25年目に皮革の全面張替など「新品同様」にするため、購入先のカッシーナに修理をお願いした。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)には、コルビュジエの作品が永久コレクションとしていくつか収蔵されているが、その代表はこのLC2の3人掛けだと勝手に思い込んでいる。建築家の友人によれば、LC2はデザイン家具の歴史上、最も大きな功績を残した作品だそうだ。

レプリカが氾濫するソファ

日本国内にはル・コルビュジエの家具の模造品が氾濫している。「リプロダクト」とか「レプリカ」と表現されているが、要するに模造品だ。都内の少しカッコイイお店に行くと、LC2またはLC3のソファが置いてあるのをよく見かけるが、多くは模造品だといわれている。模造品を使う理由は「安価」のひとことに尽きる。LC2の三人掛けの場合、おおざっぱに言えば、カッシーナが200万円台、模造品が20万円台。さすがにひとケタ違えば模造品市場が成立するというわけだ。

LC2の3人掛けソファ

たいていは、ソファの横に円形のガラステーブルが設置してある。こちらは建築家で家具デザイナー「アイリーン・グレイ」によるE1027サイドテーブルであることが圧倒的に多い。これも恐らく模造品だ。なお、このE1027サイドテーブルもニューヨーク近代美術館の永久コレクションになっている。

25年前に購入し、今回の修理で皮革の全面張替などをお願いしたカッシーナは、「真正性」つまり、正式なLC2の意匠権を使える唯一の会社として、以下の内容を公開している。

真正性を第一に
カッシーナは、ル・コルビュジエ財団及び共作者の意匠継承者と密接に協力し、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ぺリアンによるデザインの製造を認められた唯一の企業です。 製造当初から、芸術的価値を認識しオリジナルの作品を確実に管理するため製造番号が刻印されています。 今日、革新と品質を維持するため、模倣品と戦い、デザインの文化を重要な歴史的および文化的遺産として保護することは非常に重要なことです。 カッシーナの取り組みは、模倣品がまねできないほど高いレベルで革新と文化的イニシアチブをもってLCコレクションを積極的に開発することです。

引用:Cassina IXC.:LC Collection

さらに、あまりにも模造品が多いからなのか、「カッシーナ製品の見分けかた」も公開されている。ちなみに今回のカッシーナでの修理費用は、模造品の新品購入の数倍だった。

進歩していて驚いた

25年間、6人家族が毎日使っても快適なままだったソファ。普通に考えればかなりの耐久性と高品質だ。今回の修理を相談した際、張替える皮革の選択肢をいくつも示されたので、少し驚いた。25年前より大幅に選択肢が増えている。新しく上質で柔らかな触り心地の革が加えられていた。クッションもフェザーパッティング仕様が追加されている。聞いたところ、新規購入する場合には、金属フレームの素材やカラーも随分変更されていて、組合せ方により新しい表情を見せるソファになっていた。

もちろん、修理に際してはこれまで通りの黒革とクロムめっきフレームの組み合わせにし、革の品質は25年前と一番近いものにした。25年もの間使ってきたので、一番フィットする選択をした。

近代建築の巨匠 ル・コルビュジエ

ル・コルビュジエという建築家はあまりにも有名。「近代建築の三大巨匠」のひとりとして位置づけられる。「三大巨匠」の残り2人は、旧帝国ホテル本館(明治村に移築)を設計したフランク・ロイド・ライトと、LC2と同じくちょっとカッコイイお店に置いてある「バルセロナチェア」をデザインしたミース・ファン・デル・ローエだ。

何が「近代建築」なのか。1887年生まれのコルビュジエの時代の建築は、石積み・レンガ積みが主流だった。そこに鉄筋コンクリートという新しい素材を持ち込んだのがコルビュジエだ。それまでの石やレンガによる西欧の伝統建築とはかけ離れた、機能性を信条とした「モダニズム建築」を提唱した。

大好きなサヴォア邸

パリ郊外にあるコルビュジエの代表作としてあまりにも有名なサヴォア邸の写真は、見たことがあると思う。以下の住宅を、石とレンガが主流だった80年前に完成させたのだ。

引用:CASA 世界の建築 名作住宅 「サヴォア邸」

このサヴォア邸は「住宅は住むための機械である」とコルビュジエが表現した概念を突き詰めて具体化したもの。後世に多大な影響を与えた建築概念「近代建築の5原則」が展開された住宅だそうだ。でも、そんなことはどうでもいい。LC2と同じく、形状は単純な長方形で装飾もない。これが実に美しい。

驚いたことに、レゴ・ブロックの「レゴ アーキテクチャー」シリーズに、このサヴォア邸があった。これだけ形状がシンプルだとレゴ・ブロックには向かない気もするが、素晴らしい企画だと思う。なお、この「レゴ アーキテクチャー」シリーズには、「近代建築の三大巨匠」のひとりであるフランク・ロイド・ライトによる旧帝国ホテル本館もあった。

今の我が家がコンクリート打ち放しの長方形のシンプルな箱になったのは、多少なりともこのサヴォア邸の影響を受けている。

上野の国立西洋美術館

日本の大御所建築家である前川國男氏、坂倉準三氏、吉阪隆正氏がコルビュジエの弟子であることは有名な話だ。国内にあるコルビュジエ唯一の建築、上野の国立西洋美術館は、この3人の弟子たちと創りあげたもの。

国立西洋美術館は、川崎造船所(のちの川崎重工業)の初代社長・松方幸次郎氏がヨーロッパ各地で収集した美術品、通称「松方コレクション」を収蔵・展示する施設として建設さた。

第二次世界大戦中、フランス国内に保管していた松方コレクションの一部が敵国人財産としてフランス政府に差し押さえられた。終戦後、当時の吉田茂首相がその返還を持ちかけ、これに対しフランス政府は、松方コレクションを主体とした「フランス美術館」を日本側が用意すれば返還ではなく寄贈する、といった条件を提示。ここから美術館建設計画が始まったという。その後、コルビュジエに設計が依頼され、日本人の弟子たちとともに設計図を起こした。

サヴォア邸の写真集を見たあとに国立西洋美術館本館に行ってみると、国内でもコルビュジエの魂が感じられることに気付く。2022年4月8日まで休館していたが、このコラム執筆時点では開館している。ただし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止と快適な観覧環境の提供のため、当面、常設展への入場人数は制限されているようだ。

なお、国立西洋美術館の本館は「ル・コルビュジエの建築作品ー近代建築運動への顕著な貢献ー」の構成資産として2016年に世界文化遺産登録されている。

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