TLO法:大学等技術移転促進法

法律への対応
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国際競争力のための産学連携

「大学発ベンチャー企業」を知っているだろうか。21世紀に入ってすぐに、文部科学省と経済産業省が発表した基本方針に基づく『起業促進』とも取れる政策だ。

今も昔も、日本人で起業しようと考える人は極めて少ない。事業の核となる技術やアイデアを生み出して、さらに自らリスクを取って起業することは、無謀であり、一攫千金を狙う博打のような行為であると感じる人も少なくない。自分自身が起業したとき、一部からはそう思われていた。

しかし、国が継続的に発展することを考えると、新しい産業を興し、そこに雇用が生まれるという循環をつくらないわけにはいかない。そこで政府は、「基礎研究力を持つ大学と産業・ベンチャー企業群の近接性こそが国際競争力に直結」すると考えた。大学を研究の場や教育の場としてだけの役割ではなく、起業や雇用創出につなげたいと考えたのだ。そして、バイオ技術やナノテクノロジー(超微細技術)、IT(情報技術)など大学の持つ技術とアイデアをうまく事業化できるかどうかが、新産業創出のカギを握るという前提で方針を策定した。

経済産業省は2001年7月、大学の知的資産や研究成果を産業界の新技術・商品開発に役立て、日本経済の活生化を目指す産学連携の基本方針を発表した。このなかで経済産業省は、大学発ベンチャー企業を今後3年間で1000社設立するとともに、起業家人材の養成、TLOの整備・拡充などを提言した。

そして、「3年間で大学発ベンチャー企業1000社」という目標は達成したとされ、経済産業省の推計では、その経済効果は小さいながらも、雇用者数が1万1000人、売上高が約1600億円とされている。企業数で割れば、1社あたりの雇用が10名、売上1億5千万円程度の、スモールビジネスが1000社できたと考えて良いだろう。

経済産業省の2020年度調査では、大学発ベンチャーは2905社。以下がその推移だ。

大学発ベンチャーデータベース(METI/経済産業省)から大学発ベンチャー数の推移

全てのベンチャー企業がうまくいくわけではないので、ここに至るまで、毎年数社は解散や他社に吸収合併されて姿を消している。一方、IPO(株式公開)を果たしたところもある。

また、人事院は2001年4月から、国立大学の教授が、技術を民間に移転する目的で民間企業の役員などを兼任することを認めたため、大学の教授がベンチャー企業の役員を兼任したり、自ら起業したりして、積極的に産業界に進出する動きも拡大している。

産学連携の歴史

第二次世界大戦前は、大学がその研究成果を産業界に還元する例が少なくなかった。東京工業大学で開発されたフェライトを工業化する目的でTDKが設立された例や、水晶振動子、ビタミンの製法など、大学が新産業に貢献した例は多くみられる。しかし戦後、特に高度経済成長の時代に至り、産学連携は長い停滞の時代を迎えた。

高度経済成長を支えた産業の基になった基礎研究は、多くは欧米で生み出された発明であり、この発明に、日本の「高度で均質な生産技術」を組み合わせることによって、国際競争力の高い産業を次々に生み出していった。従って、当時の産業界が大学に求めたのはこうした製造技術を担える優秀な人材の供給であり、大学の研究成果そのものではなかったという。

しかし、1990年代近くになって、アジアをはじめとする新興工業国の追い上げで、高度な製造技術に支えられた日本の「ビジネスモデル」の収益性が低下する事態を迎えることとなる。

また、日本に経済的に追い上げられた米国が、自国の知的資源を保護する政策に乗り出したことから、日本は新たな付加価値を持った新産業を「日本独自の研究シーズ」をもって生み出さねばならなくなった。そこで、多くの国税を投じて研究が行われている大学に、製造技術以外の研究シーズを求め始めたのだ。

このとき、既に米国では1980年には『バイ・ドール法』が制定され、国から助成金を受けた研究成果はすべて大学帰属となり、民間企業に実施させることが義務となっていた。この政策は成功し、これ以降大学から多くの技術が産業界に移転されたという。

「技術移転」がその後の米国の産業力を強化した。日本政府は技術移転を促進する組織の整備や拡充が重要だと考えたはずだ。

TLOの概要

日本でも1998年8月、「大学等技術移転促進法(TLO法)」が施行された。

これは、大学から産業界への技術移転を促進するため、大学と民間産業界との間を仲介する「技術移転機関(Technology Licensing Organization)」、つまり『TLO』の活動を国が支援しようとするもので、それによって大学の研究成果を民間企業で活用し、それとともに、その対価や社会のニーズを大学へフィードバックすることによって、学術の進展を図ろうとするものだ。

TLOは研究者に代わって研究成果を特許などで権利化し、製品開発してくれる企業にライセンスを与えることでロイヤルティ収入を得る。その収入で特許出願などの関連費用を管理しつつ、収益の一部を大学や研究者に還元してさらなる研究促進を図る。

法律に基づく承認を受けたTLOは、経済産業省から助成金や借入資金の債務保証を受けることができるといった特典が受けられる。

国内のTLO

国内のTLOには、「承認TLO」と「認定TLO」がある。これらはTLO法に基づき事業計画が承認・認定された技術移転事業者だ。

2021年7月の時点で、承認TLOは34機関だ。認定TLOがゼロ。なんと1機関もない。私自身がお世話になった機関は認定TLOだった。

一番最初に承認TLOとなった機関は以下の4つ。全て1998年12月に承認されている。

  • 株式会社東京大学TLO:東京大学など
  • 株式会社TLO京都:京都大学・立命館大学など
  • 株式会社東北テクノアーチ:東北大学など
  • 日本大学 産官学連携知財センター:日本大学など

上記機関も含め、国内の全てのTLOについて特許庁が「承認・認定TLO(技術移転機関)一覧」として公開している。

TLOの形態

TLOの形態についてはさまざまなパターンが考えられるが、以下の理由から大学の教育・研究組織からは独立した組織が適当であると考えられる。

  1. 自らの責任と判断で自由に活動ができる(より市場性を持つ)ことが必要
  2. ライセンシング・アソシエートを有するなど、専門的な能力が必要
  3. 研究者や市場の動向に機敏に対応するために組織の柔軟性、意思決定の迅速化が必要
  4. 特許だけでは初期運転資金の確保が困難なため民間などからの資金導入が必要

TLO形態としては、技術コンサルタントやベンチャー・キャピタルなどによる株式会社、大学後援法人や第3セクターなどの公益法人、投資事業組合などがある。

さらに、初期運転資金が不足したり、人材の確保が困難であるという理由から、大学自らの経営戦略に基づき学内にTLOに相当する組織を整備したり、大学や教員が主体となってTLOの機能の一部を担っている機関もある。

TLOに必要な「専門的能力」とは、産業界と大学において研究・経営管理などの経験を持ち、市場動向に精通している知的所有権管理のプロフェッショナルや、大学技術の企業への売込業務などに優れている人材のことをさしているらしい。だが、現実にはそんな人はなかなかいない。人材確保が難しいことは容易に想像できる。

技術移転した企業からの実施料だけでなく、TLOが取り扱う特許の付加価値を高めるため、多様な契約形態を開発していく工夫も必要だ。ほとんど新規事業開発のようなことをやっていると思われる。

TLO定着のために

産学連携事業のなかでも、普通に考えてTLO事業はリスクが大きい。例えば、ある大学で研究された技術の移転先の企業が10億円の売り上げがあっても、日本におけるライセンス料は売り上げの数%にすぎないといわれる。仮に3%としたら3000万円だ。これでは、数人の人件費が出せる程度であり、よほどのヒット商品ができないと、まともなビジネスにはならない。

TLOは営業活動が課題

TLOは大学側と企業側の両方と付き合う必要がある。コーディネーターというよりブローカーのような活動を、多数の組織と実施しないとまともな利益はでない。極論すれば、不動産屋さんが、大家と借主をマッチングするのと同じで、大家に対しても借主に対しても営業活動を怠るわけにはいかない。

日本の大学は社会的にも優れた研究をしており、特許に値する研究成果があるのは間違いないが、大学と企業がお互いに深く接する機会が少なかったために、それらの研究成果を社会に十分還元することをしてこなかった。やはり、大学は研究と教育の比率が高く、その中にTLOのような営利集団が入ってくることはすぐには受け入れられず、戸惑うことだろう。

一方、TLOの最も重要な業務は、大学で研究された技術の企業への売り込みだ。技術に精通しているのはもちろんのこと、TLOの人材は売込みスキルに優れ、起業家精神をちゃんと理解しているビジネスパーソンでないとつとまらないだろう。

技術移転産業は政策的に維持されている産業であり、TLOは大学のあり方と密接にかかわって政策的に存在している。しかし、相手にするのは企業やベンチャーなどの営利集団だ。政策的に維持された市場を母体として、自由な市場で産学連携ベンチャーを成功させるための営業活動をするのは、そんなに簡単な話ではないと考える。

大学は市場原理導入が課題

社会や企業にとって必要性の高い研究を行った大学や教授に対して、より多くの企業からロイヤルティが支払われ、研究者間でも研究成果の優劣によって評価され、報酬の格差が生じるような仕組みを作ることが必要だ。

学内の研究者の評価を論文などで、しかも特定の人だけによって評価するのではなく、特許からのロイヤルティとリンクさせて「研究の市場性」という尺度で研究者を評価するという世界だ。

そうすることによって、日本においても社会のニーズに合った研究が活発に行われるようになり、それが事業と結び付くようなビジネスチャンスも増えると思われる。また、研究成果に基づいて大学が評価されれば、より優れた研究者をそろえることで学内の研究を改善していこうという動きにつながるだろう。

企業はTLOの理解不足が課題

大学には教育・研究に加え、技術移転という新たな柱が加わった。産業や地域経済にとって、大学の果たす役割は大きく、大学が技術移転に取り組むことが産業や地域経済だけでなく、自らの活性化にもつながるのが理想だ。

一方、産業界としては、各TLOの技術シーズがネット化され、広域的に活用できるようになれば利便性が増すはずだ。そして、それぞれの経験やノウハウをすべてのTLOが共有できるようにすることで、発展していくことが望まれる。

既に大学との共同研究をやっている企業はTLOとの付き合い方を知っている。では、スモールビジネスはどうだろうか。かつて「中小企業白書」では、中小企業からみたTLOの課題として以下の点を挙げられていた。

  • 大学全体にどのような研究成果があるかを詳細に把握しきれていない
  • 大学側の技術移転に関するPRや啓発活動が不十分で、企業に関心を持ってもらえない
  • コーディネーターが不足している
  • 技術移転だけでなく、企業における事業化活動を併せて行う取り組みが必要である

スモールビジネスがTLOを利用する際、すぐに事業化できる有用な技術シーズを求める傾向が強い。しかし、4つの課題から、TLOは大学全体にどのような研究成果があるかを詳細に把握しきれておらず、企業がどのような案件を求めているかなど、企業ニーズのマーケティングが不十分なこともあり、うまくマッチングできていない状況が見て取れる。

スモールビジネス側から見ると、TLOのコーディネーターが特許などによる技術移転について専門的な知識や能力を有するだけなのか、もう少しビジネスのプロデューサー的立ち位置なのか分からないで話を進めてしまうのが課題かもしれない。TLOによってどこまで首を突っ込むか異なるだろうが、一般的なビジネスと同じで、まずは相互理解から始めたほうが大学のシーズと企業のニーズのマッチングはうまくいくだろう。

TLOへの期待

今回、わざわざTLOについて書いたのは、自分自身が「大学発ベンチャー」を起業し、TLOを通じて特許などの利用権を得て事業に邁進し、結局失敗した経験があるからだ。

そのベンチャーには大学教授や国の研究機関の研究センター長が取締役に名を連ねていたし、創業時のメンバーは極めて優秀で、陣容は申し分なかった。ベンチャーが無料で出展できるイベントに何度もブースを構えたり、コネを利用してメデイアに出たり、お金を使わず、さまざまな販売促進もやった。

この事業の失敗の要因のひとつが、TLOに支払うロイヤルティ初期料金が高額だったことだ。この支払いのために数千万円を調達した。設立したばかりのベンチャーが数千万円調達するのがどういうことかは、創業した者だけが知っている。要するに起業してすぐに、かなりの無茶せざるを得なかったのだ。

TLOの責任者やコーディネーターは、とても良い人たちだったが、研究と技術と特許については詳しいものの、起業や営業開拓、資金調達についての知識はほとんどなかった。技術移転と直接関係する相談以外は現実問題として「支援できません」という立場だ。

そもそもの政策の目的は「産業創出」や「国際競争力」である。そのひとつとして「大学発ベンチャー」があり、研究成果やアイデアを産業化しやすいように基盤としてTLOを整備したはずだ。その基盤であるTLOが、支援すべき創業間もないベンチャーから高額な初期料金を取るというのには、出鼻をくじかれた。今なら色々な選択オプションがあるようだが、その当時は同じ目に遭遇したベンチャーが多かったと聞く。

もちろん、TLOそのものが事業であって、ボランティア活動ではない。それは百も承知だ。だから、TLOの責任者には、起業したばかりの「技術ベンチャー」が本当に困っていて、技術移転とセットで支援プログラムを組んでいただけると喜ばれるアイデアを伝えた。熱心に聞いてくれた責任者はその3カ月後に異動になった。

この頃、「承認TLO」が39あり、「認定TLO」が4つあった。今は前者が34で後者はゼロ。単純計算では2割減っている。残っているTLOには、主事業の技術移転だけでなく、営業開拓や販売促進の支援と、資金調達の支援など、技術移転先が本当に「産業創出」するためのプログラムを考えていただきたいと思っている。米国のTLOにはベンチャーキャピタルの機能を提供するものがあるのはご存じの通りだ。

大学発ベンチャーから株式公開した企業はある。CYBERDYNE株式会社(証券コード:7779)、ペプチドリーム株式会社(証券コード:4587)、株式会社ユーグレナ(証券コード:2931)、株式会社 PKSHA Technology(証券コード:3993)などだ。TLOの活躍により、もっとIPO企業が増えることを期待している。

なお、事業に失敗した私の「大学発ベンチャー」は、途中で路線を変更し、ITサービス事業に転換した。今は友人が代表者として経営を切り盛りしている。そして、業態転換後16年目の決算を無事に終えたところだ。

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