「仕事」から「作業」を切り離そう

生産性向上
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仕事と「作業」を区別する

仕事をするようになると、会社にはさまざまな業務があることに気付く。各々の業務全体でひとつの仕事の流れになっているので、不要な業務はないと考えるべきだが、そのすべてが難易度の高いものではない。

このコラムでは、会社の業務をまず「仕事」と「作業」に分けて考えてみたいと思う。頭脳や技術を駆使して行う業務が「仕事」であり、そうではない簡単な業務を「作業」としてみよう。例えば、郵送業務、書類の整理、コピーなどは「作業」の代表的なものだ。受発注業務や作表などの事務業務、単純作業の工程を踏む生産業務なども「作業」といえるだろう。作業=簡単な業務と考えよう。

周囲を見回してみると、単なる「作業」に追われているひとは少なくないはずだ。仕事場においては、幹部も含め社員の多くが、前述のような簡単な業務を行っているケースがみられる。幹部や社員にこのような簡単な業務をさせているのでは、生産効率は上がらない。それどころか、作業に時間を取られることによって、本来やるべき重要業務のための時間が少なくなるといった弊害が生まれてしまう。

「作業」コストの考え方

正社員が作業に時間を取られ、時間外労働を余儀なくされることで時間外手当によるコストが発生することを想定してみよう。例えば、仮に月額賃金が30万円の正社員がいたとする。その正社員の賃金を時給に換算すると約1700円(30万円/(22日×8時間))となる。時間外手当を1.25倍とすると約2100円となるだろう。さらに、この賃金には会社負担の社会保険料がかかるため、実質的な時間外手当は、時給換算で約2300円になる。単純計算で、時給1100円でパート社員に来ていただけば、このコストは半分以下になる。

日常の仕事から「作業」を切り離し、正社員が行っている簡単な業務を減らすことで、残業を減らし、時間外手当を削減すると共に業務効率化を図ることができるはずだ。

「作業」を切り離す手順

時間外手当の発生や生産性の低下などを防ぐために、まず最初に日々の業務状況をチェックする。日々の業務状況をチェックし、もし簡単な業務によって正社員が時間外労働をしているのであれば、パートの活用を検討してみるという手順だ。

前述の試算の通り、正社員の1時間当たりの時間外手当に対して、パートの賃金は半分以下で済む。従って、「作業」すなわち簡単な業務を行う要員としてパートを活用することはコストダウンにつながるはず。

また、「作業」をパートに任せることができれば、正社員の時間外労働が減るだけでなく、正社員の空き時間が増えます。その空き時間を活用して、本来やるべき重要な業務をこなすことができれば、社員の生産性は向上するだろう。

日々の業務状況チェック

日々の業務状況をチェックする際、具体的には「どのような業務があるのか」をリストアップし、次に「個々の業務にかかる作業時間」と「個々の業務の難易度」などをチェックする。このような日々の業務状況のチェックによって、以下の2点を把握できる。

  • 「作業」で時間外労働をしている正社員の有無
  • パートに任せる業務の範囲

業務一覧表に基づいた計算

まず、期間を定めて、各社員が「業務内容」「個々の業務の所要時間」の一覧表を作成する。例えば、営業担当の社員が以下の一覧表を作成したとしよう。

営業担当者の業務一覧表例

この営業担当者の場合、1カ月の労働時間は240時間となった。会社が定めた所定労働時間が1カ月で176時間(8時間×22日)なので、64時間は時間外労働をしていることになる。1日当たり平均3時間程度だ。賃金が30万円の場合で計算すると、この営業担当者には、時間外手当として毎月64時間分の14万7200円(2300円×64時間)の費用がかかっていることになる。

では、仮にこの64時間分の業務をパートに任せた場合のパートにかかる費用を考えてみよう。その際、業務所要時間は、さすがに営業担当者並みとはいかないので割増しの時間がかかったとする。パート費用の条件は以下となる。

  • パートの所要時間:96時間(=64時間×1.5倍)
  • パートの時給:1100円

上記条件で単純計算すると、パートにかかる費用は10万5600円。賃金30万円の社員の時間外手当14万7200円と比べてみると、1カ月で4万1600円低く済むことになる。1年で49万9200円なので、ほぼ50万円だ。対象人数が10名なら年間500万円となり、もうひとり正社員を雇えるくらいの金額になる。

業務をレベルに分ける

業務の一覧表が完成したら、仕事と「作業」を区別する。単に区別するだけなら2つに分ければ良いが、実際にはそこまで単純ではない。ここでは例として、それぞれの業務を難易度などによって以下の4つのレベルに区分して考えてみる。

  • レベル1:誰でもすぐできる簡単な業務
  • レベル2:簡単ではないが研修すればできる業務
  • レベル3:ある程度以上の技術を要し、決められた担当者が行うべき困難な業務
  • レベル4:責任者や管理者などが行う業務

上記のうち「誰でもすぐできる簡単な業務」であるレベル1は、いわゆる「作業」に当たる。正社員が時間を割いて行うべき業務とはいえない。このような業務はパートに任せることを考える。さらに「簡単ではないが研修すればできる業務」であるレベル2も、正社員が行うべき業務というよりは、パートに任すべき業務といえるだろう。

パートに任せる業務か否かを各レベルに対応させると、シンプルに以下のようになる。

  • パートに任せる業務:レベル1と2(但し、研修する)
  • 社員が実施する業務:レベル3と4

前述の営業担当者の例で考えてみよう。業務一覧表に「レベル」を追記する。

営業担当者の業務一覧表例に業務ごとの「レベル」を追記

クレーム処理のような業務については、ある程度の責任ある管理者などが行った方がよい業務であり、レベル4としている。また、営業活動、報告書作成、予算と実績の管理、新商品情報の収集などは、正社員が行った方がよい業務といえるだろう。

発注、納品、納品書発行、進捗状況の入力などは、業務の進め方や入力の方法さえ覚えれば、比較的簡単に行うことができる業務。そのため、それらの業務はレベル2にするのが妥当と考える。コピーやFA主業務の補助的付帯業務は、ほとんどの場合において、たとえ専門知識がなくても簡単にすぐできる「作業」のためレベル1とした。

業務の割り振り方法

この例で、レベルごとの1カ月の時間を集計すると以下になる。

  • レベル1: 10時間
  • レベル2: 80時間
  • レベル3:145時間
  • レベル4: 5時間

レベル1と2の業務をパートに任せるとすれば、合計90時間となる。営業担当者の例では、240時間の業務のうち、90時間分の業務をパートに任せることができるということだ。

もし、90時間分の業務が減少すれば、もともと240時間だったこの営業担当者の1カ月の労働時間は150時間となる。会社が定めた所定労働時間が1カ月で176時間(8時間×22日)だとすると、26時間の空き時間ができることになる。3日(8時間×3日=24時間)以上の余裕ができるのだ。これを例えば訪問や電話・メールによる営業活動に割り振れば、毎月、これまでより余分に顧客への営業活動を行うことが可能になる。

レベル3と4の業務はある程度以上の技術と責任を要するため、パートでは難しい業務だが、それも採用するパートの能力によっては可能かもしれない。例えば定年退職をした60歳代の男性の中には、現役時代に営業部長をやっていた人もいる。そのような人材をパートとして採用できれば、レベル3と4の業務を任せられる可能性もある。

また、パート採用時にはレベル1と2の業務を行う要員と考えてはいたものの、業務を進めるうちにパートの能力が向上し、上位レベルの業務をこなせるように成長するという話もよく聞く。

もし、管理責任などをともなうレベル4を任せられるパートがでてきたら、「そのパートを正社員として雇用する」ことを検討するほうが賢明だ。能力の高いパートであれば、正社員として雇用し、重要な業務を担当させる方が会社にとっても有益だ。有名な話だが、吉野家やブックオフでは、パートやアルバイトとして入社し、最後は社長にまで昇りつめる例が実際にあった。

業務一覧表の活用

業務状況の一覧表を作成し、活用することによって、各社員がどういった難易度の業務をこなしているのか、どの程度の仕事量をこなしているかなどを把握することが可能になる。例えば、ほとんどがレベル3と4の業務をしている社員もいれば、管理職であってもレベル1と2の業務を多く行っている社員もいるだろう。

会社の業務は「適材適所」に割り振る必要がある。また、現実には特定の社員だけに膨大な仕事量が集まってしまうのだが、その状態が続くことは避けなければならない。会社の中ではとかく「仕事のできる社員」「仕事の速い社員」に業務が集中しがち。2割の社員が8割の収益を稼ぐというのはよく聞く言葉だ。しかし、「できる社員」だけに業務が偏ってしまうことは、以下のリスクがあると思って良い。

  • ほかの社員の業務遂行能力が向上しない
  • 「できる社員」が労働過多で業務遂行能力が減退する
  • 「できる社員」が辞めてしまう

膨大な量の業務を抱えている「できる社員」がいたら、その業務負担を減らし、適材適所に業務を分担することで業務効率化を考えてみよう。

なお、このコラムではレベル1と2の「作業」をパートに任せるという分かりやすい解決策で考えたが、製造業が一部を海外工場で生産したり、ソフトウェア開発をオフショアと分担するのも同様の発想で考えることができる。

さらに言うなら、「作業」と呼んだ簡単な業務は、クラウドサービスに任せたり、RPA(Robotic Process Automation)と呼ばれるソフトウェアロボットで「自動化」される時代になりつつある。「作業」のうちの、特に「単純作業」は、人間のやる「仕事」から消えていく運命にあるようだ。

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