リエンジニアリングで時短と経費削減

業務改善
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業務プロセスの再設計『BPR』

1990年代中頃、『BPR』という言葉が大ブームとなった。これは、ビジネスプロセス・リエンジニアリング (Business Process Re-engineering)の略で、このBPRを実現するITシステムとして、今では普通に使われる『ERP』という業務システム基盤が登場した。テレビのCMでも連呼される「イーアールピー」だ。

「BPRを実現するためにERPを導入しましょう」。初めて聞くと何を言っているのかサッパリ分からない。次々に新しい3文字略語を使い、業務改革を提案するのがIT業界の常なのだ。3文字略語に惑わされず、中身を具体的に吟味しよう。

さて、リエンジニアリングとは、「業務・組織・戦略をゼロから根本的に再構築する手法」である。つまり、BPRとは、業務のプロセスを根本的に見直し、必要な機能だけに絞って業務を徹底的に再設計することだ。この考え方は、元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマーらが1993年に出版した著作『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新』により世界的に広まった。

しかし、実際にリエンジニアリングを実施したのは大企業にとどまり、中小企業、つまりスモールビジネスの多くは「言葉は知っているけど我々には関係ない」というのが大半だった。

同じ頃、リエンジニアリングと同様に大ブームとなったのは「リストラ」だ。リストラは事業の再構築という意味で、「業績の悪い部分を削って、業績のよい部門に経営資材を集中させる」という経営改善の手法。こちらはスモールビジネスにも受け入れやすかったようで、瞬く間に全国に広がった。

ただし現実には、業績の悪い部分を削るのことばかりが先行し、業績のよい部分に積極的に経営資材を集中させた会社はあまり多くなく、リストラの名のもとに、純粋に人減らしが行われていた。

業務プロセス見直しの意義

人員削減の前にまずは業務プロセスを改善

リエンジニアリングもリストラも、もともとは「経営改善」を目的に行われていたはずだ。特にリストラでいう人員削減は、経営改善の一手法といえるが、業績が悪化したからヒトを減らして経営改善するというのは、あまりにも短絡的といえる。削減された側からは、脊椎で反応しているだけのバカ経営者に見えるだろう。

業種や生業、考え方にもよるが、社員が育つまでの時間やそのコスト、人員削減にかかるコストや、経営改善後の採用コストを俯瞰するとき、人員削減以外の手法を検討する価値は十分あると考える。リストラ以外の「経営改善」手法がリエンジニアリングであるなら、業務プロセス改善を実施してからリストラに着手したほうが、次の飛躍につながる可能性もおおいにあるのだ。

業務プロセス見直しが改善の近道

リエンジニアリングやリストラなど、経営改善を目的とした手法に共通するメリットは主に以下の2つであって、人員削減などを通じた経費削減ではない。

  • 部分的な改革では実現できなかった大きな飛躍ができる
  • 徹底的な無駄の排除が可能

業績が悪化したから人員削減をするというのではなく、業績を今以上によくするために現在の業務プロセスを見直すということを定期的に行うことが経営改善の近道の場合も多々あるのは事実だ。

特に、長い期間見直していない業務プロセスに関しては、改めて見直しを行い、世の中にあるクラウドサービスやソフトウエアを活用して、より短時間で、ランニングコストが少なく、精度の高い業務プロセスに見直すことが求められる。

成功した会社の共通点

業務プロセスの見直し成功事例

業務プロセスの見直しを図り、大幅な経営改善に結びつけた実際の有名な事例を2つ挙げる

【事例1】

A社は、グループ会社に対して融資を行う専門会社。それぞれの専門部署間の連絡・調整に無用な時間がかかり、融資の手続き開始から終了までに1~2週間ほどの時間がかかっていた。

この業務を見直し、今まで専門部署で行っていた各種業務については、案件毎に処理チームを作って対応するようにした。しかも、各種分野で行っていた専門業務については、ITによる支援システムを構築して対応できるようにした。

これによって、人員を増やすことなく、手続き時間を9割以上削減。同じ期間内の処理件数が100倍になるなどの劇的な効果が上がった。

【事例2】

B社は、これまで支払部門にあった支払いの権限を、受取窓口に移行するような業務プロセスの改善を行った。今まで、「請求書を受け取ったときに支払う」というルールから、「商品を受け取ったときに支払う」というルールに変えたのだ。

このルール変更によって、支払部門の人員を、500人から125人にすることができた。

成功企業の共通点

B社が支払部門の人員を500人から125人に変更できたのは、購買注文のオンライン・データベースがあったからといわれる。

上記2社の成功事例からも分かるように、業務プロセスの見直しに当たっては、ITが不可欠な要素であり、ITがなければ業務プロセスの見直しは難しい。この例も含めた様々な実例から、業務プロセスの見直しに成功した組織の共通点は次のようなことだといわれている。

  1. 複数あった業務が統合されている
  2. 従業員、直接窓口担当者に権限が移譲され、直接顧客に対応している
  3. 業務の処理を並行して行い、全体処理期間を短縮している
  4. 組織内外の壁を越えて、業務革新を行い、業務を行っている
  5. むやみにチェックをせず、経済的に意味のあるときにだけ行っている
  6. 調整が必要最小限になるようにされている
  7. 業務データについては、個々で入力して、全体で集計している

スモールビジネスでもやってみる

業務プロセスの整理

大きな会社では、専門のプロジェクトチームを構成してBPRに取り組むのがほとんどだ。スモールビジネスにとって、業務プロセスの見直しは非常に労力の必要なことだが、自社の業務プロセスにはどのような種類があるかを把握し、整理することだけでもさまざまな気付きがある。お勧めだ。

すべての業務プロセスを短期間に改善することは、当然、不可能だろう。優先順位を決めて、業務プロセスの見直しに取り組むべき業務を選定する必要がある。その選定基準として、まずは以下の3点を設けてみてはいかがだろう。

  • 機能していない業務プロセス
  • 顧客に関係する重要な業務プロセス
  • 実行可能な業務プロセス

どの業務プロセスを改善するか

業務プロセスの見直しの意義を全社員に分かってもらうためには、その良さを各々に実感させることが最も効率的だ。そのため、大きな業務プロセス改善に取り組むとともに、小さな業務改善というべきプロセスにおいて、今までのやり方を大きく変えるような取り組みを並行して行うと良い。

例えば「受注手順のプロセス見直し」に伴う「小さな業務改善」の例をみてみよう。

■従来の受注手順:以下の6プロセスで3時間かかる

  1. 顧客より電話で注文受付
  2. FAXにて注文内容を顧客に確認
  3. メーカーに在庫&納期確認
  4. 在庫の有無を顧客に連絡
  5. 社内のデータベースに登録
  6. メーカーに出荷依頼

■プロセス改善後の手順:以下の3プロセスで15分に短縮

  1. 顧客がwebで在庫確認し電子的に発注
  2. データベースに自動登録
  3. メーカーに自動出荷依頼

■プロセス改善に伴う小さな業務改善

今まで紙とファイルを利用していた請求書・領収書・管理帳をすべてクラウドサービス上で行えるようにし、請求書にかかわる業務を従来の3時間から30分に短縮させることにした。

また、入金確認も従来の窓口に出向いての記帳作業から、インターネットバンキングを導入することにより、暇な時間に短時間で作業できるようになった。

現実の業務プロセス改善事例

最後に、スモールビジネスでの業務プロセス改善例を、具体的な数字を示しながら紹介しよう。この事例は、カラオケボックスの直営店30店の展開を行っているスモールビジネスだ。実際に業務プロセスを見直した手順を追いながら見ていこう。

■現状

この会社は、以前は順調に売り上げを伸ばしてきたが、ここ数年売り上げが伸びない状態が続いていた。経営者はこのことを何とかしたいと考えているが、成熟したマーケットの競争激化にともない、売上拡大は期待薄であり、利益確保も困難というのが現状だった。

また、トップと現場のコミュニケーションギャップが生じていることも問題となっていた。経営者からは担当者の動きが直接見えにくく、経営方針の浸透や意識統一に時間がかかっていたのだ。そのため事業推進のスピードアップが図れないという問題点を抱えていた。

■業務プロセスの把握

事業推進のスピードアップと利益率の向上を目的に、まずは業務の洗い出しを行い、業務プロセスの見直しを行うことにした。

業務プロセスの把握に当たっては、日常業務の洗い出しによって業務プロセスを確認し、それぞれの「処理担当者」「使用機材」「コスト」などを把握し、それぞれの業務プロセスが「主業務」なのか「補助業務」なのかをきちんと区別するようにした。

■分析で問題が明確に

業務プロセスの把握によって分かったことは、「補助業務」のコストが意外に膨らんでいたこと。特に各店舗が手作業で行っていた「売上日計表の作成と送付処理」は各店舗の店長にとって大きな負担となっていることが明確になった。

業務プロセス把握と分析で分かった問題点と、現状の作業時間、コストをまとめると以下になった。

▼問題点3つ

  1. 手書きによる報告書作成に時間がかかっている
  2. 本社、営業所、店舗間のFAX使用による紙コストと通信コストの増大
  3. 本社、営業所、店舗によるデータ作成、ファイリング作業などの二重化

▼作業時間
全体で約1050時間/月
(1店舗1日1時間×30店+営業所3時間+本社2時間)×30日

▼コスト
現状で約210万円/月
(1店舗1日2000円×30店+営業所6000円+本社4000円)×30日

■改善案

問題点3つに対する解決策は、以下のようにITを利用することにした。

  1. 報告書作成を定型化しスマートフォンで簡単に入力
  2. スマートフォンからクラウドストレージへデータ転送
  3. クラウド上で一元管理した売上データを各店舗で参照

▼改善後の作業時間
全体で約360時間/月
(1店舗1日20分×30店+営業所1時間+本社1時間)×30日

▼改善後のコスト
現状で約72万円/月
(1店舗1日600円×30店+営業所2000円+本社600円)×30日+クラウド等費用10万円

■改善効果の試算と投資回収

改善前と改善後の作業時間、コストを比較すると従来の約1/3となった。

  • 作業時間:65.7%減
  • コスト:65.7%減

新規システム投資額が約1000万円、月々約10万円のクラウド等費用がかかるが、削減コストを金額に換算すれば、これらは7~8カ月で回収できる見通しとなった。

■導入後

新システム導入後、各店舗の補助業務の負担が格段に減り、店舗間のやり取りをネットワーク化することにより、情報交換もスムーズに行えるようになった。また、トップと現場のやりとりも、ビジネスSNSクラウドサービスによって、コミュニケーションギャップの改善も図ることができた。

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