📓堀場雅夫 人の話なんか聞くな!

リーダーシップ
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社是「おもしろおかしく」

日本を代表する計測機器メーカーの堀場製作所を知っているだろうか。創業者の堀場雅夫氏が京都帝国大在学中の1945年に創業した会社で、まさに学生ベンチャー先駆者といえる企業だ。社是が「おもしろ おかしく」であることが有名なので、聞いたことがあるかもしれない。

晩年の堀場雅夫氏は、京都市の産学連携機関など、ベンチャー企業の育成に力を注いだり、若手研究者を対象とする「堀場雅夫賞」を創設するなどしていた。自身の経験や資産を、未来の日本を担う若者に還元しようとしていたように見えた。テレビ番組でも、独特の「ちょんまげ」の髪型で、ニコニコしながら面白くて奥深いコメントをされていた。

堀場氏の著作は何冊も読んでいるが、例えば『イヤならやめろ!』『出る杭になれ!』『問題は経営者だ!』など、どれもこれも、タイトルからしてググッと惹きつける魅力がある。しかもよく売れているらしい。

今回取り上げた『人の話なんて聞くな!ー少しの勇気でもっと自分を活かせる』は、ひとことで言えば、堀場氏が、自分の体験から語る成功の秘訣である。

人の話をよく聞けば、自分の独創性はなくなるし、行動が遅れる。人の話に答えを求めてはいけない。答えはすべて自分の中にあるというのがこの本の主張。

誰でも悩んでいるときは、人の話を聞きたくなるものだ。しかし、著者はどんなに悩んでも人から助言を受けたいと思うことはなかった。人の話を聞いたからといって、何も解決できないことを知っているからである。

親切な成功者が「安く仕入れられる穴場」と「たくさん売れた場所」を教えてくれたとしても、それはもう過去の情報にすぎない。成功者の話を聞いたときは「自分はもっと人が考えつかないようなビジネスチャンスを見つけ出して、もっとすごい工夫をして成功してやろう」ぐらいのことを考えたほうがいいと説く。

少しの勇気でもっと自分を活かせる

われわれの耳に入ってくる情報の99パーセントは、取るに足りないノイズ(雑音)である。その99パーセントのノイズに紛れ込んでいる、自分にとって重要な1パーセントのシグナル(信号)を聞き取らねばならない。人の話をまったく聞かなかったら、1パーセントのチャンスにも巡り会えない。

自分の行動は、自分の価値観に従って決断するほかない。仮に「君はこうしたほうがいい。こうすべきだ」と言ってくれる人がいたとしよう。その決断が結果的に正しかったとしても、それは偶然の幸運にすぎない。自分のフィロソフィを持っているからこそ、人の話を聞くことに意味が生まれる。

自分のスピードを活かすには、人の話など聞いていてはいけない。「出すぎずケンカせず」は日本国内の限られた世界でしか通用しない。我を通し、フルスピードで走らなければ、これからの世界を勝ち抜いてはいけない。

なぜ自分の意見を言わないのだろうか。それは、自分だけがみんなと違う意見になることを恐れるからだ。だからできるだけ先に他の人に話をさせ、全体の流れを見極めようとする。自分の考えを人前ではっきりさせよう。

会議は、会社がうまくいかなくなると多くなる。会議は報告会でも演説会でもない。意見交換を行う場にしなければ意味がない。わが社では、出席者に応じて会議のコストを算出し、召集通知にコストを明示している。たとえば1つの会議のコストが1分間5万円であれば、10分間なら50万円。参加者全員がコストに見合った価値ある討議をするようになり、会議は変わる。

オリンピックに出場するような一流のスポーツ選手は、常に自分の体力、精神力の限界に挑戦している。ところが、それ以外の人、99パーセントの人たちは、自分の能力の何割も使っていない。自分の能力を過小評価し、それ以上の能力を使おうとしない。

給料をもらうために働くことと、おもしろいから働くのは違う。楽しく働いて、それで給料が出るのがいちばんいい。孔子は、2500年も前に「好きなことを自分の仕事にすれば、一生働かなくてすむ」と言っている。好きなことを仕事にすれば働いたことにならない。

「しんどい」と思ったとき、勝つ気でやってきたことに「勝てないかもしれない」という弱気にとらわれる。「しんどい」と言って自分から旗を降ろしたとき、すべては終わる。しかし、何が何でもやろうと思い続けることができれば、必ずできるものだ。

競争しなければ自分の長所はわからないものだ。大人になったら誰でも競争しなければならなくなる。勝負をするなら、自分の勝てる分野でしたほうがいい。何もわざわざ自分の苦手な分野で勝負する必要はない。

最近は、一見賢い人が増えてきた。とにかくやる前に理屈が多いのだ。この仕事がいかに難しいことか、いかに大変なことかを示す事柄をたくさん探し出してきて、理を尽くして実証してみせる。足りないのは、実行・体験だけだ。何もしないで遠巻きにしているより、中へ入ってみることだ。

尽くすべき手を尽くしたら、「自分はやるだけのことはやった。これだけやったんだから必ず成功する」と思えばいいのである。結果はまだ先のことでも、そう思える仕事をしたときは爽快な気分になれるものだ。

多くの日本人にとって、価値は内容ではなく、ブランドにつけられるということだ。日本人は自分にとって本当に価値があるものは何なのかを判断できない。だから日本は、世界最大の圧倒的なルイ・ヴィトン市場になる。

勘が鋭くなるのは脳が対象に対して集中的に働くときである。どんなに強い陽射しでも物を燃やすことのない太陽の光線も、小さな虫眼鏡で焦点を合わせるだけで発火する。集中すればそれだけのパワーが生まれる。

どんなにむずかしい問題でも、原稿用紙2枚、800字にまとめられるものだ。原稿用紙2枚で自分の考えや、伝える内容を説明できなければ、それはその人がその物事を十分に理解していないか、的確に説明する能力がないかだ。これを話すと約3分である。説明は3分でできる。

今日の仕事を先に延ばしていけば、時間もだんだん足りなくなってくる。結局やり切れないで遅らせてしまうことにもなる。そうなると言い訳をしたり、謝ったり、悪くすればお客さんのところにお詫びに行かなければならなくなる。だからなるべく楽をしたい人は仕事が早くなる。

忙しそうにしていて、それほど仕事の実績を上げていない人は時間の使い方が下手なのだ。忙しいという感覚は、仕事に追われ始めたときに感じ始める。追われるのは自分の仕事が遅れ始めたということでもある。早く原因をつき止め、対策を講じることだ。

高度な仕事をする人は、忙しくなればなるほど情報を発信し、受信する。情報はギブアンドテイクで等価交換が原則だから、高度な情報を欲しい人ほどなんとか時間をつくって情報を持っている人と会う。

朝、会社へ出て、目の前の仕事にすぐ手をつけるのではなく、まず今日一日の8時間ほどをどのように過ごすか、おおよその流れをあらかじめ思い描いたほうがいい。仕事の取り組みなどを頭の中で整理し、イメージすることで、むずかしい仕事もスムーズにこなしていくことができる。

「このことならあの人に」と言われるのは、その分野の知識の豊富さに一目を置かれているからだ。人が聞きにくるほどの情報通になるには、やはり何かの専門分野を極めなければならない。一つを極めることができれば、どんな仕事でもいちばんいい処理の仕方を見つけ出すことができる。

情報は自分のことを知るバロメーターでもある。そうやって幅広く情報を集め、自分を見直しながら自分自身が話すべき内容を吟味していくと、時代から取り残されることもなく、新しいものを理解できなくなることもない。これは当然、仕事にもプラスになる。

人生の先輩として

日本人は何事においても「人がどう思っているか」を気にする。自分もそういう面が多々ある。堀場氏の言うように、自分の信念と価値観を確立していれば、世の価値観と違っても気にならないのも確かだが、そんなに簡単ではない。

堀場氏は、自分自身が納得できる基準を持つことで、独自の「勝ちパターン」を見つけ出すことも可能になると説いている。自分の価値基準を確立することは、そんなに簡単なことではないが、常にそれを問いかけるのは意味あることだと思う。私自身は、この著作からのメッセージを、「人の話を聞くな」というより、「自分自身の素直な心で聞け」というアドバイスであると受け取った。

堀場雅夫氏は、2015年に90歳で他界された。その6年前に、人生の先輩としての素敵なメッセージを残しているので、最後にそれを紹介しておこう。

人生は一度きりです。だから、自分のやりたいことをしてください。

あなたはもしかすると、明日死ぬかもしれません。だから、今この瞬間を楽しく生きてください。

つまらない瞬間を積み重ねても、つまらない人生しか送れません。

そのことを私は逆説的に「イヤならやめろ!」と言っているわけです。

イヤなことを頑張って続けても、なかなかうまくいかないはずです。

自分が好きなこと、おもろいと思うことをやらんと成功しません。

私は84年間生きてきましたが、イヤイヤ仕事をしながら成功した人を未だかつて見たことがない。

失敗している人は、おもろいことが見つかっていない人です。

もしくは見つかっていても、それをやっていない人です。

みなさんも、常にチャレンジして、人生を満喫してください。

堀場雅夫

目次概要

堀場雅夫著『人の話なんか聞くな!~少しの勇気でもっと自分を活かせる』の目次概略は以下の通り。

  1. 人の話なんか聞くな!
  2. まずは自分に問いかけてみろ
  3. 自分の「信念」「使命感」に基づいてまず動け
  4. 今こそ耳をふさいで自分の「勝ち」基準をつくれ
  5. まず動け。行動しよう
  6. やりたいことを実現する時間術
  7. 話を聞くより話を聞いてもらおう
  8. 聞きたくない奴の話こそ聞け
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