📖トム・ピーターズ『セクシープロジェクトで差をつけろ!』

前向き人生
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ブランド人のための具体論

今回は、前回コラム『ブランド人になれ!』続編であるトム・ピーターズ著 『セクシープロジェクトで差をつけろ!(仁平和夫訳) 』について述べよう。 著者(Thomas J. Peters、1942年生まれ)は、アメリカを代表する経営コンサルタントである。海軍、マッキンゼーを経て、トム・ピーターズグループ代表。

世界の第一線から発せられる独創的でかつ分かりやすい著者の言動は、常に世界中のビジネスマンから驚きと賞賛もって支持されている。大変有名な著書に「エクセレント・カンパニー(大前研一訳)」がある。著書は他にも「経営革命(平野勇夫訳)」「経営破壊(平野勇夫訳) 」「経営創造(平野勇夫訳)」「起死回生(仁平和夫訳)」などがあり、そのいずれもが日米双方でベストセラーとなっている。

本書は、新時代のプロフェッショナル、ビジネスマンへ向けた、「サラリーマン大逆襲作戦」と銘打った3巻シリーズの2冊目だ。前作『ブランド人になれ!』では、組織に身を置くビジネスマンに向けて、組織のためではなく、自分のために仕事をし、ブランドを確立しよう、と説いていた。前作で強調していた「プロジェクトに対する姿勢」をさらに推し進め、実際にプロジェクトをどう立ち上げ、どう運営し、どうクロージングするかを50のテーマでまとめたものである。

全体は4部構成になっており、それぞれ「創造」「売り込み」「実行」「退場」とプロジェクトのフェーズごとに分かれている。とはいえ、巷のプロジェクトマネジメント本とは全く観点が異なる。前作は個人のブランディングを扱っていて、実感が沸きにくかった方であっても、より具体的なテーマを扱った本書は理解しやすいのではないだろうか。

プロジェクトの4段階

まずは、冒頭に引用されているサラ・アン・フリードマンの「仕事は大事」からの一節を。

何をして生きるかが問題だ。人生でいちばん大切なものは、仕事かもしれない。

私たちは働かなければならないから働くのだが、それでも、自分の仕事を愛したいし、自分の仕事に誇りをもちたいし、仕事をしている自分を尊敬したいし、意義がある仕事をやりたいと思っている。「仕事は大事」サラ・アン・フォリードマン

本シリーズの前作『ブランド人になれ!』で筆者が繰り返し説いていたことは、「時代が変わり、これからは、プロフェッショナルな能力を身につけたもののみが生き残ることが許される時代になった。そこで実際に組織に籍を置くビジネスマンがプロフェッショナルとして世の荒波をうまく泳ぐための心構えは?」といったものだった。その中で、仕事として直接関わるプロジェクトといったものを重要視する姿勢が求められていた。

では、その前作で求められていた「すごいプロジェクト」はどうするの?という問いに答えるのが本シリーズ第2作となる本書である。つまらないやらされ仕事でも心構え、やりようによってはすごいプロジェクトになる。そうやって、自分が関わる仕事の価値を高めていくべきだ、と著者は説く。

しかし、本書では、プロジェクトの「情熱面」だけを扱っているわけではない。プロジェクトとは、半分は冷静な分析、つまり「冷たいもの」、残りの半分は情熱、つまり「熱いもの」が支えているものであると考えるが、この両者を分けて考えるべきではない。世の中の巷のプロジェクトマネジメント本では、この前者のみを扱ったものが多いが、プロジェクトのあらゆる側面を統合し、「冷静で熱くなって」はじめて後世に残る仕事ができる。本書で扱うのは、現実のプロジェクトと、それを企画・遂行する過程で直面する現実の問題である。

『セクシープロジェクトで差をつけろ!』では、プロジェクトを4つのフェーズに分けている。それは、「創造」「売り込み」「実行」「退場」の4つ。これまでの巷の「プロジェクト管理」においては、「実行」以外はほとんど忘れられており、さらに「実行」についても勘違いしているという。筆者が考えているプロジェクトの4段階とは、以下のようにどれもが重要だ。

  1. プロジェクトの企画=創造は、そのプロジェクトがカッコいいか、やる価値があるか、カッコいい人や変わり者をひきつけることができるか、プロジェクトの勝負はここにかかっている。
  2. お客さんを集めること=売り込みは、プロジェクトの成否を決定的に左右する。
  3. 部隊の幕を上げること=実行が重要であることは言うまでもないが、試行錯誤が特に重要だ。
  4. バトンタッチ=退場も細心の注意が必要であり、これをいい加減にすると、どんなすばらしいプロジェクトもあとかたも消えてなくなってしまう。

『セクシープロジェクトで差をつけろ!』 も前作と同じ構成になっており、50のポイントと合わせて、「やってみよう」と称して200あまりの課題が用意されている。自分の抱えている仕事(プロジェクト)に照らし合わせながらいくつかを選び実行に移してみることも可能だ。

創造フェーズ

すごいプロジェクトが生まれるかどうかは、「枠を取っ払えるかどうか」にかかっており、本当の仕事というものは、一見つまらない任務や業務や雑用を、カッコいいもの、忘れられないもの、すごいものに変えることである。憂鬱な仕事を、自分たちの価値観を体現する一大プロジェクトに変えてはいけない理由はないのである。

どんな小さな仕事でもすごい仕事にできる。つまらない仕事というのは、かなり自由がきくからだ。誰も気にしない。誰も見ていない。だから、やりたいことができる。自分で直接、手を下せる。間違いを犯せる。危険を冒せる。そして、奇跡を起こせる。だから、他の誰もやりたがらない「小さい」仕事や、「雑用」があったら、喜んで飛びつこう。やり気さえあれば、かならず、憂鬱な仕事を、輝けるプロジェクト、すごいプロジェクトに変えることができる。

私たちは働く時間の大半を、プロジェクトに費やしている。そのプロジェクトが私たちのストーリーになり、実績になる。プロジェクトが生きた証になる。だからこそ、「やる価値があるか、大切なものか」を問うことがプロとして何よりも重要である、という。プロフェッショナル(前作でいう、ブランド人)としての最大の義務は、すべてのプロジェクトを、それが例えつまらない仕事に思えても、やる価値がある仕事、大事な仕事、世界を変える仕事、長くインパクトが残る仕事に変えることなのである。

売り込みフェーズ

「プロジェクト管理」について書かれた本で、「売り込み(セールス)」に一章を割いたものはほとんどないが、そこに問題がある、と著者は指摘する。すごいプロジェクトは、チームメンバに、お偉いさんに、そして最初は変わり者のお客さんに、最終的には多くのお客さんに売り込まなければならない。売り込み術は、戦いに必須の武器である。意図を明確にして焦点を絞らなければ、売り込みはできない。迫力と信念がなければ、売り込みは成功しない。売り込みに成功しなければ、どんなに立派なスケジュールも絵に描いた餅に終わるのである。

世間でよく聞くプロジェクト管理には、企画から実行・完成までのプロセスに、それなしで成功がありえないもの、すなわち「売り込みのゲーム」がすっぽり抜け落ちている。

まずは、自分の周りにサポーターを集めることだ。お偉いさんに直談判するのはじっくりと下ごしらえをしてからでも遅くはない。仲間を集め、仲間意識を育てる。その仲間たちが、まわりのうわさのタネになるように持って行くことは仲間の士気を高めるだけでなく、マーケティング戦略としても絶大な効果がある。そうしてネットワークを広げ、いろんな人に話を聞いてもらう。サポーターの輪を広げていく。コミュニティ作りのために労力を割くことは決して無駄にはならない。

実行フェーズ

実行するまえに、緻密な計画を立てなければならない。そりゃそうだ。そして、誰が何をやるかを明確に決めなければならない。そりゃそうだ。だけど…それはたいした問題じゃない。

状況、資源、人はつねに変わる。だから、実行とは、柔軟性をたもち、臨機応変に計画を修正していくことだ。そして、実行術とは早業の試作術でもある。

タスクを細切れにし、フィードバックを繰り返す。つねに、試作を繰り返すのだ。そして、小さな達成が得られたらすぐに、その達成をみんなで祝杯をあげる。祝杯をあげるのに小さすぎる達成というものはない。チームが倦怠感に陥らないために、チームを奮い立たせるために、そして世間に(社内に)うわさを撒き散らすためにも、お祝い事は必ず実施するに限る。チームのモチベーションを維持することがプロジェクトマネージャの最も大切な仕事の1つなのだ。

また、失敗を恐れてはいけない。成功にも失敗にも等しく報いるべきで、罰するのは怠惰だけだ。すばらしい失敗、気高き失敗、誠実な失敗、カッコいい失敗にはご褒美を出し、平凡な成功は罰するべきなのだ。あくびが出るような成功、誰の記憶にも残らない成功のために何ヶ月、あるいは何年も費やすぐらいなら、途方もない夢を追いかけて、さっさと大失敗した方がいい。

退場フェーズ

ものごとにはすべて、潮時がある。

夢見る人は、こまごまとした実務、全体をきちんと組み立てるのに必要な、おそろしく面倒な微調整の仕事には向いていない。潮時が来たら、夢の実現に祝杯をあげ、バトンを手渡し、舞台をおり、気分一新して、次の見果てぬ夢を追いかけて、また旅にでなければならない。

前向きな人生のために

つまらない仕事を、自分の力でまわりを巻き込みながらすごいプロジェクトに変えろ。おもしろい仕事というものは、人から与えられるものではない、自分の心構え一つでどうにでもなるものである。だから目の前のつまらない仕事に目を向け、自分の力で工夫し、おもしろい仕事に変えていけ。これが、本書で著者が述べているメッセージだ。

自分で工夫を加えることによって、仕事に面白みが増してくる、そしてそのプロジェクトそのものに愛着がわいてくる。こうして日々楽しく仕事に接することになる。これが自分自身を成長させるいちばんの近道であるし、これができないと、成長はできない。

『つまらない仕事をつまらなくやっている人は、いつまでたってもくすんでいる。どんな仕事でも、神様からもらった尊い仕事だという誇りが持てるかどうか、人間の「丈の長さ」はそこで決まる。』とは訳者あとがきの言葉だ。組織に埋没し、つまらない仕事、単調な毎日に辟易し、なんとか日常を変えたいと思っている前向きな組織人にとって、本書はかけがえのないサポータになること請け合いである。

目次概略

トム・ピーターズ著/仁平和夫訳『サラリーマン大逆襲作戦(2)セクシープロジェクトで差をつけろ!』の目次概略は以下の通り。

第1部 創造
1. 枠を取っ払う
2. 馬鹿はメモをとらない
 2a. 叩けよ、されば開かれん
3. 言葉づかいの問題
4. 小さな問題の陰にビッグ・プロジェクトあり
 4a. すごい仕事は人がくれるものではない
6. 愛が地球をまわす
7. 美貌のプロジェクト
8. まずデザインありき
9. 革命になるかどうか
10. インターネットの活用
11. それはやる価値があるか
 11a. 誰も怒らないプロジェクトなんて……
12. 熱狂的ファン
 12a. 女心がわからなきゃ
13. 海賊旗をなびかせ大海原をゆく
14. 隠れ家
15. 歓喜の瞬間を思い描く
16. レインボーカラー
17. 事業計画
18. 夢を妄想に終わらせないために
19. 話を聞いてくれる人は千人力
20. 共謀者を探せ
 20a. 何もできていないうちから、お客さんのことを考えよう
21. 尺度と測定

第2部 売り込み
22. あなたがもらえる時間は三分
 22a. メタファーは万言にまさる
23. 売り込む相手を考えよう
24. うわさのタネになり、いつも目立っていよう
25. ネットワークを広げる
26. 最後に来た人も、最初に来た人と同じ
27. 釣った魚にもエサはやる
28. 敵は相手にせず
29. 顧問で箔をつける
30. 貧しき者の自由を知れ
31. ベータテスト

第3部 実行
32. 口に入る大きさに切ろう
33. 試作に狂え
 33a. これは企業文化の問題
34. 遊ぼう、遊び仲間を見つけよう
35. フライング百回
36. ダメだと思ったらぶっこわせ!
37. すごいプロジェクトをやるには、すごい人たちが必要
 37a. 笑いは地球を救う
38. でっかいバインダーを用意しよう
39. リスト作成は権力への道
40. スケジュールの鬼になれ
 40a. 最後の二パーセント
41. 会議はどんなに長くても十五分
42. 小さな達成があったら、すぐにその日は達成記念日
 42a. 挫折に乾杯!
43. 初心を忘れ、そんなに急いでどこへ行く
44. プロジェクトにだって、アイデンティティーが欲しい
45. 君子豹変
46. ユーザー・コミュニティーから目を離すな
47. ざわめき管理プログラム

第4部 退場
48. 餅は餅屋
 48a. 後継者を探そう
49. 置き土産
50. 退場の美学

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