従業員持株会の基本と関係法令

法律への対応
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従業員持ち株制度

入社した会社に「従業員持ち株制度」があった場合、会社側はその説明会をやってくれるはずなので、ぜひとも内容の把握のために参加を勧める。自分の場合、新卒入社した会社では従業員持ち株制度を利用せず、転職先でこの制度を利用した。転職先はその当時は非公開会社だったので、狙っていたのは持ち株制度加入者向けの「奨励金」だった。福利厚生としての資産形成奨励といった位置づけ。しかも、その会社はとても上場するような環境ではなかった。

ところがその後、この転職先の会社は株式上場することになったため、従業員持ち株制度を利用していた社員と、そうでない社員の間で、驚くような資産格差ができてしまった。当時の社員は誰も「上場などできるはずがない」と思っており、従業員持ち株制度の利用者はそれほど多くなかった。人の人生の選択で「運が左右する」という現実を目の前で見た瞬間だった。

今回は、非公開会社の従業員持ち株会について簡単にまとめてみたい。

「従業員持ち株制度」とは、従業員の自社株式の取得、保有に当たって、会社が何らかの便宜を与えることにより、財産形成を奨励する制度のことだ。制度を利用して「従業員持ち株会」が組織される。

会社の厚生制度として従業員持ち株制度が採用される目的・動機および期待される効果としては、だいたいどの会社でも以下の4つが挙げられている。

  1. 従業員の貯蓄奨励・財産形成の援助:長期的な財産形成手段のひとつとして、従業員の生活設計が堅実なものとなれば、会社にとっても好ましい
  2. 従業員の愛社精神が高まる:自社株式の取得・保有を通じ、従業員は会社の経営に関心を持つようになり、愛社精神・勤労意欲の向上、ひいては生産性向上につながる
  3. 従業員の経営参加意識向上と労使間の協調を図る:従業員が自社の株主になることは、従業員と会社の利益が共通の基盤に立つことを意味するため、労使協調のために大いに役立つ
  4. 友好的な個人株主層・安定株主層を確保:持ち株会会員の持ち分が一定株数以上になった場合は会員の名義に書き換えるため、友好的な個人株主が増加する。従業員株主は、一般株主に比べ、会社にとってより友好的な安定株主

従業員退社の場合の買取り

従業員持ち株会に加入していた従業員が代謝することになった場合について触れておく。

株式非公開会社であっても、将来株式公開を予定しているのであれば問題ない。会社の株式が公開されれば、従業員株主は自らが保有する株式を市場で売却(換金)できるからだ。

しかし、会社が株式非公開のままである場合に、持ち株会の会員であった従業員が退社する際には配慮が必要だ。当該株式は株式非公開会社のものであるため、持ち株会の会員であった元従業員が株式を換金する場合は、以下の3つの方法しかない。

  • 持ち株会が買い取る
  • 会社が買い取る
  • 会社の指定した者が買い取る

従業員株主の場合には友好的な個人株主であったとしても、その者が退社した場合には会社に敵対する株主となる可能性がある。そのため、持ち株会の会員であった元従業員が個人の名義で株式を保有し続けたい意思があったとしても、上記のいずれかの方法で、当該株式を買い取る必要が生じることになる。

なお、従業員が退社する際には、従業員が購入した価格で会社が株式を買い取る旨の契約をする場合が多く見られます。この契約は判例上有効とされている。

従業員持ち株会の関係法令

従業員持ち株制度についての特別立法はない。とはいえ、従業員持ち株制度に関係がある法律はあるため、ここでいくつかの法令について概要だけ触れておく。

民法

従業員持ち株会は、民法に規定する「組合契約による組合」。会社とは全く別の組織だ。会員の持ち株会への拠出金、再投資に充当される配当金および新株払込金などは「組合への出資」ということになる。

会社法

■奨励金の支給と「株主平等の原則」

一般的に奨励金は従業員の地位に基づいて支給されるものであり、株主としての地位に基づいて支給されるものではない。そのため、株主は株主としての資格に基づく法律関係においてはその有する株式の数に応じて平等の取り扱いを受けるという「株主平等の原則」には反しないとされている。

■株主総会における議決権行使

株主総会において議決権は理事長が行使するが、各会員は総会ごとに理事長に対して特別の行使(不統一行使)をする旨指示することができる。

■株主の権利行使に関する利益供与の禁止

会社が持ち株会の会員に奨励金を支給することがしばしばある。この点が「株主の権利行使に関する利益供与の禁止」に反しないかという問題が生じる。しかし実際上は、この問題については当該持ち株会の運用実態に沿って判断されることになるだろう。

例えば、「持ち株会の独立性が保たれているか」「株券の引き出し(持ち株会から脱退)が許容されているか」「奨励金の金額が相当か否か」などによって判断される。持ち株会が従業員の「福利厚生の一環である」ということが証明されれば、この問題は解決する。

税法

奨励金は受け取り側である会員にとっては給与所得として課税される。支払い側である会社は経費(福利厚生費)として処理する。

株式の配当金は理事長名義で一括して持ち株会が受け取るが、会員がそれぞれの持ち分株数に応じた配当所得を受け取ったこととみなされる。従って、会員は自己名義の自社株式の配当金があれば、合算して確定申告すれば配当控除を受けることもできる。ただし、持ち株会が上記のように、民法に規定する「組合契約による組合」であることが要件。

この、民法に規定する「組合契約による組合」 の特徴としては、「組合員全員の共同事業を行うことを目的としていること」と「組合員全員が出資していること」が挙げられる。

労働基準法

全従業員に対し強制加入などということでなければ、労働基準法上は特に問題はないらしい。逆に、加入資格に必ずしも合理的でない制限をつけることは避けたほうがよい。 株式買取りの費用は賃金から控除するため、会社と労働組合が「賃金の一部控除に関する協定」を締結する必要がある。

従業員持ち株会のしくみ

まずは、「従業員持ち株会」の重要な性格について以下の3つをまとめておく。

  1. 従業員の中の希望者によって持ち株会を作る
  2. 持ち株会は、一般的には民法の規定に基づく組合として設立される
  3. 持ち株会は任意団体のため、名義書換えや途中引出しを認めるか認めないかなどをどのように設計するかは自由にできる

会社サイドの持ち株会は名義書換などを認めないで、退会時に取得価額で買取ることになる。これは従業員にキャピタルゲインを与えないことを意味する。一方、従業員サイドの持ち株は、名義書換などを認め、退出時の持ち出しもでき、買取価額は時価となる。

持ち株会会員の範囲

  • 持ち株会を実施する会社の従業員に限定される
  • 実施会社が資本金の過半数を支配している会社の従業員ならば、実施会社の従業員と同じように加入できる
  • 雇用期間の短い臨時従業員などは別としても、できるだけ多くの従業員を加入対象とすべきだろう

上記のように会員の範囲を広くするのがよいとはいえ、持ち株会への株式供給量に限界がある場合には、対象者をある程度限定したほうが無難。こうした対象者を限定する場合には、合理的な範囲で合理的な基準による制限を心がけなければいけない。

入会・退会

年間1~2回、所定の月に入会を受け付けるのが多い。毎月受け付けてもよいが、毎月では事務的にも煩雑になるため、年間2 回程度が一般的だという。

退会は随時できるが、一度退会した会員は原則として再入会を認めない。

拠出金

会員は、自社株式を購入するために、毎月の給与支給時および賞与支給時に一定の金額を持ち株会へ拠出する。

  1. 拠出は、給与および賞与からの控除によって行う
  2. 賞与時の拠出金額は、毎月の給与時拠出金額の3倍程度が一般的
  3. 毎月の拠出金額に上限を決めておくのが一般的

3.の上限を決めるのは「長期にわたり拠出を継続させる」「会社にとって奨励金の支給額を過度に増大させない」ための配慮からくるものだ。

また、持ち株会が第三者割当増資の際に、臨時的に株式を引き受ける際には、それが可能となる「従業員持ち株会規約」でなければならない。実際の規約づくりは弁護士など専門家のアドバイスをもらう必要がある。

奨励金

会員が拠出の際に、「福利厚生」の見地から会社が奨励金を支給するのが一般的だ。

奨励金の支給額は、拠出金額の3~10%程度という。税法上、奨励金は受取側である会員、つまり従業員にとっては給与所得として課税される。支払い側である会社は経費(福利厚生費)として処理する。

株式の購入

会員からの拠出金を一括し、自社株式を一定日に時価で購入する。株式公開前の株式買い付けは、主に以下のどちらかで行われる。

  • 大株主からの株式放出
  • 持ち株会に対する第三者割当増資

非上場株式の場合は、特殊な場合を除いては配当還元方式(1株当たりの配当金額の10倍の価格)による場合が多い。また、株式の持ち分割合(特に非上場の場合)を変えて従業員に引き受けさせる場合には、従業員の一時所得として課税問題が発生することに留意する必要がある。

■増資払い込み

増資新株式は、権利確定日現在の持ち株数に応じて割り当てられるが、有償増資の際の払込金は、各会員が毎月の拠出金とは別に拠出して払い込む。

株式の管理

購入した株式は、各会員の拠出金額に応じて配分計算され、持ち分株式として会員別持ち分明細表に登録される。配分計算では小数点以下第2~3位まで登録する。

会員は、登録された持ち分を理事長に信託する。株式の名義は信託の受託者である理事長名義になる。株券は、持ち株会が預かる。

■株券の途中引出

会員の持ち分株式が単位株以上になったときは、会員の希望により、会員の名義に書換えのうえ、単位株数で株券を引き出すことができる場合もある。

■配当金

配当金は権利確定日現在の各会員の持ち分株数に応じて配分するが、株式購入のための拠出金として拠出する。

退会時の持ち分返還

  1. 持ち分株式のうち、単位株は株券で返還するが、単位未満株は売却して現金で交付する
  2. 繰越金の持ち分は現金で交付する
  3. 持分の金銭による払戻しや持ち株会による株券買取なども考えられる

なお、退会時に会社が株式非公開の場合は上記の3.となる。

持ち株会の機関

  1. 執行機関は理事会で、その構成は理事長1名、理事若干名
  2. 重要事項の決定は、理事会の発議により会員への公告のうえ、会員の総意を反映して決定される
  3. 監査機関として、監事を1~2名おく

■管理事務

会員からの諸届け出受付、持ち分の配分計算、会員への諸連絡などの事務は持ち株会が行なう。

■会員への報告

持ち分の配分計算ごとに会員別持ち分明細表を作成し、持ち株会事務局に備えておくが、各会員宛には年2回、特定月に「会員へのお知らせ」を作成して残高を通知する。

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