仕事環境を改善する5S活動
5Sと呼ばれる活動がある。整理(Seiri)整頓(Seiton)清掃(Seisou)清潔(Seiketsu)しつけ(Shitsuke)という5つの項目の頭文字をとったものだ。整理整頓とか「掃除しなさい」なんて、小学校のときから言われている。大人になってからも同じことを言われるなんて、どうしたものかと思うだろう。
2003年から2年間ほど、仕事の都合で、首都圏にある中小企業の工場をいくつか訪ねたことがある。全て業績の良い中小企業の工場で、加工や組み立てなど、各々が異なることをやっていた。これらの工場で例外なく壁に貼られていたのが「5S」の各項目だ。そこで働く皆さんは小学生ではない。孫がいるくらいの好々爺も数多く見かけた。
では、わざわざ「5S」に取り組むのはなぜだろうか?
極論すれば「5S」によって、仕事のバラツキを最小化でき、それにより品質と生産性を同時に高められることが期待されているのだ。工場であれば、品質と生産性を同時に高める手法があるなら、導入しないわけがない。5S活動は、工場だけでなく、今では病院・介護の現場や、一般的なサービス業でも取り入れられている。
実際に5Sをきちんと行うのは簡単なようで難しいのが実情だ。「使ったものは必ず元の位置に戻す」「約束の時間を守る」「あいさつをする」ということだけでも、すべてを確実に実行しているかと言われると、自信を持って「もちろんです」とは言えないはずだ。
5Sの定義
▼整理(Seiri)
必要な物と不要な物を分け、不要な物を捨てる
▼整頓(Seiton)
必要なときに必要な物をなるべく早く取り出せるようにすること
▼清掃(Seisou)
職場のゴミをなくし、汚れのないきれいな状態にすること
▼清潔(Seiketsu)
整理・整頓・清掃を徹底して実行し、汚れのないきれいな状態を維持すること
▼しつけ(Shitsuke)
職場の規律やルールがいつも正しく実行できるように習慣づけること
5Sの効果
5Sを工場で見かける理由は、整理・整頓・清掃・清潔・しつけというこの5つが工場管理の原点の活動であるからだ。製造業では5Sを実施することにより、無駄な作業がなくなり生産性が向上するとともに、過剰在庫がなくなりコストダウンを図れる。また、職場の安全が保たれ、労働災害の減少にもつながり、いいことづくめなのだ。
製造業以外が5Sを正しく取り入れれば、収益体質が改善され、顧客サービスのあり方にも大きな影響を与えるといわれている。一般的に、仕事環境への5S導入効果として次のような点が挙げらる。
- 職場安全の確保や向上につながる
- 職場がきれいになり、仕事がしやすくなる
- 仕事が明るく楽しくできるようになる
- 無駄な在庫がなくなり、しかも在庫の量や場所がすぐ分かるようになる
- 設備管理が向上して無駄な設備投資がなくなる
- 時間の無駄がなくなりコストダウンにつながる
- 結果的に生産性が向上して利益率が上がる
- 会社の体質強化につながり、社員への還元も多くなる
5Sの実施方法
導入効果のある5S活動の実施方法を個別にみてみよう。
整理の実施方法
整理とは、必要なものと必要でないものとに区分し、必要でないものを処分することをいう。5Sを成功させるためには、まず徹底した整理を行うことが大切だ。整理の実施方法は以下の通り。
- 必要不必要の基準と整理の方法やルールを決める
- 現状把握のため、整理前と整理後の写真を撮る
- 必要かどうか分からないときには場所を変えてとりあえず残す
- 残す期間を決めておく
- 必要なものの保管場所と最大量を決めておく
整頓の実施方法
整頓とは、必要なものを誰でもいつでも取り出すことができて、すぐ使える状態にしておくこと。つまり、必要なものごとに所定の「置き場が決まっている」「キチンと置かれている」「表示がある」状態にすることだ。こうしてあれば、ものの管理状態がよく分かり、異常が発見された場合には、直ちに行動を起こすことが可能となる。
このように「目で見る管理」が、5Sの中の整頓なのだ。具体的な整頓の実施方法は以下の通り。
- 基本的に目で見て分かる整頓を行なう
- 保管場所の定位置を決め、看板などで分かりやすくする
- 使用場所や使用頻度とその移動方法で保管場所を決める
清掃の実施
清掃は、清潔な職場環境を作るための源です。5Sの清掃は、単にきれいにする以上の効果がある。清掃を徹底することで不具合を発見したり、不良品が減少し、利益が上がった製造業の例は数多く報告されている。製造業以外でも、清掃を軽んじることなく徹底することで、さまざまな改善効果をもたらすことが期待される。
- まずは職場をきれいに掃除する(床、壁、窓、設備、机など)
- きれいになったところで区画線や境界線、位置表示を描く
- 設備には清掃点検チェックリストを作成しておく
清潔の進め方
5Sでの清潔の意味は、整理・整頓・清掃を繰り返し行って、快適な職場を目指し、維持していく活動のこと。清潔の進め方の基本は、3S(整理・整頓・清掃)を徹底して行いながら、誰でも自然に3Sができるように『標準化』することだ。
- 清潔の維持向上マニュアルを作成する
- チェックリストを作り、定期的にチェックする
しつけ
しつけとは「決められたことを守る習慣を身につける」こと。以下が重要になる。
- 就業規則に定められたことは守る
- 働きやすくするために、職場で決めたルールを守る
- 職場の礼儀やマナーを身に付けさせる
- 社会人としての常識を身に付けさせる(あいさつ、身だしなみなど)
5S成功のポイント
5Sは、簡単そうで実は徹底した実行が難しいと言われている。5S導入の専門コンサルタントがいるくらいだから、職場の事情によって様々な工夫や成功ポイントがあると思う。
基本は全員参加
5Sを成功させるためには全員参加型の全社運動としての盛り上がりが大切だ。そのためには職場のリーダー自らが5Sの重要性を十分認識し、真剣に取り組む姿勢を持たなければならない。リーダークラスや実行メンバーが率先して他の人の模範となるような行動をとることも重要といわれている。
「5Sの行動指針」などの形で全社的な目標を明文化するとともに、各職場ごとに「重点テーマ」や「目標」を設定することも必要だろう。
意識共有化のための研修
5S活動が成功するか失敗するかは、実行メンバー全員の意識の共有化が図れるかどうかがポイントになる。そのためには、全員参加の研修を実施することが効果的だ。
研修では具体的に整理・整頓ができた状態をイメージ図にし、その実施上の問題点や障害を考え互いに議論し合うと効果がある。研修室だけでは具体的なイメージが描けないものについては、実際に現場に出かけてあるべき姿を検討するとよいだろう。
実行計画立案とチェック
実際に5Sを実行するには行動計画が必要だ。実行メンバーを中心に整理や整頓の「実行計画書」を作成するとよいだろう。また、実行計画が計画通り実行されているかどうかの確認は実行メンバーとは別の管理職にお願いするのもよいと考える。管理職が自分の責任として定期的な計画書のチェックを実施することにより、全員の5Sに対する関心を高めることができるはずだ。
3Sから始める
5Sを成功させるにはさまざまな工夫が必要だが、重点を絞って集中的に活動することが大切だ。最初は基本となる3S(整理・整頓・清掃)から始め、それができるようになったら残りの2S(清潔・しつけ)を行うようにするやり方も成功のポイントだ。
このとき、3Sの進め方は以下のように分類できる。一般には「整理」から開始するのが通常であると考えられているが、状況によって組み合わせ、順番を工夫することも考えておきたい。
■整理→清掃→整頓
5Sを初めて行う、またはかつて5Sに失敗して再チャレンジする職場で、機械などが少なく、汚れが少ないケースはこのパターンが適している。最初に整理を行うことで不要物を処分したあと、清掃のシステムの見直しを行う。清掃が確実に行われるようになってから、整頓に取りかかるという順序だ。
■整理→整頓→清掃
ある程度5Sの基礎が出来ているケースでは、このパターンが適している。整理、整頓の見直しを行いながら、色分けを中心とした整頓を徹底し、動作改善の手法を工夫し、職場のムダ、ムラ、ムリを排除する。
■清掃→整理→整頓
職場や設備の汚れが目立つケースでは清掃から先に行う。清掃システムの見直しが中心となる。職場の汚れが押さえられるようになってから整理に取りかかるという順序だ。