ERP:統合基幹業務システム入門

デジタル活用
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ERPの概要

情報通信の世界は、3文字略語であふれている。社会に出てビジネスの世界に飛び込むと、ERP、CRM、DWH、SFA、BPMといった3文字略語に対して反射的に「あれのことだね」と分かる必要が出てくる。なぜなら、情報通信は、効果的・効率的にビジネスを展開するために必須のインフラだからだ。そもそも業界のことを「ICT」という3文字略語で呼んでいる。

今回は、最も耳にしそうな「ERP」に触れてみたい。

ERPとは、エンタープライズ・リソース・プランニング(Enterprise Resource Planning)の頭文字をとったもので、そのまま訳せば「企業の資源計画」となる。日本では「統合基幹業務システム」や「統合業務パッケージ」とも言われるため、何のことかサッパリ分からなくなる。

普通に考えたら「統合基幹業務システム」は、Integrated Business Application Systemsと英語表記しそうなものだ。誤解を恐れず、この分かり難さを解釈すると、ERPというのは「考え方」なのに、それを「製品・サービス」に使っているから混乱を招いてしまうのだろう。

現実に使われている「ERP」を簡単に説明すると、会社の「財務会計」「管理業務」「生産業務」「販売業務」などの企業の基幹業務を一つにまとめ、リアルタイムな管理を行う情報システムをパッケージ化したものを示している場合が多い。「経営資源を一元管理する」のがポイントだ。これより、各部門の業務を最適な状況に保つことを目的としている。

ERPという考え方が登場する前は、規模の大きな企業などでは、各部門の実状に合わせて 「財務会計」「管理業務」「生産業務」「販売業務」 システムを独自に構築してきた。そこに「ERPベンダー」と呼ばれるソフトウエア開発会社がモデル化したパッケージが登場し、複数システムで各々管理されていた経営資源を一元管理できるようにしたのだ。

経営資源を一元管理するメリット

ERPを導入することによって、例えば、「生産部門での部品在庫の発注手続き」→「生産部門から調達部門への手配」→「調達部門から物流部門への連絡」→「発注書の作成」→「会計への登録」といった一連の業務のほとんどを同時に行うことが可能になる。業務効率が上がるとともに、スピーディーな財務会計、管理会計が実現する。これを実現するためには、関連する基幹業務全般にERPを導入することが必要となる。

経営の解析においては、個々の帳票の情報までたどることが重要であり、その結果として会社の経営資源をどのように有効に配分していくかという計画への発展に役立てることが大事といわれる。ERPでは、これをリアルタイムで、しかも徹底的に計数管理を実現することが可能になる。

もともとERPは製造業を中心に導入されていたが、今では適用される業種も広がってきている。

パッケージ化のメリット

ERPは既にパッケージ化されたシステムを導入するので、何もないところから独自に作り上げるよりもコストが安く、かつ短期間で稼動させることができる。「開発する」というより「設定する」といったほうが近いイメージだ。また、導入後にはERPベンダーに運用をアウトソーシングする形になり、情報システム部門の人員を最小限に抑えることができる。独自に作り上げるシステムとの決定的な違いだ。

近年、「製品の多様化」「業界慣例の変化」「業務提携の増加」など、企業の業務が複雑化しているうえ、これらの意思決定にはスピードが求められている。そのため、企業にとって、システムを最初から独自で構築するより、短期間に稼動させることが可能なERPにメリットがあるといえる。

さらに、ERPベンダーによるシステムは、多くの企業の業務管理におけるノウハウにより培われており、機能追加や改良がずっと継続している。ERPを導入することによって、他社のノウハウを吸収し、自社にとって業務革新につながる可能性もある。

以上のようなメリットから、新たに情報システムを導入しようとする企業や事業所がERPを採用したり、自社で構築してきた情報システムをERPに置きかえるところも出てきたのだ。

知っておきたいデメリット

ERPは他企業のノウハウが培われている一方で、パッケージ化したシステムを使うため柔軟性に限界もある。もちろん、各企業のニーズに合わせてシステムをカスタマイズすることは可能だが、自社特有の業務の長所をうまく生かしきれない場合もでてくる。

現実問題として、生産・販売・営業・管理などの各業務は業界ごとに特徴があるだけでなく、企業によっては独特の手法を採用していることも少なくない。こういった「独特」の部分を付け加えるために「アドオン開発」が実施されるが、一歩間違えると、そもそものメリットだった短期間での稼働とか、せっかくのパッケージ機能追加が利用できないという事態に陥る。

ERPの導入の最大の利点は、「経営資源の一元管理」により会計処理の簡素化が可能なことと、経営情報の正確な把握による迅速な意思決定など、経営戦略に対する貢献にある。しかし、これを実現するために企業の実状に合わせて最適化されたシステムを導入しようとすると、結果的にパッケージングされた画一的なERPでは適さないこともでてくる。この辺りのバランスをいかに取るかが重要になってくる。


ERP導入の基礎知識

ERPはもともと欧米で発達・普及してきたものだ。有名な「SAP」と「オラクル」は、どちらも最初のシステムは欧州でつくられた。1990年代の中盤から数多くの海外ERPソフトウエア開発会社が日本に参入して、市場を拡大してきた。また、日本のERPの市場が急激に拡大してきたことを受け、富士通、NEC、日立製作所をはじめ、会計システムで有名なオービック、日本の人事給与に特化したワークスアプリケーションズや、クラウド型ERPで急成長したオロなど、多くの国内企業が参入している。

今では従業員100名以内の小規模事業向けのERPから、世界中で事業を展開する大企業向けERPまで、とにかく幅広い選択肢がある。基礎知識をまとめるにあたり、「ERPコンサルタントやインテグレーターと呼ばれる専門家の支援が必要な場合」を想定してポイントを述べることにする。どの規模を想定するかで、導入事情がまったく異なることを知っておいてもらいたい。

導入委託先と特徴

一般的に企業がERPを導入しようとする場合、ソフトウエアからハードウエア、運用にかかわるコンサルティングに至るまで一括して提供するシステムソリューション企業に委託し、支援をお願いすることになる。この場合、同じようなシステムを導入しようとする場合でも、委託する企業によって見積もりが大きく異なることはよくある。

ERPのソフトウエアそのものは比較的コストが低い。パッケージ化されているため導入が容易とはいっても、その機能は複雑化しており、コンサルティング内容によって費用は大きく変わる。

ソリューション企業各社から提供されているパッケージにはそれぞれ特徴がある。例えば、「中小製造業向け」「建設業向け」などといった対象を絞り込み、機能を限定しコストを抑えたものなどがある。

また、ERPはもともと欧米で発達してきただけに、言語や通貨、制度など多国籍の環境をサポートしているパッケージも多い。こうしたパッケージは、国をまたがって活動をしている企業にとって強力なツールとなる。例えば、経営陣は日本にいながらにして、ベトナムにある工場のデータベースを違和感なしにみることも可能だ。

ERPの各ソリューション会社のホームページで、各パッケージの概要は紹介されているので、自社のニーズを明確にしたうえで、いくつかのパッケージを比較、検討するとよいだろう。

成功例と失敗例

あまり表には出てこないが、ERP導入に失敗した例は非常に多い。「失敗」の定義は、予算の大幅オーバーや納期の延期、そもそも期待通りの効果がないなどさまざまだ。

成功例を見てみると、新規にシステムを導入する「海外の工場や事業所」「新たにオープンする工場や事業所」「中堅企業」が多いようだ。既にシステムを稼動させている企業では、新たにシステムを変更することにより操作も変わり、導入時に大きな混乱が起きる。新規導入に比べ、既存システムの置き換えは失敗を招きやすいといえる。

また、導入に際しての部門間の調整も難しく、業務や組織を変えることに対する現場の反発も少なくない。ERPは、財務会計システムだけでなく社内の業務システム全般に対する変更が必要であるため、変化を嫌う現場の社員からの反発が少なからずある。

現実には、社内のシステム部門がERP導入を進めようとしても、明確な権限が与えられていないために部門間の調整が取れず、財務会計のパッケージのみといった限定的な形でのみERPを導入するなどの中途半端な形で終わってしまうこともあるといわれている。その場合、「経営資源を一元管理する」というERPの本来の目的は達成できないことになる。

ERPの導入を成功させるためには、それによって企業が何を目指すのかを明確にし、経営幹部がプロジェクトチームの責任者として明確な権限を持ち、先頭に立ってプロジェクトを実行することが必要だといわれる。ERP導入に際しては部門間の調整が必要不可欠。実行責任者には部門間を調整できるだけの権限が必須だといえよう。

また、ERPの導入のために独立したプロジェクトチームを設立するなど、経営改革を行うという姿勢を現場の社員に明確に伝えていくことが重要なポイントだといわれている。

真逆の運用スタイル

ERPはパッケージとはいえ、ある程度のカスタマイズができると前述した。実は、ERPを導入する企業には、次の2つの「真逆の」運用スタイルがある。

  • 自社の業務に合わせて積極的にパッケージをカスタマイズする
  • 既にあるパッケージに自社の業務に合わせていく

カスタマイズを積極的に行えば、自社の業務に合わせることができ、導入にかけての混乱も少なくなるが、それだけコストも時間もかかります。さらに、導入したパッケージがバージョンアップしたときに、新機能の導入を難しくしてしまうケースがある。

一方、パッケージの方に業務を合わせれば、低コスト、短期間での稼動といったERPのメリットを最大限に活かすことができる。反面、これまで独自に培ってきた自社の強みが犠牲になったり、現場の反発を招く恐れもある。

以上のように、2つのスタイルには長所と短所がある。自社の現状と特性を踏まえたうえで運用スタオルの方針も明確にしておかないと、せっかくのERPのメリットを享受できなくなるだろう。

導入ポイント

ERP導入は、事務処理の簡便化によるコスト削減や、生産・調達・販売・財務など詳細な経営状況をリアルタイムに把握可能にできるため経営判断の迅速化が可能になることなど、そのメリットは非常に大きなものだ。しかし一方で、導入に当たっては全社的な取り組みを必要とすることからシステムの規模が必要以上に大きくなりがちといわれる。

多くの企業ではシステム運用のノウハウを持たないために外部のソリューション会社にアウトソーシングすることになるが、ソリューション会社のいう通りにしたのは良いものの、実際は企業規模に合わない過大なシステムだったという例も少なくないと聞く。

こうした判断ミスを犯さないためにも、導入に際しては、経営者はもちろん現場を指揮するシステム担当者も、事前に十分な調査が必要だ。また、採用する業者の選別にも、その実績や信頼性など、十分な注意が必要となるだろう。

支援会社の得手不得手

ERP導入支援を行うシステムインテグレーター(ERPベンダー)は、数多くの企業がある。検索エンジンで「ERP導入支援」のキーワードで探すと、大手の有名な会社から、地域密着のシステム開発会社、外資系コンサルティング会社まで、おびただしい量の会社が表示される。

これら支援会社を眺めると、会計士などの財務会計の専門家が多いコンサルティング会社が比較的多いことに気付く。それ以外には、データベースシステム開発を得意とするところや、顧客管理が得意、製造業の業務に精通しているところなど、さまざまあることが分かる。また、SAPに特化、オラクルの導入コンサルティングといった、パッケージに精通していることを謳っている支援会社もある。

ERP導入にはそれを支援してくれる体制が必須だと考えて間違いない。その支援をどこにお願いするかについては、各々に得手不得手があり、「何でもできます」というところはないと考えていいだろう。何を支援会社に期待するかをある程度明確にしたうえで、各社の得手不得手に関する情報収集がERP導入の成功のためには必要だ。


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