アウトソーシングを戦略的に考える

組織の運用
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人件費削減とは別の発想

スモールビジネスを始めたあと、必ず立ちはだかる壁がある。それは「人材の確保」だ。今は会社規模がそれなりであっても、必要な人材の採用や、継続的に働き続けてもらうのが難しい時代だ。こういう時代こそ、スモールビジネスの経営者は「アウトソーシング」を戦略的に考える必要があるだろう。

一般的に、経営戦略としてアウトソーシングを考える背景は、「コア事業への経営資源の集中」という理由が多い。企業が厳しい市場競争を勝ち抜いていくために、どこかのタイミングで必ず経営資源の『選択と集中』を実施する。とりわけ人的な経営資源をいかにコア事業に集中していくかがポイントとなる。

今ではまったく想像つかないと思うが、1990年前後のバブル崩壊以前の日本においては、企業は一貫した成長拡大路線と終身雇用慣行の中、「自前主義」が主流だった。基幹的業務はもとより、社員向けのサービス業務などもすべて自前で提供するというスタイルが一般的だったのだ。社宅や独身寮、社員食堂、社員と家族だけが使える体育館、グラウンド、保養所から専用の研修施設まで、とにかく自前。

しかしながらバブル崩壊以降、低成長が続く経済環境の中で、企業は生き残りをかけ業務の選択と集中を進めた。「脱・自前主義」への転換だ。終身雇用は崩れ、社宅・保養所などは真っ先に処分され、工場などの基幹設備も財務体質の改善のため集約・処分された。

日本では従来「アウトソーシング」を「外注」「下請け」とほぼ同義語的に使ってきた。しかし今では、アウトソーシングに「戦略的な価値」を見出す動きが一層目立ち始めている。「守り」から「攻め」の手法へとアウトソーシングが変化てきたのだ。従来は「人件費の削減」などコスト削減の面から活用されるケースが多かったアウトソーシングだが、現在は、まったく別の発想で、どちらかというとポジティブな面からの活用が主流になってきている。

導入の理由

企業がアウトソーシングを導入する具体的な理由を整理してみると、だいたい以下の5点になる。

  1. 高度で専門的な外部の資源やサービスを有効に活用できる
  2. 外部の安価なサービスを利用することで、人件費や業務処理コストを削減することができる
  3. 人件費などの固定費を業務委託費などの変動費に置き換えることができる
  4. 自社の経営資源をコア事業や得意分野に集中させることができる
  5. 専門スタッフの活用により、品質や顧客サービスを向上させることができる

上記は、経営資源の集中や経営効率化などを通じ、マーケットでの競争力強化を図ろうとするものだ。

冒頭に書いた通り、スモールビジネスが抱える大きな課題の一つは「人材の確保」。限られた人員の中ですべての業務に精通したオールラウンドプレーヤーや、高度な専門知識を持ったスペシャリストを常に抱えていくということは難しく、現実的ではない。アウトソーシングはこれらの問題を解決するためにも有効だといえる。人材に関する課題と、アウトソーシングの効果について、簡単にまとめてみよう。

人材に関する課題アウトソーシングによる効果  
●求人が思うように進まない
●専門知識を持った人材を雇いたいが、
 専任にする程の業務量ではない
●新人教育を行う人材がいない
●社員が突然辞めてしまった
●外部資源を活用できる
●経費を削減できる
●専門性を活用できる
●業務の効率化を図れる
●リスクを回避できる
経営資源(人材)の課題とアウトソーシング

人材派遣と業務請負

ひとことでアウトソーシングといっても、その範囲は極めて広い。アウトソーシングを広義にとらえた場合、日本の大手メーカーでは製造過程におけるアウトソーシング比率は極めて高いという見方もできる。ここでは「アウトソーシング」の中から少し狭義に「人材派遣業」「業務請負業」を取り上げ、その具体的内容を整理してみよう。

業務請負と人材派遣の違い

業務請負と人材派遣は、ともに代表的な人材ビジネスだが、サービス内容には大きな違いがある。具体的には各々の特徴は次の通り。

■人材派遣

  • 指揮命令者:派遣先の担当者
  • 業務遂行イメージ:派遣先企業の従業員と一体で業務に当たる
  • 派遣職種により一部制限がある。ただし、規制緩和により派遣職種が広がったため、対象分野は広い。
  • 直接派遣労働者に対して指揮命令が可能なため、業務の進捗状況の把握や管理がしやすい。
  • 派遣先が分野ごとに派遣労働者に対して一定の教育を施しているため、分野を問わず受け入れ後すぐに活用できる。
  • 少人数や短期間といったスポット需要に特に強みがある。

■業務請負

  • 指揮命令者:請負側の責任者
  • 業務遂行イメージ:請負労働者が一つのグループとして請負業務の遂行に当たる
  • 業種に制限はない。部品供給や工場業務など特に製造業で強みがある。
  • 工場の生産ラインの一部など一定の部分の業務をまとめて任せることが可能となるため、業務分割をしやすい。
  • 特に製造分野に関しては人材派遣よりも高い効果が得られることが多い。
  • 継続的な業務の遂行も委ねることができる。

一般社団法人日本人材派遣協会は、労働者派遣の禁止業務についての情報を公開している。アウトソーシングを戦略的な活用を検討する際に、事前に目を通しておくと良いだろう。

労働者派遣法は頻繁に改正

アウトソーシングを検討する際に、避けて通れないのが関連する法律だ。特に労働者派遣法は、1986年の施行以来、数多くの改正が行われてきた。規制緩和の流れで数多くの業種への派遣が可能になったが、近年は労働者保護の観点からさまざまな措置や規制も設けられている。

アウトソーシングの活用の際も、不要なトラブルを避けるため、労働者派遣法について正しい知識をもつことが大切となってくる。

厚生労働省や、前述の一般社団法人日本人材派遣協会が公開している関連法律の詳細説明で、各法律の概要に関する基本的な知識を得るだけでなく、できれば労働法を専門とする弁護士に相談することをお勧めする。

アウトソーシング導入ポイント

ここで、アウトソーシングを導入する場合のポイントを考えてみよう。一般的な導入フローに沿ったポイントは、おおむね以下のようなものになる。

■既存業務の洗い出し

コア業務以外の業務についてすべて洗い出す。「専門性」「効率性」などの観点から、アウトソーシングするかどうかにかかわらず業務の見直しを行う。

■委託範囲の決定

導入を決めた業務を一時にすべてアウトソーシングすることは危険もともなうため、優先順位を決めて段階的に進める。

■効果の算出

業務に関する直接経費としての人件費を算出し、アウトソーシングの費用と比較する。ここでは、固定費の変動費化というメリットも考慮する。

■アウトソーサーの選定

アウトソーシングの委託先企業をアウトソーサーという。アウトソーサーを選定する場合には、専門性、信頼性、事業規模、実績などを考慮する。

■アウトソーサーの管理と定期的見直し

導入時には、試験期間を設けて、一定期間の実績を評価して正式に契約を行う方法もある。正式導入後も社内に担当者をおいて、アウトソーサーとのコミュニケーションを継続していくことも大切。また、期待した効果が得られているかを定期的にチェックし、必要に応じて見直しや、場合によっては、アウトソーサーを変更する。

具体的な導入を考える際、まず、従来からアウトソーシングが活用されてきた分野ではアウトソーサーのノウハウやシステムが成熟しているが、新しい分野においては、未成熟なところもある。このため、委託先の選定においては実績を十分に考慮する必要があるだろう。

また、アウトソーシングは委託企業と受託企業の共同作業の側面も多く、良好なコミュニケーションを持ちつつ委託分野を拡大していくことも必要だ。積極的なアウトソーシング活用は大いに検討すべきだが、具体的な導入に当たっては、慎重さが極めて重要といえよう。

アウトソーシング導入の留意点

アウトソーシングを導入する際の留意点は、前述の導入ポイントの裏返しだ。

■蓄積したノウハウへの留意

アウトソーシングをするということは、当該業務におけるこれまで蓄積してきたものを消失させることを意味する。例えば、物流部門をアウトソーシングした場合、これまで蓄積してきた物流に関するノウハウが、今後は自社に蓄積されなくなる。その分野のノウハウが消失することに問題はないかをしっかりと検討して判断しなければいけない。

■従業員に対しての環境整備

一般的に、スモールビジネス、スタートアップ、中堅・中小企業などでは、1 人が複数の業務に携わっていることが多く見受けられる。アウトソーシングを導入することによって、各人の業務に余裕が出ることになるはずだ。こうした余力を全体の生産性向上につなげなければ、アウトソーシングする意味はないだろう。そのためにも、自社の人材を一層効率的に業務に集中させる環境の整備が重要であると考えられる。

■人員の適正配置

前述の「環境整備」にも関連するが、自社従業員の業務がアウトソーシングによって効率化されれば余力ができる。余裕ができた分は、労働力をきちんと振り分ける。アウトソーシングによって事業や業務を選択し、重要な職務に集中するわけなので、人員を適正に配置しなければ意味がない。

アウトソーシング導入の際は、以上の3つの留意点にまず気を配りながら、アウトソーサーの選別などに進むとよいだろう。

戦略的アウトソーシング

単なる人件費削減のアウトソーシングと、ここで考えるアウトソーシングとの最大の違いは、アウトソーシングを通じて、経営を戦略的に転換・改善できるか否かにある。

留意点でも述べたが、アウトソーシングを通じた人員・業務の余力が、適切に生かされていないのであれば、アウトソーシングを戦略的に展開しているとはいえない。環境整備や人員の適正配置の視点などを経営サイドが明確にした場合にのみ、アウトソーシングは戦略的な取り組みとなっていく。

「組織のスリム化や経営のスピード化・グローバル化」などは、とっくに論じ尽くされた経営課題だ。人材という限られた経営資源でスリム化・スピード化・グローバル化を達成し、市場で勝ち残って行くためには、アウトソーシングを戦略的な視点からとらえなおし、アウトソーシングを通じて、コア業務に専念していくことが重要といえるだろう。

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