3K・新3K・6K
就職や転職を考えるとき、「あそこはブラック」とか「この職種は3K」といった情報交換をすると思う。3Kは「きつい」「汚い」「危険」の頭文字をモジった言葉で、1980年代末ごろから使われるようになった。建設業や清掃関連、農林水産関連、看護師などがその代表的な業界といわれている。
今は新3Kという言葉がある。これは、「きつい」「厳しい」「帰れない」または、「きつい」「帰れない」「給料安い」を示すと言われる。長時間労働やその割に低い給与などが常態化しているIT業界について言われることが多いという。
6Kは3Kに新3Kを加えると完成する。「きつい」「きたない」「危険」「帰れない」「厳しい」「給料が安い」となる。かなりひどい職場環境に思えてしまう。看護師の場合は、「給料が安い」「休暇が少ない」「規則が厳しい」「婚期を逃す」「化粧のりが悪くなる」「薬に頼る」の6項目を使った看護師版6Kがあると聞く。
実際にその業界で働いてみると、人によってはその仕事と相性が良く、幸せな職場環境であることも多いのだが、一般的には未だに3Kイメージの強い業界を敬遠する傾向にあることは間違いない。特に若いうちは就職にも転職にも夢を持ていて、例えば、「ドラマのようにカッコいい職場」「入社時から自分のやりたい仕事を担当できる職場」「残業がなく、毎日定時で終わる職場」を願うのは当然だと考える。
そのため、3K・新3K・6Kイメージの強い業界では若手の採用に苦労することが多い。特にスモールビジネスにおける採用活動において、 3K・新3K・6Kイメージは圧倒的に不利だといえる。せっかく採用しても、「やっぱりここは3K職場だった」ということですぐに転職し、それを転職掲示板などに書き込まれるのを、できれば防ぎたいのもスモールビジネスの真実だ。
何もかもが好条件の就職・転職活動はあり得ない。誰もが、その会社の良い面と悪い面をある程度見極め、そのうえでどこかで妥協し、そこで働くうちにだんだんと職場の魅力を感じているからこそ、会社に留まっている。今現在、労働条件などに不満を持っている社員も、就職を決めた時は会社に魅力を感じていたはず。また、勤続年数を重ねるうちに会社や仕事に対する愛着も沸いてきているはずだ。
3K・新3K・6Kイメージをふり払うためには、こうした社員心理を上手に刺激することが効果的だ。そのためには、制度上の環境整備に加えて、社員に対する心理的なケアも必要になる。そこで働く人たちが「ここにいて幸せ」と思うことは、必ず会社の発展の原動力になる。
社員に対する心理的配慮
社員の心理
IT業界で働く若手システムエンジニア(以下「若手SE」)が、「うちの会社は3Kの典型だ」というのを聞くことがある。IT業界といえば、世間一般では、どちらかというと“花形”との印象がある。そうした業界で働く若手SEがこうした発言をするのには驚かされる。この若手SEが自社のことを3Kと表現した理由は以下の通りだ。
若手SEは、終日PCの前に座ってキーボードを叩く仕事に明け暮れている。プログラミングとテストの繰り返しだ。職場は綺麗だし、広めの机で3台のディスプレーを使って、コーヒーを飲みながら仕事している。しかし、単純で半ば退屈ともいえるプログラミングやテストを長時間行っていると、いつのまにか、自分が仕事の主役でなくコンピュータ・ネットワークの奴隷のように思えてくるらしい。
つまり、自分に対する評価が下がってしまうのだ。「仕事が危険」「職場が汚い」など世間一般にいわれる3Kの要素を満たしていなくても、精神的な疲労から自社に対して3Kのイメージを抱くひとがいるということだ。「ここにいて幸せ」と思えないことがこの若手SEの心理状態だった。
企業側の対策
3K・新3K・6Kイメージをふり払いたい会社は、上記の若手SEが感じているような悩みを素早く感じ取って対策を講じなければならない。具体的な対策として効果的なのは、以下の2つといわれる。
- 上司が定期的に面談の場を設ける
- 専門のカウンセラーを常勤させる
社員のメンタルヘルスケアの重要性が注目される現在、大企業などでは専属のカウンセラーを雇い入れるなどして対応を進めている。
スモールビジネスの場合は、専属のカウンセラーを雇うことは難しいので、経営陣や上司が定期的に面談するなどで対応する。スモールビジネスは、経営側と社員側あるいは社員同士の距離が短いことが特徴。周囲は社員の心の変化に気がつきやすいはずなので、「何かいつもと違う」と感じたら、積極的に話しかけるというのが効果的だ。
また、アウトソーシングを利用するなどの方法で福利厚生の充実を実現して、社内外に対する企業のイメージアップに取り組むことも重要。社員の精神的な悩みの解決に努めるとともに、充実した福利厚生を実現することで社員をリフレッシュさせ、3Kイメージをふり払う。
福利厚生のアウトソーシングは、アウトソーサーを通じて複数の企業が費用を負担し合い、保養所などを確保するサービス。近年、大きな注目を集めるビジネスであり、競合も多いため、サービス内容も充実している。
社員に対する環境的配慮
「きつい」の改善
どんな業界に就職しても「仕事がきつい」ことに変わりない。業種による違いはあるが、「肉体的にきつい」か「精神的にきつい」かの違いだけだ。建設業界などは「肉体的にきつい」ことが3Kイメージに直結している。しかし、建設業ほど肉体的な負担は少ないと思われるIT業界でも、前述した若手SEのように「精神的にきつい」自社を3Kと感じてしまう。
社員に根付いた「仕事がきつい」という意識を改善することは困難だ。フレックスタイム制や裁量労働制の導入など就業体制の見直しによって業務の効率化を図る方法もある。しかし、この問題は社員の精神的なものであるため、上司の面談や福利厚生の充実などを行い社員をリフレッシュさせることのほうが効果的だと思われる。
「汚い」の改善
そもそも職場が汚いことは問題だ。例えば「トイレは家の鏡」といわれるが、これは会社にとっても同じ。客離れが進んだデパートのトイレを綺麗にしたら売り上げが回復したのは有名な話だ。清潔感がない職場は対外的な印象を悪くするだけでなく、そこで働く社員のモチベーションを低下させてしまう。「うちの会社は3Kだよなあ」と思いつめている社員にはさらに追い打ちをかけることになるだろう。
「汚い」は簡単な取り組みで改善される。例えば、朝礼の前に10分間の清掃時間を設けるだけでも大きな効果が得られる。また、作業に利用している道具を新調するとか、ユニフォームのデザインを変えることも効果的だと言われている。
2019年頃に大ヒットしたスーツ型作業着「WORK WEAR SUIT ワークウェアスーツ」を知っているだろうか。水道工事会社が開発した「スーツに見えるが実は作業着」というもので、毎日洗えて清潔で、しかも見た目がカッコいい。これを開発した株式会社オアシススタイルウェアによれば、2021年6月にこの作業着型スーツの法人導入企業が1000社を突破したらしい。
職場を清潔に保ち、仕事着も清潔でカッコよく、気分一新して仕事に取り組める環境を整えることが重要。
「危険」の改善
「危険」に対する配慮は会社の最重要課題。既にさまざまな取り組みが行われているだろう。それでも起こってしまう労働災害を減らすのは至難のわざだが、例えば定期的な休憩を入れて社員の集中力を保つのも一つの方法だ。
そのほかに、就業時間中の業務に集中できるように周囲が社員の私生活まである程度目を配ることも大切。また、万一事故が起こってしまった場合に備えて、応急処置の方法を周知徹底することも忘れてはいけない。「危険」への配慮は非常に重要。今一度、社内の安全管理体制を確認すべきだ。
3K・新3K・6K イメージ払拭方法
3K・新3K・6Kを完全に取り除くのは難しいが、社員の心理状態を好転させる方法は色々なアイデアがある。 具体例として以下の6つについて考えてみたい。
- 社員共通の「シンボル」を作る
- 職場環境を「清潔」にする
- 命令指揮系統や運営を「スリム」 にする
- 職場の「活気」を保つ
- 仕事や業務の「価値」を知る
- 積極的に社内外に「アピール」する
シンボルつくる
3K・新3K・6K イメージのせいで活気を失ってしまった職場に、ずば抜けて優秀な人材が入社してきたら社員の心理はどう変化するだろうか。「あんなすごい人が入ってくる職場なのだから、うちも捨てたもんじゃない」と考え、会社に対する評価を上げる社員がいるかもしれない。社員の目標であり、憧れを抱くようなシンボルをつくることで(入社させることで)、社員が持つ3Kイメージを少なからず払拭される。
業務内容が頭脳労働ではなく、肉体労働に片寄っているために3Kイメージが強いなら、各社員に企画書を提出させるなどして自分は生産的で意味のある仕事をしていると実感させることも効果的です。
職場を清潔にする
前述の「汚い」の改善で述べた通りだが再度強調する。
職場が不潔だと社員のモチベーションを低下させる危険性が大きい。例えば、トイレが汚くても「どうせうちは3Kの職場だから関係ない」などの意識が生まれてしまう。作業着は汚いものという意識もマイナスに働くだろう。こうした状態を放置せずに、社内や職場を徹底して清潔に保つことは、3Kイメージ払拭のために重要だ。
運営をスリム化する
疲労には肉体性と精神性がある。肉体的な疲労は体力的な問題なので、しっかりと休息を取ることで解決できる。しかし、精神的な疲労はなかなか回復しないばかりか、日々蓄積されて最終的にはストレス過剰になる危険性もある。精神的な疲労を生じさせる主な要因として、命令指揮系統の繁雑さが挙げられる会社は多い。具体的には以下の状態だ。
- 上司の段取りが悪く、やり直し作業が多い
- 連絡体制が悪く、現場の意見が浸透しにくい
- 仕事の割り当てが悪く、突然の残業や休日出勤が頻繁にある
業務が煩雑な場合の解決には、仕事の運営をスリム化して連絡系統を明確に確立するのが効果的だ。さらに、現場の意見を反映しやすい環境を実現することで現場のストレスは大きく軽減される。
職場の活気を保つ
人が集まる職場では、そこで働く社員が忙しく活き活きと仕事することで、社員の3Kイメージは確実に減る。では、人ではなく装置が多い職場はどうだろうか。
作業機械などの設備を効率的に活用することは、生産性向上のために必要不可。実はそれ以上に、社員に与える影響も大きい。作業機械がフル稼働して活気に満ちている職場と、一部の機械しか稼働しておらず閑散としている職場では社員に与える影響は明らかに異なる。活気ある職場を作り上げるために、必要のない作業機械を稼動させる必要はないが、作業機械が停止していることについて社員がやる気を失うような雰囲気を作らないように留意すべきだろう。
人も機械も常に活気に満ちた職場を実現していくことが重要だ。
仕事の価値を知る
肉体・精神的につらく、絶えずケガの恐れがあるスポーツ選手を「3Kイメージ」でとらえる人は多くない。スポーツに対して価値観や楽しさを感じているからだ。
3Kに対する社員の不満が発生するのは、業務内容や自己に対する価値・自信を失っているためとも考えられる。そこで会社側は、社員に対して自分の仕事が大いに役立っていると実感させることが大切。例えば、経営陣が社員を直接ねぎらうのも効果的。スモールビジネスなら実践しやすいはずだ。
積極的な内外アピールの実施
会社が3Kイメージを払拭するためにさまざまな努力をしても、その取り組みを企業内外に積極的にアピールしなければ社員や求職者に理解してもらえない。そこで、社内報などで、取り組みを文書化して伝えたり、宣伝、広告などを利用することで、積極的な広報活動を行うことが重要だ。
現実問題として、3Kイメージは簡単に払拭できるものではない。しかし、「社員のことを大切に思ってさまざまな取り組みをしている」との姿勢を示さないと何も始まらない。心理的・環境的に「最大の配慮をしている」ことをキチンと説明している会社を、「あそこは3K」を断じるとしたら、そこには別の理由があるはずだ。