雇用形態と最適な人材配置

組織の運用
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採用戦略の変化

自分が社会人になった頃のことを思い出すと、会社における人材マネジメントは随分と変わってしまったという印象がある。日本が経済成長を続けていた頃の会社の人事制度は「終身雇用」「年功序列」を前提としていた。だから会社では社宅や保養所を整備したり、社内コミュニケーションとしての社員旅行や忘年会があったのではないかと感じている。

人材紹介を生業とする株式会社CEAFOM代表の郡山史郎氏は、東洋経済への2020年3月の寄稿『「会社を3年でやめる若者」が減らない根本原因』の中で、ここ20年の傾向として、こんなことを書いている。

大卒の新入社員の3割が入社3年以内に離職する。よほど「ブラック」な職場なのだろうと思われるかもしれないが、大学生の「就職したい企業ランキング」の上位に入る「ホワイト」に見える人気企業でさえそうだという。

引用:東洋経済ONLINE: 郡山史郎 「会社を3年でやめる若者」が減らない根本原因

この背景には社会の変化がある。例えば、以下のような大きな変化が起こり、従来からの制度は実情に合わないないものとなってきているのだろう。

  • 会社の収益悪化:人件費として確保できる枠が縮小
  • 社員の高齢化:年功序列により人件費が肥大化
  • 労使関係の変化:企業の雇用調整、社員の転職にみられるようなドライな雇用関係の定着

多様化する採用戦略

従来は「新卒を正社員として採用し、定年まで雇用し続ける」ことを採用の基本としてきた。今現在、こうした考え方は見直されてきている。難易度が低い業務、大きな責任が問われない業務に、人件費の高い正社員を配置することは合理的ではないと考えられるようになってきている。

かといって、正社員の採用をやめたわけではない。正社員として採用した「金の卵」を、長い期間をかけてしっかりと教育することも続けられている。要は、企業の採用戦略が多様になってきているということ。会社側は、契約社員、パート、アルバイトなどの形態を必要に応じて選択しているというのが正しいとらえかただろう。

全体から個の管理へ

雇用管理の方針にも大きな変化が見られる。これまでは正社員グループ、パートグループのように属性別に社員をグループ分けし、各グループごとの全体管理を行ってきた。例えば、同期として入社した正社員はほぼ同様に処遇されるため、入社後数年経っても賃金や賞与は大きく変わらない。しかし、年功序列が見直され、能力・成果主義的な人事制度の運営が求められ始めると、全体管理では対応しきれないことが多くなってきた。

個々の社員が有する能力や達成する成果は大きく異なるのが普通だ。社員ごとの個別の雇用管理体制を整え、各社員の能力などを適切に評価していかなければ能力・成果主義的な人事制度はうまく機能しない。さらに、個別の雇用管理の対象となるのは正社員だけではない。パートやアルバイトであっても、会社の業績への貢献度の高い人材はそれなりに処遇していこうというのが現在の主流になってきている。

パート・アルバイト活用の変化

最近の会社の人材マネジメントには大きな変化がみられる。中でも注目されるのは、パートやアルバイトの活用方法だ。

具体例では、「パートの接客レベルに応じて時給に格差をつける飲食店」や「アルバイトを将来の正社員候補として教育する小売店」などがある。こうした会社は、パートやアルバイトに対する「廉価で短期の労働力」という従来の認識を改め、個人の能力を適切に評価したうえで処遇している。今やパートやアルバイトも貴重な戦力となっている。パートやアルバイトという存在を改めて見直し、より有効な活用を目指す企業が増えてきている。


雇用形態別の社員の特徴

厚生労働省が、中小企業の経営者や人事労務担当者向けに、基本的な労働法制度の概要、助成金などの支援策を紹介する「中小企業を経営されている方へ」という公開サイトがある。このなかに「さまざまな雇用形態」の説明があり、派遣労働者契約社員(有期労働契約)パートタイム労働者短時間正社員業務委託(請負)契約を結んで働いている人家内労働者自営型テレワーカーの7形態についての説明がある。実にさまざまな雇用形態があることが分かる。

雇用形態はさまざま

人材マネジメントの見直しを進めるうえで重要なのは、各雇用形態の特徴を知り、適切な選択をすること。雇用形態とは、会社が社員を雇用する際の条件別の形態のことだ。雇用形態はさまざまで正社員、契約社員、パート、アルバイトなどがある。これらの形態では、会社と社員の間に直接的な雇用関係が発生する。

そのほか、会社と社員に直接的な雇用関係が発生しない形態として人材派遣の利用などがある。人材派遣の場合、人材派遣会社と派遣社員に直接的な雇用関係が発生し、派遣社員とそれを受け入れる会社には発生しない。

各雇用形態によって、企業が負担する人件費などは大きく異なる。各雇用形態の特徴を把握し、必要であれば適切な形態に変更していくことが重要だ。

なお、パートとアルバイトは同義語として使われることが多いが、厳密な意味では異なる。以下にその概要をまとめておく。

■パート社員

パートは正社員よりも労働日数や労働時間が少ない社員。主な従事者は子育てが一段落した主婦などだ。家計を補助するために働くことが多く、社会的な常識を備えている。パートに関する労働条件を定めた「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」では、パートを次のように定義している。

1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する労働者)に比し短い労働者。

パートタイマー法第2条

■アルバイト

本来、アルバイトは本業を持つかたわらで働く人を意味している。典型的な例は学生だ。学生は学業という本業のかたわら、学費やお小遣いを稼ぐために働いている。また、会社に勤めていながら、夜に飲食店などで働く社会人の場合もアルバイトとなる。

アルバイトには、パートタイマー法など特別な法律はない。しかし、パートとアルバイトの明確な使い分けがされていない現在、通常はアルバイトにもパートタイマー法を準用する。

雇用形態別の特徴

ここで、雇用形態別の特徴とメリット・デメリットを比較してみよう。

主な雇用形態の比較(直接雇用関係が発生しない派遣社員も含む)

雇用形態により雇用契約の期間や人材の属性などが異なることが分かる。雇用した際に会社側が享受できるメリットもさまざまだ。会社側としては、各雇用形態の特徴を把握し、適正な人材配置と活用のヒントとすることが大切だといえるだろう。

最適な雇用形態の選択

ここでは、最適な雇用形態を選択する際のポイントを紹介する。その際、パートとアルバイトを総称し「パート社員」として表記する。

人材処遇の方向性を明確化

会社が置かれている状況に応じて最適な雇用形態を選択することができれば、次のようなメリットを期待することができる。

■適正な人材の配置

正社員、パート社員など各雇用形態で、雇用期間や期待できる能力に大きな違いがある。雇用形態の特徴を把握し、最適な選択をすることで業務遂行に求められる能力、責任度に見合った人材を配置することが可能になる。

■適正な人件費水準の維持

一般的に、正社員とパート社員の人件費は2対1程度だといわれる。もし、パート社員でも十分に対応できる業務に正社員を配置していた場合、これをパート社員に切り替えることで人件費を半分程度にまで削減することができるということになる。

実際、すでに多くの会社が最適な雇用形態の選択を進め、こうしたメリットを享受している。現在行われている取り組みの代表的な動きは、以下の2点になるだろう。

  • 正社員をパートに切り替えて人件費を削減する
  • パートを正社員に切り替えて優秀な人材の定着を図る

適切な形態選択

雇用形態別の特徴を把握した後は、自社の状況を確認する。大切なのは、「業務の難易度や責任度」とバランスのとれた雇用形態。例えば、飲食店やガソリンスタンドのすべてのスタッフを正社員にする必要はない。高度な知識や接客態度を求められない業務なら、現場を監督する少数の正社員を確保し、後は人件費の低いパート社員で十分に運営することが可能だ。また、単純業務に従事する労働力が不足気味なら、正社員1人体制からパート2人体制にすることも可能となる。

各雇用形態別の適した業務を下表にまとめてみた。

雇用形態別の適した業務

雇用形態別で適した業務は、個々の会社の状況で異なる。例えば、正社員が不足している会社では、採用当初は単純業務に配置することになったとしても、正社員としての人材を確保する必要がある。正社員は会社の要となるというのがその理由だ。

また、雇用形態を選択する際は業務の向き不向きだけでなく、次のことにも留意するといいだろう。

  • 正社員を選択:長期的な視点から、企業の将来を担う人材が必要
  • 契約社員を選択:中期的な視点から、プロジェクトの一員となる即戦力が必要
  • パート社員を選択:短期的な視点から、単純業務につく労働力が必要
  • 派遣社員を選択:短期的な視点から、ある程度専門的な知識が求められる業務の労働力が必要

社員のやる気を引き出す

これまで紹介してきたような視点で検討し、最適な雇用形態を選択できた企業は「適切な人材配置」などのメリットを享受できる可能性が高くなるはずだ。また、そこで働く社員の側からみても、「なぜ、パートと同じ仕事をしなければならないのか」という正社員の不満や、「正社員と同じくらい働いているのに、なぜ、こんなにも賃金が違うのか」というパート社員の不満を少なからず解消することができるだろう。

会社人事の基本は適材適所。これに異を唱えるひとはいない。業務内容や責任に応じた適切な労働条件を設定していれば社員の不満は生じない。そして、理想的には、社員の不満を少ななくして、これまで以上に前向きに業務に取り組むようになるという好循環をつくれる可能性がある。


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