PL法:重大事故の推移と企業の対策

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製造物責任法:PL法

昨年の夏、ある家庭電化製品2台を12年ぶりに買い替えた。高額な商品であることと、買い替え後にまた10数年利用することを考え、製品のメーカー比較検討を行った。今は、ユーザー目線での家電比較ブログも多いし、家電量販店の元販売員による動画解説や、家電取付け工事業者目線での製品比較解説もあって、たいへん面白かった。すごい時代になったものだ。

製品比較のための検索をしていたら、その製品分野では絶対的な信頼のあるメーカーX社について「X社に賠償命令、製造物責任法の立証責任について」という記事がでてきた。記事を書いたのは弁護士。 製造物責任法 とは「PL法」だ。以前と違って、家電製品を買うと、大量の「注意書き」が同梱されているが、これもPL法の影響だという。今回は、製造物責任法(PL法)を取り上げ、概要や現状、その対策について簡単にまとめてみたい。

PL法登場の背景と目的

製造物責任法、略してPL法は、製品の欠陥によって生命、身体および財産に損害を被った場合、製造会社などに対して損害賠償を求めることができる法律で、1995年7月に施行さた。PLとは、「Product Liability」の頭文字だ。

PL法施行以前は、製品の欠陥によって損害が生じた際、「メーカーに故意または過失があったかどうか」によってメーカーの責任が問われていた。しかし、これでは消費者がメーカー側の責任を立証しなくてはならず、消費者保護という観点に欠けるものといわざるを得なかった。

そこで、製造物については、「製造物の欠陥により人の生命、身体または財産にかかわる被害が生じた場合」には、メーカーに責任を負わせるようにしたのがPL法だ。PL法の施行により、欠陥製品によって損害を受けた被害者が、メーカーや輸入業者に対して損害賠償請求をする場合、「製造業者の故意または過失」に代わって「製造物の欠陥」を立証すれば済むようになった。これにより、被害者が製造物事故による訴訟を起こす場合、被害者が救済されやすくなった。

一方、メーカー側は製品の安全性を高めるために厳密な製造段階でのチェックや表示、取扱説明書の整備などを進めることになり、消費者保護がより一層進むことになった。

PL法の概要

具体的にPL法とはどのようなものか、以下にまとめてみよう。

■PL法の対象となるもの

PL法で対象となっているものは「製造物」。ここでいう「製造物」とは、「製造又は加工された動産」を指す。そのため、未加工の農林畜水産物、サービス(役務)、ソフトウエア、電気などの無体物、不動産などは対象とならない。

■「欠陥」の定義

製品の欠陥といっても、製品の品質の問題だけにとどまらない。PL法でいう「欠陥」は、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」と定義されている。従って、単なる品質の問題にとどまらず、「欠陥」は下図のようにさまざまなレベルに分類されることになる。

製品の「欠陥」レベル例

上手のように、取扱説明書・警告ラベルの不備や販売パンフレット・広告宣伝までもが「欠陥」とみなされる。

■製造物責任は誰が責任を負うのか

PL法では製造物責任が問われる者は、以下の通り。

  • 製造、加工業者
  • 輸入業者
  • 製造加工業者または輸入業者としての表示を製造物に付した者:製造加工業者または輸入業者としての表示がなされている業者でOEM製品などがこれにあたる
  • 実質的な製造業者等と認められる者

また、部品・原材料についても最終製品と同様に責任が生じ、部品や原材料製造業者に対してもPL法が適用される。ただし、部品メーカーが、納入先である製品メーカーの設計に関する指示に基づいて部品を製造した結果、欠陥が生じた場合には、部品メーカーは免責される。

■責任期間

製品事故の被害者は、損害および賠償義務者を知った時から3年の間に損害賠償の請求を行わないと、損害賠償請求権は時効によって消滅する。

損害および賠償義務者を知った時から3年経過していなくても、製造物引渡から10年たてばメーカーは責任を負わない。

■損害賠償の範囲

賠償の範囲は生命、身体および財産侵害による損害(製品自体の損害は対象外)となっている。PL法では損害賠償の範囲を消費者について生じた損害に限定していないため、工業用機械の欠陥による営業損害にもPL法が適用されることになる。

重大事故の推移と訴訟

現実に起きた製品事故については、経済産業省と消費者庁にさまざまな公表資料がある。例えば、消費者庁と独立行政法人国民生活センター、関係機関は、「事故情報」「危険情報」を広く収集し、事故防止に役立てるためのデータ収集・提供システムとして『事故情報データバンクシステム』を提供している。

製品関連事故の推移

経済産業省は、製品事故についてさまざまな情報を公開しているが、直近では2021年3月に『2020年製品事故動向について(データ集)』で、重大製品事故の分析や、リコール未対策製品、経年劣化対策などの分析結果を公表した。

引用:経済産業省 2021年3月「2020年の製品事故の発生状況及び課題

上記は「重大事故」とされるものだが、平均して毎日3件程度が報告されていることになる。

なお、重大製品事故情報の収集と公表は消費者庁が担当し、事故原因究明などを経済産業省が担当するという役割分担になっているようだ。

PL法による訴訟情報

消費者庁では、PL法に関連するさまざまな情報を公開しているが、そのひとつとして、PL法施行状況を把握するため、「製造物責任法に基づく訴訟」の情報収集を行っている。消費者庁が把握し、内容が確認できたものについて、以下のページでPL法に関する訴訟情報を掲載している。

ここには大量の情報があるので、PL法の現実を知る参考データとして活用されたい。

企業のPL法対策

PL法の施行や消費者側の意識の変化によって、製品の安全性はますます求められている。また、前述のように、事故が起こった際の訴訟は普通に行われている。

そのため、モノを製造したり販売する企業にとって、最右翼のリスクマネジメントとしてPL対策を行うことは重要な経営課題となるはずだ。以下では企業におけるPL法対策の考え方について簡単にまとめておく。

社内体制の構築

PL法対策には、社内の体制構築が必須。経営陣、経営トップが先頭にたち、自社がPL法対策に取り組む体制を全社的に推進することが重要となる。下記3点が体制構築のポイントだ。

  • 企業理念・経営方針に製品の安全性の重視を盛り込み、経営トップ自らが全社的に明示
  • 社員への安全教育を徹底し、製品の安全性を重視する企業マインドを醸成
  • PL対策部門の設置および専任スタッフの任命

製品事故の未然防止・再発防止対策

■製品の安全性向上

まずは、製品自体の安全性が向上するべく、設計・製造段階において対策を講じる。

【設計段階】

技術開発、安全性試験の強化、販売店や消費者の意見を反映させるシステムの確立など、自主基準の更新・高度化。

【製造段階】

  • 社内体制の整備:製造工程の改善、製造マニュアルの見直し、部品・原材料の品質管理
  • 外部機関の活用:民間機関による自主的な認証制度の導入
  • 企業間の協力:親企業と下請け企業、部品・原材料や産業用機械のメーカーとユーザー、メーカーと販売業者などの企業間や業界単位で安全性チェック体制を整備

【輸入製品】

海外のメーカーに対する安全性向上のための情報提供や技術指導、輸入業者の安全性などについてチェック。

■表示・取扱説明の充実

製品の品質のみならず、取り扱いについての情報を消費者に伝達することの重要性を認識し、過去の事故やクレームを参考にして表示や取扱説明書の充実を図る。

  • 表示事項の優先度、内容および表示方法の見直し(応急措置や消費者クレーム窓口の記載、文字の大きさ、絵・マークおよび色彩の使用、表示する場所など)
  • 警告表示の分野などにおける統一的な表示導入についての検討
  • 一層分かりやすいものになるよう取扱説明書の内容の充実

■アフターケアの充実

流通開始後にも、情報提供を含めて適切なアフターケアを行い、場合によっては積極的な修理・リコールを行う。

  • 製品にかかわる情報の提供、相談窓口の一層の充実、顧客リストの整備、保証書の充実、補修用部品の保有などを可能な範囲で適切に実施
  • 企業や業界における具体的なガイドラインの作成などによるリコールの機動的実施、内容の公表および行政の事故情報収集制度への通報

迅速・確実な被害救済対策

■紛争解決体制の整備

消費者のクレームなどを処理する紛争解決体制の整備を各企業、各業界ごとに進める。

  • 企業や業界における申し出先の明確化、専門家を配するなどの相談窓口の整備、クレーム処理体制の一元化、統一的なクレーム処理マニュアルの作成など
  • 紛争処理過程における誠実な情報提供、ばらつきのない統一的な処理、処理結果についての透明性の向上
  • 製品に関する検査記録などの整備・充実
  • メーカーと販売店など関係企業間におけるクレーム処理のための連携体制の強化
  • 消費生活センター・製品分野別裁判外紛争処理機関などとの協力

■損害補填措置の充実

製品の特性を踏まえたうえで、適切な損害補填措置の充実について検討する。

  • PL保険への加入、SGマーク制度の活用、団体保険への加入
  • 内部留保の強化
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