インターンシップとの関わり
今では、就職活動中の学生にとって「インターンシップ体験」は常識らしい。7~8割がインターンシップを体験している。自分が大学院生だった1980年代後半には、そんなものはなかったと思う。
インターンシップとは、internship=「実習生(intern)+身分・状態(ship)」で、学生が在学中に企業や行政機関などの職務を一定期間経験するというもの。要するに「就業体験」だ。以前になかった「就業体験」がここまで一般的になった背景としては、以下のようなことが考えられる。
- 学生が現実の就職活動に直面するまで、実際の企業活動に接し、働く意味を考える経験に乏しいこと
- 学校教育と実社会との間にギャップが生じていること
- 若年者の将来にわたる職業生活に対する認識や価値観が変化してきていること
実は、まだインターンシップという言葉そのものがメジャーでなかった2000年代初めに、あるNPO法人を通じて、学生インターンに来てもらったことがある。インターンの皆さんには、数人で始めたベンチャー企業での仕事の一部を手伝ってもらった。これは今の「就業体験」としてのインターンとはかなり異なるものだった。
当時、今のように「単位取得が可能」なインターンシップなどはほとんどなく、米国系のコンサルティング会社やメーカーが、日本の一部大学から日当1万円程度でインターン学生を募集していた。名前はインターンだが、中身はアルバイトに近い。私たちのベンチャー企業も、同様に日当1万円で夏休みの間にインターン学生3名に仕事を手伝ってもらっていた。
このときの3名の学生は、東京大学、早稲田大学大学院、東京女子大学。「就業体験」だとは誰も考えておらず、日当1万円のアルバイトとして仕事していた。3名の皆さんはその後、大手企業に就職したと聞いている。
インターンシップ実施状況調査
2020年12月、文部科学省は「令和元年度大学等におけるインターンシップ実施状況について」を公表している。大学・短期大学・高等専門学校における令和元年度のインターンシップ実施状況について調査を行い、その結果を取りまとめたものだ。
調査対象としたのは大学が786校(学部761校・大学院642校)、短期大学が326校,高等専門学校が57校。調査対象期間は2019年4月1日~2020年3月31日の1年間だ。
調査結果の詳細データは、文部科学省が公開するPDFファイルに記載がある。以下ではこのうち、インターンシップの現状を示すと考えられる調査結果を抜粋してまとめておく。
- 単位認定している大学・大学院:71.6%(563校)
- 国公私立別の単位認定実施状況:国立大学での実施率が多い
- 単位認定されるインターンシップに参加した学生:634,644人(22.1%)
- 単位認定インターシップ参加学生が多い都道府県:青森県、秋田県、栃木県、徳島県
- 国公私立別の学生の参加率:公立大学での参加率が高い
- 実施学年:学部 3 年・修士 1 年・短期大学 1 年・高等専門学校 4 年
- 実施時期:8 月・9 月(夏期休暇期間中)の参加が多い
- 実施期間:2 週間未満での参加が多い
- 学生を受入れた都道府県:関東地方が多い
- 取得単位数:2単位以下が多い
- 報酬等の支給:大学・大学院・短大は支給されない場合が多く、高専は支給・無支給混在
上記は、学校側が正規の教育課程に位置付け単位を認めるものだけを抜粋している。これ以外に、企業の募集に学生が直接応じ、学校教育とは無関係に行われるインターンシップもあるため、文部科学省のこの調査では、「単位認定を行わないインターシップ」についても結果を公開している。
オンラインでのインターンシップ
上記は、新型コロナ感染症の拡大直前での調査結果だ。その後のインターンシップは、リモートアクセス環境によるオンラインでのインターシップが急拡大した。この点に関して、日本労働研究雑誌の2021年8月号に論考があったので、その部分を引用しておく。
新型コロナウイルス拡大防止の観点から 2020年度のインターンシップではオンラインでの実施が急拡大した。リクルートキャリア・就職みらい研究所(2021b)によれば,2022 年卒で対面でのインターンシップ参加率は 68.3%であるのに対し,オンライン(Web)での参加率は 89.1%となっている。もちろん,コロナ禍で対面での実施が困難であったという特殊事情はあるもののアフターコロナにおいても取組方法の一つとして位置づけられる可能性は高い。
引用:亀野淳(北海道大学教授)「日本における大学生のインターンシップの歴史的背景や近年の変化とその課題」日本労働研究雑誌No.733/August 2021
こうした状況下において,経済同友会インターンシップ推進協会(2020)は「オンライン実習に関する教育価値向上のポイントについて」において,オンライン型の「強み」と「弱み」を明らかにするとともに,対面型ならではの教育効果についても再確認し,アフターコロナにおける対面型とオンライン型の適切な組み合わせについて提言をしている。伊藤・大串・中井(2021)も,リモート型インターンシップの特徴として,時間・場所・危機管理という制約から解放されることで,事業所側にも多くのメリットがあること,対面型とリモート型のハイブリッド型によって,さらにインターンシップの可能性を広げることができることなどを指摘している。
現時点では,オンライン型のインターンシップに関する体系的な研究は少ないが,アフターコロナのインターンシップのあり方として今後のあり方が注目される。
社会問題化した「名ばかりインターン」
前述の文部科学省の調査で、インターンシップでの報酬について、大学・大学院・短大は支給されない場合が多いという結果だった。10年ほど前に、この制度を悪用する企業の事例を新聞が報道し、社会問題化したことがある。
インターンシップ制度を利用した都内の有名ホテルが、接客対応の体験を希望したインターンシップ参加学生に対して、アルバイトと同様に売り子や清掃係をさせ、これをインターンシップとしたという事例だ。アルバイトと同様の業務であったにもかかわらず、インターンシップであるとして「ただ働き」させたのだ。
インターンシップ制度の本来の主旨を理解していないのか、意図して無料の労働力を確保しようとしてかは知らないが、この当時「名ばかりインターン」が問題視されたことはよく覚えている。
制度があれば、必ず悪用する輩が出てくるのは世の常。インターンシップ制度も本来は就業体験の場なのだが、今でも「良い学生の青田買い」に悪用する企業もあるという話はよく聞く。
大学生のインターンシップ調査
ここまでは、インターンシップ制度について、学校側(文部科学省)の視点での調査をみてきた。今度は学生側の視点で現状をながめてみよう。
2020年11月、株式会社マイナビは、2022年3月卒業予定の全国の大学生、大学院生(のべ6,001名)を対象に、「2022年卒大学生 インターンシップ・就職活動準備実態調査(10月)」という29ページもの調査結果を発表した。この中からインターシップの現状を示すと思われる調査結果について引用する。
約8割の学生がインターンシップに参加
この調査の結果、学生のインターンシップ参加率は「79.8%」。前年よりも減少しているが、1人あたりの平均参加社数は「4.5社」で、昨年より増えている。この結果から、マイナビでは、積極的にインターンシップに参加している学生とそうでない学生で活動状況は二分化していると推察している。
インターン参加目的は「見つける」「確かめる」
この調査では、インターンシップに参加する目的を文系・理系で比較している。最も高い項目は「どの業界を志望するか明確にするため」で、文系・理系で共通。この項目は、文系では74.3%と多数を占めていたが、一方で理系では58.0%にとどまり、理系で2番目に高い項目「どの職種を志望するか明確にするため」の57.2%と同程度となっている。
文系学生は幅広い選択肢から志望企業を見つけることを示す項目で理系よりも高い傾向にあり、理系学生は特定の企業のことや自分の専攻と仕事の合致度を確かめることを示す項目が文系よりも高い傾向にある。これがこの調査に基づいたマイナビの分析だ。