ワークフローへの意識が向上
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2020年から多くの企業でテレワークが定着化した。VPN(仮想専用網)やWeb会議ツールに代表される在宅勤務用のインフラの整備が急ピッチで進み、契約書や請求書の電子化にも注目が集まった。各企業ではテレワークという新しい働き方に対応した情報共有や、業務の進め方の検討がなされ、働き方そのものの見直しが行われている。
業務の見直しの中で、業務の流れ(ワークフロー)の可視化が各企業で行われた。テレワークへの移行に際し、それを安全かつ効率的に行う最初のステップとして業務の流れの可視化が必要だからだ。2020年は、ワークフローに対する意識がこれまでになく高まった年となった。
テレワークに移行しても業務を止めないためには、紙とハンコでの業務から脱却し、デジタル化する必要がある。国をあげてパンデミック対応しているときに、ハンコ押印のためだけに出社や移動するのをできれば避けたいと思うのは当然だ。テレワーク下においては、例えば稟議書が紙であることで、経営全体の意思決定スピードが著しく落ちてしまうなど、経営インパクトが大きいことも認識された。2020年は加速度的にデジタル化が進んだ年であったといえよう。
ワークフロー管理とは
ワークフローとは、複数の担当者がネットワークを経由して仕事をする際に、作業を円滑に進めるために担当者間で受け渡す文書や情報の流れを指す。文字通り「Work(仕事)」と「Flow(流れ)」を組み合わせた造語だ。ただし、ワークフロー管理という考え方の中でのワークフローという言葉には「仕事の流れ」という意味だけではなく、その自動化という意味も含まれている。
一般的な企業では休暇願いや稟議書の提出、経費の精算などさまざまな業務手続きが日常的に行われている。こうした頻繁かつ煩雑な業務手続きを定型化し、その業務手続きを電子的に行えるようにし、その流れを管理できるようにすることで効率的に業務を進めようというのがワークフロー管理の基本的な考え方だ。
ワークフロー管理は、単純な書類の受け渡しの効率化にとどまらない。効率化をさらに推し進め、業務運営における各担当者間の仕事の流れを整理し、効率化するための業務改善ツールに発展させることが可能だ。つまり、生産性向上のツールとしての効果もワークフロー管理に期待できる内容となっている。
導入メリット
ワークフロー管理は、以下のような仕組みを作り上げることが基本となる。
- 各種申請手続きや稟議などの一連の作業をシステム化し、紙を可能な限りなくす
- タイムラグを生じさせることなく、必要な情報を担当者間で受け渡す
- 処理の停滞状況を把握する
上記を実現するための仕組みを作り、書類の受け渡しをともなう業務にワークフロー管理を導入した場合のメリットとしては、主に以下のようなものがある。
■紙を受け渡す時間の短縮
申請者と承認者が別の地域や建物にいる場合などには、書類による申請・承認作業では輸送に日単位の時間がかかる。しかし、ワークフロー管理では次の担当者に瞬時に届くため、書類の受け渡しに要する時間を短縮することができる。
■申請書などの滞留時間の短縮
担当者の段階で未承認の申請書が滞留している場合、ワークフロー管理を導入することで、納期や下流担当者の業務状況に応じた適切なタイミングで作業を催促することができる。これによって書類の滞留時間が短縮され、担当者の処理が終わらないために業務が滞ることが少なくなる。
■作業の手戻り時間の短縮
書類による申請・承認作業では、入力ミスや回覧中の申請書の紛失などによる作業の差し戻しが発生することもある。これに対してワークフロー管理システムでは、入力ミスの検出が容易で、かつ書類の紛失がなく担当者間の受け渡しが確実。そのため、書類の記入ミスや紛失による時間的なロスを短縮できる。
■個々の担当者における処理時間の短縮
ワークフロー管理では、書類作成を電子化することによって、担当者名など反復記入・入力しなくてはならない情報を減らすことができるため、無駄な入力時間を短縮できる。
■社内の不正防止
担当者ごとに分けて業務上必要な権限を設定することが可能であり、かつ操作履歴の記録も可能なため、従業員による不正を防止する効果が見込める。
■業務の管理工数削減
ワークフロー管理で業務を定型化することにより、業務が標準化される。決められた業務手順に従って業務が進行し、業務手順を徹底させるのに要する時間や手間を削減することが可能になる。
■業務の無駄を排除
業務手順を定型化することで、それまであった業務の無駄をなくし、誤った作業手順を修正することができるようになる。さらに、業務量や処理時間を正確に記録することによって、各業務ごとの必要時間など業務を定量的に分析し、把握することが可能になる。
■文書管理効果
第三者認証・認定の取得に際して、文書管理は必須だ。例えば、品質管理システム「ISO9001」の認証を取得する際には、開発および生産手順の文書化、品質管理の記録および保管が必要になる。ワークフロー管理を導入すれば、このような文書および記録の管理などにも役立つ。
業務アプリケーション
ワークフロー管理の導入に適した業務アプリケーションの代表的な例としては、休暇願いの申請など総務・人事関連の各種申請業務や、勤務時間や給与データの受け渡しなど勤怠管理業務、出張旅費や経費など、経理関連の各種申請業務、上司の承認が必要な稟議書の回覧業務などが挙げられる。
このほかにも、定型的な書類の提出や回覧が必要な業務は、いずれもワークフロー管理の対象となる。例えば、営業支援システムと組み合わせた商談管理システムを導入することで、営業報告書の提出が定型化・自動化できる。
このように業務を定型化・自動化するワークフロー管理は、工場における生産ラインに似ている。工場の作業ではコンベア上を流れる半製品に担当者が部品を組み込んでいくが、ワークフロー管理では半製品が各種申請書、組み込む部品が申請書への記入や承認印の押印に相当する。
そして、申請書を運ぶコンベアに相当するものがワークフロー管理システムだ。つまり、反復性が高く流れ作業的な要素の大きい書類などの受け渡し業務であれば、特にワークフロー管理に適している。さらに、そのほかの業務についても、ワークフロー管理の対象として、効率化を検討することが可能だ。
ワークフロー管理導入のポイント
総合的な業務効率化ツール
業務の定型化・自動化というワークフロー管理の特性から、日本では一般的にワークフローは、稟議書などの閲覧に利用する電子回覧板、または電子文書承認システムというイメージが定着している。これは、ワークフロー管理の初期に登場したシステムに、こうした文書管理ソフトとしての要素が色濃かったことが影響しているのだろう。また、グループウエアソフトの掲示板やメール機能を利用した簡易的なワークフロー管理を行う企業が増えたことも、ワークフロー管理にこうしたイメージを与えたといえる。
1994年から2019年まで、ワークフロー製品のユーザーインタフェースを統一するための国際標準化団体であるWorkflow Management Coalition(WfMC)が存在していたが、ここではワークフローを以下のように定義している。
ビジネスプロセス全体またはその一部の自動化であり、これによって文書・情報・タスクが、手続き規則に従って担当者から他の担当者へ引き継がれる
ワークフロー管理とは本来、企業における日常業務や、部門間連携を効率化するツールとして定義付けられるべき総合的なものだということだ。
さまざまな業務に適用
初期のころ、ワークフロー管理が導入される業務は、旅費清算、勤怠管理、稟議回覧の3つの業務がほとんどを占めていた。これらの業務は、承認を必要とする社員が申請書を入力し、職階に沿って承認が行われるという回覧板のような流れとなる。これらの業務は、流れを切り出してシステム化することが容易であり、またワークフロー管理の導入効果が比較的明確なため、ワークフロー管理が普及し始めた当初に多くの企業で用いらた。
現在のワークフロー管理は、こうした回覧版システムから、ワークフロー管理の本来の定義付けに近い、業務全体を管理するためのシステム構築ツールに近いものだ。ワークフロー管理は、生産管理や販売管理をはじめ、人事、給与、経理、財務など、いわゆる基幹業務システムの流れを管理し、スムーズにデータをやり取りするための仕組みとなっている。
例えば、営業部門であればワークフロー管理はSFA(営業支援システム)の一部として機能することが望ましい。営業スケジュールの一部として、旅費にとどまらず、その間の移動工数などとデータが入力され、勤怠管理システムと連動して管理が行われることによって営業社員などの管理が一括して行えるなど、ワークフロー管理は大きな効果を発揮する。また、開発部門ならプロジェクトの進捗状況を管理するツールなどと連動することが望ましいだろう。
顧客訪問の際に近隣に他の顧客が存在するか否かが管理(確認)できれば、より効率的に顧客訪問のスケジュールを設定することができる。これによって、顧客管理と連動したワークフロー管理が実現可能だ。それにより旅費の削減も可能になる。
このように、理想的なワークフロー管理はさまざまな業務やツールを連動して管理することによって、業務全体の効率化を可能にする。最終的には、それらを集約することによって知の共有、すなわちナレッジマネジメントとしての情報活用も可能になるだろう。
導入検討の視点
ワークフロー管理はビジネスプロセス全体を最適化し、業務の流れを効率化することを目的に導入されるべき性質のもの。そのためには、ワークフロー管理はさまざまな業務や既存システムと連携して動いていくことが望ましい。ただ闇雲にワークフロー管理を導入しては、期待する効果は望めない。
以下では、ワークフロー管理導入に当たっての検討の視点を整理しておく。
■日常業務の自動化推進
ワークフロー管理の導入によって、業務をスムーズかつ効率的に行うだけでなく、業務処理時間など蓄積されたデータをもとに業務フローを継続的に改善することが重要。例えば、課長職以上は総額1万円以下の経費については必ず承認され、否決されることがないなどのデータがあれば、その条件を自動化することで決裁者の負担を減らす仕組みを作ることができる。こうした、業務の自動化による負担の軽減が可能になるかという点は、ワークフロー管理の導入に際しての重要なポイントとなる。
■ノウハウの共有
会社にではなく個人のノウハウとして蓄積されて業務手順がある場合、ワークフロー管理を導入することでこうした個人に蓄積されたノウハウが共有化することができる。一度業務の流れを定義することによって、以後は誰でもこうした業務に対応できるようになる。ワークフロー管理とは、社内のあらゆる業務の手順を可視化し一般化する方策としても機能する。
■ボトルネックの解消
ワークフロー管理を行うことによって、同時にワークフローそのものを整理し、監視することが可能になる。これによって、業務上のさまざまな問題点を発見することができるようになる。例えば、複数の作業が同時に実行され、そのすべてがそろわなければ次の処理に入れないにもかかわらず、特定の業務段階で遅滞が生じやすいワークフローが存在する場合などでは、それらの業務のボトルネックとなっている部分を見つけやすくなる。
業務上のボトルネックを発見できれば、業務を分割したり担当者を増員するなどの対策が検討しやすくなるだろう。
「プッシュ」の仕組みを作る
ワークフロー管理は、業務処理をどのようなルートで、誰に回せばよいかを自動化する。
ワークフロー管理システムによって、決済期日や業務処理の期日を自動的に判断すれば、各業務段階の担当者に業務処理状況や期日を自動的に催促することが可能になる。期限が近い業務が優先的に担当者のPCやスマードデバイスの画面に表示される仕組みがあれば、本人に業務終了をプッシュすることができ、業務進行の遅滞を防ぐ効果とスケジュール管理の負担を軽減する効果の両方が実現できる。
システム構築のポイント
ワークフロー管理を導入するためには、システムを構築するためのソフトウエアまたはクラウドサービスを導入する。導入に際しては、ワークフロー管理による業務手順の管理基準を明確に決め、きちんと実施できる体制作りや動機付けが欠かせない。以下ではワークフロー管理システム構築のポイントをまとめておく。
■導入効果の算定
ワークフロー管理の導入において最も重要なのは、導入によって実際にどれだけの効果を見込めるかという点だろう。ワークフロー管理の導入効果の算定は非常に難しく、業務速度や顧客満足度などさまざまな面で効果が表れても、それを数値や金額に換算することは非常に困難といわれている。
導入効果の算定に当たっては、販売ベンダーなどが、コンサルティングサービスも提供しているケースがあるため、それを利用するのもよい方法だ。こうしたサービスでは、導入前に社内の業務手順を調査し、改善案を作り、改善効果を数字として提出してくれる。また、販売活動の一環としてコンサルティングを実施しているケースが多いため、費用も比較的安価であることが多い。
ただし、こうしたベンダーによるコンサルティングは、システムの販売を目的としているため、導入効果を判断する際には提出された結果をある程度割り引いて考える必要はあるだろう。可能であれば、複数のベンダーにコンサルティングを依頼して結果を比較したほうがよい。
■既存システムとの連携は容易か
ワークフロー管理システムは、基幹業務システムと連動して動くのが理想的な運用。そのため、社内に導入されている既存システムとどの程度連携が可能かが重要となる。
自社の既存システムとのデータ形式の互換性や、どのような接続の仕方をすべきか、どのシステムと連携すべきかを十分に検討して選定を行う必要がある。また既存システムとの連携は、可能な限り少ない労力でできなければいけない。少ない労力でデータ連携ができない場合、既存システムとワークフロー管理システム双方のデータを管理する必要も生じるため、二重の労力を強いられることになってしまう。
■フロー分析機能の充実
ワークフロー管理システム導入後は、ワークフローを随時チェックして改善し、ビジネス環境の変化に適合させていく必要がある。そのために重要なのが「分析機能」だ。システムの分析機能は、どの業務を改善すべきかを検討するために欠かせない。
分析機能は、例えばデータが蓄積されるだけで、分析自体は人間が行う必要がある製品もあれば、本格的な業務分析システムが用意されている製品もある。管理者の分析スキルなどに応じて、適切な分析機能を持った製品を選ぶ必要がある。
■システムの使いやすさ
システムそのものの使いやすさも選定において重要なポイントだ。実際の業務を想定して操作し、どのようなことができるのか、工数はどの程度になるのかを必ず検討しよう。既存システムとの操作性の差異も踏まえて、自社の事情と適用分野に合わせて検討する必要があるだろう。
■支援体制は整っているか
ワークフロー管理システムは、ある程度各部門の業務に合わせてカスタマイズされた形で各部門に導入する必要がある。それを、部門ごとの実情に合わせてさらに細かなカスタマイズを行い、システムとしての完成度を高めていく。
こうした作業にはある程度の労力やノウハウが必要となるため、ベンダーや代理店による支援が欠かせない。ベンダーや代理店、ワークフロー管理の設計、導入教育、運用支援まで必要に応じてサポートしてくれるかどうかを、費用も含めて導入前に確認しておく必要がある。導入後の支援費用まで頭に入れて、トータルコストを意識して導入を進めたほうがよいだろう。