遺伝3割、環境7割
親が肥満であるかどうかが、肥満体質に大きくかかわっている。なんと、肥満者の両親を持つ子供は80%もの割合で肥満児だそうだ。父母どちらかが太っている場合は50%、両親とも正常な体重の場合は10%であることを見ると、いかに親の肥満が子供に影響しているかがわかるだろう。ただし、肥満は遺伝すると短絡的に信じるのは誤りのもと。実は、血縁関係のない養子であっても、同じ傾向が見られるという。
一般的に肥満が発生する原因は遺伝30%、環境70%とされている。
遺伝子の面では、体脂肪量をコントロールする遺伝子産物のレプチンというホルモンや脂肪細胞のエネルギー発散にかかわるβ3受容体などが関係している。これらの異常が肥満の原因の一つと考えられているのだ。また、過剰なエネルギー量を摂取した際に、それを脂肪に合成するインスリンを十分に供給する能力も遺伝すると考えられている。
環境面では、肥満を生む行動パターンが生活の中にあると考えられている。両親ともに太っている家庭環境には、肥満を招く食事内容と運動不足の生活パターンが必ずといっていいほどある。したがって、食習慣とライフスタイルを改めて見直すことが必要となる。つまり、体脂肪を蓄えやすい機構が遺伝し、さらに過食するような環境におかれるから太るということだ。
肥満遺伝子
確かに、「肥満遺伝子」といわれるものは存在する。肥満遺伝子と呼ばれているのはエネルギー代謝に関わる数十種類の遺伝子で、エネルギーを消費せず溜め込んだり、脂肪を燃焼させにくい性質がある。これは、人類が過去の飢饉や食料不足に対応するため進化したものと考えられているが、食べ物であふれている現代では肥満によるデメリットの方が多い性質といえるだろう。日本人の3分の1以上が「肥満遺伝子」持っていると言われている。
この肥満遺伝子を持つ人は、体脂肪量をコントロールする遺伝子産物のレプチンというホルモンや、脂肪細胞のエネルギー発散にかかわるβ3受容体を体質的に作りづらいとされる。例えばレプチンは、体にたまった脂肪を一定以上にならないようにする働きがある。これが正常に働かなければ肥満の原因になってしまう。そしてこの体質が親から子へ受け継がれていく。しかし、それは肥満遺伝子を持たない人に比べると太りやすいとういうだけのことで、肥満遺伝子を持つ人が必ず肥満になるとは限らない。
環境の影響が大きい
むしろ大きいのは、環境の影響だ。両親、あるいはどちらかの親が肥満である場合を考えてみよう。子供は過食がもとで肥満になっている両親が用意する食事を当然一緒に食べて成長する。炭水化物や、脂肪の割合の高い食事を幼い頃から食べていれば、体脂肪が蓄積されて肥満になりやすいのは当たり前のことだ。この場合は両親ともども食生活を含めた生活パターンを改善することで、肥満は解消することができる。
それに対し、同じ遺伝子による肥満でも、遺伝子の異常などによる種々の疾患が引き起こす肥満は、すみやかに通院してその原因を治療しなくては肥満は解消されない。また服用した薬による副作用による肥満など、肥満が実は何らかの病気の副作用であることもあり得るのだ。従って、ただ親が太っているからと諦めず、その原因を考え、その人に合った正しい対処をすることが必要だといわれている。
太りやすい食習慣
肥満体質のチェックポイントの一つに、「油っこい料理」や「甘い物」が好きか?ということがある。こってりした味付けの油料理を好み、菓子や清涼飲料水をいつもとっている人は、かならず食生活に歪みがある。間食はするが量が少ないという人が、実際には菓子類だけで大変なカロリーを摂取しているということもある。いくら軽いスナックと思っていても、一日中ことあるごとに口にしていたら大変なカロリーになる。
日常的に甘い缶コーヒーやペットボトルの清涼飲料水をがぶ飲みすることも、非常に問題のある食習慣。食べ物の嗜好や習慣を一朝一夕で変えることは出来ないだろうが、じっくりと改善していく必要がある。
摂取エネルギーを抑える第一歩としては、味付けや料理法を工夫すると良いといわれている。味付けはなるべく薄味で、素材の味を引き出すようにする。さらに、油を用いる炒め物や揚げ物は控え、ゆでる、焼くといった調理法に切り替える。そして、野菜料理を必ず取り入れ、主食プラス一汁三菜で、三大栄養素とビタミン、ミネラルをバランスよくとる献立にする。
間食は原則としてやめる。空腹になったときには、低カロリーの温かい飲み物をゆっくり飲むなどで対処する。食卓以外では食べないと決めて、周囲に菓子類を置かないようにするといいだろう。
レコーディング
食事の記録を付けるなどして、どれだけ食べているか、どのような状況で食べているかを自覚することも大切だ。かつて、食べた時間や食事内容をメモする「レコーディングダイエット」が流行したが、記録によって自身の食習慣そのものを直視することで、これからどうすれば良いかを考えることができる。今ならスマホで食事の写真を撮っておくだけでも記録は可能だ。
気晴らし食いが多い場合には、他の方法でストレスを解消することを考えよう。まとめ食い、どか食いであればそれを改める。夕方以降に一日の大半の摂取量をとる習慣であればそれを直す。朝食を食べない生活は即座に考え直し、一日三食を規則正しくとる食習慣を身に付けるようにする。朝食抜きで夕方から夜にかけてたっぷり食べたり、週末にどか食いするのでは、総エネルギー量がさほど高くなくても太りやすいことを覚えておこう。
世界と日本と新型コロナ
2021年3月4日は「世界肥満デー」(World Obesity Day)だった。主催する世界肥満連合(World Obesity Federation)によると、世界的に肥満が急増し、1975年からほぼ3倍に増えたという。
20億人が肥満か過体重
世界肥満連合によれば、2016年の時点で、BMI(体格指数)が25以上30未満の過体重の成人の数は世界で13億700万人、BMIが30以上の肥満の成人の数は6億7,100万人に上るらしい。世界の20億人が肥満か過体重ということだ。有効な対策をしないでいると、2025年までに世界の成人の5人に1人、つまり2割が肥満になる可能性がある。うち3分の1はBMIが35以上で、医学的な介入が必要な高度な肥満だという。
なお、日本ではBMIが25以上だと肥満と判定されるが、海外ではBMI30以上が肥満とする場合が多い。世界的な視野でみると、 2015年のBMI30以上の日本人女性は3.1%、男性は4.4%。米国は女性が41%で男性が35.5%なので、けた違いに少ないことが分かる。つまり高度な肥満の範ちゅうに入る日本人は世界的にみれば圧倒的に少ないといえる。
米国では肥満の子供が急増して、一種の社会問題にまでなっている。その原因は、ファーストフードなどの高カロリーの食事が主流であること、インターネットの普及によるオンラインゲーム漬け生活など慢性的な運動不足などがあげられる。これは先進国に見られる傾向で、イギリスやイタリア、フィンランド、ロシアなどでも太りすぎの子供が急増しているらしい。
日本人は、数多くの欧米食の影響を受けながらも、米を中心に魚、大豆、野菜などの伝統的な食材を中心としたバランスに富んだ食生活をおくってきた。それが欧米に比べ肥満、心臓病などの発症を防いできたともいえる。今のところ、まだ日本人の肥満率は低い方だが、米国の子供たちの肥満原因となる生活パターンは最近の日本でも同じだと思われる。日本も将来、他の先進国の二の舞を演じないためにも、伝統的な食習慣や生活習慣を守り、早期から肥満対策に乗り出すべきとの声もあがっている。
肥満と新型コロナのリスク
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染すると、肥満の人はより重症化しやすいことが分かっている。世界的に肥満が急増している問題は、 新型コロナウイルスの感染拡大により、より深刻になっている。
英国のキングス カレッジ ロンドンなどの調査によると、肥満のある人が新型コロナを発症すると、入院し集中治療室が必要になり、重症化し死亡するリスクが高くなる。BMIが増加するにつれ、リスクは大幅に高まる。新型コロナの影響は今後数年間続くとみられており、肥満が健康にもたらす悪影響がより強く懸念されている。肥満の人は、肥満を解消するために、いますぐ行動を起こすべきだという提案が 「世界肥満デー」で出された。
世界肥満連合がまとめた「肥満アトラス2021年版:COVID-19と肥満」によると、BMIが35~40の人、肥満のない人に比べ、新型コロナによる死亡リスクが40%増加する。BMIが40を超える人では死亡リスクが90%増加する。集中治療室に入れられた新型コロナの重症患者の7.9%がBMIが40を超えていたという報告もある。
オーストラリアのシドニー大学のティム ロブスタイン教授は、「日本など、成人の肥満レベルが低い国では、新型コロナによる死亡率が低いことが示されています」と指摘している。
薬物療法と外科療法
薬物療法
高度の肥満にたいしては、薬物療法が行われることがある。用いられるのは主に食欲抑制剤。現在日本で健康保険の適用を受けている食欲抑制剤は「マジンド-ル」のみ。商品名をサノレックスといい、脳の中枢神経を抑制し、満腹中枢を刺激することで食欲を抑える。肥満度が70%以上の高度肥満のケースにのみ健康保険が摘用される。投薬期間は3ヶ月とされ、長期服用を続けると、効果が低下する。
マジンドールは副作用が多いのが難点といわれる。副作用は、口渇、悪心、便秘、不眠、イライラ感などの軽いものが多いが、心疾患のある場合は不整脈や狭心症が悪化する恐れがある。
薬物療法として、食欲抑制剤以外には代謝亢進剤がある。これは甲状腺ホルモンによる代謝亢進作用をはかるものだが、筋肉を消耗するのでほとんど使われない。
外科療法
食事療法、薬物療法でも治療効果が上がらない場合、外科療法がとられるケースもある。外科療法とは手術により摂取エネルギーを減らし、減量をはかるもの。開腹して、胃や腸に操作を加える方法であるため、適応にあたっては厳密な吟味が必要だ。
外科療法の適用基準としては、肥満度が+100%以上で重度の肥満のために合併症があり、それらが重症になっている場合に選択される。国内で主に行なわれている方法は胃を小さくする胃縮小手術。ほかに消化吸収面積を縮小させる手術などもあるという。肥満の外科療法というと、テレビ番組などでみかける皮下脂肪の切除や脂肪吸引を思い浮かべるかもしれないが、肥満を引き起こす原因への対処にはならず、根本的な解決にはならない。