株式交換制度の概要と税務

税金
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株式交換制度の概要

これまで経験した4つのM&A(合併と買収)のうちのひとつは「簡易株式交換」により実行された。このときの適時開示資料の冒頭部分にはこんな内容が書かれている。

当社及びA社は、本日開催の両社の取締役会において、当社がA社の株式を取得し、その後、当社を完全親会社、A社を完全子会社とする簡易株式交換を行うことを決議し、本日両社間で株式交換契約を締結いたしましたので、以下のとおりお知らせいたします。

なお、本件株式交換は、A社については、XXXX年 XX月 XX日に開催予定のA社の臨時株主総会において本件株式交換の承認を受けたうえで、当社については、会社法第796条第3項の規定に基づく簡易株式交換の手続きにより株主総会による承認を受けずに、XXXX年 XX月 XX日を効力発生日として行われる予定です。

【注】実際に行った簡易株式交換に関する適時開示資料を元に社名や日付を伏せ、カッコ書きを省略

株式交換制度は1999年の商法改正によって新たに導入された制度だ。その6年後に成立・公布された会社法でも制度は引き継がれている。今回はこの「株式交換制度」について述べる。広い意味での株式交換には、そのままの「株式交換」と「株式移転」がある。概要は以下の通り。

■株式交換

既に設立済みの株式会社であるA社とB社が存在しているとする。株式交換とは、A社がB社の株主から株式を取得し、その対価としてA社の株式をB社の株主に対して交付すること。

A社およびB社が株式交換契約を締結し、その契約がA社およびB社の株主総会で承認されると、契約書に定められた株式交換の日に、B社の発行済株式全部が自動的にA社に移転し、B社の株主には一定の交換比率によって算出されるA社株式が割り当てられる。この結果、B社の株主はA社の従来の株主とともにA社の株主となり、B社はA社の完全子会社となる。

■株式移転

株式移転とは、A社の株主総会において株式移転についての承認決議を行うと、株式移転の日に新たにB社が設立され、A社の発行済み株式全部が自動的にB社に移転し、A社の株主には一定の移転比率によって算出されるB社株式が割り当てられるもの。

株式交換・移転の手続きには、法定日数が決まっているものがある。

株式交換手続きのポイント

株式交換制度における株式交換には「簡易株式交換制度」が認められている。前述の適時開示資料に書かれているのがまさにこれだ。

簡易株式交換制度は、完全親会社となる会社にとって株式交換の影響が少ない場合に認められる制度であり、完全親会社となる会社において株主総会の決議を必要としなくなるなど手続きが簡素化されている。以下に手続きのポイントを挙げておく。

■株主総会の承認

株式交換・移転の承認は株主総会の「特別決議」を要する。特別決議とは、議決権の過半数を持つ株主を定足数とし出席株主の議決権の3分の2以上による多数で決議することだ。

■増加資本の限度額:株式交換の場合

以下の(A)-(B)-(C)が増加資本の限度額となる。

  • (A)株式交換日における完全子会社の純資産額×(交換によって親会社が取得する株数÷子会社の発行済株式総数)
  • (B)完全子会社の株主に支払いをすべき金銭等(株式交換交付金)
  • (C)新株の発行に代えて完全親会社の自己株を移転する場合の自己株式の帳簿価額

会社の所有する自己株式(金庫株と呼ばれるもの)を株式交換の際に発行する株式に代えて完全子会社の株主に移転することができる。

■増加資本の限度額:株式移転の場合

増加資本の限度額は以下の(A)-(B)となる。

  • (A)株式移転日における完全子会社の純資産額
  • (B)完全子会社の株主に支払いをすべき金銭等(株式移転交付金)

■反対株主の株式買取請求権

株式交換・移転に反対する株主の保護のため、反対株主には一定の手続きに基づいて「公正な時価」による株式の買取請求権が発生する。

■完全親会社の役員任期

株式交換前に完全親会社の取締役および監査役に就任したものは、株式交換契約書に別段の記載がある場合を除き、株式交換後最初に到来する決算期に関する定時総会の終了時に退任することとなっている。

■株式交換比率の算定

株式交換比率については、その算定方法などについて法律上の規定はなく、合併比率と同様に解すればよいものと考えられる。

■株式交換・移転に関する税務上の特別措置

租税特別措置法により、以下の2つの条件を満たすことにより交換、移転による譲渡益課税繰り延べの特例を設けた。

  1. 特定親会社による特定子会社株式の受入価額が一定金額以下
  2. 新株割当比率が95%以上

租税特別措置法では、上記のように完全親会社となる会社を「特定親会社」、完全子会社となる会社を「特定子会社」という。

吸収合併の手続きと似ているが、債権者の保護手続きが必要ない分株式交換の方が簡素化されている。また、一定の要件を満たせば「簡易株式交換」を使えるため、株主総会決議が不要となる。

株式交換制度の税務

前述の通り、税法では完全親会社となる会社を「特定親会社」、完全子会社となる会社を「特定子会社」という。

特定子会社の株主に対する課税

株式交換では通常、金銭の移動をともなわず、単に所有している株券のみが交換されるに過ぎない。これに対し、税務では基本的に株式交換は「所有している株式を売却し、現金を受け取り、その金銭で新たな株式を購入する行為である」との考え方を取る。すなわち、原則的には株式交換に応じた株主には売却益に対する課税がなされることになる。

しかし、実際には金銭をともなわない株式交換に応じた株主にまで課税するのは税金負担の面で問題があり、また、株式交換制度そのものの発展を阻害するとの考えから、一定の要件を満たす株式交換については売却益課税が行われないことになっている。

株式交換の課税の特例要件

一定の要件を満たす場合、株式交換に応じた株主に対する売却益課税は行われない。要件は特定子会社の株式交換前の株主数によって異なる。

■特定子会社の株主数が50人以上の場合

次の要件をすべて満たす場合に限り、売却益課税は行われない。

  • 株式交換の際の金銭等交付割合が5%未満であること
  • 特定親会社における株式受入価額が、特定子会社の純資産以下であること

ただし、特例が受けられる場合であっても金銭等交付部分には売却益課税は行われる。

■特定子会社の株主数が50人未満の場合

次の要件をすべて満たす場合に限り、売却益課税は行われない。

  • 株式交換の際の金銭等交付割合が5%未満であること
  • 特定親会社における株式受入価額が、特定子会社の株主の株式交換前の帳簿価額以下であること

ただし、特例が受けられる場合であっても金銭等交付部分には売却益課税が行われる。また、純資産には営業権(のれん)は含まれない。

特定親会社・子会社に対する課税

株式交換する当事者(特定親会社・特定子会社)に対する課税の考え方は以下の通り。

  • 特定親会社に対する課税:特定親会社(株式交換企業)にとっては株式交換比率が適正である限り、特に課税関係は発生しない。
  • 特定子会社に対する課税:特定子会社(株式被交換企業)にとっては株主の変更が起こったにすぎず、特に課税関係は発生しない。

メリット・デメリット

株式交換はM&Aで活用することができる。買収企業は通常、売手企業の株主(オーナー)から株式を買い取る時に現金で支払うが、現金を支払う代わりに自社株を割り当てるか、新株を発行する。文字通り、買収される企業の株式を買収する企業の株式と交換するわけだ。この方法は欧米では一般的なM&Aの手法だが、日本では1999年の商法改正があるまで、株式交換が行われたことはなかった。

株式交換によるM&Aでは、買収企業は現金がなくても他社を買収することができるようになり、キャッシュレス買収が可能。ただし、売手企業のオーナーにしてみれば株式交換によって非公開企業に買収されたときは、非公開企業の株式を受け取ることになり、現金化が難しくなる。

また、株式交換によるM&Aでは、売手企業の株主(オーナー)に買収企業の株式を割り当てるので、売手企業の株主(オーナー)が新たに買収企業の株主として買収企業の経営に参画できるようになる。これをデメリットと考える買収企業もあるだろう。

このように考えると、非公開企業での株式交換を使ったM&Aは、複数の企業が集まって共同事業化する場合などに適している方法であるといえよう。最後に買収する側と売却する側のメリット・デメリットをまとめておく

買収する側のメリット・デメリット

買収する企業(親会社になる側)にとっての株式交換の主なメリット・デメリットは以下の通り。

■メリット

  • 買収資金が必要ない
  • 合併に比べ手続きが容易
  • 法律的には別法人となるため、別法人としての運営が可能

■デメリット

  • 売手企業の株主が新たに株主として加わるため、同族経営からの脱却が求められるケースがある
  • 簿外債務があった場合、間接的に引き継がざるを得ない
  • 手続きが株式売買に比べると煩雑
  • 買収価額のうち営業権相当額について償却できないので、節税メリットがない

売却する側のメリット・デメリット

売却する企業(子会社になる側)にとっての株式交換の主なメリット・デメリットは以下の通り。

■メリット

  • 企業規模が拡大し、スケールメリットが受けられる
  • 合併に比べ手続きが容易
  • 法律的には別法人として残るため従業員などの比較的抵抗が少ない

■デメリット

  • 手続きが株式取得に比べるとやや煩雑

売却企業の株主

売却する企業(子会社になる側)の株主にとってのメリット・デメリットはシンプルだ。以下がその内容となる。

  • メリット:買収企業(親会社になる側)の経営に株主として参画できる
  • デメリット:買収企業(親会社になる側)が非公開企業であると株式の現金化が難しい
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