自社商品の”ファン”づくり:前編

営業/販促
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ファンを裏切らない努力

「あの会社がつくる製品が好き」とか「何十年もあの会社からサービスを受けている」という人は多い。「ファン」になってしまった顧客たちの発言だ。これはB2C(消費者向け)でもB2B(組織向け)でも同じことがいえる。

日々変化する市場環境、個別化・多様化していく顧客ニーズに応える製品を開発し、より多くの顧客に販売するため、企業は業界や市場の動向・顧客ニーズの調査などに基づいた製品開発や販売促進方法を展開する。

市場環境や顧客のニーズは常に変化し続けている。市場調査や顧客ニーズの把握、それに基づく自社の製品・サービスの見直しなどをおろそかにしてしまい、自社の製品・サービスを「作りっぱなし」の状態にしておけば、たとえ発売当初は市場環境や顧客ニーズに合った製品やサービスだったとしても、時間の経過とともに「顧客ニーズに即さない」製品やサービスになってしまう恐れがある。「ファンが離れる」のもこういうときだ。

そこで、開発当初の状態で放りっぱなしにしておくのではなく、既存の製品やサービスが“今の”市場環境や顧客ニーズに合っているのかどうかを今一度確認し、改良を加えながら、さらに顧客に望まれる製品やサービスへと成長させていく取り組みが必要になってくる。

イタリアンワイン&カフェレストラン「サイゼリヤ」には、創業以来の超人気メニュー「ミラノ風ドリア」がある。税込み300円だ。サイゼリヤ創業者・正垣泰彦氏の著作『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』には、こんな話が載っている。

まずは、来店客の2~3割が食べてくれる「核商品」を作り、それを磨き続けることだ。サイゼリヤであれば299円の「ミラノ風ドリア」などが、それに当たる。

絞り込んでメニューを提供すると食材ロスが減り、作業効率も良くなる。無駄を省くので、利益もドンドン出る。そうなってきたら利益の一部は、お客様に還元すべきだから、値下げをする。すると、さらにお客様に喜ばれて、来店客数も増える。つまり、無駄をそぎ落とすことで、お値打ちな商品になるから、お客様に喜ばれて売り上げも最終的に増えるのであって、初めに安売りありきではないのだ。

引用: 正垣泰彦著『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』

実は「ミラノ風ドリア」はこれまでに1000回以上、「アロマ(食前の香り)」「テイスト(味)」「フレーバー(食後の香り)」の改良を続けていた。食べても分からないくらいの微調整の繰り返しのようだが、驚くことに、これにより注文数が増減するという。

今回は、既存の製品・サービスを生かしながら、どのような点を改良して購入・活用を促進するかという視点から、考え方や改良のについての基本的な一般論をまとめてみたい。


購入・活用を促進する

既存の自社の製品・サービスを多くの顧客により購入・活用してもらうための基本的な手順は以下の通り。

1~4を何度も繰り返すことにより、既存の自社の製品・サービスを多くの顧客により購入・活用してもらえるようになる。

まず、既存の自社の製品・サービスの「機能」「販売ターゲット」「販売方法」などを改めて把握し直す。次に、自社の製品・サービスを取り巻く市場環境や顧客ニーズの実情を洗い出し、現状を把握。

把握した既存の自社の製品・サービスの機能などと、市場環境や顧客ニーズの実情を比較し、両者の距離を縮めていくため、機能などの改善を行う。こうすることで既存の自社の製品・サービスが“顧客が本当に望んでいる製品やサービス”“市場環境に即している製品・サービス”に近づいていく。自社の製品・サービスが顧客に購入されたら、常にアフターフォローを忘れてはならない。

このプロセスを繰り返すことによって、既存の自社の製品・サービスは常に市場環境や顧客ニーズの実情に即した形となり、結果として顧客により多く購入・活用してもらえる可能性が広がるというわけだ。さらに詳細にみていこう。

自社製品・サービスの洗い出し

どのような製品やサービスを、どのような顧客に対して、どのような方法で販売しているのかを認識しておくことは重要だ。そこで、これらを把握するための調査を行う。この調査は、主に以下の3つの視点に絞って実施する。

  • What (何を?):機能や性能の洗い出し
  • Who (誰に?):販売ターゲットの洗い出し
  • How (どうやって?):販売方法の洗い出し

これを製造業のケースで考えてみよう。

What(何を?)を洗い出す際には、製造部門あるいは製造担当者に対して、製品の機能や性能について調査を実施する。Who(誰に?)、How(どうやって?)を洗い出す際には、営業部門あるいは営業担当者に製品の販売ターゲットや販売方法などを調査する。こうした調査の際に、逆に“作り手”である製造部門あるいは製造担当者に対して「この製品やサービスは誰をターゲットに販売しているのか」「この製品はどんな方法で販売しているのか」を調査してみたり、同様に、“売り手”である営業部門あるいは営業担当者に対して、「自分が営業している製品の特徴やセールスポイント」を調査したりもする。

作り手が「誰のための製品なのか全く知らない」「どんな方法で販売している製品なのか関知していない」などという状態では、“顧客により多く購入・活用してもらえる製品”が生み出される可能性は低い。また、売り手が「製品の長所も弱点も知らない」などという状態では、販売力が十分ではないことの表れだ。

What(何を?):機能や性能の洗い出し

自社の製品・サービスの機能や性能について洗い出し、現状を分析する方法として「SWOT分析」を用いてみる。SWOT分析とは、自社の製品・サービスを、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの視点から分析する方法だ。

自社の製品・サービスにはどのような長所(強み)と欠点(弱み)があり、自社の製品・サービスの今後の市場における可能性(機会)にはどのようなものがあるのか、そして自社の製品・サービスの今後を脅かすのはどのような外的要因(脅威)があるのかを分析し、把握しようというもの。

例えば、藍染めを取り入れたり、ベルベットなどの面白い素材を活用したデザイン性に優れたジーンズの専門店があるとする。この企業の自社の製品・サービスをSWOT分析すると、以下のようになる。

このジーンズ専門店の場合、強みは「デザインが優れておりオリジナル性が豊か」であること。一方、弱みは素材や加工方法にこだわっているために、「大量生産が難しい」つまり、“生産能力が課題”となる。

また、このジーンズ専門店を取り巻く外的環境から、機会と脅威を分析すると、それぞれ、機会は「ジーンズそのものの活用シーンが拡大していること」などから“市場における需要の増加”であり、脅威は「低価格であるうえに品質の高いジーンズの量販店が台頭していること」で“業界における競合他社”ということになる。

Who(誰に?):販売ターゲットの洗い出し

次に、自社では製品やサービスを、いったい誰に対して販売しているのかを把握する。製品やサービスを販売する際、販売ターゲットを絞らずに漠然と販売しているケースは考えにくい。

例えば、服飾品の場合は「10代後半~20代前半の若い女性をターゲットにしている」「30代以降の男性で富裕層をターゲットにしている」などがあるはずだ。食料品では「ターゲットは30代~40代で、働き盛りのビジネスパーソンの晩酌のつまみ」、あるいは人材紹介の場合は「ターゲットは医療関係機器を製造販売している中堅・中小企業」などもあるだろう。

前述のケースであるジーンズ専門店の販売ターゲットは、10代後半~20代前半の男女でした。こうした層は、以下の傾向が顕著だ。

  • ファッションに関心が高く、高額な商品でも購入する
  • カジュアルなシーンで活用する

How(どうやって?):販売方法の洗い出し

自社の製品・サービスの販売方法あるいは提供方法を確認する。店頭販売か、インターネットを通じた通信販売か、訪問販売か、といった具体だ。

販売方法を洗い出す際には、店頭での販売、インターネットによる販売などの“販売の手段”だけではなく、「顧客管理を徹底し、それに基づいて季節ごとにDMを送付している」「スマホ画面でクーポン券になるメールマガジンを定期的に発信している」「地元の情報サイトに広告記事を掲載している」「定期的に訪問して活用方法や活性化策を提案している」といったような、自社の製品・サービスを販売するために実施している“販売促進方法”も併せて洗い出しておくとよい。

前述のジーンズ専門店の販売方法と販売促進方法を洗い出したところ以下の3つだった。

  • 都心部に3店舗を展開して店頭販売を実施
  • 来店した顧客には「顧客アプリ」でポイントを付与し、ポイントによる割引サービスを実施
  • 購入金額、来店頻度の高い顧客には、新商品が出るごとにカジュアルシーンでのコーディネートの提案を実施

ここまでで、まず、既存の自社の製品・サービスの「機能」「販売ターゲット」「販売方法」などを改めて把握し直すことを実施した。次に、自社の製品・サービスを取り巻く市場環境や顧客ニーズの実情を洗い出し、現状を把握。把握した現状の製品・サービスの機能などと、市場環境や顧客ニーズの実情を比較し、両者の距離を縮めていくため、機能などの改善を行うことになる。

ここから先は、「自社商品の”ファン”づくり:後編」で述べたい。


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