P・コトラー著『マーケティング10の大罪』

営業/販促
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「マーケティングの父」の声

マーケティングというのは時代とともに少しずつ概念が変わると言われている。その概念を分かりやすく解きほぐしてみようと考えたとき、コトラー氏の書籍を読んでおいて損はない。

フィリップ・コトラー氏といえば現代マーケティング論である。全米のMBA大学院の中でも、最高レベルの一校であるノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院の教授だ。今回紹介する『マーケティング10の大罪』は、著者が書いている多くの分厚い大学院向けテキストとは異なり、もう少し現実的な内容をコンパクトにまとめてある。

企業のマーケティングが弱まっている。利益を生み出す源泉として、マーケティングほど企業にとって重要な部門はないはずである。にもかかわらず、新しい技術と実際の販売活動との間に立つべきマーケティングの存在は、多くの企業で勢いを失っている。コトラー氏は、その原因が10の大罪に起因するものであるとし、いかにすれば、その解決ができるかを、現場の視点から説明する。

マーケティングとは、以下の4つの要素(4P)から成るという。

  • 製品:Product
  • 価格:Price
  • 流通:Place
  • プロモーション:Promotion

しかし、現実的には、このうちのプロモーションのみに甘んじているのが、今日のマーケティングの実情である。マーケティングは、販売に注力するのではなく、むしろ販売が不要なほど魅力的な製品の開発に注力すべきだというのが、著者の基本的な考え方である。

本書で指摘する「10の大罪」は、目次の10項目に書いてある通りなので、まずは目次概略を先に示しておこう。

目次概略

フィリップ・コトラー著『マーケティング10の大罪』の目次概略は以下の通り。

  1. 市場の定義が不明確で顧客主導になっていない
  2. ターゲット顧客を十分理解していない
  3. 競合に対する認識が不足している
  4. 利害関係者との関係を適切に管理できていない
  5. 新たな機会を見出せない
  6. マーケティング計画策定プロセスに問題がある
  7. 製品やサービスを十分に絞り込めていない
  8. ブランド構築力やコミュニケーション能力が低い
  9. マーケティングを効果的・効率的に推進できる組織になっていない
  10. テクノロジーを活用しきれていない

10の大罪に対する解決策

目次概略に示されたような、多くの企業が犯しているマーケティングに関する間違い「10の大罪」を基に、著者が解決の結論としてまとめた「マーケティングを通じて高い生産性と収益性を実現するための十戒」を以下に示しておく。

  1. 市場を細分化し、最も好ましいセグメントを選択したうえで、各セグメントにおいて確固たる地位を築くべし 
  2. 顧客のニーズ、知覚、選好、行動を明確に把握し、すべての関係者が顧客への奉仕と顧客満足のために邁進するよう動機づけよ
  3. 主要な競合他者の動向を把握し、相手の強みと弱みを把握せよ
  4. 関係者の中からパートナーとなるべき相手を見出し、手厚く扱うべし
  5. 機会を見出し、機会に優先順位をつけ、最も優れた機会を選択するためのシステムを構築せよ
  6. マーケティング計画を策定するためのシステムを管理し、長期的にも短期的にも優れた計画を立案せよ
  7. 製品ミックスならびにサービス・ミックスを厳しく管理せよ
  8. 最も費用対効果に優れたコミュニケーション・ツールとプロモーション・ツールを活用して、協力なブランドを構築せよ
  9. 企業はマーケティング部門にリーダーシップを発揮させ、マーケティング部門と他部門がチームとして行動するよう働きかけよ
  10. 競争優位性の源泉となるテクノロジー(IT)を継続的に導入せよ

目次概略で示された「~ない」に対する著者の解決策が、上記の「~せよ」である。本書では、マーケティング10の大罪について、それぞれ各章で分析し、解決策を述べている。

デュポンでは、繊維部門を、ナイロン、オーロン、ダクロンといった製品ごとに営業チームを編成していたのを、婦人服、家具、床の仕上げ材、船舶といった販売先のセグメント別にチームを再編。顧客の求めに応じてあらゆる製品を提供できる体制を整えた。

企業は顧客をよりよく理解するために、購買履歴、デモグラフィックス、サイコグラフィックスといった情報を積極的に収集するようになったが、これらの情報の中で最も有益なのは、顧客の選好を明らかにしてくれる購買履歴である。購買履歴を調べれば、その顧客が次に何を買いそうかが予測できる。データウエアハウスに保管されている顧客情報から、データ・マイニングの技術を使って分析すれば、新たなセグメントの発見やトレンド認識につながる。

たいていの企業が、ライバル企業の名前をすぐにあげることができる。だが、それがただの同業、あるいは同製品メーカーの範囲にとどまっているケースが多い。いまや競合関係にある製品は著しく多様化し、事業もまた多角化しており、従来の常識にとらわれると足をすくわれる。重要なことは、ライバル企業情報である。その専任担当者、専門部署を設置し、ライバル企業の実態を把握できる人材を養成することを勧める。

価値と価格を切り口とした場合、企業が市場でとりうるポジショニングは次のようなものである。

  • 低品質のものを低価格で (サウスウエスト航空)
  • 同品質のものを低価格で (ウォルマート)
  • 同品質のものを同等価格で (タイド)
  • 同品質のものを高価格で (これはお薦めできない)
  • 高品質のものを従来の価格で (レクサス)
  • 高品質のものを高価格で (メルセデス、ハーゲンダッツ)

多くの経営幹部は、日々懸命に努力していることについて、「それは株主のためだ」と答えて憚らない。著者はこの意見に賛成しない。株主を祭りあげることほど、株主に対する貢献を阻害するものはないと考えている。マリオット・ホテルでは、「われわれはまず最高の社員を採用し、教育する。満足した社員は、顧客のために全力で働いてくれるはずであり、そうなれば、顧客はまたわれわれのホテルを利用してくれるだろう。そのことが、株主に最大の利益をもたらすに違いない」と表明している。

ゲイリー・ハメルは、「伝統的組織にシリコンバレーをつくる」という優れた論文を書いた。そのなかで、シリコンバレーの成功要因として、アイデア市場、資本市場、才能市場という3つの市場の存在をあげ、企業の内部をシリコンバレーと同じ状態にすべきだと述べている。企業は新しいアイデアを高く評価する姿勢を持ち、アイデアの収集や評価に積極的に取り組むべきだ。

今日のマーケティングでは、より良い情報をつかんだ者が勝利を収める可能性がきわめて高い。情報を体系的に整理し、すべてのマネジャーがパソコンの画面上で確認できるようにしたものが、マーケティング・ダッシュボードである。

今日のマーケティング・ダッシュボードは、その潜在能力を考えると、まだまだ未熟な段階にあるが、今後ますます重視されるようになろう。夜間でも無事に飛行を続けることができるのは、ダッシュボードに並んでいる計器のおかげである。われわれが自動車を運転する際にも、ダッシュボード上に表示された情報を頼りにしている。マーケティングにも、同じような考え方を応用することが可能である。

現在、次の3種類のダッシュボードが使われはじめている。

■マーケティング・パフォーマンス・ダッシュボード

現在どの程度目標達成に近づいているかを示すダッシュボード。自社ならびに他社の売上、市場シェア、コスト、価格などに関する情報が表示されるほか、営業マン個人別に、目標達成度が示されるといったもの。

■マーケティング・プロセス・ダッシュボード

さまざまなマーケティング・プロセスを効果的に実施する方法を指南してくれるダッシュボード。コンピュータのスクリーン上で、新任のマネジャーに、マーケティングの各プロセスについて指導するというもの。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、すでにすべてのプロセスがコンピュータに入力ずみとなっている。

■マーケティング・ツール・ダッシュボード

データ分析のためのダッシュボード。平均値、標準偏差、クロス表、回帰分析、判別分析、因子分析、クラスター分析などの統計処理を行うためのプログラムが含まれている。パッケージ化したソフトウエアが SASなどから発売されている。

インターネットを徹底的に活用することが、今後のマーケティングの優劣を決める。インターネットには、企業が考える以上にさまざまな用途がある。主な用途には次のようなものがある。

  • 効果的なWebサイト:企業情報、製品情報、採用情報などを掲載
  • 効果的なイントラネット:社内コミュニケーション
  • 効果的なエクストラネット:取引業者間のネットワーク
  • オンライン・トレーニング:社員教育
  • オンライン採用:社員の採用
  • オンライン調達:新規サプライヤーの探索と価格比較
  • オンライン市場調査:インターネットは市場調査の宝の山
  • オンライン・チャットルーム:顧客や愛好家が情報交換する

思うようにいかないときに

本書は15年以上前のものなので、IT(情報技術)に関する記載には少し旧いものもあるが、本質は今でも何も変わっていない。しかも、コトラー氏のマーケティング論のエッセンスを知るにはちょうど良い分量なのではないだろうか。何しろ、他のテキストは厚すぎるものが多い。

かつて、某上場企業のマーケティング部門を支援する仕事をしたことがあるが、本書で指摘されている現象が多く見られたことは確かである。上場以前ほどマーケティングの勢いはなく、市場やターゲット顧客も曖昧、競合意識はあっても相手を間違えていたり、製品・サービスも拡がりすぎて絞り込めていなかった。人員も予算も充実しているのにである。

ここに着任した新しい部門長は、果敢に改革を実施し、その後、かなり勢いを戻した。新しい部門長の改革施策のひとつが、まさにマーケティング・ダッシュボードの導入であった。

ダッシュボードは、現実を数字で見せてくれるため、導入当初は、衝撃的なものが多かった。例えば、1件の販売機会(営業リード)を創出するために、どれだけのプロモーション費用がかかっているかがはじき出されたとき、それまでの感覚より2桁高額だと知り、関係者は言葉を失った。

担当組織の面々は一生懸命やっているが、気付いてみると穴だらけだったり、意図しない方向に進んでいたというのは、よくある話である。マーケティング組織がそうならないようなレビュー本として本書を使うのもいいと思う。

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