合併は事業再編の1手段
以前にも書いたが、 45~55歳の10年間で、事業の売買と会社の売買を4つ経験した。そのうち2つは自分自身が中心となって行った。今ではM&Aで事業再編するのは普通のことだ。実は企業の事業再編のために実際に使われる手法は、合併、会社分割、営業譲渡、現物出資、事後設立、財産引受、株式交換・移転などがある。
「財産引受」とか「事後設立」などはあまり聞きなじみのない手法だ。誤解を恐れず言ってしまえば、これらは法律上の規制を回避するために考えだされたやり方。実質的効果は現物出資と同じなので知る必要はない。事業再編のためのM&Aとしては、現実には 合併、会社分割、営業譲渡、株式交換・移転 くらいになる。
中小事業者の事業再編というと、合併を避けては通れないと考えている。自分が経験した4つのM&Aのひとつは「簡易合併」と呼ばれる合併だった。
合併の概要
合併の種類
会社の合併とは、二つ以上の会社が契約によって一つの会社になることをいう。合併には、以下の2つがある。
- 吸収合併:一つの会社がほかの会社を吸収して存続し、同時に吸収された会社が解散し、解散会社の財産および従業員(権利・義務)は存続会社が引き継ぐ
- 新設合併:合併当事法人の全部が解散して新会社を設立し、解散会社の財産および従業員(権利・義務)は新会社が引き継ぐ
現実には、新設合併による積極的理由がある場合を除いて、ほとんど吸収合併が行われる。新設合併によらなければならない理由として、すべての合併当事会社の資産・負債の再評価を行える点がある。
例えばA社がa社を吸収合併する場合は、a社の資産・負債は再評価を行うことができるが、A社の資産・負債は原価のままだ。これを新設合併で行うとA社の資産・負債も再評価を行い、a社の資産・負債の再評価により認識される含み益や含み損を、A社の資産・負債の再評価により認識される含み益や含み損で相殺ないしは上積みすることができる。
新設合併であれば、同じ経済的効果(合併)でありながら、合併後の姿を全く異なるものにすることが可能だ。新設合併には、このような効果があるが、A社の不動産の移転登記手続と登録免許税やA社の新株券の発行手続が余分に必要となる。
また、合併によって、A社がそもそも持っていた許可・認可の再取得が必要となる可能性がある。合併は、権利と義務を包括的に移転させることができる手続きであり、許可・認可についても新会社ないしは合併会社に移転できると考えたいところだが、関係する各法令に個別的に許可・認可について合併により、地位を承継できると規定されていない限り、合併により許可・認可は消滅する。つまり再取得しなければいけなくなるのだ。
従って、どうしても残しておきたい許可・認可を持つ会社が合併当事会社に含まれる場合は、合併により地位を承継できると法令で規定されている場合を除き、その会社を合併会社、その他の会社を被合併会社として合併を行うことになる。
合併の手順
合併手続きは主に会社法に拠る。あとは部分的に独占禁止法も関係してくる。
例えば、吸収合併を行うためには、当事会社間で合併契約を締結することが会社法748条に書かれている。その合併契約の締結に先立ち、当事会社の業務執行を決定する機関において合併契約を締結することに関する承認を得なければならないが、当事会社が取締役会設置会社である場合、一般に、取締役会の承認を得ることが会社法362条4項柱書に書いてある。
2つの株式会社が吸収合併する際の中心的な手続きを順を追ってみてみよう。
- 合併に関する取締役会の決議
- 合併契約承認の株主総会招集のため取締役会の決議
- 合併契約書の作成
- 合併契約の締結
- 合併契約書・貸借対照表等の備置き
- 株主総会の特別議決による合併契約書の承認
- 反対株主の株式買取請求
- 合併に対する債権者異議申述公告・催告
- 公正取引委員会への届出
- 合併期日
- 合併の登記
- 合併新株券の交付、合併交付金の支払
- 合併事項記載書面の備置き・公示
合併日程表の作成
合併手続きは、まず合併することのメリット・デメリットについて、会社の意思決定機関である取締役会で諮られる。次に実務的な「合併契約書の作成」「債権者保護の手続き」「公正取引委員会への届出」などがあり、最終的に合併登記がなされることになる。
以上に要する期間はおおむね4~6カ月。これよりも短い期間で手続きを完了することもできるが、会社法により、期間制限を付された手続きがあることに注意しなければならない。
例えば、債権者に対する合併異議申述公告および催告については、株式総会による合併承認決議から2週間以内に行ない、かつ異議申し立て期間を1カ月以上設けなればならない。また、独占禁止法では、公正取引委員会に対する合併届出の受理日の翌日から起算して30日を経過するまでは、合併をすることができないこととなっている。
そこで、合併に関する基本的な事項を取締役会で決議したときは、合併日程表を作成し、作業手順を明らかにすることが必要となる。
日程表作成上のポイント
■合併期日の確定
合併日程表作成のうえで最も重要となるのは合併期日だ。合併期日については、自由に決めることができる。被合併会社は合併期日の前日までの期間が最終事業年度となる。
従って、合併期日を被合併会社の事業年度終了日の翌日とすれば、被合併会社の決算が一つ少なくなるが、被合併会社と合併会社の決算期は同一であるとは限らないため、合併会社にとっては、合併期日を合併会社の事業年度終了日の翌日にしたほうが都合がよいため、一概には言えない。
なお、合併日程表は、まず合併期日を決定してから、逆算的にほかの日程を決定することになる。
■合併に関する取締役会
合併に関する取締役会は、1回のみならず数回開催されて、合併に至るまでの経過や合併契約の内容などをチェックし、最終的に合併契約書承認のための株主総会を招集するための事項などを決定することになるのが一般的だ。
もちろん、1回の取締役会で重要部分のチェックを終えて決議することも可能だ。
■基準日公告
合併契約書承認のための株主総会は通常「臨時株主総会」となることが多いことから、総会において権利行使ができる株主を確定するため基準日を設ける。定時株主総会で合併承認を行う場合は、通常、定款に基準日の定めがあるため、この公告は不要。
■合併契約書調印
この合併契約書調印については、あくまでも株主総会の承認を条件としたもの。
なお実務上、日本人の感覚として六曜の「大安」などの吉日を好む経営トップも多いので、調印日については、そのような配慮も必要となる。
■有価証券通知書の提出
合併によって新株を発行する場合、発行価額の総額が1 億円以上の場合には有価証券通知書の提出が必要となる場合もある。このあたりは、合併する当事者の環境や、会社法、金融商品取引法、内閣府令によって必要な手続きが変わるので、できれば専門家のアドバイスをもらうのが良いだろう。
■株式の買取代金支払い
合併に反対する株主がいる場合、合併契約書承認の株主総会に先だって書面により合併に反対の旨を会社に通知し、総会において反対の意思表示をし、その総会の日より20日以内に書面により株式買取請求がなされた場合に代金支払いが行われる。
なお、会社は決議の日より90日以内に株式の買取代金を支払わなければいけない。
簡易合併の概要
前述の通り、合併では、原則として株主総会決議による合併契約の承認が必要とされる。これは会社法第795条1項に記載されている。ただし、例外として、一定の要件を満たす吸収合併の場合、存続会社における株主総会承認を省略することが認められており、これを簡易合併という。会社法第796条2項だ。
簡易合併の要件
吸収合併において、以下3つの合計額の、存続会社の純資産額に対する割合が、1/5を超えないこと。
- 消滅会社の株主に対して交付する存続会社の株式の数に、存続会社の1株当たり純資産額を乗じた金額
- 消滅会社の株主に対して交付する、存続会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債の帳簿価額の合計額
- 消滅会社の株主に対して交付する、存続会社の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額
但し、存続会社において「差損」が生じる場合等、一定の場合には、上記要件に該当する場合であっても、株主総会決議が必要とされる。
なお、100%子会社の合併においては、合併新株も合併交付金も発生させないことが可能であるため、子会社の規模に関係なく、常に簡易合併の要件を満たすことができる。
簡易合併の注意点
消滅会社においては簡易合併であるなしにかかわらず、常に合併承認のための株主総会の開催は必要。100%子会社の合併の場合は、被合併会社の株主は合併会社1社なので必ず承認される。
簡易合併の場合は合併契約書に定款変更や役員変更については記載できない。これらが必要な合併の場合には、常に株主の承認が必要となるため、簡易合併は行えないことになる。
また、存続会社においては株主総会が開催されないため、株主は合併が行われることを知らず、また合併に反対する機会を持たない。そこで、存続会社に合併契約書作成日から2週間以内に簡易合併をする旨を公告し、または株主に通知させ、さらに合併に反対の株主の救済手段として株式買取請求権を認めている。
株式買取請求をする株主には、簡易合併に関する公告または株主に対する通知の日から2週間以内に書面で会社に対して合併に反対の意思を通知しなければならない。その後の手続きは通常の株式買取請求権の処理方法と同じだ。
なお、合併に関する事前の情報開示や債権者保護手続は通常の合併の場合と同様に行われる。ただし、株主総会が存在しないためどちらもその開始時期が異なっている。