株主の権利に関する基礎(2)

資産形成
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単元未満株主・端株主の権利

『株主の権利に関する基礎(1)』では、自益権・共益権と、単独株主権と少数株主権に関するポイントを見てきた。ここからはその続きについて述べる。

単元制度と単元未満株主

前編でも出てきた「単元株」。単元株制度の概略は以下の通りとなっている。

  1. 定款で定めた一定数の株式をまとめたものを1単元と規定
  2. 1単元株式について1個の議決権を与えるが、単元未満株式には議決権を与えない
  3. 1単元の株式数は、1000および発行済株式数の200分の1以下の範囲で、定款により自由に設定が可能
  4. 会社成立後に単元株制度を創設する際には、定款変更手続きが必要。ただし、改正法施行前に単位株制度を採用していた会社は、それまでの1単位の株式数を1単元の株式数として単元株制度を採用する旨の定款変更決議をしたものとみなされる
  5. 数種類の株式を発行する場合は、株式の種類毎に1単元の株式数を上記3.の規定の範囲内で自由に設定が可能
  6. 単元未満株式については、会社に対する買取請求権が認められる
  7. 単元株制度を採用するか否かは会社が自由に選択できる

1単元の株式数は、1000および発行済株式数の200分の1以下の範囲で、定款により自由に設定できる。1単元1000株は以前の単位制株制度を採用してきた会社が円滑に単元株制度に移行できるようにしたためだ。

発行済株式数の200分の1以下の範囲は、かつての株式会社の最低資本金は1000万円であり、その200分の1の5万円が旧商法における株式の最小単位であることが根拠となっている。もし、この縛りがなければ実質的に大株主が少数株主を締め出すことが可能になる。例えば、10万株を持っている株主が1人の時に、1単元を10万株とすれば、その株主の議決権割合は100%となり、会社の完全支配が可能となる。

会社は普通株式以外にも優先株式、劣後株式など種類株式を発行できる。種類株式を発行する場合は、株式の種類ごとに1単元の株式数を規定の範囲内で自由に設定できる。

単元未満株主の権利

単元株制度では1単元株式について1個の議決権を与える一方で、「単元未満」株式には議決権を与えていない。また、議決権数を基準とする少数株主権である以下の権利もない。

  • 株主提案権
  • 少数株主による株主総会招集請求
  • 株主総会における検査役選任
  • 取締役の解任請求
  • 会計帳簿書類の閲覧・謄写請求権

一方で、株主の経済的利益を受ける権利である「自益権」はすべて認められる。ここでいう経済的利益を受ける権利(自益権)は以下の6つになる。

  • 利益配当請求権
  • 中間配当請求権
  • 株式の消却・併合・分割もしくは転換または会社の株式交換・株式移転・株式分割もしくは併合により金銭または株式を受ける権利
  • 新株・新株予約権付社債の引受権
  • 残余財産分配請求権
  • 株券再発行請求権(株券が発行されている場合)

単元未満株主は、会社が定款で定めれば株券を発行しないでよいため、単元未満の株式の譲渡ができない場合があり、これを補完する目的で買取請求権が認められている。

単元株制度と端株制度

単元株制度を採用した会社は定款により端株制度を採用しない旨を定めたものとみなされる。その一方で単元株制度を採用するか否かは会社が自由に選択可能だ。会社が単元株制度を採用しない場合には端株制度を利用する、もしくはどちらも採用しないことができる。

端株制度を採用しない会社および端株制度を採用している会社であっても、1株に満たないもしくは端株単位に満たない端数の株式が発生した場合は、会社がこれを取りまとめて競売(または売却)し、その売却代金を端数に応じて各株主に分配することで処理することになる。

端株の大きさ

「端株」というものは、株式の発行、併合、分割により生じるもの。端株は「1株の100分の1の整数倍に当たる端数」だが、これに加え、会社が定款によって1株の100分の1とは異なる割合を定めることができる。このように端株制度では、定款で端株の大きさを定めることができる。

ここで、「単元株制度と単元未満株」「端株制度と端株」を例でみてみよう。

1単元株1000株の単元株制度を採用する会社の株主が割当を受けた株式が、計算上は222.22株であったとすると、単元株制度の会社は端株制度がないので、実際の割当株式は222株となる。この株式は単元未満株式のため議決権はない。一方、この会社が端株制度(単位は1/5とする)を採用する会社であった場合、222株の完全な権利を持つ株式の割当と0.2株の自益権の一部しかない端株が端株原簿に登録されることになる。

端株原簿の記載

会社は定款の定めにより、端株原簿に記載する端数の1株に対する割合について100分の1とは異なる割合を定めることができる。また、1株に満たない端数は端株として端株原簿に記載しないこともできる。端株原簿に記載された株主は会社に対して端株の買取請求を申し出ることができる。

端株原簿への記載事項は下記4項目となっている。

  • 端株主の氏名および住所
  • 各端株主の有する端株の種類および1株に対する割合
  • 各端株の取得の年月日
  • 転換予約権付株式・強制転換条項付株式の転換または新株予約権行使による株式発行の際に生じる端株については、転換条件など

■端株券の発行

以前と異なり、端株券はすべて不発行となっている。かつて存在していた端株主からの端株発行請求権も消滅した。もちろん端株券を発行しない場合、従来通り端株の買取請求権が認められる。端株制度では端株原簿に記載しない端株についてはすべて金銭により処理される。

端株を処理する際の買取価額は、株式公開企業と未公開の場合で異なる。公開企業の場合はその株式1株の請求の日の最後の市場価格に相当する額にその端株の1株に対する割合を乗じた額となる。未公開企業の場合は譲渡制限株式の売渡請求がなされた場合に準じ、会社の資産状態などを斟酌して決定することとなっている。

端株主の権利

端株主の権利を整理すると、以下の7つの権利ということになる。

  1. 買取請求権
  2. 定款および端株原簿の閲覧・謄写請求権
  3. 利益・利息の配当または中間配当請求権
  4. 株式の消却・併合・分割または会社の株式交換・株式移転・分割もしくは合併により金銭または株式を受ける権利
  5. 転換予約権付株式の転換請求権
  6. 新株引受権・新株予約権の引受権・新株予約権付社債の引受権
  7. 残余財産分配請求権

ただし、上記3.5.6.の権利については、会社は定款により与えない旨を定めることができる。

また、端株主は会社が定款で定めた場合に限り「端株買増請求権」も有することになった。この端株買増請求権について以下で補足しておく。

会社は定款をもって、端株主がその有する端株と併せて1株となるべき端株を売り渡すよう会社に請求することができる旨を定めることができる。定款にそのような定めをした場合、端株主が買増請求をしたときには、会社は請求時に譲渡すべき端株を有していない場合を除き、自己の有する端株をその端株主に譲渡しなければならない。

親会社の定義と自己株式の権利

「親会社」と呼ばれる法人も株主。最後に、親会社、自己株式などについてポイントをまとめておく。

法律上の親会社

会社法では子会社を、「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう」と定義している。また、親会社を「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう」と定義している。

平成26年改正会社法では、子会社、親会社に加え、「子会社等」、「親会社等」という新たな定義が規定された。「等」は、会社以外の一般社団法人や個人などが含まれますという意味だ。

議決権所有割合の計算は、以下のシンプルな式になる。所有する議決権の数÷行使し得る議決権の総数

なお、上記の計算において、自己株式、単元未満株式、議決権のない議決権制限株式(完全無議決権株式)は除かれる。

相互保有株式には議決権がないため、上式の議決権の数から除くのが理論的だが、法律上は親子会社の判定の際には「議決権があるものとみなす」ことで、上記の計算から除かれることはない。一方、会計上は、理論通りその議決権の数は除いて判定する。

自己株式における議決権

自己株式は、議決権そのほかの共益権を行使することができない。また、自益権のうち利益配当請求権、残余財産分配請求権も行使することができない。

連結財務諸表の親会社・子会社・関係会社

財務諸表等規則(内閣府令)では「連結財務諸表」の範囲となる子会社、関連会社の基準が、持ち株基準から、支配力基準、影響力基準に変更されている。連結財務諸表とは、支配・従属関係にある2つ以上の会社からなる企業集団を単一の組織体とみなして、親会社がその企業集団の財政状態および経営成績を投資家などに対し、総合的に報告するために作成するものだ。

■子会社の判定

親会社とは「他の会社等」の意思決定機関を支配している会社で、子会社とは当該「他の会社等」のこと。支配関係が認められる場合、従って、子会社の範囲の判定は以下の通りとなる。

  1. 議決権50%超所有している
  2. 議決権40%以上所有かつ、一定の要件に該当する会社(要件ア~オのうちいずれか1つ該当)
  3. 「自己所有している議決権」と「自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者(緊密者)および「役員の選任、定款の変更等、他の会社等の財務および営業または事業の方針決定に関する議決権の行使に当たり、契約、合意等により自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者(同意者)が所有している議決権」をあわせて50%超所有かつ、一定の要件に該当する会社(要件イ~オのうちいずれか1つ該当)

(ア)自己所有議決権と緊密者および同意者の議決権を合わせて50%超所有している
(イ)役員・使用人が取締役会等の意思決定機関構成員の50%超を占めている
(ウ)重要な経営方針の決定を支配する契約等が存在している
(エ)資金調達額の総額の50%超について融資を行っている
(オ)上記の他意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在している

なお、支配関係を判定するので、相互保有による議決権停止株式の数は、除外して計算する。また、議決権割合算定上の自己所有は実質で判定するので、他人名義の株式も自己保有株式として計算を行う場合がある。

■関連会社の判定

関連会社とは、会社(子会社を含む)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の会社等の財務および営業または事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の会社等をいう。重要な影響力がある場合、従って、関連会社の範囲の判定は以下の通りとなる。

  1. 議決権20%以上所有している
  2. 議決権15%以上所有かつ、一定の要件に該当する会社(要件ア~オのうちいずれか1つ該当)
  3. 自己所有議決権と緊密者および同意者の議決権を合わせて20%以上所有かつ、一定の要件に該当する会社(要件ア~オのうちいずれか1つ該当)

(ア)役員・使用人が代表取締役、取締役等に就任している
(イ)重要な融資を行っている
(ウ)重要な技術提供をしている
(エ)重要な販売、仕入等の取引関係がある
(オ)重要な影響を与えられると推測される事実が存在する

旧商法では議決権割合で親子会社の判定を行い、会計では支配力基準で親子会社の判定を行っていたため、法律と会計では、親子会社の判定が不一致となっていた。その後、会社法として整備された際には、会計と同じ実質支配力基準で親子会社の判定を行うようになって現在に至っている。

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