営業マネジメントを改善する

営業/販促
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業務のバランスが重要

以前のコラムで書いた通り、社会人になった最初は営業職としてスタートした。いわゆる営業職への就業人数は、2001年から2018年の間に100万人以上減少したらしいが、だからといってこの職種がなくなることは当面考えられない。

野村総合研究所と英国オックスフォード大学の共同研究で実施された「人工知能(AI)やロボットで代替可能な職種」の調査結果では、営業職は「AIが発達してもなくならない仕事」の典型例だった。野村総合研究所には仲の良い知己が何人もいるが、彼らはかなり強烈な営業パーソンだ。

今回は、営業をうまくマネジメントすることについて考えてみたい。

担当業務の分類

営業の業務は、自社の商品やサービスを販売することだ。そのために営業担当者は顧客と良好な人間関係を構築し、プレゼンテーションを行い、また取引条件や価格などについて交渉を行う。このように営業担当者が行う業務は多岐にわたるが、大きく分類すると以下の3種類になるだろう。

■定期業務

  • 既存顧客の維持、深耕化のための業務
  • 新規顧客を獲得するための訪問活動など

■戦略業務

  • 販売目標を達成するための計画立案
  • 顧客ニーズの把握と商品・サービスへの反映

■そのほかの業務

  • クレーム処理
  • 冠婚葬祭の出席
  • 販促活動(旅行、ゴルフ、接待など)
  • 研修への参加

定期業務に時間を取られる

分類した業務のうち、定期業務は既存顧客と見込み客への訪問活動に代表されるもので、営業活動の基本。だたし、一口に訪問活動といっても、その内容は以下の例のようにさまざまだ。

  • 既存顧客の維持と深耕化:定期的な新商品やサービスの提案/既存サービスの問題点把握など
  • 新規顧客の獲得:見込み先の訪問/アライアンス先、同業他社との情報交換など

実は、こうした定期業務をより有益なものとするためには、戦略業務がポイントとなる。定期業務の前準備として、あるいは並行して戦略業務をしっかりと行うことが重要だ。しかし現実は、多くの営業担当者が、戦略業務をないがしろにしたままで、定期業務に必要以上の時間をとられているはず。

営業の成果は客観的な数値で表れるため、営業担当者に課せられる目標は「今年度上期に、既存顧客との取引額を○%増加、新規顧客を○○件獲得」といった具体的なものとなる。目標が具体的なのは非常に好ましいが、問題は目標を達成するためのプロセスがあいまいなままであることだ。

さまざまな種類の営業職が存在しているが、結局、営業は「売ってナンボ」の世界。営業担当者はそのことをよく知っていると同時に、目標達成のプレッシャーを常に感じている。こうした意識は心の焦りへとつながり、見込み客のランク付けもせずに、1件でも多く電話しなければならない、1回でも多く訪問しなければならないと考えるようになってしまう。

結果として、営業担当者は定期業務にかなり時間を取られるようになる。もちろん、多くの見込み先にアプローチすることは大切だが、これは成約の可能性が高かったり、訪問ルートが効率的であったりする場合にいえることで、手当たり次第やればいいというわけではない。

定期と戦略の業務バランス

目標を達成するためには、前述した定期業務/戦略業務/そのほかの業務のすべてが必要だが、冷静に考えればまず第一に取り組むべきことは「戦略業務」となるだろう。

営業マネジャーは、定期業務の効率化を図り、戦略業務に多くの時間をかけるように営業担当者を指導しなければならない。例えば、顧客に課題解決策を提案する「ソリューション営業」では、戦略業務として「アカウントプラン」策定と、その定期的な振り返りに一定程度の時間をかける。とはいえ、戦略業務に必要以上の時間をかけることは、逆に定期業務の遂行を妨げる結果となってしまう。

そのため、営業マネジャーは営業担当者に対し、営業の販売目標を与えると同時に、それを達成するためには定期業務と戦略業務の時間配分が重要であることを伝えなければならない。これをおろそかにすれば、前述したように定期業務に必要以上の時間を割かれる事態となってしまう。

ただし、社内の営業体制を営業マネジャーだけの力で変革していくには無理がある。そのため、全社的に営業体制の見直しに着手することが好ましい。実際、SFA(セールフォースオートメーション)などの支援ツールを導入するなどして社内の営業効率化を図った企業では、営業担当者が定期業務に必要以上の時間をかけることがなくなり、代わって戦略業務に多くの時間を費やすことで営業成果が向上するなどの効果が表れている。


営業にありがちな問題点

営業担当者の日常業務における問題点を考えてみよう。営業担当者の行動には、解決の難しい複雑なものが多くある。この問題は業種、業態、規模の大小を問わず、同じ問題または似たような問題が、多くの企業の営業担当者の行動に発生している。極論すれば、営業担当者の抱える問題点は10年前も、20年前も同じだということだ。

■ありがちな6つの問題点

  1. 1日当たりの平均訪問件数が少ない
  2. 与えられた得意先で訪問していない先が多く、訪問先に偏りがある
  3. 新規開拓をしていない
  4. 雑用、労務提供に翻弄される
  5. 行動計画を立てるが、計画通りに行動できない
  6. 社内作業が多い(資料作成、会議、研修など)

上記の6つの問題点について、ひとつずつ解きほぐしてみよう。

■1日当たりの平均訪問件数が少ない

営業担当者の訪問件数が増えない主な理由として、上記4.の雑用、労務提供に翻弄されるや、6.の社内作業が多いなどを挙げることができる。とはいえ、例えば営業支援体制がしっかりしており、雑用や社内作業の問題がすべて解決し、訪問する時間が十分にあったとしても、不思議なことに営業担当者の訪問件数は増えないというケースが多い。

理由はシンプル。多くの場合営業担当者は、先輩や同僚の仕事振りを横目でみながら、同じことをやっているからだ。社内で1、2を争うトップ営業担当者の先輩を見習えばいいのに、たいていは、訪問件数の少ない、数字のあまり上がらない平凡な先輩や同僚を手本にする。

その結果、下手すると、昼食後にコーヒーショップで1時間も休憩する営業担当者が大量に生産されることになり、そのような営業担当者が次代を担うはずの新人営業担当者のお手本となることが繰り返されてしまう。悪循環だ。

しかし、これらの事実は決して彼らが悪いわけではない。特に新人の営業担当者は、訪問をしたくても、どのように訪問したらよいのかが分からない。つまり、会社側が具体的かつ実践で通用するように営業職の専門教育をしていないことにも問題があるのだ。教育されなければ、先輩を手本に見よう見真似するしかない。

■与えられた得意先で訪問していない先が多い

得意先を訪問しないのは、営業担当者が、それらの得意先を訪問しても実績が上がらないと勝手に判断しているのか、その得意先を訪問するのが嫌なのかのいずれかだろう。「訪問恐怖症」だ。

得意先の訪問を営業担当者の判断に任せたままにしておいたために起きる事態といえる。1カ月に1度(2週間に1度)は顧客を訪問する、または顧客の重要度に関しては電話で必ず連絡するなどの方法を取りシステム化し、営業マネジャーが一元管理できる仕組みを整えておけば、この問題は少なからず解決できる。

■新規開拓をしていない

新規開拓がおろそかになるのは、ある意味当然のことといえるだろう。既存顧客を十分に訪問しない営業担当者が、見ず知らずの見込み先を積極的に開拓をするわけがない。しかし、これは会社にとっては大きな問題。常に新規開拓をしていかなければ、売り上げや利益はいつまでも既存顧客との取り引きからしか生まれなくなる。

最近は、長年の付き合いによ取引慣行をドライに見直す風潮だ。何年もお付き合いいただいている既存顧客から、突如、取引停止を言いわたされることも珍しくない。新規開拓の重要性を、営業担当者は理解していないのかもしれないし、あるいは、理解していたとしても「どうせ断られるだろう」との諦めと訪問恐怖症から行動に移すことができずにいるのかもしれない。

営業マネジャーは営業担当者に有力な新規見込み先の見つけ方とアプローチ方法を教育しなければならない。「新規を獲得しろ」と会議で号令をかけるだけで新規開拓できるのならだれも苦労はしない。

■雑用、労務提供に翻弄される

スモールビジネスで起こりがちな話だ。当然、営業担当者の中心業務は「営業活動」であり、基本業務や戦略業務に多くの時間を割り振るべき。しかし、一人の従業員がさまざまな業務を担当することになるスモールビジネスの営業担当者は、突然、雑用を頼まれたりすることがある。もちろん、これもれっきとした業務の1つではあるが、営業担当者の行動予定の中には雑用などに要する時間が含まれていない。

営業成果の向上を目指すうえで、営業マネジャーは、ある程度は営業担当者の行動を把握しておかなければならない。仮に、営業担当者がさして重要でない雑用や労務提供に多くの時間を取られているようであれば、営業マネジャーはその体制を見直す必要がある。

■行動計画を立てるが、計画通りに行動できない

ある営業担当者は1週間の行動計画表を作成したものの、突如、顧客からクレームが2件続けて入り、結局、計画通りに行動することができなかった。営業担当者はクレーム処理のため、行動計画を実行できなかったと報告書に記入した。こういうことが起きると、営業マネジャーは、「なぜ計画通りに行動できなかったのか? 計画が甘かったのではないか?」と営業担当者に質問するだろう。あるいは少し視点を変え、計画通りに行動できなかったことで問題点が明らかになるのだから、失敗は成功の元としようと考えるかもしれない。

計画通りに実行できない営業担当者の場合、「この仕事がつまらないんだな」と考えたほうが解決できる可能性が高い。人間は、仕事でもプライベートでも、自身が「面白い、楽しいと感じ、関心を強く持っている」ことであれば、計画に横やりが入ろうが、計画を一時的に中断させることが起きようが、頑張って調整して計画通りに実行しようとするものだ。

営業の仕事を面白いと営業担当者に感じさせるには、成果やプロセスを誉め、喜びを共有することが大切だ。

■社内作業が多い(資料作成、会議、研修など)

計画通りに行動できない営業担当者は顧客からの電話、営業マネジャーからの指示がないと訪問活動を行わない。また、書類作成、会議、研修による時間の無駄遣いがあることが多い。これらの作業は無駄ではないが、営業担当者の中には言い訳のためにこの作業に没頭するタイプがいるのも事実。

本来ならば、提案書と格闘した後には必ず商談先での格闘があるべきだが、提案書とばかり格闘しているのではセールスにつながらない。営業マネジャーは社内作業が営業活動そのものに活かさせる環境に配慮する必要がある。

営業マネジメントの改革

営業マネジャーが目標達成方法を決め、それを部下である営業担当者に的確に伝えたとしよう。営業担当者もそれを納得したが、進めるに当たって営業担当者の能力不足が明らかになったとする。その場合、営業マネジャーが営業担当者の能力を向上させるよう細かく具体的に指導しなければならなくなる。

目標達成のために何軒かの新規開拓をしなければならない時、新人の営業担当者に「今期は5つの新規開拓をせよ」と指示するだけでは、未体験の仕事であり、進め方がよく分からないため、結局やらないという結果になってしまいがちだ。この場合、営業マネジャーが新規開拓の進め方を手取り、足取り、丁寧に教えることが必要。しかし、営業マネジャーが新規開拓の進め方をよく知らなければ、部下にそれを教えることができないことになる。

こうなると営業担当者は、「実は上司の実力はたいしたことがない」と考えるようになってしまうだろう。以降は、営業マネジャーが指示しても営業担当者はその指示には従わなくなってしまう。これは大きな問題で、営業成果が上がらないばかりか、社内のパワーバランスまでが崩れてしまう。このようなことが起きた場合、営業マネジャーと営業担当者の教育を速やかに実施することが先決。たとえそのために日数がかかり、売上が少々ダウンしても、教育を優先して実施したほうが将来につながるはずだ。

実際にやってみると分かることだが、教育に時間を割いても売上はそんなに落ちない。会社の発展を考えるなら、よほど業績が悪くない限り、1年間くらいは売り上げの伸びを意識的に横ばい程度にとどめ、むしろ内部管理体制を強化したほうがよいという場合もある。

営業マネジャーと営業担当者の教育は、人事部門に任せ切りにせず経営者自らが先頭に立ち、営業幹部を巻き込みながら行うほうが効果的だ。営業のマネジメントを改革するつもりなら、以下に挙げたポイントを押さえながら徹底的にやることが重要だ。

  • 営業担当者個人だけでなく部門全体の能力向上を考える
  • 目標達成のために営業担当者はどこへ行き、そこで何をするかを明確にし、能力不足でそれがこなせない営業担当者を教育する
  • 仕事の効率化をはかり営業担当者に時間の余裕を与えてやる
  • 低成長時代は成果と労働時間は比例しない
  • 集合教育を重点的にやりマネジャーのOJTは後回しにする
  • 集合教育の研修プログラムを体系的に作成し継続的に行う
  • 一般論の教育は後回し
  • 自己啓発の場を会社が提供する
  • 週に2日は定時に退出させる

身も蓋もない話をしてしまうと、営業が嫌いな社員を営業担当者にしてはいけない。好きこそものの上手なれだ。あまり売上が上がらなくても「営業が好きだし楽しい」という営業担当者は、長い目で育てる心構えが必要だ。


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