生涯役立つ戦略立案スキル

前向き人生
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生涯役立つスキル

せっかく身に着けるなら、生涯役立つスキルがいいと思うだろう。10年以上前に、著名な経営コンサルタントである大前研一氏が「これからの必須スキルは英語・IT・財務」だと言っていたことをよく覚えている。英語と財務はその通りだと思う。ITについては、あまりにも技術の陳腐化が激しいので、半分賛成という感じだ。

たまたまかもしれないが、自分の人生を振り返ると、若いころに身に着けた戦略立案スキルはずっと役に立っている。今回は、その戦略立案スキルのひとつである「経営戦略策定」について書いてみたい。

社会人4年目に、生まれて初めて経営戦略らしきものを立案する機会に恵まれた。今考えると、この経験は普通ではなかったし、これ以降の人生に良い意味で大きな影響を与えてくれた。

最初は、ほとんど前提知識がない状況で戦略を策定していたのだが、すぐに行き詰った。当時の上司は、希代の戦略家で、当時の私が見ている景色では経営戦略を策定できないことを瞬時に見抜き、シンプルで的確なアドバイスを数枚の絵にしてくれた。

目からウロコだった。要するに、さまざまな分析に基づく今後数年間の方向性のアイデアが経営戦略ということだ。今ではなく3年後、5年後の羅針盤。まさにモノの見方と考え方そのものだった。

かつて、IT業界には「ドッグイヤー」「マウスイヤー」という言葉があった。犬が人間の7倍の速度で成長し、ねずみが人間の18倍の速度で成長することを比喩として用いて、「普通の時間感覚で臨んでいると、従来の技術や知識は、すぐに陳腐で時代遅れなものとなり、成長から取り残されてしまう」ということを意味した。

今ではIT業界だけではなく、全ての業界を取り巻く環境が急速な勢いで変化している。企業は変化する事業環境に適応していかなければ生き残っていくことができない。このためには、中長期的な視点で環境へ適応していく経営戦略が重要になってくる。

経営戦略というと、ものものしい言葉の響きから、綿密に練られた事業計画書などを想像するかもしれないが、そんなに大げさに考える必要はまったくない。経営者であれば、大企業だろうがスモールビジネスだろうが、自社の将来像を考え、競合会社の動きなどを見たうえで、さまざまな事業展開の方向性を考えているはず。その事業展開の方向性こそが経営戦略そのものだ。

経営戦略とは、急激に変化するの大海原でどの方角に向かって進むのかという羅針盤に当たる。経営戦略を持つ会社は、羅針盤に従って目的地を目指す。必要とあらば途中で港に立ち寄り、燃料や水・食糧を補給したり、嵐が過ぎるのを待つといった行動をとるだろう。一方、経営戦略を持たない会社は、波の力にまかせて浮かんでいるだけで漂流している船と同じだ。運悪く嵐が起きれば、転覆してしまう。生き残るために、経営戦略は必要不可欠だといえる。

経営戦略策定のポイント

軍事戦略として世界で一番有名な中国の兵法書「孫子」に有名な一節がある。

彼を知り己を知れば百戦殆うからず(かれをしり おのれをしれば ひゃくせんあやうからず)

経営戦略の策定とは、これを具体化する作業そのものだ。

策定プロセス

最も簡素化された経営戦略の策定プロセスは下図のようになる。

経営戦略の策定プロセス

策定ポイント

経営戦略の策定プロセスごとに、その策定ポイントをみていこう。

■理念と目標の明確化

理念とは、「何のために当社は存在するのか」という企業の存在意義や使命を表したものだ。会社によって一文のものあれば、複数の文を掲げているところもある。また、グローバルビジネスを睨んで英語表記にしている企業もある。例えば、ディズニーランドとディズニーシーを運用する株式会社オリエンタルランドは以下の理念を掲げている。

自由でみずみずしい発想を原動力に すばらしい夢と感動 ひととしての喜び そしてやすらぎを提供します。

http://www.olc.co.jp/ja/company/philosophy.html

理念は経営戦略の大前提となるものといえる。

一方、目標とは、「5年後に売上高を50%増やしたい」「3年後に顧客の数を1万人にしたい」といった具体的な数字目標などのこと。理念や目標は経営戦略の前提となるものだ。

■SWOT分析

SWOT分析とは、自社の外部環境分析と内部資源分析をすること。

外部環境分析では、企業を取り巻く顧客、競合企業、経済、法規制などの外部環境を把握し、自社にとっての機会(Opportunities)と脅威(Threats)を分析する。一方、内部資源分析では、ヒト、モノ、カネ、情報に代表される企業が内部にもつ経営資源を分析し、自社の強み(Strength)と弱み(Weekness)を把握する。

SWOT分析で導き出される項目は、次のようなものだ。

【S:強み】

  • 社長に強いリーダーシップがある(ヒト)
  • ヒット商品を持っている(モノ)
  • 他社がまねできない独自のノウハウをもっている(情報)

【W:弱み】

  • 社内に専門家がいない(ヒト)
  • 利益率が低い(モノ)
  • 新製品開発を行うのに十分な資金がない(カネ)

【O:機会】

  • 顧客の健康志向の高まりに自社製品は対応している(顧客動向)
  • 競合他社よりも製品が優れている(競争環境)
  • インターネットの普及により、販路の拡大が期待できる(経済環境)

【T:脅威】

  • 異業種からの新規参入が相次いでいる(競争環境)
  • 少子化により顧客数の減少が予想される(社会環境)
  • 規制強化により、販売できない可能性がある(規制強化)

実際にSWOTの各項目を紙に書き出してみると、頭の中で漠然と考えていた自社の状況が、客観的にみえてくるはずだ。そのうえで、自社に機会や強みがあればそれをチャンスや得意分野ととらえて伸ばす、逆に、脅威や弱みがあればそれを補う、といった方向性を戦略として考える。

■ドメインの設定

ドメインとは企業の生存領域を示すもの。このドメインの設定では、企業が将来にわたって生き残っていくために「どのような領域事業を攻めていくか」を決める。
ドメインについて、経済学者のデレク・F・エイベルは、企業が自らの事業領域を設定するためには

  • どのような顧客集団(who)の
  • どのようなニーズ(what)に対して
  • どのような方法・技術(how)で

の3つの要因で定義されるとしている。

ドメイン設定の枠組み

例えば、美容院であれば以下のドメイン設定になる。

  • 顧客集団(who):20~30代のおしゃれに敏感な女性
  • ニーズ(what):おしゃれに気を使いたい、常にきれいでいたいというニーズ
  • 方法・技術(how):高い技術力を持つ美容師、ヘアーカラーリング技術

■事業戦略の確立

事業ドメインが決まったら、競争に勝つための方法を練っていく。自社の戦略案をいくつか作り、その中から自社にとって最も適した戦略を選択する。後述する競争戦略などが参考になると考える。
そして、全体の戦略が明確になったら、その戦略に基づき財務戦略、販売戦略、人材戦略などの個別戦略を策定する。

■個別事業戦略の実行

どんな大企業でも、ヒト・モノ・カネといった経営資源は限られている。この経営資源を最大限有効に活用することによって、戦略を実施する。どのような戦略をとるかは、企業ごとに、あるいは企業の成長段階ごとに異るはずだ。

SWOT分析をした結果、仮に自社は機会や強みが少なく、逆に脅威や弱みばかりが多くても、決して悲観する必要はない。たったひとつでも自社に強みがあれば、その強みを最大限生かしていくことを考えればよく、現実にはそうした企業は多い。

まずは、理念・目標や、SWOT分析の結果などをキッチリ書いてみることから始めることを勧める。理念や目標はあいまいになりがちだ。実際に言葉や数字にして書きとめてみることで、自社の姿を客観的にとらえることができるだろう。

競合と戦うための戦略

競合が気にならない経営者はいない。競合企業との戦いで打ち勝つためにも経営戦略は必要だといえる。競合企業と戦うための経営戦略を紹介しておこう。

避けては通れない競合

経営戦略の第一人者であるマイケル・ポーターは、企業の競争は「業界間の敵対関係」、「売り手の交渉力」、「買い手の交渉力」、「新規参入の脅威」、「代替製品・サービスの脅威」という5つの要因によって起きるとしている。

マイケル・ポーターの5つの競争要因

これをビールメーカーで考えてみよう。ビールメーカー同士の競争が「業界間の敵対関係」に、原料を扱う商社などの圧力が「売り手の交渉力」、スーパーやコンビニエンスストアなどによる仕入れの値下げ圧力が「買い手の交渉力」、海外ビールメーカーの国内進出などが「新規参入の脅威」、焼酎メーカーやソフトドリンクの飲料メーカーなどによるビールに代わるアルコール飲料の開発などが「代替製品・サービスの脅威」に相当する。

このように、現在の競争だけではなく、未来の新規参入業者や代替製品・サービスの供給業者までが競争相手となる。戦略策定においては、競争は多次元にわたるという見方をする必要がある。

競争に勝ち抜くための戦略

前述のマイケル・ポーターは、競合企業に勝つための戦略として、「コストリーダーシップ」、「差異化」、「集中化」の3つを挙げている。

■コストリーダーシップ戦略

競合会社に対して価格競争力で優位に立とうする戦略のこと。生産から販売に至るまで徹底的にコストダウンを図ることで、競合企業よりも安い価格を実現するというのが要だ。
分かりやすい事例としては、カジュアル衣料業界でのユニクロや、家具・インテリア業界のニトリ、イタリアンレストランのサイゼリヤが挙げられるだろう。

■差異化戦略

自社の技術・デザイン・サービスなどが他社とは違うことを打ち出していく戦略のこと。例えば、企業の中に「この技術だけは競合会社には負けない」といった強みを持っていれば、その強みを最大限にアピールしていく戦略がこの差異化戦略だ。
エルメスなどのラグジュアリーブランドの他、スターバックス、任天堂などがイメージされる。

■集中化戦略

特定の市場に焦点を当てて、その市場に集中的に投資を行うことで、コスト面の優位や独自性を発揮していこうとする戦略のこと。いわゆるニッチ(すきま)な市場に特化している企業が採用している戦略がこれにあたる。
医療に集中したオリンパスや、スズキ自動車などがこの戦略を実行しているように見える。

緻密な分析と大きな構図

現実に経営戦略を策定し、それを実行する経験を積むと、上記のような基本を踏まえて個性的な経営戦略を立案できるようになる。世界の経営者にはアートを学ぶ人が多いと言われるが、戦略策定にはその人の感性が如実に現れるのも事実だ。そのため、同じ業界で、同じデータを分析していても真逆と思われる戦略を実行する会社がでてくる。

結果として理念と目標が達成できればいいのだ。勝てば官軍。結果が全てという世界だ。

最後に、せっかく策定した経営戦略を、できるだけ多くの皆さんに共感していただき、実行に移すための方法を述べておこう。それは「緻密な分析と大きな構図」だ。戦略策定の前提となるSWOT分析を緻密に行うことは、必ず共感に結び付く。その緻密な分析に基づいた戦略を、大きな構図で描くことも必ず共感に結び付く。

せっかく戦略を実行するなら、策定した本人も含め、夢を持てる方向性を提案しよう。

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