ストレスの怖さと付き合い方

心身の健康
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多様なストレス

学生時代、「部活や勉強が思ったようにいかない」ということでイライラすることがあったと思うが、社会に出るともっと多種多様な事柄でストレスを感じることがある。

自分が20歳代の頃、職場の上司から「人生の3大ストレスは、身内の不幸と結婚と転勤だ」と聞いた。実際には転勤ではなく「引っ越し」なのだろうが、要するに周囲の環境が大きく変わるときに人間は大きなストレスを感るのだ。その意味では、転職、子供が産まれたとき、退職、離婚などもストレス要因になり得る。

環境が大きく変わらない場合でも、例えば、職場や学校での人付き合いや家族との関係、自分や家族の健康などからストレスを感じる人は非常に多いと聞く。

また、人によっては、「職場のPCの調子が悪い」「エレベーターがなかなかこない」などのささいなことにもストレスを感じているかもしれない。このようなストレスを感じる原因となる刺激を「ストレッサー」と呼ぶ。そして、社会には多くのストレッサーが存在する。

平成以後に新登場したストレスに「テクノストレス」がある。テクノストレスはコンピュータの急速な普及を背景に発生した職業病だ。現在、多くの人が日常業務にPCやスマートデバイスを利用しているが、中には就業時間のほとんどがコンピュータ作業であるという人も少なくない。

テクノストレスとは、長時間のコンピュータ作業によって生じるストレスのことだ。これが原因となり、目の疲れ、肩こりなどさまざまな健康障害が現れ、症状が悪化すると重度のうつ病を引き起こし、出社拒否や自殺など深刻な問題に発展する危険性もある。

ちょっとしたストレスであれば、休日の自由な時間を利用して趣味に興じることなどで少なからず解消することができる。しかし、ストレスは自覚症状が乏しいのが問題だといわれる。

「疲れがひどく、仕事に集中できない」あるいは「いつも身体がだるくて、風邪気味だ」などの症状が続く原因の一つはストレス過剰によるものだといわれるが、多くの人は「単なる風邪」といった感じで無視してしまう。こうして長い間ストレス過剰の状態が続くと、うつ病、十二指腸潰瘍など取り返しのつかない事態になってしまう危険がある。大切なことは、少しでもストレスを感じると思ったら、率先してストレス解消策を実践することだ。

ストレス社会をざっと見る

厚生労働省の最近調査

厚生労働省が定期的に公表している統計調査に『労働安全衛生調査(実態調査)』というものがある。これは、事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防止活動などの実施状況等の実態と、そこで働く労働者の仕事や職業生活における不安やストレスなどの実態について把握し、今後の労働安全衛生行政を推進するための基礎資料とすることを目的とした調査だ。

2019年8月に発表された最新の『平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況』によると、以下の図のように、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 58.0%となっている。

引用:『平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 P18

強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者について、その内容をみると、「仕事の質・量」が59.4%と最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が34.0%、「対人関係」が31.3%となっている。

同じ調査から、職場でのストレスについて相談する相手を見てみると以下のようになっている。

引用:『平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 P15

ストレスについて相談できる人がいる労働者の割合は全体の 92.8%。その中で、相談できる相手をみると、「家族・友人」が 79.6%と最も多く、次いで「上司・同僚」が 77.5% となっている。

また、実際に相談した労働者の割合は 80.4%。その中で、相談した相手をみると、「家族・友人」が 76.3%と最も多く、次いで「上司・同僚」が 69.7%となっている。

何か悩みを抱えたときに心理カウンセリングを利用する習慣のある米国に比べ、日本では心理カウンセリングがそれほど浸透していない。ただ、最近では、医療機関、企業、学校などといった機関が、メンタルへルスケアに取り組み始めており、心理カウンセリングが少しずつ一般的になってきている。

今は家族・友人・上司・同僚に相談するケースが圧倒的に多いが、そのうち心理カウンセリングの専門家に相談する比率が高まるかもしれない。

ストレッサー

前述した通り、ストレスを感じる原因となる刺激を「ストレッサー」と呼ぶ。このストレッサーは、以下の3つに分類できる。

  1. 物理化学的要因:寒暑、放射線、騒音など
  2. 生物学的要因:飢餓、寄生体の侵入、睡眠不足、妊娠など
  3. 社会学的要因:精神的緊張、恐怖、興奮など

3つに分類されたストレッサーの中で、「物理化学的要因」と「生物学的要因」は、原因さえ取り除けば、比較的ストレスを解消しやすいといわれている。

例えば、妊婦さんはこれまでと違う自分の体形や「つわり」などにストレスを感じることがあるようだが、出産後には、そのストレスは解消される。「物理化学的要因」と「生物学的要因」は、時間が解決してくれることもある。早期に原因を知って対策を講じれば、それほど大きな問題にはなりにくいストレッサーだ。

一方、「社会的要因」は少しやっかいだ。原因が特定しにくく、深刻な事態を引き起こす危険性が高いストレッサーなのだ。例えば、上司と相性が悪く、いつも怒られている部下は、職場で常に極度の精神的緊張状態にある。

はじめのうち、その部下は同僚と飲みに行ったり、趣味に興じたりすることでストレス解消をしようとするだろう。しかし、長期間にわたって蓄積されたストレスは、そう簡単に解消することはできない。ストレスはどんどん蓄積され、自宅にいてもストレスを感じるようになってしまう。そして、ストレスが一定量を超えると、うつ状態になったり、あるいは最悪のケースになってしまう危険性もある。

対人関係からくるストレスは非常に危険なのだが、残念なことに、多くの人のストレッサーは対人関係だ。人は常に対人関係の中にあり、他人とのコミュニケーションを図るために人間関係に敏感にならざるを得ない。

また、人間は現在の環境に対してのみではなく、過去に体験した脅威や将来予想される状況についても激しいストレスを感じることが分かっている。そのため、一度ストレス症状に陥ると、解消するまでに長い時間が必要となるといわれている。

ストレス症状に陥りやすい人

上述のように、対人関係からストレスを感じる人が多いのが現状だ。中でもストレスを感じやすい人は、対人関係に過敏な人といえる。例を挙げると以下のような人がストレス症状に陥りやすい。

  • 人に見抜かれたくない本音を常に心中に隠している
  • 高い理想を持っているが、理想と現実のギャップを消化できない
  • なかなか他人に相談ができない
  • 自分と他人を比較しがち
  • 気持ちの切り替えがあまり得意でない
  • 仕事が予定通りに進まなかった時に同僚と比較して劣等感を感じてしまう
  • 家に帰っても仕事のことが頭からまったく離れない

ストレスの症状

ストレスがたまってくると、次のような症状が現れることがある。

■うつ病

何をするのにも悲観的、自責的になる病気。自殺願望を持つことが多く、なりかけと治りかけが最も危険だ。転勤など、職場・生活環境の変化が発症のきっかけとなる場合が多いといわれている。

■慢性疲労症候群

慢性的な激しい疲れ、倦怠感、微熱などを感じる症状のこと。これらの身体的症状のほか、嗜好や集中力の低下などの精神的な症状があらわれることもあるという。風邪などがきっかけとなって発症し、本人がなかなか気づかないのが特徴だ。

■パニック障害

突然沸き起こる強い不安感とともに呼吸困難やしびれなどの症状が起きる障害。本人は死の恐怖に襲われるほどの症状だが、救急車が到着する頃には発作は治まってしまう。

■広場恐怖症

上記のパニック発作を一度経験すると、再発の恐怖から外出できなくなったり、乗り物に乗れなくなったりする。これが悪化すると、トイレや風呂場にも入れなくなる。

■サンドイッチ症候群

中間管理職などが上下関係の板ばさみにあい、十二指腸潰瘍や不眠、うつ状態になることがある。まじめな人や、物事を割り切って考えることができない人などが起こしやすい症状だ。

■燃え尽き症候群

全力をあげて取り組んだ仕事や勉強などが徒労に終わり目標を見失ったときなどに陥る症状だ。深刻な虚脱状況に陥り、うつ状態や不眠、無気力などの症状がある。

■睡眠・覚醒スケジュール障害

就寝時間が次第に深夜になり、最後には明け方に寝て夜起きるというように、生活リズムが狂う障害。目がさめても眠気が取れず、集中できない。朝日を浴びることが大切だといわれている。

ストレス解消法

男女で違う解消法

ストレス解消法は個々人で異なる。性別・年齢別でもストレス解消法は異なるだろう。まずは、男女でどんなストレス解消法を実践しているのかのアンケート調査結果を見てみよう。

以下の結果は2020年11月に発表されたもの。株式会社ビズヒッツ(本社:三重県鈴鹿市、代表取締役:伊藤 陽介)が、全国の働く男女500人を対象に「仕事のストレスに関する意識調査」を実施し、そのデータをランキング化したものだ。

引用:株式会社ビズヒッツ『仕事でストレスを感じる瞬間ランキング!男女500人アンケート調査
引用:株式会社ビズヒッツ『仕事でストレスを感じる瞬間ランキング!男女500人アンケート調査

女性の1位は「おいしいものを食べる」、2位は「愚痴を聞いてもらう」となっている。対して男性は、1位が「運動をする」、2位は「酒を飲む」という結果になっている。ストレスの解消方法は、男女で違うことがわかる。

ひと昔前なら「タバコを吸う」がランキングに入っていそうだが、喫煙人口の減少がランキングにも影響しているのかもしれない。また、「旅行に行く」がないのは、新型コロナ感染症の流行に伴う自粛期間であることが影響しているように思う。

医師が勧める解消法

2020年8月、株式会社医師のとも(MRTグループ、本社:渋谷区、代表取締役:柳川圭子)は、『医師が考えるストレス解消法』について、1,021名の医師を対象にアンケート調査を実施し、結果を公表した。そのランキング結果は以下のようになった。

引用:株式会社医師のとも『医師が考えるストレス解消法

こちらの調査も、新型コロナ感染症の流行に伴う自粛期間であることから、わざわざ「室内での」ストレス解消法としている。医師の立場としては、「食欲」「睡眠欲」「コミュニケーション欲」を満たすことがストレス解消に効果的だろうと考えているのがアンケート結果だ。

手軽な解消法の例

最後に、比較的手軽に実践できるストレス解消法を紹介をいくつか紹介する。

  • 音でリラックス:無音の場所に行く、噴水や海など水の音を聴く
  • 逸脱行動をする:泣く、怒る、茶碗やカップを割る、壁に落書きをする
  • アロマテラピー:心地よい香を嗅ぐ、体内にハーブのエキスを取り込む
  • マッサージやツボ押し:体をほぐす、体を伸ばす、ツボを押す
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