まずは所得税に関心を
普通に就職して、給与明細を眺めていると何だか色々な金額が差し引かれていることに気付くはずだ。「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」「住民税」そして「所得税」。支給額をまるまるもらえるに越したことないが、これらの差し引きを合計した分だけ手取りは少なくなる。そもそも「控除」の意味も分からないけど、まあいいかという感じで、だんだん差し引き金額を見なくなる。
給与を支払う側が、その支払いに際して税金を最初から差し引く制度を「源泉徴収制度」という。ナチス・ドイツが戦費を効率的に集めるために導入した制度であるらしい。推察するに、徴税側に相当なメリットがあるのだろう。
一方、税金を納める我々は「まあいいか」に陥りやすい。少なくとも20歳代の自分は、控除される金額が多いとか少ないとか、昨年と違うなあとかをまったく気にしなかった。納税意識が皆無だったに等しい。
その後、30歳代から毎年「確定申告」をするようになり、スモールビジネスを始めて法人税について学んだ結果、所得の考え方は極めて重要だと気付いた。これが分かるには、まず所得税について関心を持つ必要がある。
所得税とは
所得税は、個人が商店や事業を営んでもうけたり、会社に勤めて給料をもらったり、不動産を売却したりして得た利益に対して課される税金のことだ。この利益を「所得」と呼んでいる。その年の1月1日から12月31日までの1年間(これを「一暦年間」という)の所得に対して課税される。企業であれば自由に年度を決められるが、個人にはそれがない。
所得税は、納税者が自分自身で一暦年間の所得とその税額を計算して、それを翌年2月16日から3月15日までの間に税務署に確定申告をして納税をしなければならない申告納税方式の税金だ。
冒頭に書いたように、給与所得者は、毎月支給される給料の中から所得税が天引きされ、年末には年末調整を行って、1年分の給与等について適正な所得税が源泉徴収されているので、ほとんどの人は確定申告する必要がない。
確定申告が必要な給与所得者
国税庁には確定申告が必要な人の説明ページがある。ここには7種類のケースがあるが、主に関係しそうな3つについて以下に記載する
- 給与等の年収が2000万円を超える人
- 2カ所以上から給与等の支払を受けている人
- 給与所得、退職所得以外の所得(副業など)が20万円を超えている人
年末調整を受けた人でも、災害などで被害を受けたり、多額の医療費を支払っている場合には、5年以内なら、いつでも確定申告をして所得税の還付を受けることができる。年の中途で退職をして年末調整を受けておらず、その後所得がないような場合にも、確定申告をして所得税の還付を受けることが可能だ。
所得の種類は10種類
所得とは、「利益」や「もうけ」、「稼ぎ」のことをいう。
個人にはいろいろな所得がある。商店経営による所得、不動産の売却による所得、アパートの貸付けによる所得、クイズに当選して海外旅行に招待されたというのも所得となる。そこで、所得税では、所得を10種類に区分して所得計算を行うこととしている。
国税庁には所得区分のあらましを説明するページがあるが、それを簡易にすると以下になる。
- 利子所得:預貯金の利子収入などに係る所得
- 配当所得:株式の配当金収入などに係る所得
- 不動産所得:貸家や土地の賃貸料収入に係る所得
- 事業所得:物品販売業などの商売に係る所得
- 給与所得:給料や賞与に係る所得
- 退職所得:退職金収入に係る所得
- 山林所得:所有期間が5年を超える山林の売却に係る所得
- 譲渡所得:土地、建物や書画、骨董品などの資産の売却に係る所得
- 一時所得:クイズの賞金収入や生命保険金などに係る所得
- 雑所得:年金収入や原稿料収入などに係る所得
所得税の基本原則
所得税には、次のような基本原則がある。
■個人単位課税の原則
所得税は、所得を稼得した個人に対して課税する個人単位課税を原則とする。
■暦年単位課税の原則
所得税は、法人税のように事業年度ごとではなく、一暦年間(その年1月1日から12月31日までの期間)を課税期間として課税する暦年単位課税を原則とする。
■応能負担の原則
所得税は、個人の担税力(税金を負担する能力)に応じた課税を行う応能負担の原則を持つ。つまり、所得が大きいほど高い税率で税額を計算する超過累進税率を適用したり、生活面での個人的事情を考慮して、医療費控除や配偶者控除、扶養控除などの所得控除の規定がある。
所得税の計算方法
手作業で確定申告書を作成していた頃と違って、今では国税庁ホームページの確定申告書等作成コーナーを利用し、出てるく画面の案内に従って入力するだけで所得税が自動計算され、申告書の作成から提出まで出来てしまう。
自動計算では所得税の仕組みを感じられないこともあり、ここでは所得税の確定申告をする場合の4つの段階を簡単に解説する。
■第1段階:各種所得の金額の計算
所得を10種類の各種所得に分類して、それぞれの所得ごとに所得の金額を計算する。
■第2段階:課税標準の計算
10種類の各種所得のうち一定のものを除き合算する。なお、赤字の所得はここで黒字の所得と相殺し、また、前年以前3年内の純損失の金額があればここで控除する。
■第3段階:課税所得金額の計算
課税標準から所得控除額を控除する。所得控除には、社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除など全部で14種類がある。
■第4段階:納付税額の計算
課税所得金額に税率を乗じて計算した税額から配当控除や住宅借入金等特別控除などの税額控除額や源泉徴収税額やなどを控除して、確定申告で納付しなければならない税額を計算。
要するに、儲けを全部足して、控除されるものを全部差し引いて、税率かけて計算するだけだ。
国税庁が準備している確定申告書等作成コーナーを利用すると、各段階の計算を全部やってくれるので、個別の計算方法は割愛するが、所得税の仕組みがそれほど難しくないということが感じられれば、まずは良いと思う。
人生のイベントと所得税
社会に出ると人生の色々なイベントがあるはずだ。所得税は、個人の所得に対してかかる税金なので、個人のイベントに対しても足したり引いたりが発生する。実際に確定申告したものも含め、所得税と人生のイベントについての関わりを見てみよう。
医療費
我が家は大家族なので、私自身がほぼ毎年申告しているのが医療費控除だ。一定の額の医療費を支払ったときは、確定申告を行うことで所得税が還付される。出産費用や入院費用も対象だが、医薬品購入費についても認められる場合がある。
自宅の購入と増改築
マイホームを買ったし改築もしたので、実際に申告した。もちろん一定の要件を満たす必要がある。
住宅購入や改築で組んだ住宅ローンの年末残高の合計額等を基として計算した金額を、所得税額から控除できる。「住宅借入金等特別控除」又は「特定増改築等住宅借入金等特別控除」という。初年度は確定申告書で提出するが、その後は会社の源泉徴収で扱える。住宅ローンを利用しない場合でも、一定の要件に当てはまれば、所得税の減税を受けることができるらしい。
寄付とふるさと納税
国や地方公共団体、特定の法人などに寄附をした場合は、確定申告を行うことで所得税が還付される場合がある。よく広告を目にする「ふるさと納税」は寄付にあたる。寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税及び住民税からそれぞれ控除が受けられる制度だ。
株式投資
株式の譲渡益は、原則として確定申告が必要だ。ただし、金融商品取引業者のどのような口座で取引したかによって手続が異る。また、株式の配当は、原則として確定申告が必要となるが、一定のものは確定申告不要制度を選択することが可能だ。
保険金の受取り
保険金を受け取る場合、保険料の負担者や支払原因などによって課税関係が異なる。死亡保険を受け取った時や、生命保険の満期保険金を受け取った時、所得補償保険の保険金を受けとったときなど、個別のガイドが国税庁ホームページに記載されている。
無頓着・無関心はダメ
給与をもらう立場に慣れてしまうと、所得税計算は会社がやってくれるので無頓着・無関心になるのが普通だ。でも、ふるさと納税していることを会社が把握している訳がないし、医療費で年間いくらかかったかとか、株式投資での利益などは自分で管理するしかない。
今では、「こういう場合はどうなるの?」といった多くの疑問に対する回答が国税庁のホームページに掲載されていて、大抵の人生のイベントに対する所得税との関りが分かるようになっている。
税理士さんと一定レベルでの話が出来るようになって欲しいと思う。そのためには、まずはこのコラムレベルの簡単な内容を知って欲しいと考えた。所得税で「はじめの一歩」を踏み出して、税金の仕組みに関心を持つことは、必ず人生を良い方向に導いてくれるだろう。