肥満のこと【4】病気との因果関係

心身の健康
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肥満の人の高い死亡率

お腹の出た中年男性のことをほめ言葉として「恰幅がいい」などと言うことがある。しかし、体脂肪が過度に蓄積されることの怖さを知れば、そんなことは言っていられない。

体脂肪過多が原因で糖尿病や高血圧などを「発症」すると、途端に食事療法に精をだし、肥満を解消しようと努力する人が多い。発症前の予備軍のときから体脂肪過多にならないような習慣を身に付けたいものだ。「そんなことは重々承知している」とは思うが、肥満状態はすでに「肥満症」という病気なのだと再度自覚しよう。

少し古いが、1956年のアメリカの統計で、同じ年齢群の中で、肥満者と正常体重の人の死亡原因を比較したデータがある。これによると、肥満者の死亡率がかなり高くなっている。

病態ごとに発症率の高さを比較すると、第1位が「糖尿病」で、男女とも正常体重者の約4倍もの人達が糖尿病で死亡している。

第2位が「肝硬変」で、正常体重者より男性2.5倍、女性1.5倍多く死亡 。男性に肝硬変による死亡が多いのは、飲酒の影響もあるだろう。第3位は「虫垂炎」で男性2.2倍、女性2倍。虫垂炎なんて「たかが盲腸」と思うかもしれないが、お腹が出ていると診察に手間取り手後れになりやすく、手術も脂肪にさまたげられ困難をきわめるという。「胆石」でも男性2倍、女性2.8倍。胆石による死亡率が高いのも虫垂炎と同じ事情だろう。「脳卒中」や「心臓死」も肥満者は正常体重の人の2倍の死亡率だ。なんと、「歩行者の交通事故死」も1.2倍と肥満者の方が高い数値。

また、アメリカのガン学会が死亡率の追跡調査をした結果によると、標準体重のプラスマイナス10%の範囲内にいる人の死亡率を1としたとき、プラス40%以上の肥満者の各種疾患による死亡率は男女とも1.87倍だったそうだ。ガンによる死亡に関しては男女に差違は見られなかったものの、女性の肥満者の死亡率が1.55倍、痩せ傾向では0.96倍という結果で、肥満者にガンが多いことがわかる。

これらは米国の昔のデータだが、日本でも肥満と死亡率の関連は徐々に判明しつつある。

代表格は糖尿病

肥満と病気の因果関係は徐々に解明されてきている。肥満が直接の原因でおこる病気には、糖尿病、高脂血症(善玉コレステロールの低下と中性脂肪の増加)、高血圧、心肥大、月経異常、不妊、関節障害などがある。間接的なものとしては子宮体ガン、関連性のあるものとして動脈硬化性疾患と胆石症などもあるらしい。女性の肥満の場合、3か月に一度くらいしか生理が来ない過少月経になったり、妊娠中毒症に陥りやすかったり、分娩が遅れたり、母乳が出ないといった症状も出やすくなる。

特に、体脂肪がお腹の部分を中心にして上半身に多くついている上半身肥満は、疾患と関係しやすく、糖尿病、高血圧、胆のう疾患などのいわゆる生活習慣病を起こしやすいことが明らかになってきている。心筋梗塞、狭心症などの脳硬塞動脈硬化性疾患にも注意が必要だ。

肥満がもたらす病気として、もっとも代表的なのが「糖尿病」。糖尿病は、血中のブドウ糖の量(血糖値)が増えるため、血管や神経に障害が起こる病気だ。膵臓で作られるインスリンというホルモンが、本来は血糖値を下げる働きをしているのだが、肥満になると脂肪細胞のサイズが大きくなり、インスリンに対する反応が鈍くなる。この状態が続くと、インスリンの働きを良くしようと、膵臓が大量のインスリンを分泌。血液中のインスリンは十分にあるのに血糖が十分に利用されないため、血糖値が高くなってしまう。

糖尿病を放っておくと、腎臓病や網膜症、神経障害を引き起こし、悪くするとこれらの病気が合併することもある。糖尿病は、かつては中年期を過ぎてから発病するケースが多かったが、最近では、若いうちに糖尿病になる人も増えている。

2020年10月に公表された厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる」人の割合は、男性 19.7%、女性 10.8%。前年度に比べ、男性で1.0ポイント増え、女性で1.5ポイント増え、2009年以降でもっとも高い数値を示した。現在の日本では、大雑把にいえば、すでに糖尿病に罹っている人が1000万人、予備軍(糖尿病が強く疑われる者)が1000万人と推計されている。

体脂肪は体内でジワジワと蓄積され、本人はほとんど自覚症状がない場合がほとんど。病気になってから慌てないよう、普段から体脂肪のチェックを心がけることが大切だといえよう。

摂取量ー消費量=脂肪

体脂肪をためると、知らず知らず深刻なダメージを身体に与えてしまう。このことに早く気付いて、適切なダイエットをする必要がある。そこで最初に体脂肪をため過ぎた、もともとの原因を考えてみよう。

普段私たちは、食事を取ることで生活に必要なエネルギーを得ている。このエネルギーの源となるのが、三大栄養素の「たんぱく質」、「糖質」、「脂質」。三大栄養素によって得られる熱量を「摂取エネルギー」という。そして、生命を維持し、日々の活動や運動で使われる熱量を「消費エネルギー」といいう。この2つのエネルギーのバランスが偏ることが肥満のもともとの原因だ。

「たいして食べてないのに太ってしまう」「水を飲んでも太る」と思う人もいるかもしれないが、一日の消費エネルギー以上のものを食べなければ、決して太りすぎることはない。どのようなケースでも、消費エネルギー分を超えて過食したからこそ、脂肪が蓄積してしまうのだ。体脂肪が多い人は、これまでの食生活を改め、一日の食事量を変えていくことが必要。逆に言えば、それだけのことだ。

一日に摂取していいのは何キロカロリー以下か計算して、口に入れる食べ物、飲みものすべてをその中に収める。その範囲内で、栄養素のバランスのとれた食事を規則正しくとる。シンプルだ。一時期、自分の食べたものをメモしておくという「レコーディング・ダイエット」という方法が流行したが、まずは記録することで現状を把握するところから始めるとよさそうだ。

自分の摂取量が「多い」と分かった場合、量を調整して、一般的には月に0.5~1キロずつと、ゆっくりのペースで減量する。間食やまとめ食いなど、栄養の取り過ぎ行動を修正する行動療法や、運動療法をあわせて行なう。つまり、いつのまにか陥っていた悪習から脱け出し、健康的な生活のリズムを取り戻すために生活習慣を変える。

急に生活スタイルを変えるのは難しい。しかし、悪い習慣を続ければ、ためらっている間に、体脂肪は確実にたまってしまう。落とす脂肪が増えれば増えるほど、それを減らすことは難しくなることを考えれば、「ちょっと太ってきたかな?」と思った時点でも早すぎるということはない。

脂肪を減らす食事療法

肥満解消には、摂取エネルギーを消費エネルギーより低くする食事量が大切。ということで、確実に脂肪を減らすよう、摂取エネルギー量を設定することが「食事療法」の基本となる。

まず日常生活におけるエネルギー所要量と減らす脂肪の量を考える。減量ペースは月に0.5~1キロの範囲内が健康的なので、例えば10キロの脂肪を減らそうとすれば、1年近くの月日がかかる。脂肪組織1キロは7200キロカロリーの熱量。月に1キロの脂肪を減らすには、一日当たり約300キロカロリーを減量しなくてはならなくなる。

一日のエネルギーの所要量は、50代で事務職、身長が170センチの男性なら所要量は2100キロカロリーが標準。すると、2100キロカロリーから300キロカロリーをさしひき、一日1800キロカロリーの食事療法が適切となる。

50代女性で身長が155センチという場合にはエネルギー所要量は1700キロカロリーで、ここから 300キロカロリーをさしひくので、1400キロカロリーに設定することになる。このようにエネルギー所要量は性別、身長だけでも異なりさらに年齢、運動量による違いもある。

家庭で食事療法を実践するには、肥満度に応じた制限を加えるとよいといわれている。まず肥満度20%以内で、20代前半の頃から体重増加が5~6キロ以下という場合は極端な食事制限は必要ない。男性なら一日2000キロカロリー、女性なら1800キロカロリーに食事量を設定し、肥満度10%までの減量を目標とする。

肥満度が20~30%なら、男性1600キロカロリー、女性1400キロカロリーに設定。アルコールは禁止し、菓子や清涼飲料水も控え、果物もリンゴ一個程度にする。いずれの場合も、「食事療法」としての内容は、主食の米飯に副食として一汁三菜を用意し、食後または食間に果物と乳製品を取り入れ、バランスよく栄養をとることが大切だ。

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