株式を公開しない会社の”金庫株”

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金庫株の解禁

金庫株という言葉を聞いたことがあるだろうか。金庫株とは、会社が自社の株式を株主から買い戻して、手元に置くことをいう。株券を手元の金庫にしまっておくところから、「金庫株」と呼ばれている。これが解禁されたのは、2001年の改正商法だ。

それまでの制度では、ストックオプションに使用するときや、発行済株式数を減少させる目的で株式取得後に消却するときなど、限られた場合だけに自社株の取得が認められていた。また、自社株の保有に関しても、ストックオプションを目的として取得した場合は6ヶ月以内に役員や従業員に譲渡しなければならない、消却目的の場合は速やかにその手続きをしなければならないなどの規制があった。

商法改正により、取得目的が明らかでなくても一定のルールに従えば自己株式が取得でき、かつ保有し続けることが可能になった。

よく聞く上場企業の「自社株買い」というのは、自社株を購入することにより、企業は発行済み株式数を一部取得することだ。その一部を企業は金庫株として保管する。これにより、市場に出回る株式が減るので、一株あたりの価値は上がるという具合だ。また、上場企業が別の企業を買収するときに、この金庫株を使って「株式交換」という方法でM&Aを実行することがよく見られる。

このように、上場企業にとっての金庫株は、さまざまな経営環境の変化に対応するためのツールとして機能している。今回は、株式未公開(非上場)会社における金庫株のメリットやデメリットについてみていく。


未公開会社の自己株式の取得

会社が自己株式を取得するには「定時株主総会の決議」が必要となる。この定時株主総会では以下の2つの事項を決議しなければならない。

  • 決議後、最初に到来する決算期に関する定時株主総会の終結する時までに買い受けることができる株式の種類、総数、取得価額の総額
  • 特定の者から買い受ける時はその相手先

株式未公開(非上場)会社は、市場取引や公開買付で自己株式を取得することはできない。そのため必然的に特定の者から相対取引で買い受けることになる。従って、定時株主総会では上記2事項の決議が必要となる。

この2事項については「特別決議」が必要。特別決議とは、総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上に当たる多数の賛成が必要ということだ。なお、総会に出席を必要とする株主の議決権の数(定足数)は、定款の定めで、過半数から3分の1まで引き下げることができる。

2つの事項と、「総会の日より5日前に書面で取締役に対し、自分も売り主に加えて欲しい、つまり、自分の株式も買い取ってもらいたい旨の請求ができる(売主追加)」ことも株主総会招集通知には記載しなければならないことになっている。

会社に対し株式を譲渡しようとする株主は、当該自己株式取得の決議については議決権を行使できない。具体的には、会社に対し株式を譲渡しようとする株主の議決権数は、定足数要件充足の判定上は分子(出席した株主の議決権数)にも、分母(総株主の議決権数)にも算入されるが、3分の2以上に当たる多数の賛成があるか否かの判定上は分子(議案に賛成の議決権数)にも、分母(出席した株主の議決権数)にも算入されない。

ただし、親会社が子会社から自己株式を取得する場合は手続きが簡易になっている。この場合、定時株主総会の特別決議は必要なく、取締役会で買い受けることができる株式の種類、総数および取得価額の総額を決議すればよいことになっている。取締役会決議のみで自己株式を買い受けした場合であっても、その後の定時株主総会において、買い受けの理由、買い受けた株式の種類、数、取得価額の総額を報告しなければならない。

重要なのは、「株式未公開会社の自己株式の取得は定時株主総会の特別決議が必要である」こと。そのため、自己株式取得の決議を行う機会は、通常の1年決算会社では年に1回しかない。

自己株式を取得する原資

自己株式を取得する原資は「配当可能利益」の範囲に限定されている。まずはその「配当可能利益」について以下の2式を示しておこう。

財源の上限=配当可能利益-配当-役員賞与-資本組入額

配当可能利益=純資産-資本金-資本準備金・利益準備-利益準備金要積立額-繰延資産の超過額-株式等評価益

ここで、「配当+役員賞与+資本組入額+自己株式取得≦配当可能利益」。利益処分の配当、役員賞与や資本組入をゼロとすれば、財源は配当可能利益となる。

ただし、株式会社において、その定時総会で法定準備金の減少または資本の減少を決議した場合には、その取り崩した金額も上記自己株式取得の財源に加算することができる。これらの取り崩しの効力が発生するのは、債権者保護手続終了後(決議後1カ月以上の後)だが、それを待たずに決議を行った時点で、その取り崩し額を自己株式取得の財源に加算できる点に特徴がある。

なお、親会社が子会社から自己株式を取得する場合は、その取締役会決議は期中に行われるため、取得価額の総額は中間配当可能限度額から中間配当額を控除した額までに制限されている。

取締役の担保責任

会社は、自己株式を取得しようとする営業年度末において、配当可能限度額がマイナスの値となってしまう恐れがあるときは、たとえ、株主総会の特別決議を受けていても自己株式を取得することができない。仮に、こういう状況でも自己株式の買受を行った取締役は、会社に対し連帯して損害賠償責任を負う。

この場合の取締役の賠償額は法律で定められている。ただし、取締役が期末に欠損を生じる恐れがないと判断したことにつき、注意を怠らなかったことを証明できれば、賠償責任を免れることができる。

なお、この責任については総株主の同意をもって免除することもできる。

株主の売主追加の議案変更請求権

株主は、招集通知を受けたときは取締役に対し会日より5日前までに書面、または電磁的方法をもってその事項に係る議案の売主に自己をも加えたものに変更すべきことを請求することができる。会社は株主から上記書面などの提出を受けたときは、株主総会終結まで本店に備え置き、株主の閲覧に供しなければならない。

なお、株主から売主追加の議案変更請求があったにもかかわらず、同売主を追加した議案を提出しなかったとき、取締役は100万円以下の過料に処せられる。

金庫株の活用と処分

金庫株として保有している自己株式は、さまざまな目的に利用できる。前述の通り、上場企業であれば1株の価値を上げるとか、会社買収の際の株式交換で利用する。未公開会社であっても例えば、新株予約権が行使された際に付与したり、従業員持ち株会に譲渡したり、また、消却してしまうことも可能だ。

自己株式の処分方法の下記4つの方法について、それぞれみていこう。

  • 譲渡
  • 新株予約権権利行使や企業再編において代用自己株式として使用する場合
  • 消却
  • 端株主・単元未満株主からの買増請求に応じる場合

譲渡

金庫株解禁前の自己株式の譲渡について、特別な規定は存在していなかったため、取締役会の決議または代表取締役単独の決定により、自由に譲渡先や譲渡価格を決定して譲渡を行うことができた。

しかし、金庫株制度ができてからの自己株式(金庫株)の譲渡は以下の取締役会および株主総会の決議を必要とするとともに、新株発行に準ずる手続きが必要になった。

■取締役会の決議

  1. 取締役会で処分すべき株式の種類・数
  2. 処分すべき株式の価額および払込期日
  3. 特定の者に有利な価格で譲渡する時は譲渡の相手並びに譲渡する株式の種類・数・価額を決議しなければなりません

■特別決議が必要な場合

上記1.2.の株式未公開会社のうち、株式譲渡制限がある会社では株主総会の特別決議が必要。

3.の場合には、譲渡制限のあるなしにかかわらず、譲渡する株式の種類、数、最低価額について株主総会の特別決議が必要。また、取締役はその株主総会において当該譲渡が必要である理由を開示する必要がある。

■会社は株式申込証を作成・交付

■譲り受ける者は株式申込証により申し込み

■株式の割り当てを決定

■割り当てを受けたものは払込期日までに株式代金を払い込む

■株式の所有権移転
(払込期日から)

■株券の交付

なお、自己株式の譲渡の場合にも、株主は差止請求や、不公正な価格で譲り受けた者への差額支払請求、自己株式の処分無効の訴えが可能だ。

代用自己株式

株式交換、吸収分割、吸収合併の際、完全親会社となる会社、営業を継承する会社、存続会社は、完全子会社となる会社、分割会社または分割会社の株主、解散会社の株主に対し、自社株式を割り当てますが、これを新株発行によらず、会社が保有している自己株式の移転により行うことができる。

また、新株予約権(ストックオプションなど)が行使された場合、会社は新株発行に代えて会社が保有する自己株式を移転することもできる。

消却

法律では「会社は取締役会の決議をもっていつでもその保有する自己株式を消却することができる」と規定している。手順は以下の通り。

  1. 取締役会の決議で消却すべき自己株式の種類・数を決定する
  2. 取締役会で消却を決議した時は、遅滞なく当該株式の失効手続きをとる

端株主からの買増請求に応じる場合

端株主または単元未満株式を有する株主が、その有する端株(または単元未満株式)と併せて1株となる端株(または併せて1単元となる単元未満株式)を売り渡すべき旨を会社に請求することができる旨を定款に規定している会社の場合、その請求がされると会社は自己株式(端株または単元未満株式)を譲渡しなければならない。

ただし、会社が自己株式を所有していない場合は、請求に応じる必要はない。

株式を公開しない会社での活用

株式未公開会社(非上場会社)が金庫株を有効に活用する方法としては、以下が考えられる。

  • 株式の現金化:事業承継者の納税資金確保、少数株主の株式売却機会提供
  • 支配権の確立:議決権割合の確保
  • そのほか:株式持ち合いのスムーズな解消、配当負担金の減少、経営指標の改善

株式未公開会社にとってのメリット

■株式の現金化による事業承継者の納税資金確保

換金性のない非上場会社株式を大量に相続する事業承継者は、相続税の納税資金に困ってしまう場合がある。非上場株式の物納制度もあるにはあるが、現実にこの制度は機能していない。そんな時、会社に株式を買い取ってもらうことができれば納税資金が得られる。

また、事業承継者以外の相続人が株式の一部を相続してしまった場合は、事業承継者がその株式を買い取れるのであれば問題ない。しかし事業承継者に株式を買い取る資金がない場合は、会社に買い取らせて事業承継者以外の者への株式の移転や分散を防ぐことも可能になる。

■少数株主の株式売却機会提供

従来、自ら買主を探し出す以外に売却の機会がなかった株式未公開会社の株式に、換金の機会を与えることができる。

具体的には、定時株主総会招集通知に自己株式取得の議案があれば、株主総会の5日前までに、「私が保有する株を買い取って欲しい旨」を文書で会社に通知すれば、会社は当該株主の株式の一部も買わなければならない。

会社が自己株式取得の議案を提案する場合、実際には事前に特定の者からあらかじめ決まった株数を決まった価額で買い取ることが前提としてあるので、議案に「A氏から、10株を1000万円で買い受ける」と記載していたところ、B氏から私の40株も買って欲しいと申出があった場合、A氏より2株200万円、B氏より8株800万円で買受ける議案に変更せざるを得なくなり、当初の目的は達成できなくなる。

さらに、B氏、C氏、D氏など多数の株主が株式の買い取りの申出をしてくることも考えられる。その場合は、会社が自ら議案として提案したにもかかわらず、総会決議でこの議案を否決するしかなくなってしまう。

取得枠内であれば自己株式を自由に取得できる株式公開会社とは比較にならないほど、非公開会社での金庫株制度の使い勝手は悪いが、それでも少数株主に株式売却機会を提供することができるのは大きなメリットだろう。

■支配権(議決権割合)の確保

株式未公開会社であっても、歴史のある会社では相続が繰り返されることで、株式が経営と関係ない人に分散し続けている。これらは、「経営権の確保」の観点からは将来の不安要因といえるだろう。自己株式取得を活用すれば、過去に分散した株式を買い集めることができる。

もちろん、従来から会社オーナーが個別にこれらの株式を買い集めることができた。しかし、従来は相対取引のため、買取価格も不透明であり、オーナーのほうから「株を売って欲しい」と切り出せば、相手に当然足元を見られてしまうため、株主が「買って欲しい」と言ってくるのを待っているのが普通だった。

金庫株を使えば、会社の制度として「自己株式を取得します」と経営者サイドから提案でき、その価格も、同一価格で且つ公開されることから、買うほうも買いやすく、売るほうも売りやすいものとなる。

自己株式に議決権はない。そのため、会社が取得した自己株式の分だけ議決権を減らすことができる。その結果、オーナーの持ち分・議決権割合が上昇する。

議決権割合70%のオーナーが自己株式取得によって80%になったところであまり意味はない。しかし、議決権割合49%のオーナーが、自己株式取得によりオーナー以外の株式を買い上げた結果、一時的にオーナーの議決権割合が51%以上もしくは67%以上に上昇するのであれば意味はある。

自己株式を再度、会社がオーナー以外の第三者に譲渡するといった場合には、同時にオーナーも買い増しして、議決権割合を維持する必要が生じるが、自己株式を金庫株として保有し続ける間はこのメリットが生じる。会社が自己株式を取得することで、会社財産を利用して個人の議決権割合を操作できるということだ。

■株式持ち合いのスムーズな解消

持ち合い関係を解消したい場合は、持ち合い関係にある会社が互いに金庫株として取得(譲渡)し合えばスムーズに持ち合い関係を解消できる。両社の決算期が異なる場合には、一方の会社では、他方の会社の株主総会の時期に自己株式を取得するという決議をすることになる。

他方の会社で議案が否決されると、一方的に自己株式を取得しなければならないため、資金繰りに狂いが生じる。こうした場合、他方の会社の議案可決を条件とした決議を行っておけば、リスクは避けられるだろう。

■配当負担金の減少と経営指標の改善

金庫株には配当請求権がない。そのため金庫株分の配当金負担が減少する。

ROE(株主資本利益率)やEPS(1株当たり利益)を算出する際、金庫株分を除くため、これらの効率性の指標が改善する。

株式未公開会社にとってのデメリット

■財務体質の悪化

自己株式の取得は、財務体質を強化する目的で自己資本を増加させるのとは正反対の行動、つまり減資と同様の行動をとるわけなので、財務体質は悪化する。

過剰な資金を持っている会社が、自己株式を取得することによって効率性の面からムダをなくすことができるが、資金的に余裕のない会社が自己株式の取得を行った場合は資金繰りに窮することとなる。

■相続税評価額の上昇を招く

相続税評価額の上昇につながる可能性がある。総資産が減少することにより、株式の相続税評価額算定上、その会社の扱いが変更になり、課税上不利になる可能性がある。

■金融機関による格付が低くなる可能性

前述の通り、自己株式の取得は経済効果は減資と同じ。財務の安全性の指標として、最も重要な自己資本比率は当然悪化するため、金融機関による格付けが下がる可能性がある。

金庫株制度の活用

金庫株は自己株式の代用として活用できる。以下のような使い方だ。

  • 組織再編(合併、株式交換、会社分割)における代用
  • 従業員持ち株会や特定の安定株主への譲渡
  • ストックオプションとして利用

また、経営安定化を図る目的で、従業員持ち株会や特定の安定株主へ株式を譲渡することが考えられる。この場合は、取締役会の決議と株主総会の特別決議が必要。

将来にわたり、株式を公開する意向のない株式未公開会社が金庫株を利用し、従業員持ち株制度やストックオプション制度を導入したところで、そのメリットは少ない。一方、これら制度を導入した会社が株式を公開できれば、会社・従業員・ストックオプションの権利付与対象者のいずれにとってもメリットがあるので、金庫株を有効に活用することができる。

同族会社による活用

株式未公開会社にとって、自己株式の取得はそれほど自由にできるものではない。前述したように自己株式の取得は定時株主総会の決議によらなければならないので、年に1回しか機会はない。また、株式未公開会社における自己株式の取得は購入先、価格、数量を決めなければならない。公開企業の自己株式取得のように「購入枠の決議」はできない。

株式未公開会社でも同族会社であれば特別決議も大きな障害にはならないはずだ。しかし、その場合でも、「自分の株式も買い取って欲しい」という株主が出てきたら、それも買い取らなければならない。実際にはそうした株主の出現により、当初買い取ろうと思っていた株式を全額買えなくなってしまう。銀行やベンチャーキャピタルといった株主が買い取りを請求するケースは少なくないのが現実だ。

株式未公開会社で思い通りに自己株式の取得ができるのは、株主がオーナーの親族だけであるようないわゆる「同族会社」である。


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