品質管理の国際規格:ISO9001

組織の運用
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品質に対する信頼性

スモールビジネスをスタートすると必ず直面するのが、自分たちの信頼性をどうやって証明するかという問題だ。相手が法人の場合は、信用調査会社を通じて信用調査が実施されることもある。つまり財務の信頼性をチェックされるわけだ。小さなスターットアップの役員が、自らの略歴や実績を公開するのも会社の信頼性をアピールしたいからに他ならない。

ビジネスの世界では、信頼性=ブランドだと思っていいだろう。その信頼性の要素のひとつが財務の健全性であったり、役員の経歴・実績だということだ。そして、「あの会社の製品やサービスは品質が高い」ということも信頼性の重要な要素だ。日本人は品質にはうるさい。世界的に有名な海外の自動車メーカーが日本から撤退した例はいくつもあるが、その原因としては品質に対する日本人の要求水準が高いことにあるのではないだろうか。

品質の第三者認証「ISO9001」

小さな会社がいくら自分で「製品もサービスも品質向上には力を入れています」と叫んだところで、そのまま信用する人はいない。ユーザーは、品質を誇る会社がそれなりに時間と費用をかけて品質に対する信頼を得るための努力をしていることを知っている。最終的には世の中の評判が「この会社の品質は素晴らしい」と認め、それがブランドイメージとして定着する。

まだブランドを確立できていないスモールビジネスにおいては、第三者機関から国際規格ISO9001の品質マネジメントシステム認証を取得するのが現実的だ。公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)によると、現時点でのISO9001取得企業数(適合組織数)は、下図の通り3万を超えている。

引用元:公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)

ISO9001を取得する会社の動機としては、運用や管理の「体質改善」を掲げているところが多いと聞くが、現実には「取引先からの要望」など、ビジネスに直接影響のある場合も多々あるはずだ。今回は「品質に対する信頼性をアピールする」という目的でISO9001を考えている。

ISOという国際規格は、まず最初に保証システムを「外部に明示」しなければならない。そのため、経営者の責任や品質の方針や目標を明確にする必要がある。そのうえで、役割分担と権限などを明確にする。これらを考えると、トップダウンで取組むのに向いているし、必然的に人事・組織を含めた体質の変革を伴うことになるだろう。

ISO9001取得への準備

ISO9001による品質マネジメントシステムを構築し、審査登録を取得するには、全組織をあげて活動しなければならないことから、その導入にあたっては、十分な事前調査を行うことが必要だ。
経営者は、ISO9001導入を円滑に行うために、まず次の4つを実行する。

  • キック・オフ宣言をする
  • 事前調査責任者を選任する
  • 必要な経営資源を調査する
  • 審査登録取得範囲と取得時期を決定する

一般に、 ISO9001取得準備期間は1~1.5年だが、スモールビジネスで組織構成員が少ないならば1年以内といわれている。10か月以上の緊張を持続させるには限度があるので、一気に盛り上げて短期間で取得するのが効率的だ。 ISO9001導入準備に必要な事項をまとめると、以下の5つとなる。

  1. 経営トップの導入決定:関連情報、関連資料の収集ならび審査についての調査
  2. 社内推進体制の構築:社長または経営者層をトップとする社内推進組織の設置
  3. 社内要員の育成と教育:内部監査員の育成、社内推進組織による全社員に向けての基礎教育、社内広報
  4. 現状業務の把握:社内での現時点での業務内容、手順、仕事内容の洗い出しや文書化のチェック
  5. 品質システム計画と改善:現在の品質システムとISO規格要求事項との整合性をもとに品質方針の決定

審査登録取得までの手順

初めてISO9001を取得する際には、専門コンサルタントに支援を依頼することが多いと思う。コンサルタントは事情や目的をヒアリングしながら、事情に応じたスケジュールと手順を提案してくるはずだ。とはいえ、手順には「標準的な型」があるので、それを眺めてみよう。

手順と組織の活動

■キック・オフ宣言をする

  • 経営者がISO9001導入を決意する
  • 品質方針を決める(例:品質方針カード、品質方針ポスターの作成)
  • 経営者がキック・オフ宣言をする
  • 全員参加の意識付けを行う(例:ISO取得ワッペンの着用、ISO情報紙の配布)

■推進のために組織化する

  • 推進組織の責任者を任命する
  • 推進プロジェクトチームを編成する
  • 管理責任者を任命する
  • 推進事務局を設置する

■推進計画の立案

  • 推進計画(マスタープラン)を立案する

■審査登録機関を決定する

  • 受審する審査登録機関を調査する
  • 審査登録機関に受審の申請をする
  • 審査登録機関と本審査の日を決定する

■規格の要求事項を理解する

  • 「ISO9001の概要」の勉強会を実施する(DVD、参考文献、セミナーなどの利用)
  • 外部品質保証規格の要求事項を理解する

■現状を把握する

  • 現状の業務フローを作成する(顧客からの受注計画から引渡しまでの業務内容)
  • 現状の品質マネジメントシステム文書を総点検する
  • 規格要求事項と現状とのギャップを把握する

■品質マニュアルを作成する

  • 品質マニュアルを作成する(規格の要求に対応する品質マネジメントシステムの手順を文書化する)
  • 審査登録機関の「品質マニュアル審査」を受ける
  • 審査結果に基づき品質マニュアルを改訂する

■文書体系確立

  • 品質マネジメントシステム文書の体系を確立する(品質保証規格で要求される文書の体系を確立する)
  • 品質マネジメントシステム文書の作成日程を決める
  • 品質マネジメントシステム文書を作成する

■文書を教育する

  • 品質マニュアルを教育する(全組織構成員に周知徹底をはかる)
  • 品質マネジメントシステム文書を教育する(文書発行の都度、該当する組織構成員に内容を教育する)

■品質マネジメントシステムを運用する

  • 品質マニュアルに基づき活動する(実施して不備が生じたらマニュアルを改訂)
  • 品質マネジメントシステム文書に基づき活動する
  • 日常業務のなかで品質記録をとる

■内部品質監査を計画し実施する

  • 内部品質監査規定を作成する
  • 内部品質監査員の教育計画を立案する
  • 内部品質監査員を資格認定する
  • 内部品質監査の年度計画を立案する
  • 個別の内部品質監査実施計画を立案する
  • 個別の内部品質監査を実施する

■審査登録機関を受審する

  • 審査登録機関の事前審査を受審する(審査登録機関によっては事前調査を行うところがある)
  • 審査登録機関の本審査を受審する(審査登録機関は「適合性」を審査する)
  • 審査登録機関の「登録証」を受領する

取得スケジュール例

前述の手順を見ると、やるべき項目が多いのように思えるが、工数的にたいへんなのは文書化くらいだろうか。要するにマニュアル作成だ。あとは、それを実際に運用してみて、不具合があったら改定し続けるというのが「管理システム」の要諦なので、ひと通りやってみると国際標準ISOというのものの本質が分かるだろう。

文書化の工数は会社や事業の規模に依存する。ここがシンプルであればISO9001取得準備期間は短いだろうし、ここが大規模で複雑なら工数が増え、従って準備期間も長くなる。

「一般に、 ISO9001取得準備期間は1~1.5年だ」と前述したので、ここではサンプルとして、ISO9001審査機関のひとつである一般社団法人日本能率協会 審査登録センターが公開しているISO9001取得スケジュールを見てみよう。このサンプルでは14カ月でのISO9001取得を想定している。

引用:一般社団法人日本能率協会 審査登録センター「ISO9001の取得⽅法・取得の流れについて

審査登録業務の流れ

品質マネジメントシステム審査登録は、初回の登録だけを目的とせず登録後の維持管理を通じて、企業に役立つ審査を目指している。品質マネジメントシステム審査登録と維持審査の流れは以下の通りだ。

■審査登録業務の流れ

  1. 申請書の提出
  2. 審査登録業務の契約(合意書の締結)
  3. 予備登録審査日程の調整/審査用文書の提出(事前調査書、品質マニュアルなど)/審査チームの承認/予備審査実行計画の承認/予備審査の受審(希望により実施)
  4. 登録審査日程の調整
  5. 審査用文書の提出(品質マニュアルなど)の提出
  6. 審査チームの承認
  7. 品質マニュアルの文書審査
  8. 文書審査結果の受領
  9. 登録審査実行計画の承認
  10. 登録審査の受審(是正処置)
  11. 判定委員会における審議
  12. 判定結果の通知(是正処置)
  13. 登録証の受領
  14. 審査機関に登録
  15. 公表
  16. 品質マネジメントシステムの維持管理

■維持審査の流れ

  1. 審査チームの承認
  2. 実行計画の承認
  3. 定期維持審査の受審(是正処置)
  4. 判定委員会における審議
  5. 判定結果の通知(登録の継続など)

取得にかかる費用

費用の考え方は会社の状況によって異なるが、ある程度の相場をしておくといいだろう。もちろん「内部工数」は金額で把握することが大事だ。外部にかかる費用は大略すれば「コンサルタントに支払う費用」と「審査登録機関の審査登録料金」の2つ。どの費用も、取得準備やその支援、または審査に要する所要時間によって変わる。また、所要時間は、受審する組織の規模(従業員数)、適用規格によっても異なる。

複数のコンサルテイング会社から見積もりを取ると、結構金額が違うのに驚かされる。世の中のコンサルテイング会社というのは、コンサルタントの稼働、つまり工数で金額が決まるのでこういうことが起きる。ISOコンサルティングを提供しているNSSホールディングス株式会社によれば、スモールビジネス相手の費用相場はざっくりと以下の感じらしい。

■ISO取得までの費用の考え方

下図のイメージによれば、ISO取得を全体で考えると自前でやる場合は、全部で600万円程度、内部工数が500万円で、審査費用が100万円という費用感だそうだ。さらに専門コンサルタントを入れると期間と総コストが圧縮できるというイメージだ。

引用:ISOプロ「ISO認証取得に必要な3つの費用を徹底解説

■ISO取得コンサルテイング費用

コンサルタント費用はISO対象となっている組織の従業員数で少し変わる。ISOは取得範囲を設定できるので、最初は従業員が30名以内の事業場で取得してみるというアイデアもある。

引用:ISOプロ「ISO認証取得にかかるISOコンサルタント業者の費用と選ぶポイント

■審査費用

審査費用にも「取得審査」「定期審査」「更新審査」の3種類がある。下図ではそれぞれの金額イメージが分かる。

引用:ISOプロ「ISO認証取得にかかるISOコンサルタント業者の費用と選ぶポイント
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