70歳定年時代の高齢社員再雇用

中小企業経営
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会社にとっての高齢社員

新型コロナウイルス感染拡大の2年目にあたる2021年、ビジネスの世界では大企業による「構造改革」という名目のリストラが数多く実行された。新聞やテレビ・インターネットのニュースで、例えばパナソニック、全日空のANAホールディングス、テレビ局のNHKやフジ・メディア・ホールディングスなどが人員削減に踏み切ったことを知った。憧れの一流企業だ。

オリンパスとLIXILはすでに早期・希望退職者を募り、応募した各900人前後もの社員を2021年に入って退職させている。また、世界に誇る自動車メーカーのホンダでは、国内正社員の4.6%に相当する2000人超が希望退職に手を挙げたという。日本たばこ産業では約3000人という2021年最大のリストラに踏み切った。

リストラの内容は業務の改善や機構改革もあるが、それに伴う人員削減がどうしても目立ってしまう。昨今の人員削減は、会社の方針によって対象とする年齢層に幅があるものの、基本的には高齢社員が対象となる。高齢社員の場合「年齢に見合ったポストが不足している」「人件費が高い」「リストラ後の新しい組織や業務に適応できない」ことがその原因となっている。

会社側は、人員削減策がリストラの本質ではないことは分かってはいるものの、急激な業績悪化で「もはや人員削減しか手段が残されておらず、やむを得ない」といったところが多いと聞く。

一方で、「地方の中堅のため現実には大胆な人員削減は行えない」あるいは「高齢社員の技術は会社としては確保しておきたい」といった会社があるのも事実。今回は、高齢社員対策を講じる意味を確認するとともに、彼らを活用する方法について考えてみる。

高齢社員と会社の関係

日本では、長く続いた年功序列的な賃金体系により、現在においても高齢社員層の平均賃金は若年社員の賃金よりも高額なのが一般的だ。この場合、仮に高齢社員の業務の遂行能力が加齢とともに低下しても、それに合わせてすぐに賃金を引き下げることは難しいのが現状。

また、高齢社員がこれまで果たしてきた努力によって現在の企業があるわけなので、彼らの存在を全く無視するような施策をとるべきではないという考え方も根強い。やむを得ず人員削減を行う場合でも「退職金が増額される早期退職者優遇制度を導入する」などの配慮が必要かもしれない。

生き残り策と高齢社員対策

会社というものは、将来にわたって成長し、存続することが大前提。これが経営者、社員、株主、地域社会の総意だろう。「高齢社員の雇用を継続する策」を見出すといっても、場当たり的な高齢社員への対処では意味がない。会社として「生き残り策」を講じる中で「高齢社員をどのように処遇するのか」を考えなければならない。

「生き残り策」として抜本的な人事改革や業務改革を行い、その結果として「高齢社員の処遇が決定される」プロセスを考えてみよう。

まず、5年後を見据え、業務や賃金を抜本的に見直す。これによって、高齢社員の中には「大幅に賃金が低下する者が出る」「これまでと全く異なる業務を担当してもらう者が出る」ことを確認する。その代わりに、会社としてはできる限り雇用を維持することを明言する。これと並行して、どうしても新しい業務や賃金になじめない社員らが円満に退職できるように早期退職者優遇制度を導入する。

これらの決定は経営陣主導で進める性質のものだが、余計な混乱を招かないためにも、社員には「抜本的な人事改革や業務改革を行う」旨を事前に伝えておく必要があるだろう。

高齢社員対策で必要な3つの施策

会社が生き残るための3つの施策、すなわち「成果型賃金制度の導入」「早期退職者優遇制度の導入」「高齢社員向け業務の創設」を考えてみる。これらは、生き残るための施策であり、高齢社員のためだけにあるわけではない。

■成果型賃金制度の導入

賃金体系の抜本的な見直しを進める企業の多くは、年功序列型賃金体系から成果型賃金体系に移行している。これは、会社全体の人件費を抑制する一方で業績を残した社員を優遇するには有効な制度。年功序列型賃金体系が定着し、高齢社員に高い給与を支給している会社は、この制度を導入することが先決だろう。

■早期退職者優遇制度の導入

単に人件費を削減する目的であれば、退職希望者を募る方法がある。早期退職者優遇制度は、定年を待たずにあらかじめ設定された年齢に達した時点で、会社を退職し社外に新たに進路を求める者を支援・優遇する制度のことだ。

ただ、これまでのさまざまなリストラを見る限り、「人減らしありき」の経営戦略は正しいとはいえない。あくまでも最終手段であり、やむを得ず採る手段といえる。もし50歳以上で希望退職者を募る場合、現実的には退職金が割り増しされる早期退職者優遇制度を採用すべきだろう。

■高齢社員向け業務の創設

高齢社員向け業務の創設はそれほど簡単ではない。「高齢社員に何ができるか」が大きな問題となってくるからだ。例えば、高齢社員を「全く未知の分野で活躍させよう」とするのは非常に危険。できれば、これまでの経験や知識を活かしながらできる業務を創設したほうがいい。

「高齢社員をどのように処遇するのか」は、会社に多くの貢献をしている30~40歳代の中堅社員にとっても重要なこと。彼らに「会社が社員をどのように思っているかをよく理解させる絶好の機会」となるはず。「うちの会社は社員を使い捨てにする」ととらえられるようなやり方では社内の士気が低下してしまうので、注意が必要だ。

70歳定年時代の到来

改正高年齢者雇用安定法が施行された2021年4月1日以降、努力義務とはいえ、会社としては「70歳までの定年引き上げ」か、「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)」などを講じなければならなくなった。社員本人さえ希望すれば、今いる会社で70歳まで働けるようになったのだ。

60歳だった定年を65歳に引き上げ、継続雇用制度の導入などを含む「高年齢者の雇用確保措置」が施行されたのは2006年4月1日だった。それから15年経過したらこうなったということだ。

厚生労働省は「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」というWebサイトの中で、今回の改正に関する簡易なパンフレットから詳細な内容までを公開している。もちろんここには、高齢社員の雇用を促進するために公的な支援(予算事業)についても、何が実施されるのかが記載されている。

引用:厚生労働省「改正高年齢者雇用安定法概要
引用:厚生労働省「改正高年齢者雇用安定法概要

定年後再雇用のポイント

定年後に再雇用された4人に1人は賃金や待遇について不満を感じているという。契約内容が(悪い意味で)想定外だったということらしい。

契約に会社と社員の双方が納得できなければ、トラブルや士気低下を招くことにもなりかねない。再雇用契約の段階では、雇用契約書の準備や社内体制を充分整えてから進めることが重要だ。定年後再雇用の契約を曖昧にしないためのポイントについてまとめてみる。

雇用形態・労働条件

高齢者雇用安定法では、定年前とまったく同じ労働条件での再雇用を義務付けているわけではない。再雇用制度は一度退職の形をとるため、再契約時に嘱託やパートアルバイト、契約社員など雇用形態の変更が可能だ。

また、再雇用後の業務内容や給料、勤務日数などの労働条件は、定年前と同じでなくても差し支えない。法律を踏まえたものであれば、最低賃金など雇用に関するルールの範囲内で、労働時間、賃金、待遇などの労働条件を企業と従業員の間で決めることができる。

ただし、業務内容に関しては、定年前と異なる“業種”に就くことは認められていないので注意が必要。また、65歳以上70歳までの再雇用には、これまで以上に高年齢者に対する健康配慮も必要となる。

契約更新期間

雇用形態でよく見られるのは、1年ごとに契約を更新するフルタイム有期雇用契約社員、いわゆる嘱託社員)だ。再雇用でも通算で5年を超えて繰り返し契約更新される場合、本人の申し込みにより、「無期転換ルール」が適用される。

ただし、定年後再雇用者の「雇用管理計画」を作成し、都道府県労働局の認定を受けた会社であれば、特例として無期転換ルールの対象外となる。

賃金と各種手当

再雇用制度では、賃金も再契約時に改めて取り決めることができる。一般的には、定年退職時の賃金の50%〜70%程度に設定されることが多い。これは、定年前と同じ業務内容であっても、体力の低下などにより仕事の効率が下がることは避けられないという予測によるもの。賃金の決定に関する評価基準がある場合は、それに照らし合わせて減額すればよい。

ただし、最低賃金など、雇用に関するルールは厳守しなければならない。また、同一労働同一賃金の関係上、正社員と比較して業務内容や業務量、責任の度合い等が同等であれば、減額して再雇用契約を結んだとしても無効となる可能性が高くなる。優秀な人材であれば減額する比率を変えるなどの配慮も必要となる。

正社員に支給されている手当は、合理的な理由なく再雇用社員に支給しないことは違法となる。例えば、通勤手当や住宅手当、家族手当、その他皆勤手当や精勤手当などの奨励を目的とする場合も、原則支給が必要だ。ただし、それらは社内事情なども踏まえて判断するため、正社員に支給している手当の一部を不支給にすることも可能。手当の趣旨から合理的に判断すればよい。

専門機関の利用

厚生労働省の公開情報「高年齢者雇用アドバイザーによる相談・助言-定年延長や継続雇用のための相談、助言を希望する事業主の方へ-」では、「高年齢者雇用アドバイザー」という高齢者の雇用問題に関する専門家が紹介されている。その専門家は以下の助言を行うと説明されている。

  1. 定年延長を含む継続雇用に伴う人事管理制度の整備に関する事項
  2. 継続雇用に伴う賃金・退職金制度の整備に関する事項
  3. 継続雇用に伴う職場改善、職域開発に関する事項
  4. 継続雇用に伴う能力開発に関する事項
  5. 継続雇用に伴う健康管理に関する事項
  6. その他高年齢者の雇用問題に関する事項

相談、助言を希望する場合は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構都道府県支部に申し込めばよいということだ。この機構のホームページには、高齢者雇用の支援に関する専用ページも設置されている。

アドバイザーによる相談・助言サービスは無料で行われている。会社側が高齢者雇用について取り組もうと考える際には、こうした機関の専門家を利用することも一つの方法だ。

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