ビジネス連携のための組合制度入門

組織の運用
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スモールビジネスの組織化

スモールビジネスを始めてしばらくすると、規模が小さいことによるメリットとデメリットが見えてくる。規模が小さいことで資金調達力や情報収集力が弱い、技術力が低いなど、経営上は不利な立場であることを実感するときもある。また、会社の規模に関わらず、世の中のデジタル化、国際化、消費者ニーズの多様化・高度化、規制緩和、エネルギー・環境に関する規制強化などにより大きな影響を受けており、規模の小さい会社であっても、これらに対応するため事業活動の再検討や事業の方向転換の必要に迫られている。

規模の小さい会社が、このような厳しい環境に対応して新たな発展をしていくためには、もちろん個々の企業の自助努力が大切だが、個々の能力には自ずと限界がある。小さな会社が、創業・新事業展開・経営革新を図るためには、技術・情報・人材などお互いの不足する経営資源について、ほかの小さな会社と相互補完を図ることが重要だといえる。

今回は、小さな会社が集まり、不足する経営資源を相互補完する方法のひとつである「中小企業組合制度」を取り上げてみたい。

中小企業組合制度

同じような立場にある小規模事業者同士で組合をつくり、互いに協力・助け合い、事業経営を充実・強化していくことで相乗効果を狙うのが「中小企業組合」だ。同業者などが集まって組合をつくり、生産性の向上を図り価値実現力を高め対外交渉力を強化し、経済的地位の向上を図るため、各種の組合制度が設けられている。

中小企業組合制度は、これまでも多くの中小企業者のさまざまな「前向き」の努力を支え、かつ、自主性のある中小企業を育成する制度として活用され、共同購入事業、共同生産・加工事業、共同販売事業、共同金融事業など各種の共同事業を活発に実施し、実績を挙げてきた。

同業者の共同購入のようなハード面でのスケールメリットを追及する事業とともに、異業種の連携による新事業開拓や共同受注・販売、研究開発などソフト面での共同化を図る事業が増えている。また、技術や情報など不足する経営資源を他の企業との緩やかなネットワークによって補完するケースも増えている。

これらのネットワークを発展させて研究開発・情報化・環境リサイクル・介護福祉・物流効率化・EC(電子商取引)の推進などにかかわる新たな組合の設立や、マイクロ法人、主婦、高齢者などが集まり自ら働く場とする企業組合や、地域振興に直結した事業を行う組合の設立も多くみられる。

組合の設立に当たっては、会社が行おうとする共同事業の種類・内容によって組合の種類を選ぶことが大切だといわれる。一般的な小規模事業者が組合を作る3つの効果を以下にまとめておく。

  1. 取引条件の改善、販売促進、資金調達の円滑化、情報・技術・人材・マーケティング等の経営ノウハウの充実、生産性の向上等により経営の近代化・合理化を図ることができる
  2. 業界のルールの確立、秩序の維持ができ、メンバー企業の経営の安定と業界全体の改善発達を図ることができる
  3. 小さな会社の個々の意見や要望事項を組合でまとめることにより国の施策に反映させることができるとともに、組合を通じて、多くの中小企業施策を利用することができる

主な中小企業組合

中小企業組合には、いくつかの種類がある。

中小企業の経営の合理化と取引条件の改善等を図るため最も利用され普及している「事業協同組合」、個人事業者や勤労者など個人が経営規模の適正化を図るためや自らの働く場を確保するための「企業組合」、参加する中小企業の事業を統合する「協業組合」、業界全体の改善発達を図る「商工組合」の4つについては以降で具体的に取り上げる。

今回は触れないが、商店街の商業者等により構成される「商店街振興組合」、飲食業、旅館業、クリーニング業、理・美容業などの生活衛生業関連業者により構成される「生活衛生同業組合」といったものもある。

事業協同組合

中小事業者が互いに協力し、助け合う精神(相互扶助の精神)に基づいて協同で事業を行い、経営の近代化・合理化と経済的地位の向上・改善を図るための組合で、組合は組合員の事業を支援・助成するためのものならばほとんどすべての分野の事業が実施できる。組合の設立も4人以上の中小事業者が集まればよく、気心の合う同じニーズをもった事業者だけで比較的自由に設立でき、中小事業者にとって非常に設立しやすい組合として広く普及しており、最も代表的な組合だ。

従来は同業種の事業者で設立するケースがほとんどだったが、最近では、異なる業種の事業者が連携してこの事業協同組合を設立し、各々の組合員が蓄えた技術、経営のノウハウ等の経営資源を出し合って新技術・新製品開発、新分野事業・新市場開拓等をめざすものが増えている。

事業協同組合が行う共同事業にはいろいろな種類があるが、比較的多くの組合が行っているものを以下に挙げる。

■共同生産・加工事業

個々の組合員では所有できない高額・新鋭設備等を組合が導入し、組合員が必要とするものを生産・加工し、組合員に供給する事業。これによって、原価の引下げ、規格の統一、品質の向上、設備や仕事の効率化などが図れる。

■共同購買事業

組合員が必要とする資材等を組合がまとめて購入し、組合員に供給する事業。これによって、仕入先との交渉力が強化されるので仕入価格の引下げ、代金決済条件などの取引条件の改善、購入品の企画・品質の均一化などが図れる。

■共同販売事業

組合員が取り扱う製品を組合がまとめて販売する事業。これによって、販売価格や決済条件が有利になるほか、大口需要先の開拓など販路の開拓が図れる。

■共同受注事業

組合が注文を受け、組合員が仕事を分担、組合が納品する事業。これによって、大口発注先の開拓など販路の拡張や取引条件の改善などが図れる。組合員に注文を斡旋する方法もある。

■共同検査事業

組合員の製品、設備、原材料等について、その品質・性能などを検査する事業。これによって、品質の維持・改善、規格の統一などが図れる。

■市場開拓・販売促進事業

「市場開拓」は、組合員の製品や取扱商品など販路拡大を図るため、共同で市場調査や展示会を開催する事業。「販売促進」には、広告・宣伝、共同売出し、ポイントサービス、クレジットなどの事業がある。これらの事業は、個々の企業では採算が合わないとか、品揃えができないなどの理由で実施することが難しい場合でも共同で行うことによって可能になる。

■研究開発事業

組合が研究施設を設置したり、公的な試験研究機関等に研究を委託するなどにより組合員の事業に関する様々なテーマについて研究開発を行う事業。これによって、新製品・新技術・意匠・生産工程・販売方法の改善・開発などが図れる。

■情報提供事業

組合員の経営に役立つ需要動向、技術情報、業界情報、経営管理情報等を収集し、組合員に提供する事業。組合の共同事業に役立つ情報の収集や組合を宣伝するための情報を組合員や関係方面へ提供することも大切な情報提供事業のひとつ。最近では、ICT(情報通信技術)を積極的に活用して情報提供を活発に行っている組合も多くみられる。

■人材養成事業

組合員をはじめ、その後継者、組合員企業の管理者などを対象に計画的・体系的な教育研修等を行うことによって人材を養成する事業。人材は企業経営の根幹を成すものだが、最近では特に、情報力、技術力、マーケティング力等のソフトな経営資源の充実を図る必要から、この事業の重要性が高まっている。

■金融事業

組合員に対して事業資金を貸与し、または金融機関に対する組合員への債務を保証することにより、組合員の事業資金調達の円滑化を図る事業。組合が金融機関から資金を借り入れ、これを組合員に貸し出す方法と、組合員が金融機関から直接借り入れる際に組合が斡旋する方法がある。組合と組合員のための金融機関として商工中金がある。 

■債務保証事業

組合員が顧客や仕入先等と取引をする際に、組合がその取引の債務を保証する事業。これによって、組合員の取引の円滑化と拡大が図れる。

■共同労務管理事業

組合員の従業員の確保・定着あるいは能力の向上などを図るため、組合員が行う労務管理の一部を組合が代って行う事業。これによって、福利厚生等の労働条件、安全衛生、作業環境等の改善が図れる。従業員の知識・技能等の向上を図るための教育・訓練なども盛んに行われている。

■福利厚生事業

組合員の私生活面の利益を増進するための事業で、健康診断、慶弔見舞金の支給、親睦旅行、レクリエーション活動などがある。この事業は、組合員間の融和、組合への参加意識、帰属意識、協調性の高揚等などに効果がある。

■そのほかの新たな事業

組合の共同事業は、時代の変化に対応して新しいものが生まれている。例えば、地球温暖化、廃棄物、フロン等のエネルギー環境問題への対応事業、都市の過密化に対応するための集団化事業、デザイン・商品の研究開発、情報化社会への対応、ICTを利用した管理システムの開発、地域産業おこしなどの共同事業がある。

最近は、それぞれ異なる業種の企業同志が結び付き、互いの技術や経営、マーケティングのノウハウ等を提供しあって新技術・新製品を研究したり、介護・福祉などの新しい事業分野の開拓、製造物責任に対応するための製品の安全対策、地域社会の活性化を図るためのソーシャルビジネス、地域資源を活用した新たなビジネスチャンスの創出、情報ネットワークの構築などの事業が注目されている。

企業組合

「企業組合」とは、個人事業者や勤労者などが4人以上集まり、個々の資本と労働を組合に集中して、組合の事業に従事し、組合自体が一つの企業体となって事業活動を行う組合のこと。他の中小企業組合と異なり、事業者に限らず勤労者や主婦、学生なども組合員として加入することができ、その行う事業が限定されないことから、小規模な事業者が経営規模の適正化を図る場合や安定した自らの働く場を確保するのに適している。

企業組合は、組合員が共に働くという特色をもっており、そのため組合員に対し、組合の事業に従事する義務が課せられている。原則として、組合員の1/2以上が組合の事業に従事しなければならない。さらに、組合の事業に従事する者の1/3以上は組合員であることが必要だ。

組合員は、以前は個人に限られていたが、組合事業をサポートする法人も加入できることになった。そのため、企業組合は、法人等からの出資を通じて、自己資本の充実や経営能力の向上を図ることが可能となった。

企業組合の形態には、「集中型」と「分散型」の2種類がある。以下に概要をまとめておく。

■事業所集中型

事業者でない個人により設立された組合、または個人事業者であった組合員が従来営んでいた事業所を閉鎖して合同した形態をとる組合であり、組合自体が事業活動の主体となる。事業所はおおむね1カ所に集中しているものが多いが、複数の事業所をもつものもある。

■事業所分散型

個人事業者であった組合員が従来営んでいた事業所を組合の事業所として存続させる方法をとる場合で、仕入や販売については各事業所に委ねて、組合本部は、主として各事業所の売上代金の収納管理や仕入代金の支払等の業務を行なう。

協業組合

「協業組合」とは、組合員になろうとする中小事業者が、従来から営んでいた事業を統合し、事業規模を適正化、技術水準の向上、設備や経営の近代化及び合理化を図り、生産・販売能力の向上などを図ろうとする組合。協業組合は、4人以上の事業者で設立することができる。組合に加入できる者は原則として中小事業者に限られているが、定款に定めれば組合員総数の4分の1以内まで大企業者を加入させることが可能だ。

また、この組合の特色として出資額に応じて議決権に差を設けることや、新規の加入を制限することもできる。出資額についても、組合員1人で出資総口数の50%未満まで持つこともできる。

協業組合の形態には、組合員の事業の一部分を統合する「一部協業」と、事業の全部を統合する「全部協業」がある。どちらの場合も、組合員は必ず事業者でなければならず、組合に統合した事業については原則として組合員の事業として行うことができなくなる。形態の概要は以下の通り。

■一部協業

一部協業とは、協業組合に組合員の事業活動の一部分(例えば、生産工程の一部分であるとか原材料の仕入-生産-販売の部門のうちの一部門など)を統合する場合や、組合員が取り扱う多くの品種のうちの一部の品種を統合すること

■全部協業

全部協業とは、協業組合に組合員が行っている事業の全部を統合することだが、組合員が異業種にわたる場合でも全部協業は可能(例えば、部品加工業者と完成品メーカーによる一貫生産など)。

商工組合

前述の「事業協同組合」が共同経済事業を中心として組合員の経営の合理化・近代化と経済的地位の向上を図ることを主な目的としているのに対して、「商工組合」は業界全体の改善と発展を図ることを主な目的とする同業者組合となっている。したがって、業界を代表する同業組合的性格をもっている。

組合の地区は原則として1以上の都道府県を地区とすること、その地区内の同業者の1/2以上が組合員となるものでなければならないことといったの設立の条件がある。また、この組合の組合員は、原則として中小事業者だが一定の条件のもとに大企業者なども組合員になることができる。

商工組合が行う事業は、以下が代表的なものだろう。

  • 組合員の事業に関する指導教育、情報の収集提供、調査研究
  • 組合員のためにする組合協約の締結

このほか、環境リサイクル、安全問題、経営革新等への対応など、商工組合が自主的に実施している事業も見られる。

■出資商工組合と非出資商工組合

商工組合には、「出資制」の組合と「非出資制」の組合があり、出資制の組合は、上記の事業と併せて、事業協同組合と同じように共同生産・加工、共同販売、共同購買等の共同経済事業も行うことができる。出資制と非出資制にそれぞれ移行することも可能だ。

組合から会社への組織変更

中小企業組合の活動を通じて、以下のような前向きな事例が出てきている。

  • 異業種連携の組合が共同研究開発の成果を事業化し、これを新たな事業として会社形態で成長・発展を目指す
  • 事業協同組合の共同経済事業が発展し、組合員以外との取引や組合員以外からの資本調達を図りつつ会社形態による事業の成長・発展を目指す

上記ののようなニーズがある場合には、事業協同組合・企業組合・協業組合から株式会社などへ組織変更することができる。

事業の発展段階や環境変化に応じて多様な連携組織形態を選択し、柔軟な組織再編を行えるので、組合に蓄積された研究開発の成果などの事業実績や資源・資産をそのまま会社に移行させ、事業を休止することなく新事業のために有効活用することが可能となる。

また、最低資本金の制約がなく、税制面などの支援策もある組合を活用して創業し、事業実績が上がった段階で、会社組織の活用により事業のより大きな成長を志向する道が開けている。

小規模事業者にとって、会社制度とは異なる組合制度の特性をより一層活用することができるとともに、組合事業の発展段階に応じて柔軟な組織変更が可能になっている。


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