資金繰り計画立案の基本

経理/財務
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2大課題のひとつが「資金繰り」

起業して、ビジネスがある程度順調に進んでいても、ずっと残り続ける課題がある。その課題は、だいたいが「販路開拓」つまり、新規顧客開拓と「資金繰り」だ。自分の職人技に自信があるとか、特別な技術をベースに独立した場合、「こんなはずじゃなかった」と思うのも販路開拓と資金繰りが多い。私自身も「資金繰り」では痛い目にあったことがある。

一般的に資金繰りには「お金を工面する」というイメージや「資金調達のために融資してもらうところを探し回る」というイメージがついていると思う。そのため「資金繰りをしている会社は経営状態が悪いのではないか?」と思われがちだが、そうとも言えない。

ただ、経営陣が財務表を読めないとか、資金繰り表への注意を怠るような会社は、危ないと思ったほうが良い。経営にとって損益計算と資金計画は車の両輪だ。どちらかに不備が生じ始めると経営に支障をきたし、最悪の場合には倒産といった事態に陥るだろう。よく「勘定あって銭足らず」ともいわれるように、資金繰りの破綻が倒産の引き金になった例は枚挙にいとまがない。

資金繰り計画は重要

昔から資金繰りが重大課題だということは分かり切っているので、資金計画の立て方を再検討し、資金繰りの面から経営難に陥いらないようにしよう。

そのために「資金繰り計画」とは、経営基盤のひとつである資金について、その需要額を把握して調達対策を早期に講じておくことだ。

よく似た言葉に「キャッシュ・フロー計算書」がある。重要だと言われている。これは、簡単にいえば資金繰り表を営業計算書に直したものに他ならない。

資金の意義

営業活動にともなって、会社にはさまざまな支払いや決済義務が発生する。ここでいう資金とは、「現金」のことだと考えていいだろう。

現金は会社の活動とともにいろいろなものに変化する。つまり、普通預金や当座預金のような預金になったり、売掛金のような売上債権になったり、製品や商品などの棚卸し資産に変わったり、土地・建物や機械などの固定資産になったりする。

「資金」とはキャッシュ、つまり支払い手段・決済手段として機能する現金や預金のことをいう。

資金の流れ

会社経営は「初めに現金ありき」だ。会社は元手の現金を増やすために、現金を投入して製品・商品やサービスを提供している。経営が順調にいって利益が上がっている場合には、最初の現金が利益の分だけ多くなって返ってくる。

現金が会社に流入する過程を大別すると、以下の2つになる。

  • 営業収入:財・サービスの流れに対応した現金の収入
  • 財務収入:財・サービスの流れと直接関係のない現金の収入

会社が製品・商品やサービスを提供することによって現金を受け取ることを営業収入という。また、会社は借入金や株式発行などによって現金を受け取るが、このような収入を財務収入という。

現金が会社から流出する過程も大別すると、以下の2つになる。

  • 営業支出:他から財・サービスの提供を受けたときに支出する現金
  • 財務支出:借入金の返済や貸付金の交付など、財・サービスの流れとは関連のない現金支出

今は掛け売りやファクタリングサービスも多く、現金の収支と財・サービスの流れが一致しないため、資金繰りはより重要性を増している。

資金繰り表

資金繰り表は、別名で、金繰り表とか資金収支表などといわれることもある。資金繰り表は一定の区分・科目に基づいて、一定期間の一切の現金収入と現金支出とをそれぞれ分類・集計し、現金収支の動き、資金過不足の調整、繰越金などの状況を把握できるようにまとめられた表のことだ。

■資金繰り表の意義

資金繰り表は、資金繰り実績表と資金繰り計画表とに分けることができる。

資金繰り実績表は、過去における資金繰りの結果を表すものであり、資金繰り計画表は、将来における資金繰りの予定計画を示す。従って資金管理の面からみれば、資金繰り計画表がきわめて重要な意味を持つことになる。

■経常収支と財務収支

資金繰り表は、現金の収支を的確に把握することが主眼のため、その形式は多様だ。特に標準的な形式があるわけではなく、会社によって違う。

また、金融機関が取引先に求める資金繰り表も同様で特に形式が定まっているわけではないが、比較的多く用いられる形式は、経常収支と財務収支(金融収支)とに区分する形式だ。

経常収支としては、現金売り上げ、売掛金の現金回収、受取手形の取り立てなどの収入と現金仕入れ、諸経費の現金支払い、支払手形の期日支払いなどの支出がある。財務収支としては、借入金、株式・社債の発行などの収入と借入金の返済などの支出がある。

経常収支と財務収支は、全体の構成としては、営業収支の過不足を計算し、それを財務収支でどのように調整し、最終的に翌月へいくら繰り越すかを把握することになる。

資金繰り表の形式

一般的な6区分の資金繰り表というものがある。6区分というのは、以下の表の例のように6つの区分で整理されているからだ。

6区分の資金繰り表例

この6区分法の特色は、以下の通り。

  • 財務収支の区分が設けられること
  • 経常収入と経常支出との差額である経常収支差引過不足額が示されること

つまり、この超過額あるいは不足額を指標として経営活動の資金収支の均衡をみることができるとともに、その過不足額が財務収支で調整できるかどうかを知ることができる。

計画時点で経営活動の収支尻が、支出超過であれば、収入の増加(売り上げの増大や売掛期間の短縮など)や支出の縮小(支出となる費用の節減や支払いの繰り延べなど)を行って、支出超過を抑え、それでもなお支出が超過している場合には、財務収支でどのような源泉で調達するかを検討することになる。

資金計画立案の手順

資金繰り計画を立案するには、資金担当者または部門が中心となって他部門の協力を得て全社的立場で行う。スモールビジネスでも経営陣や経理責任者が中心となり、予算制度やそれと同じ考え方で取り組む必要がある。ここではそれを前提として、資金繰り計画を組むための具体的手順について説明する。

■現金収支項目と資料

6区分の資金繰り表例の様式をもう一度見て欲しい。多少の差こそあれ、どんな会社も大体このような資金繰り表を用いているだろうから、各項目についての詳細な説明は省略する。ただ、前述のように、経常収支と財務収支との区分を設けたことにより、合理的な資金繰り表ができるようになっている。

■経常資金と財務資金との区分

企業が収支する資金は大別して、経常収支と財務収支とに区分されることは前に述べた通りだ。それに対応する資金が経常資金と財務資金。

【経常資金】

経常資金とは、通常の経営活動のサイクルの中で収支する資金で、取引先から売り上げ代金を受け取ったり、必要な商品などの仕入れ代金や諸経費を支払ったりする資金のこと。その結果、利益に相当する資金が残るのが道理ですが、支払いと回収のタイムラグなどにより過不足が起こる。

【財務資金】

財務資金とは、経常資金以外の収支で、経常資金の過不足により運用と調達とに分かれる。

運用については、高金利負債を優先的に返済したり、現金仕入れにより仕入れ単価を引き下げたりなどの検討を行う。

調達については、増資か借入金かの選択をする。金融機関からの借入金による場合は、資金需要の事由(短期運転資金か、長期運転資金か、設備資金なのかなど)によって、それぞれに適した金融機関を慎重に選定しなければならない。

計画で考慮すべき要素

スモールビジネスが資金計画上で検討すべき点と対策の留意点は、主に3つ。それは以下の通り。

■売上の減少

売上収入が減少すれば、それに比例して仕入支出も減少し、この点ではバランスがとれる。しかし、その差額から支出すべき人件費などの固定費用、既存の借入金の返済などの負担がかかってくる。それらを見積って、在庫調整、固定費の節減など、自助努力によって資金負担を軽減する。

■回収遅延

直接的な回収遅延だけではなく、ファクタリングサービスによる間接的な回収の遅れが発生することもある。最悪の場合、回収遅延の取引先が倒産してしまうこともある。このような事態が現れ始めたら、そのまま取引先の申し出を受け入れるのではなく、取引の漸減や保証・担保の取り付けなど取引条件を厳しくするといった、債権確保措置に遺漏のないようにすることが大切だ。

取引先の信用状態の調査に当たっては、東京商工リサーチや帝国データバンクなど信用調査機関などを利用する方法も一策だが、直接取引先へ出向いて事務所などの様子を観察するのが最も有効といえる。何となく活気がなかったり、幹部社員に落ち着きがないなど、実は何となく感じるものがあることが多い。

日頃から取引先と接する機会が最も多い営業担当者に対して、取引先に異常が見られないか絶えず気を配るよう指導することが大事なのだ。

■金融機関対策

金融機関を急に変更することはほとんど不可能と思っていい。もちろん、突然の変更は自社の信用にもかかわってくる。普段から取引実績をつけ、必要に応じて自社の現況を説明するなど意志疎通を緊密にしておくことが大切だ。

実は金融機関も昔ほどの余裕がない。それを踏まえたうえで、可能な限り「良好な関係」を築くことを心掛けよう。

体質改善のチェックポイント

前述したように、「勘定あって銭足らず」といわれる原因は、損益計算が発生主義により収益および費用を計上するのに対して、資金繰りは現預金の収入と支出を計上するので、その間に期間のズレが生じて起こる。黒字決算なのに手元には現金がまったくないという状態だ。

資金繰りが苦しい場合、当面の資金繰り対策として金融機関からの借入金などが一般的だが、根本的に資金不足を解決するには、その原因を分析して、体質そのものを改善しなければ、永遠に苦しむことになるだろう。

最後に、資金不足に陥らないための体質改善につながるチェックポンイトを挙げておこう。

  1. 十分な収益性が確保されているか
  2. 長期的な安全性を維持するために自己資金は十分か
  3. 過大投資となっていないか、また、投資の資金調達方法は妥当か
  4. 売上債権の回収状態は適正か、不良債権はないか
  5. 売上債権と仕入債務とのバランスはとれているか
  6. 在庫水準は妥当か、また、在庫の中に売れ残りなどのデッドストックはないか
  7. 貸付金や仮払金などが過大ではないか、その中に回収不能なものはないか
  8. 資金計画があり、実績とのチェックが定期的に行われているか
  9. 借入金の借入可能枠、支払利息負担能力、返済能力を把握しているか
  10. 銀行への信用力はどうか、担当者に会社の状況を理解してもらっているか
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