真っ当なコストダウンの実践

業務改善
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目的は利益と生産性

「どんなに頑張って売上を伸ばしても利益がでません」という状況は本当に最悪だ。徹夜して働いた従業員に業績賞与として利益還元できない会社は、そのうち消えてなくなる運命だと思って間違いない。

利益を出すためのコストダウンは、会社経営における最重要なテーマのひとつ。コストダウンに取り組まない会社は皆無だ。しかし、当初の計画通りにコストダウンを実現できている企業はそれほど多くないのが現状だといわれる。また「単なるコストの削減」に成功しても、その一方で「従業員のモチベーション低下」といった弊害が生じている例もある。

コストダウンに失敗している企業に共通して見受けられるのは、コストダウンを「最終的な目標」とするという姿勢だ。これは明らかに間違っている。コストダウンは、あくまでもより多くの利益を得るための取り組みのひとつにほかならない。

企業はより多くの利益を得るために、新商品の企画・開発や、新規取引先獲得のための営業活動などを行う。コストダウンもこれらと同様に、利益追求の取り組みのひとつに過ぎないということを肝に銘じなければならない。コストダウンとは、より少ない費用で、より多くの利益を上げるための取り組みであって、それ自体が目的ではない。

究極の手法は活動停止か

コストダウンを最終目的とするなら、最も効果的なコストダウン方法は明白だ。それは、企業が活動を止めてしまうこと。コストは企業が活動を続ける限り必ず発生するものなので、その活動自体を止めてしまえばいい。このことは、何度も「びじぱぱ□ノート」にご登場いただいている ”経営の神様” P.F.ドラッカー氏も明言している。

コスト削減の最も効果的な方法は、活動そのものをやめることである。コストの一部削減が効果的であることは稀である。

引用:ドラッカー名言集「経営の哲学」

コストダウンの究極的な考え方は企業がその活動自体を止めてしまうということだが、これでは企業の存在そのものが消滅する。企業が存在しなければ、いかなる経営努力も意味を持たなくなってしまうため、企業はその活動を継続しつつ、「真っ当な」コストダウンに着手して企業力を高めていかなければならない。

真っ当なコストダウンとは、経営者の単なる思いつきで従業員に無理強いする「けちけちキャンペーン」のようなものではなく、生産性を高めることにつながるコストダウンのこと。企業の活動は利益の源泉である一方でコストの源泉でもある。しかも、すべての活動が同量の利益とコストを生み出すわけではない。そのため、意識的に利益を生む活動に力を入れ(コストをかけ)、利益を生まない活動を見直す(コストを削減する)ことが真っ当なコストダウンの基本姿勢となるだろう。


コストダウンの確認事項

真っ当なコストダウンを実施するためのカギになる「問い」は、以下の2つだけだ。

  • 本当にコストダウンが必要なのか
  • どこに無駄なコストがあるのか

上記を踏まえ、真っ当なコストダウンを推進するうえでぜひとも確認しておきたい事項を整理すると、以下の5点集約される。それらを個別に見ていこう。

  1. 対象は利益を生まないコスト
  2. 全社で取り組む
  3. 計画的に取り組む
  4. 無茶しない
  5. チェック機能をつける

対象は利益を生まないコスト

最初に確認すべきは、対象が利益を生まないコストを対象としたコストダウンであることだ。

企業活動には必ずコストがともなうが、その中には多くの利益を得るために不可欠なコストもある。必要なコストを無理に削減すると、短期的なコストダウンには成功するものの、その後の事業活動に支障をきたしてしまう。これでは、利益向上という最終目標から遠ざかってしまうだろう。

仮に、IT投資に今の1.5倍のコストをかければ、従業員の作業効率が上がり、結果として2倍の利益が期待できるとしたらどうだろうか。利益倍増が見込めるにもかかわらず、コストダウンの名のもとにIT投資を見送る会社に対し、その経営判断は間違っていると周囲は考えるのではないだろうか。

コストダウンは本当に必要性がある部分に集中的に取り組むべきもの。企業活動には必ずコストがともなうが、その中には多くの利益を得るために不可欠なコストがある。コストダウンの対象は、利益を生まない部分に限定することに留意すべきだろう。

全社で取り組む

次に確認すべきは、全社的に取り組むコストダウンであることだ。

過去のさまざまな失敗事例から、コストダウンは、社内の一部だけで推進しても大きな効果を期待することができないといわれている。たとえ、コストダウンが特定の部課だけで開始されることになったとしても、経営者、幹部社員はもちろんのこと、すべての従業員がコストダウンの意識を持つことが重要だ。

全社的にコストダウンの意識を根付かせるためには、経営者が率先して取り組む姿勢を示さなければならない。従業員にコストダウンを指示する一方で、経営者が明らかにムダ遣いをしていては、コストダウンの意識が社内に浸透するどころか、逆に「なぜ、自分達だけ苦しい思いをしてコストダウンに取り組まなければならないのか」といった反感を生むことになる。

コストダウンは全社的に取り組むべきものであり、そのためには経営者が率先してコストダウンの姿勢を示さなければならない。

計画的に取り組む

計画的に取り組むコストダウンであることを確認しておきたい。

コストダウンを実施する際に問題となるのは、コストダウンの数値目標が明確でない場合が多いということ。コストダウンに取り組む際は必ず、「どのコストを、いつまでに、何%削減する」といった計画が必要だ。さらに、計画を達成するための具体的な取り組みとして、「一つの商品の製造原価を何円下げればよいのか」といったレベルにまで落とし込んで検討することが欠かせない。

具体的な計画が立案されることで、社内のコストダウンに対する意識が高まり、何に着手すればよいのかが明確になる。

無茶しない

目標や計画を見て、無茶なコストダウンではないことを確認しておこう。

コストダウンは「徹底的に」取り組むほうが大きな効果を期待することができるといわれている。コストダウンをテーマにした書籍を読むと、「達成困難な目標」を設定することがコストダウン成功の重要な要素と紹介していることがある。

しかし、徹底的なコストダウンを間違えて理解し、目標達成が困難というレベルを通り越して、「無茶」な目標を立てることは避けなければいけない。「無茶」なコストダウンであっても、経営者が先頭に立てば、従業員はそれに従わざるを得ない。

明らかに現実離れした「無茶な」コストダウンは、一生懸命にそれを達成しようと努力する従業員に相当な負荷をかけることになってしまう。過大な負荷がかかった状態で、従業員の生産性が向上するはずがない。コストダウンは、計画に基づいて全社で徹底して取り組むべきものだが、その目標は、あくまでも「困難ではあるが達成可能なレベル」に設定する必要がある。

チェック機能をつける

最後に確認すべきは、チェック機能のあるコストダウンであるかどうかだ。

コストダウンは最終目標ではなく、利益追求のための取り組みのひとつ。そのためコストダウンは、「やりっぱなし」で終わらせるべき類のものではない。また同時に、計画通りの効果を上げなければならないものともいえる。

実効性の高いコストダウンを継続するためには、定期的に効果をチェックすることが不可欠だ。例えば、1カ月後、3カ月後、半年後、1年後などの一定期間で、「コストダウンの目標は達成されたか?」、「達成されなかった場合、どこに問題があったのか?」を確認する。もし、光熱費のコストダウンが目標に達しておらず、その原因は「帰社時の消灯」という社内ルールを従業員が守っていないせいだとしたら、再度コストダウンの意識を周知する必要があるだろう。

コストダウン実践ポイント

コストダウンには失敗例も多いが、その逆で、経営危機に陥った会社が「真っ当なコストダウン」により復活した例もある。真っ当なコストダウンを実現した事例を調べると、その実践において、以下の6つのポイントがあることが分かる。ここからはそれらを詳しく見ていこう。

  1. 分析による無駄コストの発見
  2. 計画立案と目標の設定
  3. 「当たり前」意識の払拭
  4. 従業員と危機感の共有
  5. 継続的な取り組み
  6. 取引先を巻き込む

分析による無駄コストの発見

コストダウン実践に際し、最初にやるべきは、現状を分析して無駄なコストを見つけることだ。これまで説明してきたようにコストは企業のあらゆる活動から生じるものであり、中には必要なコストもある。コストダウンの対象は不必要なコストであり、決してすべてではない。

そのため、コストダウンに取り組むうえで、まず第一に着手すべきことは社内の業務、状況を改めて確認し、そのうえで削減の対象とすべきコストを明らかにすることだ。コストを整理する方法は、各企業の業種、規模などで異なる。

人件費にメスを入れる際は、「無駄な残業代の抑制」などから着手することが前提であり、当初から基本給見直しなどの賃下げを断行することは極めて危険といえる。従業員をコストとして考えるのではなく資産としてとらえたほうが生産性向上に寄与する場合が多い。

計画立案と目標の設定

コストダウンの対象とすべき無駄なコストが発見されたなら、そのコストについて、「いつまでに、どのような手法で、どのくらい削減する」といった計画と目標を立てる。このことは、確認事項のうち「計画的に取り組む」でも紹介した通り。

具体的な計画が立案されることで、スケジュール感や実際の数字が共有され、社内のコストダウンに対する意識が高まるはず。実践するに際し、いつから何に着手すればよいのかが明確になってくる。

「当たり前」意識の払拭

人間には、慣れ親しみ愛着のある現状に執着し、先の見えない新しいものには拒否感を示す傾向がある。これは自然なことだ。そのため、コストダウンという新たな取り組みに対して、「なぜ、今まで通りではいけないのか?」といったような心理的な抵抗感を示して真剣に取り組もうとせず、結果的に十分な成果が得られないことも少なくないという。真っ当なコストダウンを推進するうえで、こうした従業員の心理的な抵抗を払拭することは不可欠だろう。

その際に経営者が実践すべきことは、従業員に、これまでの「当たり前」に対する疑問を生じさせること。例えば、接待がなければ新規営業先など獲得できるわけがないと考えている従業員の「当たり前の意識」を改革する。

ただし、「今日から接待はするな!」との号令だけでは従業員の「当たり前の意識」を払拭することはできない。大切なのは、無駄な接待があることを従業員自らに考えさせること。自社の商品には競争力があることをキチンと説明できるとか、提案力が高ければ、接待などしなくても新規の取引先を獲得することができる。こういった「気付き」が意識を少しづつ変えていくはずだ。

従業員と危機感の共有

コストダウンを進めなかった場合に想定される最悪のシナリオを示し、全社的に危機感を共有する。たとえそれが「売り上げ減少、賃金カット」など厳しい内容であっても、できる限り正確な情報を従業員に伝え、危機感を共有したほうがいい。コストダウンを進めなかった場合の最悪のシナリオを従業員が理解すれば、全社的にコストダウンに取り組む原動力となるはずだ。

また、従業員にのみ危機感を抱かせるのではなく、経営陣もそれ以上の覚悟でコストダウンに取り組まなければならない。従業員がこまめに電気を消すなどコストダウンに取り組んでいる隣で、経営陣が交際費を湯水のように使っていたり、経営者と親密であるという理由で割高な外注先を変更しないまま関係を継続させるのでは意味がない。経営陣も危機感を持ち、率先してコストダウンの行動で示すこと以外に、従業員に実感としての危機感を伝える方法はない。

国内の有名なコストダウン成功事例では、計画で掲げた複数のコストダウン目標のいずれか一つでも達成できない場合には経営陣全員が辞任すると公約した。コストダウンに対する経営陣の確固たる決意を内外に示すと同時に、責任を明確化することで従業員や取引先と危機感を共有した。

継続的な取り組み

コストダウンの原則は継続して取り組むことだ。「やりっぱなし」や、一時の全社的な努力でコストダウンが実現しても、期間終了後に元の状態に戻ってしまったのでは意味がない。そのためコストダウンは、事前に立てられた計画に基づいて進められ、一定期間ごとにその効果を検証できるものでなければならない。

継続的な取り組みを実現する最もシンプルな方法は、PDCAサイクルの活用だ。PDCAサイクルとは、計画(Plan)→ 実施(Do)→ 確認(Check)→ 対策実行(Action)といったサイクルを継続的に運営することを指す。このPDCAサイクルに取り組むことで、社内のコストダウンに向けた意識を高め続けることが可能となる。

コストダウンの効果を確認した後は、その結果を従業員にフィードバックするといい。コストダウンはそれなりの痛みをともなうものであり、そのことに心理的な抵抗を感じる従業員をフォローしなければならないことは前述の通り。「皆が協力した結果、コストダウンに成功した」という喜びを従業員に伝えて共有することは、社内の結束をさらに強める効果があるだろう。

取引先を巻き込む

コストダウンは広い視野で取り組まなければ効果が半減する。そのため、社内にだけ目を向けるのではなく、取引先なども巻き込んだものとすることが重要だ。

ただし、取引先を巻き込むということは、取引先に無理な値下げを要求し、要求に応じない取引先との契約を解除すればよいわけではない。自社にとってより条件のよい取引先を見つけて提携することは欠かせないが、それだけでなく、社内の意識共有と同じように、取引先とも危機意識を共有することが重要となる。

「事前の無効宣言」はダメ

いざコストダウンに取り組もうというときに、「何から着手してよいのか分からない」「できるだけこれまでの体制を維持したい」という弱気な発想をしてしまうことが少なくないという。

このような考えで正しいコストダウンが実現できるはずはない。国内の成功例の大半は、コストダウンを強固な意思と結束力の下で推進している。コストダウンは痛みをともなう行為だが、経営者、経営幹部、従業員の姿勢を問いただし、より強い会社への一歩を踏み出すきっかけともなるといわれる。

最後に、再びP.F.ドラッカーの言葉を紹介しておこう。

コスト削減キャンペーンのほとんどが、いかなる活動いかなる部門も廃止しないというマネジメント宣言から始まる。これは、キャンペーンの事前の無効宣言に等しい。その結果、重要な活動は損なわれ、重要でない活動は数か月後にはもとのコスト水準に戻る。

引用:ドラッカー名言集「経営の哲学」

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