事業承継:”経営”と”資産”承継の基礎

中小企業経営
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中小企業「2025年問題」

スモールビジネスの大先輩たちは「中小企業経営者」として知られている。この中小企業に起きている「2025年問題」というものがある。ひとことで言えば、事業承継問題だ。要するに、経営者が高齢化していく中、後継者が見つからない中小企業が多いということ。

2017年10月、未来投資会議構造改革徹底推進会合の資料で、経済産業省と中小企業庁が出した試算によれば、「現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる」可能性があるという。

引用:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの献上と課題

政府は、事業継承問題で雇用とGDPが大きく失われることを防ぐ対策を色々実施している。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構は「事業承継・引継ぎ支援センター」 という公的相談窓口を設置し、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談にのっている。

東京商工会議所のアンケート調査によれば、「既に後継者を決めている」経営者は、60代で約3割、70代でも約5割に留まる。また、このアンケートで「後継者は決めていないが、事業は継続したい」と回答した経営者の多くが後継者探索・確保を障害・課題と感じている。しかしながら、そう感じていてもその準備・対策に取組む経営者は少ない。目の前の仕事で精一杯、またはどこから始めたら良いのか分からないといったことも背景にあるのだろう。後継者を決定して終わりではなく、後継者の育成、承継準備にも時間がかかることを考えると、承継のハードルは年々上がっていくことになる。

中小企業のほとんどは株式未公開の同族会社。所有者が同時に経営者となっている。つまり、資本と経営が一体となった「オーナー企業」が大半だということだ。ここで言う資本とは「自社株」の所有のことであり、経営とは社長の座のこと。事業承継とは、この資本と経営とを後継者に引き継がせることをいう。


事業承継成功のポイント

事業承継を成功させるためには、次の3点に留意する必要がある。

ひとつ目は、後継者には事業経営を行えるだけの能力を持っている人を当てること。能力がないのに経営を行えば、企業はたちまち倒産への道を歩むことになり、経営者本人にとって不幸であるばかりでなく、企業の関係者(株主、従業員、取引先等)に対しても迷惑を及ぼすことになるだろう。

トップ・マネジメントの能力は、天賦の才として与えられているとは限らない。努力と経験と教育によって後天的に獲得可能だ。そこで、現在の経営者に対して、後継者をいかに有能な経営者に育成するかという問題が提起されてくる。

2番目は、事業承継に対して企業資産の散逸を防ぐとともに、組織の崩壊を防ぐ必要があること。例えば、相続税によって、事業用資産の重要な部分が喪失するようなことがあれば、企業経営は危機に瀕してしまう。また、後継者の人格に反発して、従業員が退職していけば、会社の組織は崩壊してしまうだろう。その意味で、経営者の事業内容をいかに後継者に円滑に引き継ぐかが問題になる。

最後は、引き継いだ企業において、後継者がリーダーシップをとれるだけの法律上の地位や資格を持っ必要があること。株式会社なら3分の2以上を自己の支配下に置くことが必要だ。ただし、通常の業務を行うだけなら過半数を握るだけで差し支えない。要するに、現経営者と同じ地位を保てればよいのだが、相続が発生した場合、後継者が他の相続人との関係から上記のような地位を確保できない可能性があり、安定した経営ができなくなることもある。

上記の3つのポイントを見ると、事業承継は「経営の承継」と「資産の承継」の2つに分けることができることが分かる。以下では、この2つについて述べてみたい。

経営の承継

後継者に求められる能力

事業承継者に要求される能力にはどのようなものがあるのだろうか。

中小企業庁の調査によると、後継者に必要な能力、資質のなかで、「対外交渉力」「財務管理等の計数把握力」「統率力、リーダーシップ」等の割合が高くなっている。このことから、次代の経営者には、従業員を管理・指導していく能力に加え、変化の厳しい経営環境の中で、取引先等の開拓、拡大を積極的に展開していく能力が要請される。経営者としての能力の主なものを以下に挙げてみよう。

■リーダーシップ

経営者は事業にかかわる人々をまとめ、引っ張っていかなければならない。世にいうリーダーシップだ。このリーダーシップは、次に挙げる使命感・理念・信念・判断力・決断力等が集まって発揮されるもの。

後継者(2代目)は、往々にして創業者に見られる「カリスマ性」が不足しており、将来への事業の見通し、従業員をグイグイ引っ張っていくリーダーとしての迫力の点で、創業者に一歩譲らざるを得ない。2代目は、外面的なカリスマ性よりも、事業に対する的確な判断力をもって、十分なリーダーシップが発揮できるよう心掛けるべきだろう。

■使命感・理念・信念

他人にはもちろん、後継者自身にも、承継企業の経営を自分に与えられた任務だと思い込ませ、この使命感によって、後継者の経営目標と従業員の目標とのギャップを埋めることができる。また、使命感は、ひたすら自分の職務を天職だと思い込むことによって強化され、さらにこれを分かりやすい普遍的なものにする必要がある。例えば、従業員の生活の向上に貢献するといった経営理念の形成。この経営理念によって、あらゆる行動や経験を統制し、事業経営を推進しなければならない。

経営理念によって経営を行っていくには、理念を自分のものにするという信念がなければならない。この信念は、自分の理念をひたすら信ずることによって確立されるものといえるだろう。

■判断力・決断力

経営者は、絶えず事業の置かれている状況を認識し、方針を決定しなければならない。そのためには、状況を的確に判断する力が要請される。正しい判断を下すには、その時々に応じた先見性、洞察力、創造力、知識等が基礎となる。経営者の決断の的確さが従業員の信頼を集め、リーダーシップを発揮させる重要なポイントとなるだろう。

■人格

人格には、人柄、人間的魅力、人望、信望、徳などさまざまな表現がある。人格は多くの人々を集め、かつ多くの人々が集まる磁力でもある。ネクラな性格よりもネアカな性格のほうが望ましい。ネクラな経営者だと、組織全体が暗く消極的になり、成長性がなくなってしまう恐れがある。人心を掌握していける人望がなければ、指導力も統率力も空転してしまうだろう。

■健康

適切な洞察、判断や決断を行うには、健康であることが重要。経営者の第1条件は、まず健康であることなのだ。健康であってこそ、あらゆる困難に立ち向かうことができる。健康は生まれつきの体質にもよるが、日ごろからの健康管理により、より強化することができる。

後継者の育成

事業経営を行っていくためには、上述したような経営能力が要請され、この能力を開花させていくには、教育が必要だ。

経営者にとって後継者を育成していくことは、これまでの事業経営とは異なるもの。将来必要とする経営能力は何かを判断し、それを現実の業務に関連させ後継者を育成する必要がある。後継者の育成は、経営者の責任であり使命でもある。そして、避けて通ることができないことでもある。

後継者の育成は、目的や時期をはっきりさせ、どういう教育を優先させるのか、どのくらいの期間を必要とするかを、自社の実態や後継者の状態、経営者の方針等に照らして、効率的に行うことが望ましい。

後継者の育成については、2つのケースが考えられる。ひとつ目は、いきなり自分の会社に入れて後継者として育てる方法「自社教育」。ふたつ目は、一旦、他の会社に入れ、その後自社に戻す方法「他社教育」。ここでは、学校卒業後に後継者育成を開始するという前提で、この2つのケースをみてみよう。

■自社教育

後継者が学校を卒業したら、すぐに自分の会社に入れる経営者は約半分いるそうだ。このタイプの経営者は、最初から自分の考え方を徹底的に叩き込もうとする、自信家型の経営者に多くみられる。

「自社教育」は、比較的規模の小さい企業に適している。小規模の企業は、組織よりもむしろ、経営者個人の気力、魅力で動いていることが多いからだ。自社教育の5つのポイントは次の通り。

【1】現場から始める

現場は、企業にとって収益源であり、現場の実態や仕事を通して取引先や業界の現実を肌で感じることができる。また、現場で働く人の心や雰囲気をつかむことができる。現場で得た知識、技能、体験や見聞がその後の事業経営の基礎となる。

【2】体で覚えさせる

現場での教育では、自分でいろいろ体験し、体で覚える必要がある。知識を現場で実施し、知恵となって初めて実践で役立つ。実践で役立つものは単なる知識だけでなく、経験を通した知恵なのだ。

【3】ジョブローテーション

現場での教育は単なる1部門だけでなく、営業、生産、経理、総務等幅広く経験することが望ましい。これは、各部門の実務能力が養われるだけではなく、会社全体の業務の実態が把握でき、かつ同時に各職場の人間とも親しくなる機会となるからだ。

【4】新規事業部門を任せる

新規事業があればこれを任せるのもよいだろう。ある種の「創業体験」ができ、経営者としての能力を身につける絶好の機会となるはずだ。

【5】創業者の側近に置く

マン・ツー・マン教育だ。創業者の傍らに置き、行動様式、経営理念、人の使い方等を覚えさせる。この優れた点は、創業者の人格や信念を直に学べることだ。創業者の「判断基準」の背景を深く知ることができるようになる。

■他社教育

「かわいい子には旅をさせよ」といわれるように、後継者に社会の広い知識を学ばせるために、他の会社に入れることがある。他社教育のメリットは何よりも、自社教育に比較して広い視野ができることだ。他社教育の3つのポイントは次の通り。

【1】業種の選択

他社教育をするのに「同業種」か「異業種」か、どちらを選ぶかを考えよう。

  • 同業種:他社教育では、同業種、関連業種を選ぶことが常識的な選択だ。自社の属する業種の実態については、ある程度の知識を持ち合わせており、自社に戻ってからも継続的な勉強が可能。しかも業務関連での幅広い人脈を作る点において、同業種での修業は有効。ただし、競合関係が心配される先での教育は避けるべきだろう。
  • 異業種:変化の激しい時代を生き抜くためには、事業の多角化も需要な経営戦略の一つとなる。こうしたケースに対応するために、同業種にこだわらない異業種での教育も長期的には必要。異業種教育は、新規事業等の展開に当たって広い人間関係の形成に役立つこととなる。

【2】規模の選択

他社教育では、相手先の規模に留意が必要だ。相手先が大手企業の場合、確かに組織や管理体制は整っているが、短期間の就業では末端業務の経験しかできず、後継者として役立つノウハウを体得することは難しいだろう。

教育には「ふさわしい規模」があると考えたほうがいい。その目安は、将来成長して、目標とすべき規模の会社とするか、あるいは自社よりも1ランク上の社風の厳しい会社とするのが理想だ。

【3】他社教育の期間

期間は最低5年から8年がよいだろう。一般的にいって、入社3年間くらいはまだ平社員か早くても主任・係長クラス。最初の3年で、戦力の基礎となる末端の仕事や知識をおおよそ身に付けることが可能だ。その後、課長などの実質的なマネジメントとしての責任や権限が与えられ、問題処理能力やリーダーシップ能力等、後継者として必要な能力を体得していくチャンスが与えられる。

資産の承継

事業承継の一方の柱は「資産承継」だ。資産承継とは、自社の経営支配権(株式)をいかに後継者に引き継がせるかということ。その手始めとして、自社株の評価が問題となる。株式を公開していれば、株価は市場で決まってしまうが、未公開株式は取引相場がない。

オーナー経営者の相続・贈与等についての自社株の評価は、国税庁の「財産評価基本通達」が基本となる。国税庁は「法令解釈通達」として財産評価についても公開している。ここの第8章「その他の財産」第1節「株式及び出資」に、未公開株に関する「取引相場のない株式の評価上の区分」や、「取引相場のない株式の評価の原則」など、必要な項目が書かれている。

取引相場のない株式の評価方法

国税庁の「財産評価」に書かれている要点だけまとめておこう。

■会社の規模により区分がある

取引相場のない株式の価額は、その株式の発行会社の事業規模の大小に応じ、方式が異なる。細かい条件は「取引相場のない株式の評価上の区分」で具体的に書かれているが、ざっと以下のイメージだ。

  • 大会社:従業員70名以上で、純資産が15億円以上(業種による)
  • 中会社:従業員70名未満で、純資産が5000万円以上(業種による)
  • 小会社:従業員70名未満で、純資産が5000万円未満(業種による)

■区分により評価方式が異なる

上記で区分された大会社・中会社・小会社ごとに評価方式が異なる。詳細は「取引相場のない株式の評価の原則」に記載があるので、イメージだけまとめておく。

  • 大会社:「類似業種比準価額方式」。ただし、「純資産価額方式」による評価額のほうが低いときには、その評価額によることもできる。
  • 中会社:「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」との併用方式。ただし、「純資産価額方式」による評価額が低いときには、その評価額によることもできる。
  • 小会社:原則として「純資産価額方式」だが、「純資産価額方式」と「類似業種比準価額方式」との併用方式も選択できる。

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