財産を残す場合の税金について

資産形成
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多少の財産を残す方法

なんだかんだで、多少は手持ち資産がある。最近、これらを棚卸し、土地建物や株式を合わせて、まあまあの金額になっていることも分かっている。そうなると、次に考えておくことは、これらをどう移転し、残すかだ。

財産を残す方法は、「生前贈与」と「遺産相続」の2通りあることは誰でも知っている。これらは、どちらも財産を移転させるという意味では同じだが、課税される税金は贈与税と相続税で異なるという。また、具体的な節税方法については、例えば借金をすることで課税対象となる相続財産自体を少なくするなど、さまざまな方法があるらしいことも聞いたことがある。

シンプルに、相続税と贈与税ってどちらが高いか、とか、土地や家も生前贈与したほうが良いのかくらいは知っておきたいと思う。おそらく厳密にやろうとすると、ちゃんと税理士などの専門家に相談して、個別評価や詳細計算の結果だしたうえで、その得失を判断しなければならないはずだ。しかし、いづれは専門家に相談するとしても、基本的な知識くらいはがあった方がよいと考える。

そこで今回は、生前贈与と遺産相続について、税金の観点でとりまとめてみた。

価値ある伝承のための贈与

遺産相続は「法定相続」といって、相続する人も、その相続権の強さも、また相続分も、すべて法律で定められている。もちろん遺言を行うことにより、法定相続以外の相続方法をとることもできるが、遺産を巡る争いの原因になることも多い。そんなトラブルを引き起こすくらいなら、「生きているうちに財産を分けておこう」という考え方が出てきて不思議ではない。

書店を眺めると、「生前贈与と遺産相続ではどちらが得か」という類の本が、少なからず並んでいる。それらの本の多くは、税務の専門家がどちらがいくら税金が安いかを技術的に説明してくれる。ただ、これらの本は、遺族に一体何を残すべきかという視点で書かれたものが少ない。そして、なぜ税金云々で遺族の財産分与を決めなければならないのかという気分になってしまう。

「自分が死んでから自分が知らないところで、遺族が自分の財産を分ける状況を作るのではなく、生きているうちに適切な人に適量の財産を分け与え、お金だけではなく、自分の意思も遺族に残そう」という考え方のほうが自然の感情。できれば、生前に財産を与え、その有効な使い方までアドバイスできれば、価値ある伝承ができそうだ。

しかし現実には、贈与税がある。対象が身内でも、財産を贈与すると税金を取られるのだ。そこで、「どうせ相続で税金をとられるのなら、相続税の見込み額より少ないという条件さえそろえば自由に生前贈与をすればいい」という考え方ができるようになる。

贈与税5つの基礎知識

贈与税とはどんな規定がされている税金なのだろうか。贈与税を考える時、最低限必要な基礎知識は、以下の5つだ。

  1. 相続税の基礎控除
  2. みなし贈与税
  3. 配偶者控除
  4. 不動産評価
  5. 相続開始前3年以内の贈与

相続税の基礎控除

財産が相続税の基礎控除未満(3000万円+600万円×法定相続人の数)の場合は、そもそも相続税が発生しないため生前贈与の必要がない。仮に法定相続人が5人だった場合は、3000万円+5人×600万円=6000万円。財産がこの金額未満なら贈与を考えなくてもよい。

みなし贈与税

贈与税の課税対象となる財産は、基本的には相続税とまったく同じであり、金銭で見積ることのできる経済的価値を持ったすべてのものとなる。以下のみなし贈与財産と呼ばれるもののように、贈与されたという認識の薄いものにも課税されるので注意が必要だ。

■みなし贈与財産とされるもの

(1)信託受益権
委託者以外の者が信託の利益の受益者となるような、証券投資信託や貸付信託等でその利益を受ける権利が贈与とみなされる。

(2)生命保険金・損害保険金等
夫が妻を被保険者として、保険料の払い込みをし、その受取人を子供にしていた場合に、妻が死亡することで子供が受け取る保険金は贈与とみなされる。また満期保険金も同様に贈与税の対象となる。

(3)定期金に関する権利
郵便年金などの定期金給付契約と呼ばれるもので、一定の期間決められた掛け金を払い込んでおくと、定期金の給付事由(ある年齢に達した等)の発生したため、年金形式で定期的に金銭の支給を受けられるような時、その受取人と掛け金負担者が異なる場合には、定期金に関する権利には贈与税がかかる。

(4)低額譲受益
親が時価1000万円の土地を、1000万円を著しく下回る、例えば500万円で子供に譲ったような場合、差額の500万円に贈与税が課税される。

(5)債務免除等による利益
親が子供の借金を肩代わりしたようなケースのように、他の人が債務者に代わって債務を弁済したような場合、贈与とみなされる。

配偶者控除

婚姻20年以上の配偶者から、居住用不動産又はその取得資金を贈与された場合は、2000万円までは、贈与税が無税になります。ここに基礎控除の110万円を含めるため、実質的には2110万円までは無税だ。

さらに、配偶者控除の忘れてはならない利点として、たとえ、相続開始前3年以内に贈与された場合でも、相続税の課税対象とされる生前贈与財産の加算からは除外されていることが挙げられる。

ただし、前年以前のいずれかの年に、その配偶者からの贈与について、すでにこの配偶者控除の適用を受けている時には、重ねてこの控除は受けられないと定められており、通常は同一配偶者間で一生に一回しか受けられない。

この規定は納税額が例えゼロであっても、贈与税の確定申告書を提出しない限り受けられない。

不動産評価

一般に、宅地の相続税評価には、宅地が面する路線(道路)に付けられた価額を基準に評価する路線価方式がとられる。従って、不動産の贈与の場合は、この評価額を常に念頭に置かなければならない。ここはさすがに専門家への相談が不可欠だ。

相続開始前3年以内の贈与

相続又は遺贈により財産を取得した者に対して、相続開始3年以内に生前贈与されていたものは、相続税の課税価格に加算し改めて相続税が課税されることになる。しかし、生前の贈与にはすでに贈与税がかけられていますので、贈与税額控除によって、税額が調整される仕組みになっている。

生前贈与と遺産相続の比較

「生前贈与」は財産を渡す人が生きている間に財産を贈ること。「遺産相続」は財産を渡す人が亡くなった後に、財産を相続人が引き継ぐことだ。そして、生前贈与をした際は場合によって「贈与税」という税金を納め、遺産相続をする際には「相続税」という税金を納めることになる場合がある。

生前贈与の非課税枠

生前贈与に課税される贈与税には「基礎控除」と言われる非課税枠が存在する。そのため一般的には、相続税対策には生前贈与が有効だといわれる。基礎控除は、財産をもらう人「1人あたり年間110万円」が設定されている。つまり、年間110万円以内の贈与については贈与税が課税されないということだ。

「たった110万円」と思うかもしれないが、「1人あたり」と「年間」を考慮すると、それほどバカにできない金額になる。

例えば、4人の子供に1人あたり110万円の贈与を「10年間」行った場合を考えてみる。計算は簡単で、110万円×4人×10年間=4400万円になり、総額4400万円分の財産について贈与税を払うことなく移転することになる。もちろん、移転した財産には相続税が課税されることはない。

弱点は時間軸だ。長い期間をかけて贈与しなければ非課税枠の利用効果が薄いため、早めから生前贈与について考え、実行に移さなければならない。

上記の通り、贈与税の非課税枠年間110万円を利用した生前贈与は、最も効果的な相続税対策だといわれる。では、年間の贈与額が非課税枠の「110万円を超えた生前贈与の場合」は相続税対策になるのだろうか。贈与税率と相続税率を比較してみる。

贈与の税率(特例税率)

基礎控除後の課税価格税率 控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

贈与の税率(特例税率:20歳以上の子や孫への贈与)

相続税率

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

相続税率

上記の2つの表を見ると、贈与税率の方が相続税率に比べて税率が高く設定されていることが分かる。これでは、生前贈与せずに相続で財産を渡した方が少ない税負担で済むのではないかと考えるかもしれないが、そんなに単純ではない。

相続税は亡くなった時に全ての財産を一度に渡すことになるが、生前贈与では全ての財産を一度に渡すことは滅多にないからだ。

相続税と贈与税の比較

税について具体例で考える。下記条件で「生前贈与を行わなかった場合」と「生前贈与を行った場合」の税金の金額を計算してみる。

  • 総財産:1億5000万円(全て金銭債権として計算)
  • 相続人:子2人
  • 遺産分割:法定相続分によって行う

■生前贈与を行わない場合

課税遺産総額の計算は以下の通り。

  • 1億5000万円-基礎控除4200万円=1億800万円

上記を踏まえた相続税の総額の計算は以下の通り。

  • 1億800万円×法定相続分1/2=5400万円
  • 5,400万円×相続税率30%-控除額700万円=920万円(子1人あたりの相続税額)
  • 相続人は子2人なので、920万円×2人=1840万円

■2人の子供に1000万円ずつ生前贈与した場合

生前贈与の贈与税の計算は以下の通り。

  • (贈与額1000万円-基礎控除110万円)×贈与税率30%-控除額90万円=贈与税額177万円
  • 2人分のため177万円×2人=354万円

贈与後の残りの相続税の計算は以下の通り。

  • 課税遺産総額1億5000万円-(生前贈与1000万円×2人)-基礎控除4200万円=8800万円
  • 8800万円×法定相続分1/2=4400万円
  • 4400万円×相続税率20%-控除額200万円=680万円(子1人あたりの相続税額)
  • 相続人は子2人なので、680万円×2人=1360万円

贈与税の計算結果と贈与後の残りの相続税の計算結果を合計する。

  • 贈与税354万円+相続税1360万円=1714万円

上記条件の場合、生前贈与を行ったケースでの相続税額合計は「1714万円」。

具体的な比較結果

生前贈与を行わなかった場合と、生前贈与を2人の子に1000万円ずつ行った場合を比較すると、1840万円-1714万円となり、生前贈与を行った場合の方が「126万円少ない税額」で済み、得であることが分かる。

特に、財産が多くある人(相続税率が高くなる人)ほど、生前贈与は有効な相続税対策になる。早めから行うことで何年間も継続的に行うことができ、より効果的になることを期待できる。

贈与税による相続税節税の基本的考え方

贈与税を使うポイントは以下の2点につきるだろう。

  • 何回にも分けて1回の課税対象額を低く抑えることができる
  • 1回につき110万円の基礎控除を何回でも利用できる

気をつけなければならないのは、あくまで相続税の方が税率が低いために、必要以上の贈与はかえって税負担を重くする結果になりかねないということ。そこで、損をしない贈与額を見つける方法として、「節税分岐点」の確認が重要になる。

節税分岐点とは、相続税の実効税率と、贈与税の実効税率の一致点のことを指す。即ち、相続税でも贈与税でも支払う税金(率)が同じになるポイントのことだ。この節税分岐点さえつかんでおけば、少なくとも相続税の「実効税率」と同程度の税率に留まる範囲である限り、贈与をしても損はないことになる。

この実効税率とは、相続税では、総遺産価額(基礎控除額控除前)に対する相続税額の割合のことをいい、一方、贈与税では、贈与財産の価額(基礎控除額110万円を控除後)に対する贈与税額の割合のことをいう。

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